サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第50編

 

  当初、第49編では、2003年1月28日に大分地方裁判所から言い渡された判決を紹介し、検討を行うこととしておりました。しかし、当日の動きは勿論、昨年末からの動きなども紹介したほうがよいと考え、急遽、内容を変更することといたしました。新聞記事などが多かったという事情もあります。

  また、判決の紹介および検討を行うことも考えていたのですが、様々な事情が重なり、全てをここに公表できません(いつかは公表することになると思いますが)。

  そこで、この第50編では、まず、判決の うち、大分地方裁判所の判断部分を紹介します。そして、1月28日、大分県庁で原告団長の寺井一弘弁護士によって読み上げられた声明の全文を紹介します。

  「平成13年(行ウ)第10号  行政処分無効確認、同取消請求事件」と名づけられた日田市対経済産業大臣訴訟の判決文は、全体で26頁になります。しかし、判決理由(「事実及び理由」)のうち、「当裁判所の判断」が示されているのは20頁目の最後の4行から26頁目までなので、実質では6頁を少し超える程度です。残りは、原告、被告、双方の代理人の氏名、主文、そして事実の概要と原告・被告の主張の概要です。

  以下は、判決のうち、裁判所の判断の部分です。

 

  第3  当裁判所の判断

  1  行訴法9条は、「当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」が取消訴訟の原告適格を有する旨規定するが、同条にいう「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該行政処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も上記にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的 に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである。

  また、同法36条は、無効等確認訴訟の原告適格について、「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」と規定しているが、同条にいう「法律上の利益を有する者」の意義についても、上記取消訴訟の原告適格における意義と同義に解するのが相当である。

  2  そこで、本件設置許可処分の無効確認ないしその取消しを求める本件訴えについて、原告が原告適格を有するかどうかについて判断する。

  (1)本件許可処分は、場外車券売場の設置に関する一般的禁止を解除するにとどまるものであって、その法律上の効果として、直接第三者である地元自治体の権利を侵害し、あるいは何らかの不利益を受忍させる法的効果を有するものではない。

  したがって、本件許可処分の法律上の効果として、直接原告に場外車券売場の設置を受忍し、又は公安・公衆衛生等の権能を行使する義務を負わせたり、原告の主張する各種権能を侵害し、あるいは費用負担等の不利益を課するものではない。

  (2)次に、本件許可処分の根拠法規である法が地元自治体である原告の個別的利益を保護すべきものとする趣旨を含むか否かについて検討する。

  場外車券売場の設置について、上記のとおり、法4条1項は通商産業大臣の許可を受けなければならないと定め、同条2項は通商産業大臣は申請に係る施設の位置、構造及び設備が命令で定める基準に適合する場合に限り、その許可をすることができると定めている。

  このような場外車券売場設置許可制度は、昭和27年法律第220号「自転車競技法等の一部を改正する法律」により設けられたものであり、同法により改正された後の法4条2項は、申請が「命令で定める基準に適合する場合に限り、その許可をすることができる」旨規定し、また、昭和27年法律第220号は、競輪場の設置についても通商産業大臣の許可によることとし、同法による改正後の法3条4項は、「申請に係る競走場の位置、構造及び設備が公安上及び競輪の運営上適当であると認めるときに限り、その許可をすることができる」旨規定していた。その後、昭和32年法律第168号「自転車競技法の一部を改正する法律」により、競輪場については、「申請に係る競走場の位置、構造及び設備が命令で定める公安上及び競輪の運営上の基準に適合する場合に限り、その許可をすることができる」と、場外車券売場については、「申請に係る施設の位置、横造及び設備が命令で定める基準に適合する場合に限り、その許可をすることができる」とそれぞれ改正された。

  以上のような競輪場及び場外車券売場の設置許可に関する法の改正経過に加え、場外車券売場設置許可制度も競輪場設置許可制度と同様の趣旨・目的をもって設けられたものと解されることに照らすと、場外車券売場設置許可制度の目的は、申請に係る施設の位置、構造及び設備が公安上及び競輪事業の運営上適当であるか否かを審査することにあると解するのが相当である。

  そして、前記のような場外車券売場設置許可制度の目的、法には、地元自治体の個別的利益を直接保護することを目的とする明文の規定が存しないばかりか、前記許可制度が地元自治体の個別的利益を保護する趣旨であることをうかがわせるような規定が存しないこと、法は場外車券売場の許可基準について具体的に規定することなく、これを命令に委任していることからすると、前記許可制度によって、法が一般的公益と別に地元自治体の個別的利益を保護する趣旨であると解するのは困難である(なお、設置要領通達は、場外車券売場の設置に当たっては、その設置場所の属する地域社会との調和を図るため、当該施設が可能な限り地域住民の利便に役立つものとなるよう指導することや、地域社会との調整を十分に行うよう指導することとしていることが認められる(乙7)が、設置要領通達は、機械情報産業局長の各通商産業局長に対する行政内部の通達であって、場外車券売場の設置・運営が適正かつ円滑に行われるための行政指導上の指針にすぎないから、これが、地元自治体の個別的利益を保護する趣旨であるということもできない。)。したがって、原告が、本件許可処分によって侵害されたと主張する権能等は地元自治体の個別的利益として法が保護しているということはできない。

  (3)なお、原告の主張にかんがみ、法が場外車券売場設置許可制度により地元自治体の個別的利益を保護する趣旨を含むかどうかについて検討する。

  ア  法1条1項について

  同条項は、自治大臣(現総務大臣)が指定する市町村は、公益の増進を目的とする事業の振興に寄与するとともに地方財政の健全化を図るため、自転車競走を行うことができる旨規定する。

  そして、その規定自体から明らかなとおり、同条項は、競輪を施行する目的が、同条項に例示された公益の増進を目的とする事業の振興に寄与すること、及びこれを施行する市町村の財政の健全化にあることを定めた規定である。したがって、同条項によって、原告が主張するような、住民の生活の安全、福祉、保健衛生、教育、青少年の健全育成、生活環境の保全等地元自治体の公共の利益に関わる事項やその財政の健全化を個別的利益として保護する趣旨であると解することは到底できない。

  イ  法4条2項、施行規則4条の3(位置基準及び構造等環境調和基準)について

  位置基準及び構造等環境調和基準に関する施行規則の規定は前記のとおりであり、これを受けた場外告示の前記規定も考え併せると、これらの許可基準等が、場外車券売場の設置により周辺環境が受ける影響に一定の配慮をすべきものとしていると解される。

  しかしながら、場外車券売場設置許可制度の目的は、前記(2)で判示したとおり、申請に係る施設の位置、構造及び設備が公安上及び競輪事業の運営上適当であるか否かを審査することにあり、前記の許可基準等もその目的のために設けられたものというべきであるから、施行規則及び場外告示の前記各規定は、場外車券売場の設置による周辺環境に悪影響が及ぶことをできるだけ回避するなどすることによって、これが社会的に受容され、公安を維持し、競輪事業の運営が円滑に行われることに資するという観点から定められたものと解するのが相当である。したがって、前記各基準がこれらの一般的公益と別に地元自治体の個別的利益を保護する趣旨であると解することはできない。なお、施行規則4条の2第2項1号は、場外車券売場設置許可申請書に場外車券売場付近の見取図(敷地の周辺から1000メートル以内の地域にある学校その他の文教施設及び病院その他の医療施設の位置並びに名称を記載した1万分の1以上の縮尺による図面)を添付しなければならないとしているが、これも添付図面として要求されているにすぎないから、前記の規定によっても、地元自治体の個別的利益が保護されているということはできない。

  ウ  法7条の2、21条について

  法7条の2、21条は、学生生徒及び未成年者の車券購入及び譲受を禁止するとともに、その禁止行為の相手方に罰則を科する規定であって、地元自治体の個別的利益を保護する趣旨でないことはその規定自体から明らかである。

  エ  法2条、3条について

  法2条は、競輪を開催しようとする場合の規定であり、法3条は競走場を設置又は移転しようとする場合の規定であって、場外車券売場設置許可についてはこれら各規定はいずれも準用されていないから、前記各規定も地元自治体の個別的利益を保護する趣旨であるということはできない。

  オ  地方自治法について

  地方自治法は、地方自治の本旨に基づいて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め、併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を確立することにより、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発展を保障することを目的とする(同法1条)ものである。他方、法は、その目的を明示した規定はないものの、自転車競走の施行に伴う諸制度を  定めることを目的とするものであるから、法の目的と地方自治法の前記目的が共通するものでないことは明らかである。したがって、地方自治法の規定によって、本件許可処分の根拠法規である法が地元自治体の個別的利益を保護する趣旨であることを根拠づけようとすることはその前提を誤ったものであり、既にこの点において理由がないことは明らかである。

  カ  憲法31条及び憲法の保障する自治権について

  これら憲法の諸規定が本件許可処分の根拠法規である法と目的を共通するものでないことは明らかであるから、これらの規定によって場外車券売場設置許可制度に関して地元自治体の個別的利益が保護されているとすることはできない。

  以上のとおり、原告の主張する各規定は、いずれも場外車券売場の設置に関して、地元自治体の個別的利益を保護する趣旨であるということができない。

  (4)また、本件で原告に原告適格が認められるか否かは我が国の法令解釈の問題であるから、法制度の異なる諸外国において、地方自治体の自治権が侵害された場合に国等の行為に対する出訴が認められるとしても、原告が原告適格を有する根拠となるものではない。したがって、原告の主張は採用できない。

  (5)以上によれば、原告は、本件許可処分に関して法律上保護された利益を有せず、その無効確認ないし取消しを求めるにつき法律上の利益を有しないから、原告は本件訴えについて原告適格を欠くというべきである。

  3  よって、その余の点について判断するまでもなく、本件訴えはいずれも不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担につき行訴法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

  (口頭弁論終結の日 平成14年10月1日)

 

  次は、平成15年1月28日付の声明です。これは、原告弁護団の団長である、寺井一弘弁護士の名義によるものです。なお、この声明文は、熊本県立大学大学院アドミニストレーション研究科博士前期課程学生の鶴尾和憲氏が入手されたものを送っていただいたものです。この場を借りて、改めて御礼を申し上げます。

 

  本日、大分地方裁判所は、経済産業大臣がなしたサテライト日田設置許可処分は、日田市の「まちづくり権」を侵害するとして無効又は取消を求める訴えの提起に対し、「法律上の利益」がなく原告適格は認められず本件訴訟を不適法として却下した。

  この判決は、地方分権の時代の流れに逆行して憲法が保障した地方自治の本旨と自治体の司法救済を求める権利を真っ向から否定することによって実質的には国の不当な処分を是認するもので、時代錯誤も甚だしく到底容認できない。

  すなわち、第1に、地方自治体が憲法によって保障された自治権を侵害されたとして司法救済を求めているにもかかわらず、判決のようにその救済可能性を一刀両断に否定することは、憲法による自治権の保障そのものを否定するに等しい。第2に、最高裁判決も「当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によって形成される法体系の中において」当該行政法規が個別的利益を保護しているかどうかを検討すべきであるとして法律の合理的解釈が要請されるところ、本判決はこれを無視し、自治体が司法救済を求める権利を完全に否定している。第3に、自転車競技法、同施行規則は、「文教上又は保健衛生上著しい支障をきたすおそれがないこと」、及び、「周辺環境と調和したものであること」を設置許可処分の要件とし、地方自治体の権利利益を配慮している。にもかかわらず、判決はそうした法律上の定めをまったく考慮せず、実質上国の処分を是認している。第4に、本件のような事案においては、原告適格の有無を判断するために処分の適否という翻案を審理せざるを得ないものであるところ、判決はそうした必要性すら認めなかったもので、当事者の裁判を受ける権利を否定すること著しい。

  日田市は、本日この判決の誤りを明確にし、さらにサテライト日田設置許可処分の違法性を明らかにするため、直ちに控訴した。弁護団は、ここに、裁判勝訴、処分の全面撤回を実現するまで市民とともに戦い続けることを決意する。

 

  一方、2003年1月28日に大分地方裁判所から言い渡された判決についてですが、第48編において、別府市が控訴するか否かに関して検討をいたしました。法的には可能であるが、政治的には難しいという趣旨を述べました。その後、このホームページの掲示板「ひろば」に、1167番として「今日が別府市の控訴期限」という題で次のように記しています。

  「今日が、別府市の控訴期限です。本来は市議会に議案として出さなければならないのですが、市長の専決処分として控訴する方針であるという報道もなされました。/果たして、別府市は控訴したのでしょうか。/明後日の8時間研修を前にして、準備をしながらも、非常に気になります。」

  (2002年12月3日20時29分付。/は、原文改行箇所)

  その後すぐに、別府市が控訴を断念していたことを知りました。やはり「ひろば」に、1168番として「別府市は控訴を断念」という題で次のように記しています。

  「大分合同新聞のホームページに「サテライト訴訟  別府市は訂正記事を掲載へ」という記事が掲載されています。/http:/www.oita-press.co.jp/cgi-bin/oitanews/news2.cgi?2002-12-03=16/これで、大分地方裁判所の11月19日判決は確定です。」

  (2002年12月3日22時7分付。/は、原文改行箇所。なお、大分合同新聞の記事は、上記と同じアドレスで、現在も読むことができます。)

  結局、別府市は、市報べっぷ2003年1月号で、大分地方裁判所の判決で命じられたように訂正記事を掲載いたしました。一方、日田市は、広報ひた2002年12月15日号で勝訴を大々的に取り上げ、日田市の2002年十大ニュースでトップに位置づけています。内容は、このホームページで紹介した判決の概要とほぼ同様です。

 

  今、大分市では、三佐地区に計画されているボートピア大分建設問題が再燃しています。地元では賛成派のほうが多いようですが、反対派の意見も強く、意見調整が難航しています。また、4月の大分市長選挙に木下氏が立候補しないこともあり、本格的な結論は市長選挙の後に出されることとなりそうです。大分市は、これまで、ボートピア大分建設問題について、賛成とも反対とも述べておりません。

 

(2003年3月29日)

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