サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第37編
2002年になりました。前回からは約1か月ぶり、今年初めてのサテライト日田問題関連記事となります。動きがあり次第、記事を追加して参りますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
この不定期連載を始めてから約1年半になります。昨年の1月および2月は、この問題をめぐる様々な動きがあったため、新しい記事を何度も加えました。時の流れは速いものです。前回も記しましたが、私の性格からして、ここまで回数を重ねるとは予想もしていなかったのです。
1月29日、大分市はかなり冷え込みました。しかし、13時頃、大分地方裁判所の玄関前は、かなり熱い雰囲気に包まれていました。日田市民を載せたマイクロバスが2台、マスコミ関係者も多く、裁判所の職員も玄関に集まっています。サテライト日田問題とは別の訴訟が行われるのかと勘違いしたほどです。大石市長を始めとする日田市のトップ、寺井弁護士など原告弁護団が大分地方裁判所に入ると、第1号法廷に我々も進みます。前回よりも傍聴人が多くなっていました。しかも、今回は、福岡市で問題となっている博多駅前(博多口)の場外車券売場設置に反対する市民、および、やはり福岡市は中央区の福岡ドーム内に設置が予定され、今月になってから許可も出された場外馬券売場(これは地方競馬のもの)に反対する市民も傍聴に訪れているということでした。
13時30分、対経済産業大臣訴訟の口頭弁論が行われました。今回は、原告側から「準備書面(第3)」が提出され、寺井一弘弁護士から説明がなされました。また、甲第26号証および甲第27号証も提出され、木田秋津弁護士から説明がなされました。
まず、「準備書面(第3)」の内容を紹介します。これは、昨年11月2日付で被告側から提出された第3準備書面に対し、釈明を求めるものとなっております。この中には、既に私が不定期連載において検討した事柄もあります。
(1)サテライト日田設置許可処分の法的性質(自転車競技法第4条第1項)
被告側は、この設置許可処分について、許可の申請者に対して「場外車券売場の設置に関する一般的な禁止を解除するという法的効果」を持っている旨を主張しています。これは、行政法学にいう許可の教科書的な説明となっています(なお、原告側は同第2項にも触れています)。
よく考えると、自転車競技法の構造は不思議なものです。同第1条第1項により、競輪事業施行者は「都道府県及び人口、財政等を勘案して自治大臣(注:現在は総務大臣)が指定する市町村」に限定されています。そうであるとすれば、本来、場外車券売場を設置できるのは競輪事業施行者に限定されるはずです。しかし、第4条により、場外車券売場の設置者は、競輪事業施行者に限られないのです。しかも、場外車券売場を設置する者は、競輪事業施行者でなければ、車券を販売することはできません。被告の主張が正しいとすると、場外車券売場の設置許可は、自動車運転免許と同じようなもので、本来であれば誰でも場外車券売場を設置する自由があるということになります。しかし、そうであれば、車券を販売する自由がないということと矛盾しないでしょうか。ちなみに、自転車競技法第4条の規定が存在しなければ、競輪事業施行者以外の者が場外車券売場を設置した場合、刑法第186条第2項に規定される賭博場開帳等図利罪などに問われかねないはずです。
法律の条文には「許可」と書かれていますが、行政法学でいう許可であるか認可であるか、あるいは特許であるかは、文言だけで決定されるものではありません。
許可であれば、被告の説明は正しいことになります。たしかに、競輪事業施行者でない者であっても場外車券売場としての建物を造ることはできます。
これに対し、特許であるとすれば、競輪事業施行者以外の者が場外車券売場の設置をなす自由は存在しないという前提があることになります。特許によって、新たに権利能力や権利や包括的法律関係が設定されることとなります。特許は、電力事業や鉄道事業などの「公企業」について認められることとなります。しかし、自転車競技法第4条の規定を読む限り、場外車券売場の設置は特許ではないと考えられます。
それでは、認可なのでしょうか。認可は、鉄道やバスの運賃の改定、農地の売買などが代表例で、私人の行為を補充して法律上の行為を完成させる行為をいいます。つまり、認可を得られなければ、運賃の改定、農地の売買などは無効です。 自転車競技法第4条の「許可」はこの認可にあたると考えられなくもありません。しかし、建物を造ることと車券を売ることは別であり、しかも両者の事業主体が異なりうることを念頭に置けば、認可と考えることは妥当でないでしょう。
結局、設置許可は行政法学上も許可であると考えられるのです。
(2)場外車券売場設置許可処分は、立地する地方自治体に何らかの権利義務の変動を与えないのか、そして、この許可処分は地方自治体の権限行使との関係において、法的な問題を一切生じさせないのか。
「準備書面(第3)」は、「本件場外車券売場の設置に伴う公安(生活安全)・公衆衛生・道路・環境保全・青少年の健全育成上の事務を処理する義務を地方自治体である原告が一切負わないと理解する趣旨か」と質しています。
(3)地方分権推進法、地方自治法の規定の性格
これについては、既に私が第34編において検討し、被告の主張が妥当でないことを主張しております。被告側は、第3準備書面において「地方分権推進法1条の2」および「地方自治法2条の2」という、存在しない条文をあげておりました。今回の口頭弁論で、「地方分権推進法1条の2」は地方分権推進法第4条に、「地方自治法2条の2」は地方自治法第1条に訂正されました。この他を含め、「宣言的・指針的性格」しか持たないという主張がなされていたので、これについて、原告は「何らの法規範性も有しないとする趣旨か。被告の主張が公権的解釈であれば、併せてその根拠及び出典を明らかにされたい」と質しています。時間が前後しますが、閉廷後、いつものように、大石市長、寺井弁護士などが傍聴人を前にして玄関にて解説などをされた時に、最後に私が指名され(恒例となりつつあります)、改めてこの点を指摘しています。公権的解釈とは思えないのです。地方分権推進法や地方自治法の逐条解説書を参照しても、到底、「宣言的・指針的性格」しか持たない、つまり、法的な拘束力のない規定であるとは考えられないのです。もっとも、「宣言的・指針的性格」の意味は、論者によって異なりうるものです。そのために、明らかにされなければならないことです。演劇やコンサートのプラグラムも、演じる者に何らかの拘束をかけるものです。
地方自治法第1条は、たしかに、地方自治法という法律の目的を定めるものです。この意味において、国民や住民を直接的に拘束しません。しかし、地方自治法にある他の規定を解釈する際に、強力な基準となります。そればかりでなく、地方自治法の各規定を改正する場合などに、国会に対し、一定の縛りをかけることとなります。「地方公共団体の健全な発達の保障」は、少なくとも、国に対して命じられることでしょう。行政庁が地方自治体の事務に関する何らかの事務処理基準などを策定する際にも、当然、大原則として機能するでしょう。その意味においては、抽象的であるとは言え、法的拘束力があると考えられます。地方分権推進法第4条については、自宅にある判例六法に掲載されていないので、機会を改めて検討します。
経済産業大臣側は、その主張について、典拠を一切明らかにしておりません。独自の見解なのか、官公庁のごく一部にのみ刊行されている逐条解説書の類から引用したのか、鑑定人の見解なのか、明確にして欲しいものです。
(4)自転車競技法が保護する利益
これは、原告適格を判断する上で重要です。自転車競技法は、地方自治体の個別的利益、周辺住民の個別的利益を保護することを目的としていないのか、という問題です。このような規定がないという被告の主張に対して、原告は「地方自治体の文教上、保健衛生上、周辺環境上の利益保護を一切目的としていないとする趣旨か」と質しています。
(5)自転車競技法第1条第1項と地方自治法第1条との関連
もう少し詳しく言うならば、自転車競技法第1条にいう「その他の公益の増進」および「地方財政の健全化」と地方自治法第1条にいう「地方公共団体の健全な発展の保障」とはいかなる関係に立つものか、ということです。
素直に読むならば、全く無関係ではないことは自明です。地方自治体が健全に発展するためには、地方財政の健全化が前提となります(だからこそ、私の研究課題の一つである財政調整が重要な問題となるのです。地方分権は、財政の分権も含みます。税源配分や地方交付税など、いずれも地方財政の健全性を担保するために検討がなされる必要があるのです)。自転車競技法は、他の公営競技関連諸法と同様、戦後の混乱期に壊滅状態であった地方財政の再建に資するために制定されたという経緯を持っています(宝くじの法的根拠となっている当せん金付証票法も同様です。宝くじは、現在ますます盛んになっていますが、元来は「当分の間」のみ発行されるべきもので、地方財政が健全化し、安定すれば不要となります)。このことからしても、上記両者は無関係ではありません。
問題は、「その他の公益」とは何かということです。自転車競技法第1条は「自転車その他の機械の改良及び輸出の振興、機械工業の合理化並びに体育事業」を例示しており、「その他の公益」としています。ここに、周辺住民の利益が入らないのでしょうか。地方自治体による自主的な行政が入らないのでしょうか。
以上が、原告側による「準備書面(第3)」の内容です(私の意見なども付加しましたが)。これに対し、経済産業大臣側は、次回の口頭弁論(3月26日)までに回答する旨を述べました。いかなる見解が述べられることでしょうか。或る程度の予想はつきますが、ここでは述べないこととしましょう。
甲第26号証および甲第27号証についても述べておきます。甲第26号証は、専修大学の白藤博行教授による鑑定意見書で、「ドイツの学説および裁判例からみた『まちづくり権』の侵害を理由とする地方自治体の出訴権について」鑑定しています。また、甲第27号証は、神奈川大学の村上順教授による鑑定意見書で、「フランスの学説および裁判例からみた『まちづくり権』の侵害を理由とする地方自治体の出訴権について」鑑定しています。いずれも、かなり本格的なものであり、非常に参考になるものですが、紹介は機会を改めて、ということにさせていただきます。
白藤先生、村上先生、このホームページをお読みでしたら、ここで紹介させていただいてよろしいか、御意見などをお願い申し上げます。
口頭弁論は、14時になる少し前に終わりました。先ほど記したように、大分地方裁判所の玄関に、大石市長、寺井弁護士など、大勢が集まり、大石市長の挨拶、寺井弁護士の解説がなされました。その後、名前を失念して申し訳ないのですが、原告側訴訟代理人の弁護士氏、そして木田秋津弁護士が、続けて解説をいたしました。最後に、寺井弁護士の御指名で私が意見などを述べました。大分大学にいる行政法学者として、私は、傍聴などを通じて協力させていただいております。
その後、サテライト日田設置反対女性ネットワーク代表の高瀬由紀子氏を中心に、同ネットワークのメンバーの方、博多駅前の場外車券売場(サテライト博多)の設置に反対する福岡市民の方、福岡ドーム内の場外馬券売場の設置に反対する福岡市民の方(全員が女性)、そしてK大学学生のT氏とともに、大分駅構内のパン屋兼喫茶店で意見交換をしました。また、資料もいただきました(この場を借りて、改めて御礼を申し上げます)。サテライト博多のほうは、本来であれば専門学校があるという場所を更地のように見せかけて許可を申請したという話を聞きました。常套手段ではあるようですが、ひどい話です。許可権者は現地調査をしないのでしょうか。また、福岡ドームのほうですが、2月9日、福岡ドームに近い当仁中学校で反対集会が行われるとのことです。実は、私もお誘いを受けました。この類の問題は全国各地にありますので、都合をつけて、他の地域の状況を知りたいと思っていました。福岡ドームのほうは、最近、福岡市が設置に難色を示したという趣旨の新聞記事を読んだのですが、許可が出されています。
なお、最後に、日田市対別府市の訴訟について、お知らせです。2月5日の15時30分から口頭弁論が行われる予定でしたが、3月5日の11時に延期されました。
(2002年1月30日)
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