サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第43編

 

  私がサテライト日田問題に関わるようになって、2年が経過しました。第1編にて大分合同新聞2000年7月2日付朝刊朝F版23面の記事に掲載された私のコメントを紹介しました。6月下旬、研究室に電話があり、その際に話した内容の一部が掲載されたものです。実は偶然の産物です。当初、大分合同新聞の記者氏は、他の方にコメントを求めたのです。しかし、詳しい理由はわかりませんが、私のところに話が回ってきました。伺った瞬間、これは別府市と日田市という地方自治体間の対立であり、地方分権が曲がりなりにも進められる中で行政法学上も大きな問題となるであろう、という予感、あるいは職業的な勘が働きました。大分県内の事件としては非常に大きい、全国的なものであることが、すぐに理解できました。果たして、その後の経過は私の予想通りでした。今、私は、この問題に取り組めてよかったという思いと、その取り組みへのきっかけを下さった方々への感謝の念を、ここで改めて示しておかなければなりません。

 公営競技の問題は、九州でも幾つか登場しています。その一つである福岡ドーム内場外馬券売場設置計画は、地元の強力な反対が功を奏し、佐賀、荒尾そして岩手の3競馬組合が設置を断念するという結果に終わりました。どういう訳か、この時の記事が手元にないのですが、このホームページの掲示板「公園通り」でも話題になりましたので、そちらも参照していただければ幸いです(お書き下さった方々に、ここで御礼を申し上げます)。

 そして、福岡ドーム内場外馬券売場設置計画が断念されることになって、佐賀競馬の存続についても見直し論議が始まる可能性が出てきました。朝日新聞社のホームページ(佐賀版)に6月4日付で掲載された「佐賀競馬、赤字続くなら廃止も/知事が見解」という記事によります(但し、現在は掲載期間終了の故に読むことができません)。これについては、既に「公園通り」に「佐賀競馬の見直し論議が始まるか」(3635番)として記しましたが、ここで再録しておきます。

 6月3日に行われた佐賀県知事の定例記者会見で、知事が佐賀県競馬組合の見直しの方向を述べました。単年度赤字が4年続いており、競馬組合の財政調整積立金を取り崩しているようですが、この積立金も尽きる可能性が高く、佐賀県が一般財源を投入せずに廃止する可能性もあります。今年度の経営状況が判断材料となるようです。しかし、福岡ドーム内の場外馬券売場設置を断念したことで、記事の言葉を借りるならば「『経営改善策の柱』を失い、苦しい対応を迫られている」という状況では、かなり苦しいのではないでしょうか。「昨年、有識者らでつくる経営改善委員会から提言を受け、職員賃金やレース賞金のカットなど合理化策や振興策に取り組んでいる。今年度は収支均衡にし、来年度からの黒字化をめざしている」というのですが。また、佐賀県にとって、福岡市周辺は魅力のある市場であるとのことで、今後も福岡市に場外馬券売場の候補地を探すようです。

 しかし、このことから、場外馬券売場設置そのものが断念されたという訳ではありません。つまり、福岡市(あるいは、もう少し広く、福岡都市圏)に場外馬券売場を設置したいという意向は放棄されていません。朝日新聞社のホームページ(福岡圏版)には、6月11日付で「『馬券場、都市圏に設置を』/鳥栖市長要請」という記事が掲載されています(但し、この記事も、現在は掲載期間終了の故に読むことができません)。この記事によると、佐賀競馬組合の副管理者を務める鳥栖市長が、昨日、福岡市役所を訪れ、福岡市長と会談したようです。鳥栖市長が、福岡都市圏での場外馬券売場設置に理解を求めたのに対し、福岡市長は協力の意向を示したとのことです(なお、福岡市では競艇事業を行っています)。

 なお、福岡市にはサテライト博多問題もありますが、どのように進捗しているのかはわかりません。

 一方、6月20日に、西日本新聞宮崎版で、宮崎市北部での場外車券売場設置計画が報じられました。宮崎市議会でも取り上げられており、この模様は朝日新聞宮崎版でも6月26日付で報道されました。このこと についても、掲示板「公園通り」3735番および3764番に記したのですが、一部を引用する形で、改めて紹介します。

 西日本新聞宮崎版に掲載された記事は「宮崎市に競輪場外車券場計画 来年夏にも開設か 教育環境悪化懸念も」というものです(http://www.nishinippon.co.jp/media/news/news-local/miyazaki.html。但し、既に別記事に差し替えられています)。この場外車券売場がどの競輪場に関係するものなのか、記事では明らかにされておりません。日田や福岡と違うのは、地元住民が建設推進の立場を明らかにしている点です。設置予定場所は、宮崎市の広原という所にある山林です。手元にある地図ではよくわからないのですが、同市の北のほうにあるようで、「サテライト設置構想については、建設予定地周辺の住民でつくる同市住吉地区振興会(山口兼幸会長)と同市北地区振興会(窪田義秋会長)が昨年九月、宮崎市議会に推進の請願を提出、賛成多数で採択されている」とのことです。そして、「同市は既に、建設を計画している同市内の会社と都市計画法などに基づく事前協議に入っており、同市の開発承認と経済産業相の設置許可を経て、早ければ来年夏にもオープンする見通し」であるとのことです。

 朝日新聞宮崎版に掲載された記事は「場外車券売り場前向き対処示す 宮崎市長」というものです(http://mytown.asahi.com/miyazaki/news02.asp?kiji=1456)。この記事は、宮崎市議会において場外車券売場構想に関する質問が出され、市長が答弁したという内容のものです。 昨年の9月には、設置促進に関する請願を宮崎市議会本会議で採択しています。宮崎市も、設置に向けて動き出すようです。また、設置に際して、場外車券売場の予定地に近い「北地区、住吉の両振興会は、市民100人を雇用することなどを条件に、98年9月に設置に同意」しており、「市も5月24日に業者との間で、林地開発に関する協定を締結していた」とのことです。

 さらに、7月に入ってから、青森県にも場外車券売場設置問題があるという内容のメールをいただきました (御教示をいただいたことに関し、この場を借りて御礼を申し上げます)。この件について新聞記事などがあるのか探したところ、東奥日報という新聞社のホームページに、昨年(2001年)6月12日付の「六戸場外車券場、着工の動きなし」という記事が掲載されていました(http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2001/0612_6.html)。この記事の内容を紹介します。

 六戸町の坪毛沢地区に、サテライト六戸の設置が計画されていました。設置許可の申請者は民間会社で、競輪事業施行者である青森市、六戸町、北日本自転車競技会とともに開設の準備をしていました。設置許可は、2000(平成12)年2月、当時の通商産業省(大臣)から出されました。当初は2000年の3月に着工し、8月に完成させ、9月に開業という段取りだったのですが、用地買収を終えることができないため、施設の着工ができないという状態です。この間、資金調達ができなかったという理由で、申請者である民間会社の会長が交代しています。

 何故、設置許可が出されてから1年4ヶ月も経ったというのに用地買収ができなかったのか、そのあたりはよくわかりません。しかし、計画そのものとして杜撰であると評価できます。このようなものに設置許可を出した当時の通商産業省(大臣)は何をやっていたのかという疑問も湧いてきます。自転車競技法第3条第7項によれば、「経済産業大臣は、競輪場の設置者が一年以上引き続きその競輪場を競輪の用に供しなかつたときは、第一項の許可を取り消すことができ」ます。この規定は、第4条第4項により、場外車券売場についても準用されます。従って、設置許可が出されたのに1年以上も設置されないのであれば、「競輪の用に供しなかつた」ことに他なりませんから、設置許可の撤回―条文には「取り消」しとありますが、この場合、行政法学上の撤回です―がなされてもおかしくないのですが、撤回はなされなかったようです。

 おそらく、撤回をすれば行政の問題が浮上するという理由なのでしょう。仮に、用地買収が困難であることが容易に予想される場合であれば、そもそも設置許可をするとは思えません。そして、設置許可の申請がなされ、その内容を審査する際に、如何なる方法で判断がなされるのかという問題があります。経済産業大臣(実際には経済産業省の地方部局である経済産業局)は、実地調査などを行っているのでしょうか。おそらく、書類審査のみではないでしょうか。そうであれば、用地の取得の難易度などはわからないでしょう。そして、いざ設置許可を出してから1年以上も着工されなかったとなれば、杜撰な計画に基づく申請に対して設置許可をなしたということになり、実際に申請の審査を担当した者の責任などが問われうることとなります。

 しかし、考えてみれば、撤回に至りうるまでの1年間は、決して短いものではありません。むしろ、撤回までの期間としては適切、いや、場合によっては長すぎるものかもしれません。何年経っても用地買収すら進まないようでは、その計画が破綻していることと意味の違いはないと言ってもよいでしょう。長期間の後に着工し、開設したとしても、情勢の変化により、営業の見通しがどうなるかはわかりません。まして、サテライト六戸の場合、用地買収の際に資金調達ができなかったということですから、実際に開業してもどうなるかわからない、というのが本当のところでしょう。様々なことを考慮に入れるならば、このような場合には速やかに許可を撤回すべきではないでしょうか。

 東奥日報の記事によると、6月11日、六戸町議会の一般質問でこのサテライト六戸問題が扱われたようです。この時、町長は「民間会社の経営にかかわる問題に、町として直接立ち入るわけにはいかないが、関係者などからの情報収集に努めたい」という趣旨の答弁をしたようです。一方、6月13日には、東北経済産業局産業課が事情聴取を行う旨が記されています(実際に行われたか否かは不明です)。設置許可の撤回がなされるかどうか、この時点でもわからなかったのですが、どうやら、撤回はなされておらず、今も着工されず、という状態にあるようです。

 Googleで検索したところ、この記事以外にサテライト六戸問題を扱ったものは見つからなかったので、今年に入ってからの状況はよくわかりません。しかし、いただいたメールによると、今も着工されていないようです。しかも、岩手県内に予定されているサテライト石鳥谷(いしどりや)も、1997(平成9)年に設置許可が出されたにもかかわらず、1年以内に着工されなかったということです(なお、まだ事実の確認をしていないことを、ここでお断りしておきます)。但し、ここは1999年7月にオープンしています(岩手県内では初の場外車券売場です)。

 おそらく、 同種の問題は、競輪、競馬などの別を問わず、各地に存在するものと思われます。情報などがございましたら、お寄せいただければ幸いです。

 

(2002年7月3日)

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