サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第49編

 

 2003年になりました。前回(第48編)から2か月弱が経過しました。私自身がこの問題に取り組み始めて、既に2年半が経過していますが、不定期とはいえ、ここまで連載を続けることができました。今後も、問題が続く限り、連載は継続する予定ですので、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

 昨年(2002年)は、日田市対別府市訴訟で日田市が勝訴するという大きな出来事がありました。詳しいことは第50編または第51編で取り上げますが、別府市は、結局、控訴を断念しました。

 第48編において、別府市が控訴するか否かに関して検討をいたしました。法的には可能であるが、政治的には難しいという趣旨を述べました。その後、このホームページの掲示板「ひろば」に、1167番(2002年12月3日20時29分付 )として「今日が別府市の控訴期限」という題で次のように記しています。

 「今日が、別府市の控訴期限です。本来は市議会に議案として出さなければならないのですが、市長の専決処分として控訴する方針であるという報道もなされました。/果たして、別府市は控訴したのでしょうか。/明後日の8時間研修を前にして、準備をしながらも、非常に気になります。」(/は、原文改行箇所)

 その後すぐに、別府市が控訴を断念していたことを知りました。やはり「ひろば」に、1168番 (2002年12月3日22時7分付)として「別府市は控訴を断念」という題で次のように記しています。

 「大分合同新聞のホームページに「サテライト訴訟  別府市は訂正記事を掲載へ」という記事が掲載されています。/http:/www.oita-press.co.jp/cgi-bin/oitanews/news2.cgi?2002-12-03=16/これで、大分地方裁判所の11月19日判決は確定です。」( /は、原文改行箇所。なお、大分合同新聞の記事は、上記と同じアドレスで、現在も読むことができます。)

 もっとも、訴訟が終わって別府市が市報に訂正記事を掲載したからと言って、日田市と別府市との対立が解けた訳ではありません。別府市はサテライト日田設置を断念していないのです。もっとも、今年春の統一地方選挙の一つともなっている別府市長選挙では、サテライト日田問題を別府市の失政として争点にしようとする立候補者もいるようです。

 さて、サテライト日田問題のもう一つの側面、日田市対経済産業大臣訴訟が残っています。私は、日田市の提訴というニュースを聞き、このホームページでも取り上げました(第16編第19編を参照して下さい)。そして、2001年2月、私はサテライト日田問題について(訴訟提起の議案可決を受けて)」という寄稿文を作成しました。これは、読売新聞2001年2月24日付朝刊36面(大分地域ニュース)に掲載されました(第22編に掲載しております)。さらに、2001年3月、私は論文「サテライト日田をめぐる自治体間対立と条例―日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例―」を作成しました。これは、4月に発売された月刊地方自治職員研修2001年5月号に掲載されました。私自身の立場を確認するという意味を込めて、この論文の最後の2段落を、改めて引用します。

  「しかし、この訴訟について、日田市に設置許可の無効等の確認を求める法律上の利益を有すると認められるのか。とくに、法律上の利益については、自転車競技法の解釈上、また判例の傾向からみても、日田市に認めることは難しいと思われる。仮に訴訟要件を充たすとしても、設置許可に係る行政裁量、さらに自転車競技に係る立法裁量という壁にぶつかる。これを突破することは非常に難しいと思われる。

  但し、この訴訟が無意味であるかと問われるならば、否と答えなければならない。日田市の提訴は、地方分権が進められる中、地方自治体、そして何よりも地域住民が主体的にまちづくり(地域づくり)をすることを認めなかった(あるいは予定していなかった)従来の法体系(さらに行政)に対する重大な異議としての意味を有する。地方自治法第一条の二第二項にも「国(中略)住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない」と規定されている。されば、地域の声が十分に反映されない仕組みの法制度は、見直されなければならない。一大分県民として、今後の展開に注目したい。 」

  そして、この不定期連載でもレポートとして示したように、私は、口頭弁論の度に大分地方裁判所へ行き、日田市役所、そして日田市民の方々とともに傍聴をしました。そして、今年の1月28日、火曜日、10時を迎えたのでした。

  ここまで、かなり長い前置きとなりました。そろそろ判決の中身、および、それに対する私の考え方を示して欲しいという声が聞こえてくるのですが、もう少し、判決より前のことで述べたいことがありますので、お付き合い下さい。

  昨年12月21日、日本財政法学会の予備研究会が神田駿河台の明治大学で行われました。これに参加するため、私は、午前中、東京に帰りました(私にとっては上京ではありません。念のため)。その数日前だったでしょうか、東京のリベルテ法律事務所から連絡をいただき、私の手元にあったサテライト日田問題に関する資料(私自身が収集したのではなく、このホームページの常連さんでもある税理士の江崎一恵さんが情報公開請求の結果として届けて下さったもの)を読んでみたいということで、私は膨大な資料を持ち帰りました。12月24日、私は、JR南武線、東急目黒線・営団南北線を乗り継いでリベルテ法律事務所を訪れました。そこで、寺井弁護士および桑原弁護士と話をしたのですが、そこで気になる内容が示されたのです。

  寺井弁護士は、昨年7月9日、最高裁判所第三小法廷から出された判決文のコピーを私に下さいました。実は、その判決の理由が問題だったのです。もしかしたら、日田市対経済産業大臣訴訟でも、同じような理由で日田市の請求が却下される可能性があるということでした。私は、却下されるとしたら(第46編で紹介したように、10月1日に突然の結審となったので、却下は予想していました)原告適格が理由となるだろうと思っていたのですが、仮にこの最高裁判決と同じ理由だとすると、原告適格にも至らず、そもそも法律上の争訟(裁判所法第3条第1項)に該当しないということになります。つまり、もし訴訟を起こすというのであれば、行政事件訴訟法に規定される取消訴訟や無効等確認訴訟では争えないということになるのです。もし、原告適格だけが問題であるのならば、原告適格の要件さえ揃えば中身も判断されることになるのですが、法律上の争訟に該当しないとなると、客観訴訟(機関訴訟、民衆訴訟)ということになり、地方自治法第242条の2(住民訴訟)、公職選挙法第15章の各規定(選挙の効力に関する争訟)のごとく特別な規定を必要とします。

  上記の最高裁判所判決ですが、事案は次の通りです。「宝塚市パチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等の規制に関する条例」第8条により、上告人(宝塚市長)は、同市内でパチンコ屋を建設しようとした被上告人に建築工事中止命令を出しました。しかし、被上告人が従わなかったので、上告人は、裁判で建設の中止を求めました。

  これについて、神戸地方裁判所および大阪高等裁判所は、上告人の請求を棄却しました。つまり、訴えそのものは適法なのですが、中身である請求に理由がないと判断したのです。しかし、最高裁判所は、大阪高等裁判所の判決を破棄し、神戸地方裁判所の判決を取り消しました。これだけ読むならば、上告人の請求は認められたのかと思われるかもしれませんが、残念ながら違います。最高裁判所は上告人の請求を却下したのです。そこで持ち出されたのが法律上の争訟でした。

  法律上の争訟は「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるもの」です(引用は上記最高裁判所判決からですが、最三小判昭和56年4月7日民集35巻3号443頁が参照されています)。例えば、AさんがBさんに金を貸したのですが、Bさんが期日になっても返さないというのであれば、法律上の争訟に該当し、民事訴訟で争うことができます。しかし、宝塚市の場合は、条例に定められた「義務が上告人の財産的権利に由来するという事情も認められない」として、法律上の争訟に該当しないと判断されているのです。

  さらに、この最高裁判所判決では、次のように述べられています。

  「国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできない。(中略)行政事件訴訟法その他の法律にも、一般に国又は地方公共団体が国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟を提起することを認める特別の規定は存在しない。」

  この部分は、日田市対経済産業大臣訴訟に関係のない部分であると思われます。ただ、日田市の請求が経済産業大臣に対して法規の正しい適用を求めるものと解釈されるのであれば、この理屈が妥当すると解釈されかねません。もっとも、これでは、原告が日田市であっても日田市民であっても同じようなもので、周辺住民による取消訴訟あるいは無効等確認訴訟そのものが否定されかねません。それだからこそ、行政事件訴訟法には地方自治体が原告となって義務の履行を求める訴訟を提起できる旨の規定がない、という歯止めを置いているのでしょう。しかし、理屈を徹底すれば、サテライト日田設置許可を日田市民が争うとしても、それは日田市民の権利利益に関するものではなく、法規の適正な適用を求める訴訟であると解釈することもできますから、許可の効力を争えなくなるかもしれません。そもそも、訴訟は、自己の権利利益の救済が第一義的であるとは言え、法規の正しい適用をも求めるものではないでしょうか。

  ともあれ、原告側弁護団は、この法律上の争訟が却下判決の理由になるかもしれないと考えたのでした。そして、私は、この点について考えるように、という課題を与えられました。年末年始、川崎の実家で、この最高裁判決と、雑誌「法学教室」2002年12月号に掲載された阿部泰隆教授の論文を読み、考え込んでいました。一方、このホームページに設けている掲示板「公園通り」に、気になる書き込みがありました。元は某MLで「御先輩の先生」が書かれたことです。ここに再録します(ここで明かしてしまいますが、「御先輩の先生」とは、早稲田大学法学部の首藤重幸教授のことです。新井隆一先生の一番弟子です。私は、博士後期課程まで進んだ者としては6番目で、最後となります。勝手にお名前を出して申し訳ございません)。

  「なかなか面白そうな問題ですね。さて、この訴訟は問題なく主観訴訟(取消訴訟、無効確認訴訟)と考えていいのでしょうか。主観訴訟とすると、日田市(自治法により法人とされている)の、いかなる(主観的)権利が侵害されていると考えたらよいのでしょうか。そこらの点が明確でないと機関訴訟(客観訴訟)とされ、即、却下ということになる可能性があるのでは。成田新幹線訴訟でも、路線認可「処分」の取消訴訟において、区が原告に入っていましたが、区に原告適格が認められるか否かの問題に入る前の時点で決着がつき、最高裁判所の判断は示されませんでした。」

  1月28日の判決がいかなるものになろうとも、そして、控訴、上告ということになろうとも、法律上の争訟に該当するか否かという問題は、サテライト日田問題のような事件の場合、常に念頭に置かなければならないものとなりました。しかし、考えてみれば、上記最高裁判所の判決はおかしなものです。行政代執行法のようなものがなければ、地方自治体は、条例違反などを放置しなければならないということになるのでしょうか。

  今年に入り、朝日新聞の白石記者から連絡をいただきました。判決に備えた記事を作成するということで研究室に来られました。この件などについて色々と話をしました。その後、1月24日付の朝刊25面13版に「日田  場外車券訴訟  28日判決  『まちづくり権』判断は」という記事が掲載されました(ここに私は登場しません)。記事は、「国相手の訴え、資格も焦点」として、原告適格に関する解説がなされています。また、「住民は快適な環境で生活する権利を持ち、まちづくりが地域全体の取り組みである以上、市は地域全体を代理できる。住民意思を無視した国の設置許可は、地方自治の自治権の侵害になる」という、日田市役所企画課の五藤和彦主任のコメントが掲載されています。さらに、「上下関係見直す契機に」という題が付された、木佐茂男教授の談話が紹介されています。これについても、全文を紹介しましょう。

  「住民ではなく自治体が国を訴えた日田市の試みは上下関係だった国と地方の立場を、対等に見直すきっかけになり、『負けるも勝ち』と評価できる。

  『景観の利益』を認めた国立マンション訴訟の判決など、裁判所は住民の権利に沿った判決を出し始めた。踏み込んだ判決に期待したい。」

  私も、大分大学に勤務している者の中で、さらに言えば大分県内の大学に勤務するものの中で唯一、この訴訟に関わり続けていますから、木佐教授と同じ思いはあります。しかし、現実の地方分権改革を眺めていると、とくに市町村合併について言いうることですが、上下関係から対等関係へという地方分権の理念は掛け声倒れに終わっているような気がしてなりません。否、キャッチフレーズと現実との間には、決して浅いと言えない裂け目が存在するものです。正直に申し上げるならば、この訴訟の行方によっては、木佐教授が述べられることと逆の方向に進む可能性を否定できないのです。別府市、および設置許可申請者である 溝江建設の姿勢もあります。

  1月には、勿論、講義、会議など色々な仕事を抱えていましたが、何が何でも判決を聞かなければならないと思っていました。そして、ついに1月28日を迎えました。早く起きて大学へ行き、車を置いて大分大学前駅へ向かい、列車に乗りました。そして、大分駅から歩いて大分地方裁判所へ向かいました。到着したのが9時前です。この日、大分市は晴れていましたが、かなり寒く、震えるほどでした。日田市では雪が降ったようです。福岡市などでも雪が降ったとのことでした。裁判所の玄関には傍聴整理券の配布を知らせる看板が立っています。しかし、到着した時には私しかおらず、10分ほどしてからテレビ大分の取材班が来ました。経済産業大臣側訴訟代理人は早めに到着していたようです。日田市関係者が到着したのは9時半を回ってからでした。1という番号が振られた傍聴整理券を受け取ったのですが、結局、9時40分までの間に半分ほどしか配布されず、抽選のないままに1号法廷に入りました。もっとも、開廷時までには法廷が満員に近い状態となっています。私は、左側の最前列に座りました。日田市議会議員の方々などに囲まれる形です。原告席には、寺井一弘弁護士、大石昭忠市長、桑原育朗弁護士、そして藤井範弘弁護士がおりました。

  〔余談:閉廷後に知ったのですが、この日、聖嶽洞窟遺跡疑惑で別府大学の賀川光夫名誉教授が自殺した事件に関連して遺族側から提起された損害賠償請求訴訟(文芸春秋社に対してのもの)の口頭弁論も開かれました。〕

  10時、民事第一部の須田啓之裁判長、細野高広裁判官、宮本博文裁判官が入廷しました。2分間、ニュース用の撮影が行われました。いやがうえにも緊張感が高まります。

  そして、撮影が終わり、判決が言い渡されました。2003年1月28日付の朝日新聞夕刊9面3版が伝えるように「わずか十数秒」の出来事でした。次のように、主文だけが言い渡されました。

  「1.本件訴えをいずれも却下する。」

  「2.訴訟費用は原告の負担とする。」

  その瞬間、傍聴席からはため息とも落胆の声ともつかないようなものが聞こえ、落胆と怒りがあふれました。中には、判決の言い渡しというものはこんなにあっけないものなのかという声もありました。私はすぐに「民事訴訟や行政事件訴訟はこのようなものです。刑事訴訟なら理由を朗読するのですが」と答えました。

  予想していたとは言え、やはり、私も落胆しました。1月27日、名古屋高等裁判所金沢支部から出された高速増殖原型炉「もんじゅ」に関する訴訟の判決のことが頭にあったからです。この訴訟も、周辺住民の原告適格が問題となり、同じ名古屋高等裁判所金沢支部は原告適格を認め、最高裁判所も認めたことから実体審理に入りました。そして、福井地方裁判所は訴えを棄却しましたが、名古屋高等裁判所金沢支部は周辺住民の逆転勝訴判決を出したのです。「もんじゅ」、そして新潟空港訴訟よりもはるかに後退したものではないのか、と思いました。

  閉廷後も、原告席には先の4氏が残っていました。私も原告席に移り、判決文を眺めました。原告適格で却下されたのです。法律上の争訟に該当しないという、これ以上はない最悪の理由ではなかったのでした。しかし、却下は却下です。原告適格が認められなかったのです。

  それから、恒例の、大分地方裁判所玄関での説明がなされました。今回は、大石市長、寺井弁護士が発言をされました。私も大石市長の隣におりました。大石市長は、今後も闘っていくという決意を述べられました。上記朝日新聞夕刊記事では「門前払いの判決で残念だ。直ちに控訴し、高いレベルでの話し合いをしたいので、今後とも支援をお願いしたい」とまとめられております。続いて、寺井弁護士は、やや興奮した面持ちで、今回の判決の不当性を主張されました。

  閉廷後から、私もコメントを求められました。そこで話した内容が、2003年1月28日付朝日新聞夕刊9面3版「『地方自治に逆行』  場外車券訴訟  幕切れ判決十数秒  日田市長怒り強く」という記事、そして 2003年1月28日付大分合同新聞夕刊夕F版13面「サテライト設置許可訴訟  『まちづくり権』門前払い  地裁『原告適格なし』  日田市の訴え退ける」 という記事に掲載されました。同じような内容ですが、紹介します。

  「地方分権とは、単なる国と地方との仕事の役割分担ではなく、住民の手によるまちづくりを意味する。事例は違うが、昨年12月の国立マンション訴訟の判決や、高速増殖原型炉もんじゅの判決など住民の主張が認められ始めてきた。それだけに大分地裁の原告適格を理由にした却下は、あまりに形式的ではないか。日田市の主張の中身に踏み込んで欲しかった。」(朝日新聞。なお、私のコメントの部分には「あまりに形式的」 という小見出しが付されています。)

   「原告適格の有無で判断せず、住民のまちづくり権について踏み込んだ判断をしてほしかった。地方分権の流れを考えれば、一歩後退した判決。住民は、原告適格の壁をクリアするためにも、まちづくり権を具体化する必要がある。 」(大分合同新聞)

  正直なところ、私は、「一歩後退」という表現でもどうかと思います。そして、朝日新聞のほうに紹介されているように(私の発言より一歩踏み込んだ内容になっているような気もしますが)、私は、地方分権に住民自治の観点が必要だと考えています。まちづくり自体もそうです。機能分担は当然のことですが、それだけでは地方自治の実現と言えません。役割分担だけであれば、中央集権の下でも可能です。実際、日本は、中央集権的な体制であった時代でも、相当量の事務を地方が行ってきています。分権という場合に問題となるのは、単なる事務配分ではなく、事務の権限配分です。そして、権限配分がなされるならば、地方の場合、住民と行政との間に存在する、より直接的な関係が問題となるのです。

  ちなみに、私は、テレビ大分にもコメントを求められました。テレビカメラの前で話したのですが、放送されたのかどうかはわかりません。

  この訴訟では、口頭弁論終了後、毎回、日田市側が大分県庁記者クラブにて記者会見を行っておりました。私は参加したことがなかったのですが、今回は、寺井弁護士が声明文を用意されていたこともあり、参加 したいと思っていました。そこで、お願いをしてみたところ、「是非とも」という趣旨のことを言われました。藤井弁護士、そして日田市の五藤氏とともに、日田市の車で県庁へ向かいました。

  その五藤氏のコメントが、上記朝日新聞夕刊で紹介されています。記事では「この判決内容なら9回も口頭弁論を開く必要はなかった」と書かれております。この思いは、五藤氏だけのものではありません。昨年11月19日、日田市対別府市訴訟では日田市が勝訴しました(これについても、寺井弁護士は政治的なものを感じるとおっしゃっていましたが)。「それなのに、同じ裁判所で、この判決とは……」とは、同じ記事に掲載された五藤氏の落胆の思いですが、これも多くの人に共通するものでしょう。実際、1月29日朝日新聞朝刊25面(大分10版)に掲載された記事「日田市民『むなしい判決』  場外車券場  無効請求却下」では、日田市民の意見として、「法律だけをよりどころとした、しゃくし定規の判決」、「判決では環境を守りたいという地域住民の切実な願いが一切無視されている。控訴は当然だ」というコメントが掲載されています。また、直接的には判決に対するものではないのですが、サテライト日田設置に反対する別府市民(「サテライト日田設置を強行する別府市長に腹が立つ会」のメンバー)の意見として「日田市がいい町をつくろうとしているのに別府市が押しかけてつくってほしくない。子どもが育つには環境が大切」というコメントも掲載されています。

  記者会見が始まる11時になるまで、私は、大石市長、室原議長、武内会頭と、今回の判決などについて話し合いました。やはり、これだけ時間をかけて却下判決ということに落胆と怒りがあったようです。行政法学者としては、今回の判決を予想していましたが、これだけの思いが伝えられると、私としても、現在の法制度は何なのかという素朴な疑問が頭をよぎります。それだけ、日田市の意見の重さを感じざるをえないということなのです。

  11時ころ、県庁内の記者クラブに入りました。当初、私はただ参加して話を聞くだけのつもりでしたが、日田市職員の方から会見の席に着くように促され、右端に座っておりました。 こんな体験は初めてのことです。原告でも弁護団のメンバーでもない私がこの席に着いてよいのかと迷ったのですが、陰ながら支援をさせていただいたことに変わりはないし、「私も発言したい」という思いから、席に着かせていただきました。 先の大分合同新聞夕刊の記事に、会見の写真が写し出されています。会見の席に座っているのは、左から、藤井範弘氏(弁護士)、寺井一弘氏(弁護士)、大石昭忠氏(日田市長)、室原基樹氏(日田市議会議長)、武内好高氏(日田商工会議所会頭)、そして私です。

  まず、会見では、寺井弁護士が声明を読み上げました。 この声明はあらかじめ作成されたものです。残念ながら、声明文は私の手元にありません。趣旨は、今回の判決が不当であること、今後も闘っていく、つまり、今回の判決について直ちに控訴するということです。実際、直ちに控訴手続が取られています。今回の却下判決は、昨年7月23日の口頭弁論の際、それまでとは裁判長の態度が変わったこと(第44編もお読み下さい)、10月1日に口頭弁論が終結したことからしても予想の範囲内でありました。控訴の方針も、既に決められていました。

  それから、大石市長、室原議長、武内会頭の順に、印象などを語りました。2003年1月29日付読売新聞朝刊24面(大分地域ニュース)〔読売新聞大分支局のホームページ2003年1月29日分〕「場外車券場訴訟却下判決、控訴で解決遠のく」では、「判決にはあ然とし、憤りを感じた。より住みよく、文化の薫りの高い街をつくるため、断固として闘っていきたい」とまとめられています。また、大石市長の発言は、「原告不適格という、一刀両断の判決は大変残念。市民自らが、街を守ろうという意欲を踏みにじられた思いだ」とまとめられています。 また、上記朝日新聞夕刊記事では、大石市長の発言として「全市をあげて戦ってきた。1年9カ月の議論は何だったのかという憤りを感じる。国は地方分権や『地方が主役の21世紀』を唱えているが、逆行する判決だ」と書かれて、1月29日朝日新聞朝刊25面(大分10版)に掲載された記事「日田市民『むなしい判決』  場外車券場  無効請求却下」では、やはり大石市長の発言として「1年9カ月の議論は何だったのかという憤りを感じる。控訴して市民一体となって戦っていくことを改めて覚悟した」と書かれています。室原議長も同じ趣旨のことを語っておられました(少なくとも、記者会見前に、県庁の1階で私に対してそのようにおっしゃられました)。先の五藤氏の思いと同じだった訳です。

  それに続いて、藤井弁護士から、この判決についての解説などがなされました。 やはり、新潟空港訴訟などを引き合いに出しつつ、一歩後退した判決だと締めくくられました。

  最後に私が意見を述べました。この時は興奮していたのか、あまりまとまりのない発言になったのですが、 読売新聞の記事で「この訴訟が全国に問いかけたものは『地方自治とは何か』に尽きる。その点にほとんど触れておらず、原告適格が広げられる方向にあったのを逆の方向に持っていくとは、いったい何年前の判決なんだという印象を強く持った」とまとめられています。

  たしか、私は、この時、「地方自治、そして地方分権とは何かに尽きる」という趣旨の発言をしたはずです。そして、2001年11月23日・24日に北海道大学で開催された第1回日本自治学会において千葉大学の大森彌教授がサテライト日田問題を取り上げられたことを述べた上で、全国的にも注目されたこの訴訟だけに、判決は残念だという趣旨を語りました。今回の訴訟は、まさに地方分権のあり方が問われた訴訟と位置づけるべきだと思っています。その趣旨を、会見でも述べたはずです。

  このホームページを御覧の方であればおわかりだと思うのですが、私が記者会見で述べたことは、サテライト日田訴訟について私が一貫して考えてきたことです。第4編に掲載した朝日新聞2000年11月26日付朝刊13版34面のコメントに始まり、第22編に掲載した2001年2月24日付の読売新聞朝刊36面(大分地域ニュース)の寄稿文「サテライト日田問題について(訴訟提起の議案可決を受けて)」で、私は、このサテライト日田問題が「条例制定権の限界、まちづくりの進め方、住民意思の反映の仕方、市町村関係の在り方など、地方自治における重要な諸課題が凝縮されたものである」と記しておりますし、第24編に掲載した2001年3月20日付の大分合同新聞朝刊朝F版23面のコメント、そして、ひたの掲示板などへの投稿でも、根本的には同じ趣旨のことを述べています。 上で引用している論文「サテライト日田をめぐる自治体間対立と条例―日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例―」 も、読売新聞への寄稿文とほぼ同内容のことを記しております。

  今回の判決について、行政法学者はどのように考えているのでしょうか。私が集めえたものを紹介しておきます。

  まず、今回の訴訟で鑑定意見を作成された村上順教授(神奈川大学法学部)の御意見です。2003年1月29日付読売新聞朝刊24面(大分地域ニュース)の上記記事にコメントが掲載されています。

  「自治体の原告適格が認められなかったが、欧米では、重大な自治権侵害については、訴訟資格を認めている。こうした考えが出てこないと、国が進める分権改革の趣旨にそぐわないのではないか。裁判所の判断は、市民の権利や自治体の権利を狭くとらえている」

  次に、木佐教授の御意見です。2003年1月29日付朝日新聞朝刊25面 (大分10版)に「理論的検討の貧しさ目立つ」として、2003年1月29日付大分合同新聞朝刊朝F版19面に「行政訴訟の流れに逆行」(おそらく寄稿文)として掲載されています。今回は「理論的検討の貧しさ目立つ」のほうを紹介します。

  「新しい社会状況や地方分権を一切考慮しない古色蒼然とした判決。高速増殖原型炉「もんじゅ」の設置許可無効判決や、02年12月の国立マンション事件の違法建築部分取り壊し命令など、行政関係の裁判としては画期的なものが出つつある中で、本判決の理論的検討の貧しさが目立つ。社会の変遷が極めて激しい中で、法令改正が追いつかない現状を司法的に認知するだけで、裁判の権利保護創造機能を自ら放棄するものといわざるを得ない。」

  一方、2003年1月29日付大分合同新聞朝刊朝F版19面に掲載された「サテライト訴訟  高裁へ  『原告適格』壁に挑む」という記事には、「地方自治体の原告適格を認める新判断がなければ、そこで裁判は終わる。個別の法律上の利益の有無を審理し、実体審理への道を開くよう、予定地周辺の住民を原告に加える工夫も必要だったのでは」という「法曹関係者」の指摘が掲載されています。

  この「法曹関係者」が誰なのかわかりませんが、判例を知っていてこのような趣旨の発言をしたのかと疑問を持たざるをえません。今回の判決文を読めば、そしてこれまでの判決をたどってみればわかりますが、原告が日田市であろうが日田市民であろうが、趣旨としては同じ判決が出されたでしょう。勿論、住民が加わることによって、それなりのインパクトがあるかもしれません。しかし、判決は、あくまでも法的問題に対して、法律の解釈を通じて出されるものです(そうでなければ、逆に不当性も高まります)。以前、やはり場外車券売場の設置許可を巡って近隣住民が起こした訴訟で、自転車競技法は周辺住民の利益を法的なものとして保護する趣旨のものではないという意味の判決が出されたことがあります。これをどのように考えるのでしょうか。

  〔余談ですが、この記事に書かれた内容について、私はクレームをつけました。改めて記しておきますが、このホームページはサテライト日田問題がきっかけで開設したものではありません。おそらく、「ホームページを開設した学者」とは私のことなのでしょう。大分合同新聞社からはお詫びの電話をいただいたことも記しておきます。〕

  ここまで相当の長文になりました。判決の検討は第50編または第51編において行うことといたします。ただ、記者会見終了後のことだけは記しておきます。

  記者会見の席上、大石市長は、28日の午後に別府市役所を訪問すると語られました。判決がどのようなものであれ、方針は決まっていたようです。正午になる少し前に記者会見が終わり、私は皆さんと別れ、県庁から大分駅まで歩き、駅の近所で昼食をとって、豊肥本線の列車で大分大学へ戻りました。一方、大石市長、日田市職員の方々は、別府市役所を訪問しました。この時の模様は、2003年1月29日付朝日新聞朝刊25面(大分10版)、2003年1月29日付読売新聞朝刊24面 (大分地域ニュース)、および2003年1月29日付大分合同新聞朝刊朝F版19面の上記各記事に掲載されました。当日、別府市の井上市長は不在で、安部一郎助役が対応しました。日田市側は、改めて設置計画の断念を要請しました(文書が用意されています)。これに対し、別府市側は、相変わらず「当事者ではない」と主張しており、業者が適法に許可を得たという立場、そして国や業者との信頼関係の存在も主張しています。この際、別府市側は日田市の行動などに苦言を呈したそうです(大分合同新聞の上記記事によります)。これに対し、大石市長は、別府市は当事者以外の何物でもないという趣旨を述べたとのことです。

  自転車競技法の構造からして、別府市の主張には理解できない点があります。これについても、私自身が何度か述べています。別府競輪の車券を販売するのはサテライト日田を設置する 溝江建設自身なのでしょうか。そのようなことをすれば、自転車競技法に違反します。場外車券売場の設置にも幾つかの形態があるのかもしれませんが、通常、設置業者は、競輪事業施行者との調整を行った上で設置許可を申請するはずです。そうでなければ、設置したところでどこの競輪事業施行者が発券するかわからないという、非常におかしなことになります。設置業者は、建物などを設けて、競輪事業施行者に賃貸することで利益を上げることになるはずです。このように考えれば、競輪事業施行者である別府市は当事者になります。もし、サテライト日田設置許可の申請が経済産業省によって拒否されるならば、 溝江建設が原告となって設置 申請拒否処分の取消訴訟を提起することができます。先の最高裁判所判決の趣旨などからすれば、別府市が原告となって訴訟を提起することはできないかもしれません。しかし、 溝江建設が原告であるならば、別府市も訴訟に参加することができるのではないでしょうか(できないとしても、何らかの形で、実質的当事者として行動するはずです)。また、別府市も認めるように、サテライト日田を設置し、車券を販売するには財政支出が必要で、別府市議会の議決を経なければなりません。この予算が否決され、凍結されているのが現在の状態です。仮に別府市がこの計画を断念するならば、損害賠償を請求されます。これも、別府市自身が認めているのです。それなのに「当事者」という主張を繰り返すのです。不思議な構造です。

  また、記者会見の席で、大石市長は、別府市が久留米競輪との商圏調整を行っているのか否かを確認したいとも述べておられました。何故か、このことは新聞記事に登場しません。日田市は、地理的にみても久留米競輪の商圏になります。しかし、そこに別府市が入ってくるという訳です。私も所持している文書によると、経済産業省は、別府市はこの調整について久留米市と合意をしていません。現在の状況も不明です。そうなると、違法かどうかは別として、今回の設置許可には不当な点があると言えないのでしょうか。、なお、久留米市は、現在のところ、日田に場外車券売場を作る予定を有していないとのことです。

 

(2003年2月2日)

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