ドイツの電子申告制度における現状と課題

 

T    税務行政における「電子的情報処理」の本格化に向けて

 

  情報通信技術の発展により、行政の電子化が、とくに先進諸国において進行している。このことは、市民生活にも大きな影響を与えるばかりでなく、税務行政手続法理論、さらに行政法総論にも少なからぬ影響を与えるものと思われる(1)

  そして、日本においても行政部門の電子化が進行しようとしている。その代表的な動向の一つとして、電子申告制度の導入がある。日本においては、本年(2000年)11月から来年(2001年)3月までの実験を経て、2003(平成15)年度から電子申告制度の運用が開始される予定である。既に国税庁の国税総合管理システム(KSKシステム)が稼動しており、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)も制定・施行された。税務会計における電子化が進展し、定着するならば、情報通信網によるペーパーレスの納税申告に至ることは、当然であると言えよう(2)

  従来の、紙による納税申告は、その内容を私人またはその代理人(税理士など)が作成し、書面が税務署において提出され、税務署がその書面を受理する、という形によっていた。しかし、電子申告の場合、完全な形であれば、申告書という紙が不要になる。パソコンの画面を通じて、私人が申告記録(内容)を作成する。そして、その記録を税務署(税務行政の電子計算機センター)に伝送する。

  納税申告を電子的手段により行う場合、行政法理論の観点から、幾つかの問題が考えられる。例えば、私人本人ではなく、税理士などの代理人が電子申告を行うことが許されるとして、その場合、紙による納税申告と異なる点があるのか(3)。さらに具体的な場面を想定するならば、私人またはその代理人は、どの段階において、税務署に対して申告記録を電子的に送達したと言いうるのか。そして、税務署は、どの段階において、私人の申告内容の記録を受理したと言いうるのか(4)。さらに、更正決定などがインターネット網を通じて送達される場合、どの段階において決定などが発信され、私人またはその代理人に到達し、効力を発すると言いうるのか。

  このような問題を考えるにあたっても、日本の行政法学および租税法学は、情報化社会に対応した理論を、いまだ十分に構築していないように思われる。これに対し、ドイツの行政法学においては、早くから電子的情報処理(elektronische Datenverarbeitung; EDV)について議論がなされている(5)。しかし、電子的情報処理が、例えば行政行為論にいかなる影響を与えるものであるのか、行政手続にどのような修正を迫るものであるのかについて、不十分な点が多い。

  これまでの行政法理論は、様々な側面から批判にさらされ、再構築への動きもみられるところである。それらは、それぞれ理由のあるものであって、成功しているか否かは別として、旧来の行政法理論がもはやそのままでは妥当しえなくなっていることを示している。勿論、行政法理論の全てが使い物にならないという訳ではない。行政裁量が完全に消滅するとは考えられないし、行政行為などの行為形式は残るであろう。しかし、電子技術の発展は、行政実務に、行政実定法に、徐々にではあるが、確実に浸透し、変化をもたらすであろう。そして、この流れは、行政法理論に修正を迫ることにもなる。

  既に、電子申告制度は、アメリカ、オーストラリア、イギリスなどにおいて採用されている。また、ドイツにおいても、後に述べる通り、1994年より、既に専用回線を用いる電子申告制度(DATEV方式)が導入されているが、これとは別に、昨年(1999年)1月より、試験的ではあるが、インターネット網およびダイアル・イン・サーバー(テレボックスを利用した専用回線(6))による電子申告制度(ELSTER方式)が運用され、本年1月から、全州において本格的に運用されている(7)

  これまで、ドイツの電子申告制度について日本で紹介されたことはほとんどない(8)。また、ドイツにおいても、電子申告制度に対する関心は必ずしも高くない。そのためもあり、現在のところ、資料を入手するには(ホームページを参照する以外)困難な状況にあると言いうるが、本稿は、現在判明している限りにおいて、および、私の能力の及ぶ限りにおいて、ドイツにおける電子申告制度を概観し、問題点などを探ることを目的とする。

  〔なお、以下において、ホームページから引用・参照した文献については、初出の場合にのみ注に記し、以後は明示を省略することがある。〕

 

U    ドイツの課税方式

 

  ドイツにおいては、賦課課税資料申告方式が採用されている。納税申告(Steuererklaerungen)は、租税通則法(Abgabenordnung. 以下AO)第149条第1項により、個別の法律が規定する場合に義務づけられることになる(例、法人税法第49条、売上税法第18条)。そして、納税者による申告は、課税庁側の基礎資料として利用されるに留まる。従って、納税者が納付すべき税額が納税者の申告によって確定されるのではなく(納税申告は意思表示でなく、認識の表示にすぎない(9))、納税者が提出した申告書を課税庁が受理し、課税庁側の租税確認を通じて租税決定(Steuerbescheid)が送付される(AO第169条第1項第1号)という経過をたどることとなる。租税決定は行政行為であり(AO第155条第1項第2文、第122条第1項)、これが通知されることにより効力が生じ(AO第124条第1項)、権利救済手続のための期間が経過することにより形式的確定力が生じ、確定期間の経過により実質的確定力が生ずることとなる(AO第172条以下を参照)。

  従って、ドイツにおいて、納税義務者は、電子申告を利用したとしても、単に課税庁側へ租税決定のための基礎資料を伝送するにすぎないということになる。但し、AO第150条第1項第2文により納税申告の一種とされるSteueranmeldung(en) (10)は、売上税(売上税法第18条第1項・第2項を参照)、給与税(Lohnsteuer. 所得税法第38条以下)、資本収益税(Kapitalertragsteuer. 所得税法第43条以下)などにおいて採られる方式であり11)、納税義務者自身が納税額を計算しなければならないというものである。この場合、原則として課税庁による特別の租税確認(AO第155条)は不要とされる(AO第167条第1項)。その意味において、Steueranmeldung(en)は日本の申告納税制度と類似する。

 

V    税務行政の電子化

 

  ドイツにおいても、行政の電子化が進んでいる12)。税務行政についても同様である。

  AOにも、税務行政のコンピュータ化に対処したと考えられる規定が存在する。同第150条は納税申告の形式に関する規定であるが、その第6項に、1985年12月19日の法律および1993年12月21日の法律により変更が加えられ13)、次のような規定となっている。

  「自動化された課税手続の軽減および簡素化に向けて、連邦大蔵省は、連邦参議院の同意を要する法規命令により、納税申告、またはその他の課税手続のために必要な情報が、全部または一部、機械により利用しうる情報記憶媒体、または情報遠隔伝送より、伝送されうることを定めうる。その際、とりわけ、次の各号のことが規律されうる。

  1.手続の利用のための諸前提

  2.伝送すべき情報の形式、内容、処理および確保に関する詳細

  3.情報の伝送の様式および方法

  4.伝送すべき情報の受領のための権限

  5.不正な処理または情報の伝送に基づいて短縮され、または延長された、租税または租税利益(Steuervorteile)に対する第三者の責任

  6.この手続のために必要な、納税義務者の特別の申告義務の範囲および形式

  情報伝送の規律のために、法規命令において専門的知識を有する部署の刊行物の参照が指示されうる。この際、刊行物の日付、購入源、および、刊行物が公文書保管所のように安全に保管される部署が記述される」

  この改正の後、1994年より、DATEV方式による電子申告の運用が開始された。

  また、1998年、連邦大蔵省は連邦参議院の同意を得て「税務行政における自動化:納税情報の呼び出しに関する行政規律」14)、「機械的に利用しうる情報記憶媒体によるSteueranmeldungの伝送に関する命令(Steueranmeldungの情報伝送に関する命令)」15)、「税務行政における自動化:Steueranmeldungの情報伝送に関する命令」16)を制定している。連邦大蔵省によれば、これらの行政規律・命令はELSTER方式の「法的条件」であるという17)。そのため、ELSTER方式はこれらの行政規律・命令に従って運用されなければならないということであろう18)

  ドイツの場合、後に概観するように、電子申告制度(DATEV方式およびELSTER方式)の導入状況は州により異なっていた。少なくとも私が情報を収集した限りにおいて、導入に最も積極的であるのはバイエルン州であると思われる。

  既に示したように、ドイツの場合、まずDATEV方式の運用が開始された。DATEVがいかなる組織であるかについては後に述べるが、そのDATEVによれば、同方式の開発はバイエルン州大蔵省との共同作業である旨が述べられており、同方式が最初に運用されたのもバイエルン州であった19)。しかし、電子申告に対するバイエルン州の意気込みは、これに留まらず、ELSTER方式につながることになる。

  1998年1月10日、バイエルン州大蔵次官(当時)のAlfons Zeller氏は、社団法人バイエルン州給与税扶助(Die Lohnsteuerhilfe Bayern)代表者会議の席において「数年で、電子納税申告は日常に欠かせなくなる」旨を述べている20)。同氏は「数年前には、書類のやり取り(Briefverkehr)が、なおも不可欠な伝送手段として通用していたところで、今、文書およびその他の記録を電子的に送達することが通例になっている。こうした発展は、課税手続においても到来している」と述べた上で「統一的で、しかも税務署の特殊性に適合した記録送達を確保すべき、税務行政のソフトウェアモジュール」の存在に触れ、このソフトウェアモジュールがテストされ「電子的記録交換に参加することを望む全員の自由な使用に委ねられ」、「その間に、納税申告の送達を電子的形態のみにおいて可能にし、今日でも不可欠であるような、それ[電子的形態による送達]と並んで紙の書類形式における申告を必要としないという法律上の根拠が作られる」と述べる。

  もっとも、同氏は、自筆署名に代わるべき電子署名について「目下のところなおも存在していない証明の官署を必要とする」こと、および「納税申告の電子送達だけで事が済んだ訳ではない」ことを認めている。しかし、将来的には、少なくとも給与税について「電子的給与税票」が登場し、「労働者に、使用者は、彼が電子的な、またはもしかしたらなおも紙の書類による納税申告において持ち出す暗証番号を通知する。そうして、税務署は、暗証番号に基づき、使用者によって通知された記録を引き出すことができる」ようになり、「ゲマインデも、対応する暗証番号(Schluesselnummern)を与えるような状況に置かれなければならな」くなると述べている。

  また、同年4月20日には、バイエルン州大蔵大臣(当時)のErwin Huber氏が、アムベルクにて開催されたニュルンベルク上級財政管理局(Oberfinanzdirektion)所轄の税務署長会議において「未来は電子納税申告のものである」と表明している21)

  同氏は、1994年に開始されたDATEV方式に触れ、「1997年、12万件を越す納税申告が電子的に税務署に伝送された。これは、二つの中規模のバイエルン州税務署の場合に相応する」として「税務行政は、私的申請者を税務行政の申告ソフトウェアに統合することを必要とするモジュール22)を設置した。新たな手続の最初の試験(Erprobungen)は、既になされていることであろう。将来、各税理士および各市民は、パソコンおよびモデムを用いて、納税申告を電子的に行いうることとなろう」と述べる。また、Huber氏は「税務署の出先機関(Ausenstellen)は、それ自体として存続する」とした上で、電子申告が税務行政における人的費用の削減および処理の質の向上にも資することを示唆する。

  さらに、電子申告制度の導入との関連は必ずしも明らかでないのであるが、次のようなことも述べられている。

  「公役務の領域において、改革は、変化した事情への必要な反応であ」り、「そうして、職務法(公務員法)改革が始められ、職務能力段階命令(Leistungsstufenverordnung)が導入された。評価制度および昇進指針は改められることになる。あらゆる改革に際して、既存の構造を、公的手段が、責任を持つように、そして効率的に投入されるように形成することが問題である。ヨーロッパの共同発展は、単に、企業間のより先鋭な競争にのみならず、異なる行政システムの競合にも至る。国民経済のためのより良い所在地条件(Standortbedingungen)を巡る闘争において、枠的条件が最善化されなければならない。そのことを、整然とした経済生活のためには不可避な公法上の下部構造を〔国民からの〕信用を得るように用意することを任務とする公役務も、必要としている」。そして「公役務、その質、およびその業務の質は、全く本質的な所在地要素なのである」。

  また、Huber氏は「税務行政においてソフトウェアシステム『ウニファ』(UNIFA)が導入されるべきである」と述べる。同氏によれば「エーベルスベルクおよびバムベルクの税務署において、パイロット企画がウニファの利用とともに実施されている。既に1998年末までに、12のバイエルン州税務署において、査定領域における新たな手続が導入されている」とのことである23)

  しかし、税務行政の電子化は、従来からの税務行政に変更を加えることになるものと思われる。とくに、電子申告の場合、その方式の別を問わず、幾つかの問題が存在する。

  まず、導入の必要性そのものが問題となる。ドイツ以外に電子申告制度を導入している国々において、実際には、電子申告は還付申告のために使われることが多いようである。また、導入の契機の一つとして、ドイツにおいても税務行政の合理化・コスト削減があげられており24)、日本においてもその点が期待されているものと思われるが、完全な電子化を達成しうるか否かについて疑問が残るだけでなく、合理化・コスト削減がどの程度まで実現するかについても、楽観視をしえないのではなかろうか25)。また、電子申告の導入により、納税申告の伝送および処理がこれまでより迅速化するとも言われるが、この点についても問題が残る。ドイツ納税者同盟(Bund der Steuerzahler)は、後に扱うELSTER方式に関連して、納税申告の伝送および処理の迅速化などに対して疑問を投げかけ、「期待されている改善をすぐにもたらすか否かが、むしろ疑われざるをえない。そのため、納税申告情報を電子的方法により伝送するに際しても、紙の形式における(圧縮された)納税申告が、なおも必要なのである。さらに、証拠書類(Belege.とりわけ給与税票)が郵送により提出されなければならないので、簡素化の効果は控えめなものである」と述べる26)。AO第150条第4項によれば、納税申告には、法律により示される証拠書類(Unterlagen)が添付されなければならず、第三者は、このために必要な証明書(Bescheinungen)を発行する義務を負う。このため、電子申告をするとしても、税務行政庁の側はともあれ、納税義務者または税理士の負担はそれほど軽減されないということになるのではなかろうか。

  次に、納税義務者が伝送する納税情報の保護がなされなければならない。AOは、第30条に「租税の秘密」に関する規定を置いており、同第6項は電子情報処理のための規定となっている27)。また、ドイツにおいては、連邦情報保護法28)との関連が問題となろう。DATEV方式およびELSTER方式が、それぞれ、納税情報をいかに保護しようとしているのか、検討の必要がある。

  そして、電子申告が導入された場合における税務調査のあり方が問題となろう。ドイツにおいて、納税者および税理士の側から、電子申告の普及に伴う税務調査の強化が懸念されている29)。この点につき、ELSTER方式に関してではあるが、Roman G. Weber氏は、市民から伝送された申告の内容が誤っていた場合に、その内容自体が脱税調査官庁(Steuerfahndungsbehoerden)による捜査の端緒となりうることを指摘して「誤った伝送を手続(――税務調査や脱税捜査を指す。引用者注)の着手のための唯一の根拠にしないという要請」を求めている30)。電子申告を利用しようとする市民または税理士の側からすれば、当然の要請であろう。利用者全てがコンピュータに関する十分な知識あるいは技術を有し、法的な知識を有するとは限らないし、操作ミスなどの過失による誤った申告も、これまでの紙による申告以上に増えることも考えられるからである。ただ、上記の要請が税務調査や脱税捜査にあたっての基礎になると、意図的に誤った申告(すなわち、不正な申告)に対する税務行政側の対応はどのようになるのか、とくに、いかなる時点において税務調査や脱税捜査を開始すべきであるということになるのか、必ずしも明らかではない。

  電子帳簿との関連も重要な課題である。1976年の商法改正を受け、AOは、制定当初から第146条第5項に電子帳簿の法的根拠を置いている。これに従い、1978年に「正規のコンピュータ簿記の諸原則」(Grundsaetze ordnungsmaessiger Speicherbuchfuehrung)、1995年には「情報処理上保護された正規のコンピュータ簿記システムの諸原則」(Grundsatze ordnungsmaessiger DV-geschtuetzter Buchfuehrungssysteme)が制定されている31)。従って、ドイツにおいてはAOにより、電子帳簿および電子申告に関して一応の法的整備がなされていると言いうる。

  勿論、電子申告といえども、その様式はAO第150条第1項第1文にいう「官公署により規定された書式」に従う必要がある32)。また、同第2項が規定するように「納税申告における言明(Angaben)は、事実通りに、最善の知識および良心により、なされなければならない。このことは、書式用紙がこのことを予定している場合に、書面により保証されなければならない」ということになる。

  また、同第3項は「納税義務者が納税申告書に自筆で署名しなければならないと租税法律が命じている場合には、納税義務者が身体的なもしくは精神的な状態の故に、または長期の不在状態により署名をしえない場合にのみ、代理人による署名が許容される。自筆による署名は、それを妨げる理由が消滅した場合には、事後的に要求されうる」と定める。この署名が電子申告においてどのように扱われるかということも問題とされよう。

  Huber氏の発言からも明らかであるように、電子署名は未だ解決されていない問題である。ノルトライン・ヴェストファーレン州大蔵省も「コンピュータでの署名が法的に承認されるまで、完全に電子化された署名は、なおも未来の音楽である」と述べる33)。しかし、これに対し、Roman G. Weber氏は、電子署名を「ドイツの署名法(Signaturgesetz)により提供する若干の製品が市場に現れている」と指摘する34)。このことは、電子署名が技術的に可能であるのみならず、法的にも可能であることを示唆するものと思われる。

  なお、ドイツ納税者同盟は、直接的にはELSTER方式について「これまで所得税納税申告を紙の形式で申告してきたような納税者が、電子申告による場合よりも長い処理時間で『処罰される』というようなことになってはならない」と述べている35)

 

W    DATEV方式

 

  本稿において既に何度か登場しているDATEVは、Datenverarbeitungsorganisation des steuerberatenden Berufs in der Bundesrepublik Deutschland eGの略語である。

  DATEVは、1966年2月14日に税理士の自治的組織として設立された。現在は、税理士、公認会計士などから成る協同組合組織となっている。1971年に最初の情報センターを設立し、1974年に情報遠隔伝送システムの導入、1975年に租税法データバンクの解放、1976年には情報遠隔伝送網の設立を行っている36)。このように、設立当初から電子計算機に関わる業務を行っており、国内課税および国際課税、経済情報などの提供も行う(オンラインまたはCD-ROMによる)など、幅広い業務を行っている。ここでは、主題に即して、電子申告のみを扱うことにする37)

  既に記したように、DATEVは、バイエルン州を皮切りに1994年より電子申告を扱うようになった。最初は所得税の申告に限られていたが、1997年から営業税および売上税に関しても電子申告を扱うようになった。DATEVによれば、法人税に関しても電子申告を扱う予定であるとのことであり、既にプログラムを開発しているようであるが、実施されている州は(本年11月の時点において)まだ存在していない。

  DATEV方式は、電子申告の一方式ではあるが、専用回線を用いるシステムであり、電話回線によるインターネット網を用いていない38)。この点がELSTER方式と異なる。

  DATEV方式の概要は、次の通りである。まず、加入者(例、税理士)は、申告情報を、専用回線を通じてDATEVの電子計算機センターに伝送する。伝送された申告情報は、やはり専用回線を通じて上級財政管理局または税務署に伝送される。これに対し、上級財政管理局または税務署は、DATEVの専用回線を通じて電子計算機センターに租税決定情報を伝送する。この租税決定情報は、やはり専用回線を通じて加入者の端末機(パソコン)に伝送されることになる。加入者による申告は、DATEVが提供する申告用プログラムを利用することにより行われる。

  DATEV方式の長所としてあげられるのは、税務署における申告把握の失敗を回避しうること(従って納税義務者側からの異議件数も減らすことができる)、税務署側が租税決定記録を返送することによる合理化機能、および、税務署側の処理期間の短縮により租税の還付手続も迅速化することである39)。しかし、納税者および税理士側にとっての長所が他に存在するか否かは問題である。現に「基本的には今まで通り署名した申告書を提出しなければならない。電子申告で認められるのは付加価値税の仮申告と賃金税の申告だけであ」り、「税理士のメリットとしては、送り返されたデータを再入力する必要がない、せいぜいそれだけのことであ」って「税理士はそれによって余計に仕事が増え、税務署は仕事が減る」という意見がある40)。税理士側には、少なくとも現在の段階において、方式の如何を問わず電子申告を不要と考える意見、これまでよりも仕事の負担を重くするだけであるという意見が根強いようである41)

  個人情報の保護(セキュリティなど)についてであるが、DATEV方式はインターネット網を利用しないため、外部からの侵入の可能性はELSTER方式よりも低いものと考えられる。申告情報は、税理士事務所から申告情報を伝送する際に暗号化される(方式などの詳細は不明)。暗号化された情報を読み取る際には鍵番号を要する。この鍵番号は「申告書に記載されているもので、税務署も申告書を見なければデータを読めないようになっている」42)。しかし、このようにしても、税理士側の心理的抵抗は容易に拭い去れない。のみならず、この鍵番号の存在は、電子申告とはいえ、結局のところ紙による申告を併用せざるをえないということを意味し、証拠書類を郵送しなければならないこととあいまって、電子申告を導入する意義を減殺しているのではないかと思われる。

  なお、税務当局は、将来、DATEV方式とELSTER方式とを統一するという意向を有する。これについて「DATEVと税務行政との間における、電子的納税申告の記録交換という領域的試み(Feldversuch)は、税務行政によって開発されたELSTERのモジュールがDATEVによって試行された方式の機能に到達した後、18ヶ月で、最も早ければ2001年12月31日で終了する」という申し合わせが、DATEVと税務当局との間においてなされている43)。このことは、機能面においてELSTER方式がDATEV方式に追いつくならば44)、DATEV方式はその役目を終える、ということを意味する。

  ここで、DATEV方式による電子申告の実績などを概観しておく。

  所得税の電子申告:毎年約300万件にのぼっており、バイエルン、ヘッセン(一部)、ノルトライン・ヴェストファーレン、ラインラント・プファルツ、ザクセン、ザクセン・アンハルト、シュレースヴィヒ・ホルシュタインおよびテューリンゲンの各州において行われている。ヘッセン以外の州においては所得税課税の租税決定も電子的に伝送される。

  売上税の電子申告:バイエルン、ヘッセン(一部)、ラインラント・プファルツ、ザクセン、ザクセン・アンハルト、シュレースヴィヒ・ホルシュタインおよびテューリンゲンの各州において行われている。やはりヘッセン以外の州においては売上税課税の租税決定も電子的に伝送される。

  営業税の電子申告:バイエルン、ヘッセン(一部)、ノルトライン・ヴェストファーレン、ラインラント・プファルツ、ザクセン、ザクセン・アンハルト、シュレースヴィヒ・ホルシュタインおよびテューリンゲンの各州において行われている。ヘッセンおよびラインラント・プファルツ以外の州においては営業税課税の租税決定も電子的に伝送される。

  法人税の電子申告:まだ実際に利用されていない。

  なお、DATEVは、相続税および贈与税の申告のためのソフトも開発している。しかし、このソフトが電子申告に生かされるか否かは不明である。

 

X    ELSTER方式

 

  DATEVと同様に、本稿において既に何度か登場しているELSTERは、ドイツ語のelektronische Steuererklaerung(電子的納税申告の意)から作られた略語である。

  ELSTER方式は、連邦大蔵省の関与の下、同省の言葉を借りるならば諸州の税務行政当局により開発された、連邦全体に向けた統一的な方式である(但し、実際には、ミュンヘン上級財政管理局のソフトウェア開発部門であるミュンヘン電子情報処理局(EDV-Stelle Muenchen)が開発したようである45))。具体的には、納税申告(所得税、売上税、営業税など)および事前申告(Voranmeldung. 売上税法第18条第1項・第2項、所得税法第41a条第1項第1号を参照)のためのソフトウェア、およびDATEV方式と異なる情報伝送方式を指す。

  この方式のソフトウェアは、納税申告の表示および電子伝送を可能とするものであり、ソフトウェア提供者に無料で配布される(納税者が直接入手することはできない)46)。また、ELSTER方式のソフトウェア(プログラム)が市販されている47)

  このソフトウェア(テレモジュールとも言われる)の機能などについて、連邦大蔵省は次のように説明している。

  「テレモジュールは、これまでよりも多くの機能を有する(――DATEV方式よりも、ということか。引用者注)。第一に、テレモジュールは、既に納税者または税理士により行われた蓋然性審査(Plausibilitaetsprufung)の後に、暗号化された申告情報の具体的な伝送を引き受け、受理された決定情報の暗号を解除する。第二に、テレモジュールにより、移行段階の間――紙による申告が署名とともになおも必要とされる限り――いわゆる「圧縮された納税申告」(komprimierte Steuererklaerung)が表現される。その際、AO第150条第1項にいう官署により定められた書式用紙の新たな形態が重要である。その内容は、本質的に、その時々の場面における課税根拠のための申告に制約され、そのことによりこれまでよりも紙を必要としない。その上、この方法で、電子的に伝送された情報と納税義務者により署名された紙の申告が一致しているということが保障される」

  さらに、ドイツ納税者同盟によれば「『圧縮された納税申告』の内容は、本質的に、その時々の場面における課税根拠のための申告に制約される。租税の秘密を保護するために、申告情報は、暗号化され、連邦構成諸州の計算センターに転送される」。

  このELSTER方式の開発に、とくに積極的であったのはバイエルン州であった。前述の通り、ミュンヘン電子情報処理局が開発の主体となっているし、バイエルン州大蔵省も「パソコンで納税申告」(Steuererklaerung mit dem PC)という記事をホームページで公開し、ELSTER方式の宣伝に努めている48)。また、先に紹介したHuber氏の発言も、このELSTER方式を念頭に置いている。

  それでは、何故、既にDATEV方式が存在するドイツにおいて、ELSTER方式が開発され、運用され始めたのであろうか。

  その理由として、まず、EUに象徴されるヨーロッパ統合への動向、さらに経済の国際化および規制緩和との関連があるものと思われる。残念ながら、私は、この点について明言する資料を見出せなかった。しかし、敢えて推測するならば、税務行政には、段階的に進むヨーロッパ統合、さらに経済の国際化により、経済(取引活動など)のボーダーレス化が進行すれば、DATEV方式のような「会員限定」システムでは対応できない、という思惑があるのではなかろうか。インターネット網を活用した電子納税申告システムが開発された理由の一つはここにあるものと思われる。

  次に、納税義務者の全てが納税申告に際して税理士に依頼する訳ではない、という事情がある。DATEVもこの点を認めている。当初、税務行政は、DATEV方式による電子申告のプログラムを自ら利用し、他のソフトウェア提供者にも利用させ、電子申告を利用する者の範囲を拡大することを考えていたようである。しかし、DATEVの規約によれば、業務活動はDATEVの会員のみに許される。「税務行政には、納税申告の比較的多くの部分が、税理士の助言を受けない納税申告者に由来することが明らかであった。従って、税務行政はこの領域において効果的に合理化の作用に到達することを志向するのであれば、税務行政は、あらゆる納税義務者によって利用可能であり、税理士だけが利用しうるのではない方式を提供しなければならなかった」49)

  既に述べたように、ELSTER方式はインターネット網およびダイアル・イン・サーバーによるものである。DATEV方式がDATEV加入者以外に利用されないのに対し、ELSTER方式はインターネット網をも利用することから、パソコンを所持し、インターネット網を利用しうる者であれば、あとはソフトウェアをパソコンに組み込むだけでよいということになる。連邦大蔵省によれば、ELSTER方式は「納税申告の提出および処理を、現代的な通信手段の投入により、市民にこれまでよりやさしく、しかも行政にとってこれまでより費用のかからないものに形作ろうという目的を追求した」ものであるから50)、インターネット網の利用は当然の帰結であろう。

  税理士の場合は、ダイアル・イン・サーバーまたはインターネット網を利用し、納税申告および事前申告をパソコンで行い、伝送する。伝送された申告情報は、ダイアル・イン・サーバーの場合にはテレボックスを経由し、インターネット網の場合にはウェブ・サーバーを経由して、税務行政の電子計算機センターに送られる。家庭において申告をする納税義務者はインターネット網のみを利用することになるが、その他の点については税理士の場合と同じである。税務行政からの租税決定は、テレボックスもしくはウェブ・サーバーを経由して税理士に送られ、またはウェブ・サーバーを経由して上記の納税義務者に送られることとなっている(但し、これはまだ実現していない)。

  一般的に、インターネット網を利用する場合、個人情報の保護(セキュリティなど)が問題となる。ELSTER方式の場合には、納税申告の情報は連邦構成諸州の電子計算機センターに移送される。その際、情報は、3-DES型(鍵の長さは112Bit)およびRSA型(鍵の長さは1024 Bit)を利用した「ハイブリッドな暗号化」を施される51)。情報は、少なくとも15年間保管されなければならない52)。しかし、暗号化によってセキュリティなどの程度を高めるとしても、DATEV方式のように専用回線のみを用いる訳ではないから、納税申告記録の伝送先を誤るということも起こりうるし、何よりも第三者による納税申告記録の「横取り」(Abfangen)が生じうる。DATEV側はこうした点を問題視して、DATEV方式の優越性の一つを主張する53)

  また、昨年の段階において、ELSTER方式による電子申告の際、給与税票などの証拠書類がどのように扱われるのかという点について、ELSTER方式を推進する側の説明は歯切れが悪かった。証拠書類を電子的に伝送するということも断念されてはいないが、証拠書類は郵送により提出されなければならなかった。本年に入ってから、ELSTER方式による電子申告の際、売上税の事前申告および給与税については、紙による申告などが不要である54)。しかし、所得税の申告については「圧縮された納税申告」の書式が印刷された用紙が必要である。

  ELSTER方式は、昨年1月1日より試験段階としての運用を開始した。当初(昨年は1998年度の所得に関する査定年である)は所得税法第25条および同法施行令第56条に基づく所得税申告のみについて運用された。

  そして、本年1月15日から、ELSTER方式は、次の各州において運用されている。

  所得税:全州(ちなみに、本年は昨年度の所得に関する査定年である)。

  売上税の事前申告55):バイエルン、ノルトライン・ヴェストファーレン、ラインラント・プファルツ、ザクセン・アンハルト、テューリンゲン、ザクセン、ブランデンブルク、ヘッセンおよびザールラントの各州。

  給与税の申告:売上税の事前申告と同じ。

  自動車登録記録(Kfz-Zulassungdaten)の送達:バイエルン州およびザクセン・アンハルト州。

  租税決定(所得税決定)の電子的送達:当初、若干の州において、早ければ本年4月から運用されるとのことであったが、現段階において運用されている州は存在しない。

  ここで、昨年1月1日からの運用の状況を概観しておく。当初から運用されているのは、バイエルン、ラインラント・プファルツ、ザールラント、ザクセン、ザクセン・アンハルト、テューリンゲンの各州である(全税務署)。その後、ブランデンブルク州(2月2日より。全税務署)、メクレンブルク・フォーアポメルン州(2月2日より。当初は一部の税務署においてのみであったが、7月1日より全税務署)、バーデン・ヴュルテムベルク州(6月7日より。当初は一部の税務署においてのみであったが、11月29日より全税務署)、ノルトライン・ヴェストファーレン州(6月15日より。全税務署)、ニーダーザクセン州(7月1日より。当初はヒルデスハイム税務署のみであったが、本年1月15日より全州)、ヘッセン州(9月20日より。当初は一部の税務署のみであったが、本年1月15日より全州)、シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州(12月1日より。全税務署)、ベルリン州(12月1日より。全税務署)、ハンブルク州(12月1日より。全税務署)において運用されている。ブレーメン州については「1999年後半の経過において、全税務署とともに」運用が開始されるとのことであったが56)、本年になってから運用が開始された。

  このようにみると、南ドイツおよびベルリン州を除く旧ドイツ民主共和国領の州における導入が早いのに対し、旧来からの連邦構成諸州、とくに北部の州における導入が遅れたという結果になる。また、DATEV方式が運用されている州のうち、シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州において、ELSTER方式の運用開始が遅れた。連邦大蔵省の説明によれば「とくに情報保護法上の、および技術上の理由から、連邦全体において、従って全ての州において、しかも全ての税務署において行われているのではない」とのことであるが、詳細は説明されていない。また、ケルン税理士会副会長氏(1998年当時)は、DATEV方式についてではあるが「導入の遅れは、税務署側の問題で、州のコンピュータと適合させなければならず、」ELSTER「方式の動向を見ているところでは導入が遅れている」と述べているが57)、これも、ELSTER方式の導入過程をみる限り、不正確である。

 

Y    電子申告制度の課題

 

  これまで、ドイツの電子申告制度を概観した。いかなる方式であれ、電子申告制度には、さらに多くの課題があるものと考えられるが、ここで若干の点について述べておきたい。

  第一に、税理士業務への影響である。この点についても、資料の関係上、不明な点が多いが、推測などを交えつつ、以下、若干の考察をしておく。

  DATEV方式の場合、DATEV自体が、前述のように税理士などからなる業界団体的性質を有しており、加入者でなければこの方式を利用できないことになるので、税理士業の存在そのものを脅かすものではないと思われる58)。しかし、この方式は、電子申告とはいえ、完全にペーパーレス化を果たすシステムではない。むしろ、紙による申告との並存を前提としている。そのため、税務行政の側はともあれ、税理士側の業務ないし負担は増える可能性もあり、現にそのように指摘されている。

  次に、ELSTER方式の場合、構造上、納税義務者自身が(税理士に依頼することなく)納税申告をなしうるために、税理士業の存在に多少とも影響を及ぼしかねないものであろう。パソコンに親しんでいる市民であれば、ソフトウェア販売会社を通じて提供されるELSTER方式のソフトウェアを利用して納税申告を容易になしうる。そうであれば、とくに申告額が多くない者の場合、わざわざ税理士に依頼する必要などない。

  しかし、ELSTER方式は、現在、所得税、売上税および給与税の申告についてのみ利用されているにすぎない。そして、今後も営業税などについて運用が予定されているが、導入される範囲はそれほど大きなものではないであろう(前述のように、DATEVは相続税および贈与税向けのソフトウェアを開発しているが、ELSTER方式については不明である)。また、署名、情報保護(セキュリティなど)の問題が残されている。しかも、電子申告が普及するとしても、そのためのソフトウェアが普及し、発展するとしても、申告の際に生じる法律上の疑義などをソフトウェアが完全に解消してくれることにはならないであろう。その意味において、電子申告の導入は、納税義務者の選択の幅を拡大することにはなるが、税理士業の存在そのものを脅かすものではないと思われる。

  第二に、行政法理論において、電子申告制度をどのように捉えるかという課題が残る。

  ドイツの行政法学および租税法学においても、電子申告制度に必ずしも高い関心が寄せられている訳ではなく、電子申告制度の法的問題点を検討するという段階に至っていない。とくにELSTER方式については、本格的な運用が始まったばかりである。私自身、行政法総論の観点から検討するための材料を十分に持ち合わせていない。そのため、これからの運用状況に注目し続け、機会を改めて論ずることとしたい。

 

  (1)  既に、拙稿「ドイツの電子申告制度」日本税務研究センター『「電子申告制度について」に関する報告書』(19991224日、日本税理士会連合会に提出)46頁において述べたことである。なお、前記拙稿の執筆時点においてであるが、資料収集に際して、谷口勢津夫先生(甲南大学法学部教授)から御教示を受けた。古橋真智子氏(日本税務研究センター研究課長)にはドイツ連邦税理士会への資料照会に際してご尽力をいただいた。また、関本千佳代氏(当時、日本税務研究センター専従研究員)および土田伸也氏(中央大学大学院法学研究科博士後期課程、当時、ドイツ・ヴュルツブルク大学法学部に留学中)の御協力を得た。遅ればせながら、改めて御礼を申し上げる次第である。

  (2)  日本税理士会連合会情報システム委員会「電子申告制度の研究について(中間答申)」(平成11年5月11日)1頁も参照。

  (3)  これは「行政法における私人の行為の代理」の一種として考えることができる。新井隆一『行政法における私人の行為の理論』〔第二版〕(1980年、成文堂)73頁を参照。

  (4)  日本の行政手続法に、受理に関する規定はない。しかし、受理が法制度上の意味を失ったかと言えば、そうではないはずである。「座談会『早稲田法学の峰々』(4)―新井隆一先生を囲んで―」早稲田法学74巻4号(1999年)806頁も参照されたい。

  (5)  ドイツ行政法学の教科書において電子的情報処理に関する項目を掲げるものの例として、Hans J. Wolff / Otto Bachof / Rolf Stober, Verwaltungsrecht, Band 1, 11. Auflage, 1999, §3 Rn. 23ff.がある。

  (6)  ドイツ・テレコム社のX-400

  (7)  なお、現在判明している限りのことであるが、ヨーロッパ大陸、とくにEU加盟国において電子申告制度が導入されているのは、フランス、ドイツおよびオランダである。フランスにおいては、1991年から電子申告制度が実施されている(速報税理1999年7月11日付10頁を参照)。また、オランダについては、東京税理士会ドイツ・フランス視察団編・前掲書54頁を参照。フランスおよびオランダの電子申告制度について触れる日本語文献は、前記のものしか参照しえなかった。いずれも、その存在が指摘される程度であり、詳しい内容は紹介されていない。

  (8)  管見の限りであるが、ドイツの電子申告制度を紹介する数少ない日本語文献として、前掲拙稿の他、首藤重幸「申請の電子化のなかにおける租税電子申告」日本税務研究センター前掲報告書28頁、税理士界19991115日付8面に掲載された記事「報告:ドイツにおける電子申告の現状」、および東京税理士会ドイツ・フランス視察団編『1998 ドイツ・フランス視察報告書―EU市場統合における職業専門家の現状―』(1999年、東京税理士会)51頁がある。

  (9)  Wolfgang Jakob, Abgabenordnung, 2. Auflage, 1996, §7 Rn. 3.

  10  Steueranmeldung(en)を直訳すると「納税申告」となるが、Steuererklarungenと区別がつかなくなる。適訳を見出せなかったので、ここでは原語のままとする。

  (11)  所得税法施行令(EStDV)第56条も参照。

  (12)  Vgl. etwa "Pass der Festplatte", Der Spiegel, 16 Marz 1998, S. 214.

  (13  Siehe dazu "Kanzlei und Technik, Elektronische Steuererklaerung, Gegen die Papierflut", DATEV-Magazin 2-99, S. 28. 本稿にて引用または参照したDATEV-Magazin誌掲載の記事は、ドイツ連邦税理士会の執行委員(Geschaftsfuehrer)であった試補Gerhard Gaudig氏より、前掲拙稿の執筆段階において、コピーをお送りいただいたものである。同氏の御好意に対し、感謝を申し上げる次第である。

  (14  Automation in der Steuerverwaltung : Steuerdaten-Abruf-Verwaltungsregelung, 24. September 1998, BStBl. 1998, Teil T, Nr. 20, S. 1205.

  (15)  Verordnung uber die Abgabe von Steueranmeldungen auf maschinell verwertbaren Datentraegern und ueber Datenfernuebertragung (Steueranmeldung- Datenuebermittlungsverordnung - StADUV) von 21. Oktober 1998, BStBl. 1998, Teil T, Nr. 21, S. 1292. これは、BGBl. 1998, Teil T, S. 3197にも掲載されている。

  (16  Automation in der Steuerverwaltung : Steueranmeldung-Datenuebermittlungs-Verordnung ? StADUV ? von 21. Oktober 1998, BStBl. 1998, Teil T, Nr. 21, S. 1295.これは、前注に掲げたものを施行するための命令である。

  (17  Bundesministerium fuer Finanzen, ELektronische STeuerERklarung (ELSTER) ? Steuererklaerung via Internet, aus: http://www.bundesfinanzministerium.de/fachveroeff/AbtIV/elster.html. 同ページにおいて、ELSTER方式の法的条件は「納税申告書式用紙を利用するための諸原則」および「納税申告情報を電子的に伝送するための諸原則」に関する、連邦大蔵省の手による二つの文献に要約され、連邦租税官報(Bundessteuerblatt)において公表されている」と記されている。

  (18)  「機械的に利用しうるデータ記憶媒体によるSteueranmeldungenの伝送に関する命令(Steueranmeldungの情報伝送に関する命令)」第1条第1項は、売上税法第18条に基づくSteueranmeldungen、所得税法第41条に基づくSteueranmeldungenについて電子申告をなしうる旨を規定する。

  (19)  "Kanzlei und Technik", a. a. O., S. 28. なお、DATEV方式が最初にバイエルン州において運用されたことは、税理士界前掲記事においても述べられている。

  (20  Bayerisches Staatsministerium der Finanzen, Pressemitteilung 008/98 vom 10. 01. 1998, "Zeller: In wenigen Jahren gehoert die elektronische Steuererklaerung zum Alltag", in: http://www.bayern.de/SMTF/seiten/presse/mitteil/archiv/008-98/hmtl. (現在、参照不能)

  (21)  Bayerisches Staatsministerium der Finanzen, Pressemitteilung 153/98 vom 20. 04. 1998, "Huber in Amberg: Der elektronischen Steuererklarung gehoert die Zunkunft", in: http://www.bayern.de/SMTF/seiten/presse/mitteil/archiv/153-98/hmtl. (現在、参照不能)

  (22)  原文および訳文からは必ずしも明らかではないが、ELSTER方式を指す。

  (23)  ウニファについては、資料を見出せなかった。

  (24  Vgl. etwa Ernst Georg Schutter, Steuervereinfachung aus der Sicht der Finanzverwaltung, in: Manfred Rose (Hg.), Steuern einfacher machen!, 1999, S. 55ff. また、ELSTER方式が導入された理由の一つが税務行政の合理化・迅速化などにあることは、連邦大蔵省、バイエルン州電子情報処理局などが明らかにしている。

  (25  Roman G. Weber, ELSTERDie neue Steuererklaerung, NJW 1999, S. 2419.

  (26)  Bund der Steuerzahler, Steuererklaerung per Internet, in: http://www.steuerzahler.de/artikel.cfm?id=725. Vgl. http://62.157.211.67/Steuerzahler/Anwender-Fragen/Allgemeine_Fragen/allgeime_fragen.html; http://www.fm.nrw.de/aktuelles/pressmitteilingen/elster.html; http://www.brandenburg.de/land/mdf/st/elster.html; http://www.hessen.de/presse/HMDF/elster.html. 圧縮された納税申告は、簡易化された納税申告とも言われる。

  (27)  Siehe naeher Reinhart Ruskin, in: Franz Klein / Gerd Orlopp, Abgabenordnung, 6. Auflage, 1998, §30 Anm. 8.

  (28  Gesetz zur Fortentwicklung der Datenverarbeitung und des Datenschutzes von 20. Dezember 1990 (Bundesdatenschutzgesetz), BGBl. 1990, Teil T, S. 2954.

  (29  東京税理士会ドイツ・フランス視察団編・前掲書53頁。

  (30  Weber, a. a. O., S. 2418.

  (31  松沢智『コンピュータ会計法概論』(1998年、中央経済社)267頁を参照。Siehe Bernhard Brockmeyer, in: Klein / Orlopp, a. a. O., §146 Anm. 6.; Rolf Ax / Thomas Grosse / Juergen Melchior, Abgabenordnung und Finanzgerichtsordnung, 16. Auflage, 1999, Rn. 531.

  (32  ちなみに、AO第150条第5項は「納税申告の書式用紙に、課税証拠書類の補充に向けて統計の目的のために租税統計に関する法律に従って必要とされる問題が書き入れられうる。税務署は、さらに、納税義務者に、連邦教育助成法を施行するために必要とされる情報を要求しうる。税務署は、言明(申告)の審査に際して、課税にとって重要な状況の解明に際してと同じ権限を有する」と定めている。

  (33)  http://www.fm.nrw.de/aktuelles/pressmitteilingen/elster.html.同様の指摘は、ブランデンブルク州大蔵省(http://www.brandenburg.de/land/mdf/st/elster.html)においてもなされる。

  (34)  Vgl. Weber, a. a. O., S. 2147, 2149.

  (35  http://62.157.211.67/Steuerzahler/Anwender-Fragen/Allgemeine_Fragen/allgemeine_fragen.htmlにおいて、電子申告の処理にも「平等取扱いの原則」が妥当すること、従って、電子申告が紙による申告よりも有利に扱われ、あるいは逆に不利に扱われてはならないことが明言されている。

  (36  また、1982年9月8日には、日本のTKCと提携契約を結んでいる。

  (37  なお、DATEVの活動やDATEV方式などを扱うドイツ語の文献として、Michael Butz (Referent), Stand und Entwicklungstendenzen der EDV-Instrumente zur betriebswirtschaftlichen Beratung, in: Bundessteuerberaterkammer (Hg.), Steuerberaterkongressreport 1989, S. 209ff.; Michael Leistenschneider / Karl-Adolf Howel, Nuernberg, Elektronischer Rechtsverkehr, in: Steuerberaterkongressreport 1997, S. 321ff.がある(私が収集しえたもの)。

  (38  "EDU-ELSTER: Ein Vergleich aus berufsstandischer Sicht, Warum EDU? ", DATEV- Magazin 2-99, S. 31によれば、DATEVの電子計算機センターと税務行政官庁との連絡回線にはISDNを使っている。

  (39  この他、DATEV自身があげる長所として「Mantelbogenfunktionalitaetの模造」が税務行政の側から断念されることがある。

  (40  1998年のケルン税理士会副会長氏(Ernst-Dieter Grafe氏であると思われる)の発言による。東京税理士会ドイツ・フランス視察団編・前掲書52頁を参照。

  (41  http://www.datev.de/page/ger/1460/index.aspStrasse der Meinungen1998 DATEV会議参加者の発言が掲載されている。その中には「私の依頼人は私を必要としているのであって、私のパソコンを必要としているのではない」という意見(デュッセルドルフの税理士Helfried Behr氏の発言)もある。

  (42  1998年のケルン税理士会副会長氏の発言による。東京税理士会ドイツ・フランス視察団編・前掲書52頁を参照。

  (43  "Kanzlei und Technik", a. a. O., S. 30. So auch http://www.datev.de/page/ger/1050/index/asp.

  (44  Vgl. http://www.datev.de/page/ger/index/1050/index.asp.

  (45  ELSTERのホームページは、ミュンヘン電子情報処理局により運用されており(Vgl. http://62.157.211.67/Das_Projekt/Kontakt/kontakt.html)、http://62.157.211.67/ Das_Projekt/OneStopGovernment/hauptteil_onestopgovernment.htmlにおいて、ELSTER方式はミュンヘン電子情報処理局により開発されたことが明言される。

  (46  http://62.157.211.67/Steuerzahler/Anwender-Fragen/Allgemeine_Fragen/Allgemeine_Fragen/allgemeine_fragen.html. また、今年1月まで、http://62.157.211.67/ hersteller/public/Ueberlassungsvertrag.html において、ELSTER方式のソフトウェア配布契約(Ueberlassungsvertrag. 文言による限り、使用許諾契約とは若干異なる)の雛型が公開されていた。

  (47  Siehe http://62.157.211.67/Steuerzahler/Produkte/produkte.html. なお、http://62.157.211.67/Steuerzahler/Anwender-Fragen/Technik_Fragen/technik_fragen.htmlによれば、現在のところ、ELSTER方式は、Windows 95Windows 98Windows 2000およびWindows NT 4で動作するが、LINUXでは動作しない(但し、将来的にはLINUXでの動作も可能となるようである。Weber, a. a. O., S. 2418, Fn. 7も「LINUXへの拡張も可能であると思われる」と述べる。

  (48  http://www.bayern.de/STMF/seiten/blickp/steuerpc.html.

  (49  "Kanzlei und Technik", a. a. O., S. 29. また、1998年のケルン税理士会副会長氏は、ELSTER方式の導入は「DATEV方式が浸透しなかった」ことが原因であると発言している(東京税理士会ドイツ・フランス視察団編・前掲書54頁)。

  (50  Bundesministerium fuer Finanzen, a. a. O.

  (51  3-DESData Encryption Standard)型もRSA(開発者のR. L. Rivest, A. Shamir, L. Adlemanに由来)型も、ともに暗号方式(処理手続)の一方式である。(3-)DES方式の安全性は現在もなお高いと言われる。また、RSA方式は公開鍵暗号方式の一種であり、暗号化が容易で解読が難しいとされる(素因数分解を用いるため)が、高速処理には向かない。なお、このことを含め、コンピュータ関係の用語などについて、大岩幸太郎先生(大分大学教育福祉科学部教授)および佐伯和利先生(大分大学教育福祉科学部講師)の御教示を受けた。ここに記し、御礼を申し上げる。

  (52  http://www. bayern.de/STMF/seiten/blickp/steuerpc.html.

  (53  "EDU- ELSTER", a. a. O., S. 31.

  (54  証拠書類については触れられていないが、一切の用紙を税務署に送る必要がないとされている。

  (55  ELSTER方式の運用が開始された当時、DATEVは、ELSTER方式が所得税の納税申告のみを扱うことをあげ、この点をDATEV方式の優越性の一つとしていた(Siehe naher "EDU-ELSTER", a. a. O., S. 32; Ursula Weigend, ELSTER und EDU im Vergleich, Quo Vadis DATEV ?, in: Sonderdruck aus "Service Punkt Nr. 41 Marz/ April 1999", S. 2)。

  (56  http://62.157.21.67/anwender/beteiligteLaender.html.(現在、参照不能)

  (57  東京税理士会ドイツ・フランス視察団編・前掲書52頁。

  (58  税理士界前掲記事も参照。

 

付記:本稿を発表するにあたり、首藤重幸先生(早稲田大学教授)の御紹介をいただきました。末筆ながら、ここに記し、御礼を申し上げます。

 

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