23    事業税

 

 

 事業税も地方税であり、都道府県の普通税である。住民税と同様に負担分任思想に基づくものであるが、住民税と別にされているのは、事業が、地方公共団体が提供する各種行政サービスによる利益を受けていること、各種行政サービスの原因を作っていることによる。そのため、事業税は物税と位置づけられており、収益税と位置づけられてもいる。

 事業税も、基本的には所得課税である。しかし、シャウプ勧告は、所得ではなく、企業の付加価値を課税標準にすることを提言しており、実際に「附加価値税」として制度化されたが、実施されずに廃止された。その後も、所得以外のもの、たとえば資本金額、売上金額などを課税標準とする租税の導入を求める意見が強く、平成15年度改正において、資本金が1億円を超える企業についてのみ、外形標準課税が導入されている

 ※事業税の前身である営業税は、1878(明治11)年に導入され、売上金額や従業員数などを課税標準としていた。外形標準課税を採用していた訳であるが、租税負担の公平の観点からは問題があったため、1926(大正15)年に、所得を課税標準とする営業収益税が設けられた。また、事業税、特別所得税も導入されている。いずれも所得を課税標準とするが、対象とする事業が異なっている。

 ※※「附加価値税」は、所得ではなく、事業の売上金額など、事業から生じた収入金額から、事業のために支払った仕入金額などの支出を控除して得られたものを課税標準としていた。

 ※※※但し、後に述べるように、一部の業種については既に外形標準課税が導入されていた。

 ここで外形標準課税という用語の意味について説明をしておく。これは、納税の能力や収益高を外部から推測させる数値を標準として課税することである。たとえば、資本金額、売上金額、家屋などの床面積または価格、土地の地積または価格、従業員数が課税標準とされる

 ※市町村目的税の一種である事業所税(第701条の30により、課税団体が限定されている)は、外形標準課税を採用する代表例である。第701条の40第1項は、事業所税の課税標準として資産割については「課税標準の算定期間の末日現在における事業所床面積」(但し、同第2項も参照)、従業者割については「課税標準の算定期間中に支払われた従業者給与総額」と定める。事業所税については、碓井光明『要説地方税のしくみと法』(2001年、学陽書房)碓井・前掲書148頁、拙稿「地方目的税の法的課題」『地方税の法的課題(日税研論集46)』(2001年、日本税務研究センター)293頁も参照。

 事業税は、個人事業税と法人事業税とに分類される。以下、概説を試みる。

 1.個人事業税の納税義務者

 個人事業税の納税義務者は、事業を営む個人である(地方税法第72条の2第3項)。その事業は3種類に分けられており、第一種事業は、物品販売業、保険業、金銭貸付業、物品貸付業、不動産貸付業、製造業、土石採取業など、商工業や営業と言われるものが幅広く含められている(同第8項)。第二種事業は、畜産業、水産業などの事業である(同第9項)。第三種事業は、医業、歯科医業、弁護士業、税理士業、公認会計士業、デザイン業など、一般に自由業と称される事業である(同第10項)。これらは限定列挙である。そのため、新たな業種には対応できない。

 また、個人事業税の場合、課税標準は所得税と結びつくが、課税対象事業は結びつかない。たとえば、作家、画家、歌手、俳優などは事業所得を生じるのであるが、個人事業税は課されない。

 なお、林業および鉱物採掘業は第72条の4第2項によって、農業組合法人で農地法第2条第7項各号に掲げる要件の全てを満たしているものが行う農業は地方税法第72条の4第3項によって、課税対象から除外されている。

 72条の2第3項には「事務所又は事業所」という文言がある。これらは、自己の所有に属するか否かを問わず、事業の必要から設けられた人的・物的施設であり、そこで継続して事業が行われるという場所をいう。登記上の本店であっても、そこで継続して事業が行われなければ事務所または事業所とは言えない。また、一時的な事業のために設けられるもの(現場事務所、材料置き場など)は該当しない。なお、事務所も事業所も置かずに事業を行っている者については、住所または居所のうちで事業と最も関係の深いものを事務所または事業所とみなすことにより、個人事業税が課される(第72条の2第7項)。

 ※2以上の都道府県に事務所や事業所が存在する場合には、主たる事務所または事業所が所在する都道府県の知事が課税標準の総額を決定する。そして、非製造業については2分の1を事務所数に応じ、残りの2分の1を従業者数に応じて、各都道府県に按分する。製造業については従業者数に応じて、各都道府県に按分する。以上につき、地方税法第72条の54を参照。

 

 2.個人事業税の課税標準など

 地方税法第72条の2第3項から明らかであるように、個人事業税の課税標準は所得であるが、この所得は前年中の所得である(第72条の49の7第1項)。金額は、原則として、前年中の総収入金額から必要経費を控除し、不動産所得および事業所得の計算の例によって算定する(第72条の49の8第1項本文。なお、同項ただし書きの他、第2項以下も参照)。また、所得の計算の際には事業主控除として、原則として290万円が控除され(第72条の4910第1項)、事業専従者控除もなされる(第72条の49の8第3項)。

 なお、特例として、第72条の4911は「事業の情況に応じ」て「売上金額、家屋の床面積若しくは価格、土地の地積若しくは価格、従業員数等を課税標準とし、又は所得とこれらの課税標準とを併せ用いること」を認めているが、実際にこのような外形標準課税を採用するには条例によって定めなければならない。

 

 3.個人住民税の税率

 地方税法第72条の4913は標準税率としているので、標準税率をみておく。

 第一種事業の標準税率は所得の5%(同第1項第1号)、第二種事業の標準税率は所得の4%(同第2号)、第三種の事業標準税率は所得の5%(同第3号)である。但し、助産士業、あんま、マッサージまたは指圧、はり、きゅう、柔道整復などの医業、装蹄師業は3%である(同第4号)。なお、同第3項により、標準税率の1.1倍が制限税率とされている。

 個人事業税は普通徴収の方法によることとされており(第72条の4914)、所得税の確定申告書提出者および都道府県民税の申告をしている者を除き、課税標準申告書を提出しなければならない(第72条の55第1項。第72条の50第1項も参照)。

 

 4.法人事業税の納税義務者

 法人事業税の納税義務者は、事業を営む法人である(地方税法第72条の2第1項)。この中には、人格のない社団または財団で代表者または管理人の定めがあり、収益事業を行うものも含まれる(同第4項)。裏を返せば、人格のない社団または財団の所得でも、収益事業に係るもの以外には事業税を課すことができない(第72条の5第2項。同第3項も参照)。

 他の地方公共団体、独立行政法人、地方独立行政法人、国立大学法人、特殊法人など、公共法人はそもそも免除されており(第72条の4第1項。なお、第72条の5第1項第1号も参照)、公益法人も、収益事業による所得または収入金額がない限り、非課税である(第72条の5第1項)。

 個人事業税の場合と異なり、事業は類型的に分類されていないが、第72条の2第1項は、法人を次のように分け、それぞれについて納税義務の範囲を定める。

 電気供給業、ガス供給業および保険業(生命保険業および損害保険業):収入割(同第2号)

  第72条の4第1項各号の法人(公共法人)、第72条の5第1項各号の法人(公益法人)、第72条の24の7第5項各号の法人(特別法人)、投資法人(投資信託及び投資法人に関する法律に規定される)、特定目的会社(資産の流動化に関する法律に規定される)、一般社団法人(法人税法第2条第9号の2に規定される非営利型法人を除く)および一般財団法人(非営利型法人を除く)、ならびに、これらの法人以外の法人で資本金の額若しくは出資金の額が一億円以下のもの又は資本若しくは出資を有しないもの:所得割(第72条の2第1項第1号ロ)

 上記以外の法人(基本的には資本金の額または出資金の額が1億円を超える営利法人である、ということになる):付加価値割、資本割および所得割の合算額(同イ)

 なお、同第72条の2第1項第1号イに該当する法人でないもの(同ロに該当する法人)については、「事業の情況に応じ」て「所得及び清算所得と併せて、資本金額、売上金額、家屋の床面積又は価格、土地の地積又は価格、従業員数等を」課税標準として用いることができるとされている(同第72条の24の4)。

 

 5.法人事業税の課税標準など

 前述のように、法人事業税は付加価値割、資本割、所得割および収入割から構成される。これらはいずれも課税標準を示すものであって、このうちの付加価値割および資本割が外形標準課税の一種である。

 付加価値割は、各事業年度における付加価値額を課税標準とするものであり(地方税法第72条の12第1号イ)、各事業年度の報酬給与額(第72条の15に算定方法が規定される)、純支払利子(第72条の16に算定方法が規定される)および純支払賃借料(第72条の17に算定方法が規定される)の合計額(これを収益配分額という)と各事業年度の単年度損益(第72条の18に算定方法が規定される)との合計額である。

 ※意味については第72条の13を参照。同第1項により、原則として「法令、定款、寄附行為、規則若しくは規約に定める事業年度その他これに準ずる期間又は次項若しくは第三項に規定する期間をいう」ものとされる。

 ※※なお、第72条の20により、報酬給与額が収益配分額の70%を超える場合には、雇用安定控除が認められる。

 ※※※基本的には各事業年度の益金から損金を控除した金額による。なお、欠損金が生じた場合には、その額を収益配分額から控除する。

 資本割は、各事業年度における資本金等の額を課税標準とするものであり(第72条の12第1号ロ)、各事業年度終了の日における資本金等(法人税法第2条第16号)の額、または連結個別資本金等(同第17号の2)の額である(地方税法第72条の21第1項)。但し、資本金が1000億円を超える法人については、同第4項の表に従って資本金を区分し、1000億円以下の部分については100%を乗じ、1000億円を超えて5000億円以下の部分については50%を乗じ、5000億円を超えて1兆円以下の部分については25%を乗じ、それぞれ計算して得られた金額の合計額を課税標準とする。なお、資本金が1兆円を超えている場合には1兆円とする。

 持株会社については地方税法第72条の21第3項に特例が規定されている。

 所得割は、各事業年度における所得および清算所得の額を課税標準とするものである(第72条の12第1号ハ)。基本的に、所得金額は、法人税法の課税標準である所得の計算の例によって算定する。すなわち、益金から損金を控除して得られる金額である。連結申告法人の場合は個別帰属益金額から個別帰属損金額を控除して得られる金額である。但し、算定の際に一部の法人税法の規定が除外される他、医療法人または医療施設が社会保険診療について支払いを受けた金額は益金などの額に算入せず、社会保険診療に係る経費は損金などの額に算入しない。

 収入割は、各事業年度における収入金額を課税標準とするものである(同第2号、第72条の2第1項第3号)。このうち、電気供給業およびガス供給業の場合は「収入すべき金額の総額から当該各事業年度に国又は地方団体から受けるべき補助金、固定資産の売却による収入金額その他政令で定める収入金額を控除した金額」を収入金額とする(第72条の24の2第1項)。これは、電気供給業、ガス供給業の両業種が公益事業であり、料金について認可制がとられているため、所得を課税標準としたのでは事業規模に比して事業税の負担が過少となるためである、と説明されている。

 また、保険業については収入保険料の一定の割合を収入金額としている(同第2項)。これは、保険業の利益の多くの部分が配当で占められており、この配当は所得(課税標準)の計算において益金に算入されないこと、契約者配当が損金に算入されることから、所得を課税標準としたのでは事業規模や利益に比して事業税の負担が過少となるためである、と説明されている。

 

 6.法人事業税の税率

 地方税法第72条の24の7は標準税率としているので、その標準税率をみておく。

 まず、第72条の2第1項第1号イに掲げる法人、すなわち、基本的には資本金の額または出資金の額が1億円を超える営利法人については、第72条の24の7第1項第1号により、以下のように規定されている。

 付加価値割:各事業年度の付加価値額の0.72

 資本割:各事業年度の資本金等の額の0.3

 所得割:まず、各事業年度の所得の金額を次の3段階に分けて、それぞれ計算する。

 400万円以下の金額については3.1

 400万円を超えて800万円以下の金額については4.6

 800万円を超える金額、および清算所得については6.0

 こうして得られた税額を合計する。

 そして、付加価値割、資本割、所得割の合計金額を出す。これが納税額となる。

 次に、第72条の24の7第6項各号の法人(特別法人)については、第72条の24の7第1項第2号により、以下のように規定されている。

 所得割:まず、各事業年度の所得の金額を次の2段階に分けて、それぞれ計算する。

 400万円以下の金額の部分については5%

 400万円を超える部分については6.6

 こうして得られた金額を合算して得られた金額が納税額となる。

 その他の法人については、第72条の24の7第1項第3号により、以下のように規定されている。

 所得割:まず、各事業年度の所得を次のように3段階に分けて、それぞれ計算する。

 400万円以下の金額については5%

 400万円を超えて800万円以下の金額については7.3

 800万円を超える金額、および清算所得については9.6

 こうして得られた金額を合算して得られた金額が納税額となる。

 その他の法人については、同第3号により、次のように規定されている。

 各事業年度の所得を次のように3段階に分けてそれぞれ計算し、それらを合計して得られた額が納税額となる。

 所得割:まず、各事業年度の所得を次のように3段階に分けて、それぞれ計算する。

 400万円以下の金額については5%

 400万円を超えて800万円以下の金額については7.3

 800万円を超える金額、および清算所得については9.6

 こうして得られた金額を合算して得られた金額が納税額となる。

 電気供給業、ガス供給業および保険業については、同第72条の24の2によって算出された収入金額の1.3%が標準税率とされる(同第2項)。

 なお、2以上の都道府県において事務所または事業所を設けて事業を行う法人については、第72条の24の7第3項に規定される税率が適用される。また、このような法人は、課税標準額の総額を各関係都道府県に分割し、その分割した額を課税標準として事業税額を計算した上で、申告および納付を行うことになる(第72条の48第1項)。

 法人事業税は、個人事業税と異なり、申告納付の方法によることとされている(第72条の2412以下を参照)。

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(2011年3月16日掲載)

(2011年8月19日修正)

(2012年8月12日修正)

(2014年6月24日修正)

(2015年5月19日修正)