28    事業承継税制

 

 

  1.事業承継税制の趣旨

 事業承継税制は、簡単に言えば、中小企業の経営者から後継者(子、孫など)へ事業を円滑に承継させるための支援の制度である

 ※事業承継税制については、さしあたり、金子宏『租税法』〔第二十二版〕(2017年、弘文堂)679頁を参照。とくに実務家向けの書籍や、税経通信、税務弘報、税理などの雑誌に掲載された記事を読むとよい。

 この制度が導入される直接のきっかけとなったのは、2008(平成20)年5月16日に法律第33号として公布され、同年10月1日に施行された「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下、中小企業経営承継円滑化法)である。同法の第1条は「この法律は、多様な事業の分野において特色ある事業活動を行い、多様な就業の機会を提供すること等により我が国の経済の基盤を形成している中小企業について、代表者の死亡等に起因する経営の承継がその事業活動の継続に影響を及ぼすことにかんがみ、遺留分に関し民法(明治29年法律第89号)の特例を定めるとともに、中小企業者が必要とする資金の供給の円滑化等の支援措置を講ずることにより、中小企業における経営の承継の円滑化を図り、もって中小企業の事業活動の継続に資することを目的とする」と定めており、第3条以下において遺留分の特例を定める他、第13条以下において中小企業信用保険法、株式会社日本政策金融公庫法および沖縄振興開発金融公庫法の特例を定めている。しかし、税制については、中小企業経営承継円滑化法の附則第2条において「政府は、平成20年度中に、中小企業における代表者の死亡等に起因する経営の承継に伴い、その事業活動の継続に支障が生じることを防止するため、相続税の課税について必要な措置を講ずるものとする」と定めるに留まった。そこで、平成21年度税制改正によって、事業承継税制が導入され、平成2010月1日に遡って適用された〔租税特別措置法第70条の7以下、「所得税法等の一部を改正する法律」(平成21年3月31日法律第13号)附則第63条〕。

 ここで、参考のため、中小企業経営円滑化法より、第2条および第12条を紹介しておく。

 

 (定義)

第2条 この法律において「中小企業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。

 一 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人であって、製造業、建設業、運輸業その他の業種(次号から第四号までに掲げる業種及び第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの

 二 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人であって、卸売業(第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの

 三 資本金の額又は出資の総額が5000万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であって、サービス業(第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの

 四 資本金の額又は出資の総額が5000万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人であって、小売業(次号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの

 五 資本金の額又は出資の総額がその業種ごとに政令で定める金額以下の会社並びに常時使用する従業員の数がその業種ごとに政令で定める数以下の会社及び個人であって、その政令で定める業種に属する事業を主たる事業として営むもの

(経済産業大臣の認定)

第12条 次の各号に掲げる者は、当該各号に該当することについて、経済産業大臣の認定を受けることができる。

 一 会社である中小企業者(金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式又は同法第67条の11第1項の店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行している株式会社を除く。) 当該中小企業者における代表者の死亡等に起因する経営の承継に伴い、死亡したその代表者(代表者であった者を含む。)又は退任したその代表者の資産のうち当該中小企業者の事業の実施に不可欠なものを取得するために多額の費用を要することその他経済産業省令で定める事由が生じているため、当該中小企業者の事業活動の継続に支障が生じていると認められること。

 二 個人である中小企業者 他の個人である中小企業者の死亡等に起因する当該他の個人である中小企業者が営んでいた事業の経営の承継に伴い、当該他の個人である中小企業者の資産のうち当該個人である中小企業者の事業の実施に不可欠なものを取得するために多額の費用を要することその他経済産業省令で定める事由が生じているため、当該個人である中小企業者の事業活動の継続に支障が生じていると認められること。

2 前項の認定に関し必要な事項は、経済産業省令で定める。

 

 2.相続税に係る事業承継税制

 (1)相続税の納税の猶予

 前提として、事業承継税制が適用されるのは、中小企業経営承継円滑化法第12条第1項に定められた認定を経済産業大臣から受けた会社である。これを、租税特別措置法第70条の7の2第1項は認定承継会社と表現する。

 同項は、認定承継会社の代表権を有していた被相続人から、相続または遺贈により当該認定承継会社の非上場株式等を取得した相続人等(経営承継相続人等。同第3項第3号)が、相続税法第27条第1項の規定による申告書に租税特別措置法第70条の7の2第1項の適用を受けようとする旨の記載をしたときには、納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、当該承継相続人等の死亡の日まで、納税猶予分の相続税額について納税が猶予される旨を定める。

 ここにいう特例非上場株式等とは、当該認定承継会社の発行済株式または出資の総数または総額の3分の2に達するまでの部分(政令で定められた部分)のことであり(同第1項)、納税猶予分の相続税額とは、当該認定承継会社の特例非上場株式等の価額の80%のことである(同第2項第5号)。従って、発行済株式または出資の総数または総額の約53%が猶予されるということになる※※

 ※80%とされたのは、個人事業者の場合には事業用宅地等の価額の80%に相当する額が相続税の課税価格から除外されていることと平仄を合わせるためである。金子・前掲書687頁。

 ※※日本経済新聞201712月2日付朝刊1面★13版「中小の相続税 100%猶予 代替わり支援、対象も拡大」を参照。平成30年度税制改正により、全株式を対象に100%を猶予する、猶予対象者(相続人)の数を一人から複数に増やす、などの改正が行われるものと予想される。

 また、相続税の納税の猶予が認められるためには担保の提供が要件とされている。この担保は、国税通則法第50条に定められる担保(公債、社債、土地、建物など。手続は国税通則法施行令第16条による)の他、認定承継会社の特例非上場株式等とすることも認められる(手続は租税特別措置法施行令第40条の8の2第5項以下に定められる)。特例非上場株式等の全てが担保として提供された場合には、当該特例非上場株式等の価額の合計額が当該納税猶予分の相続税額に満たないとしても、租税特別措置法第70条の7の2第1項の適用については当該納税猶予分の相続税額に相当する担保が提供されたものとみなされる(同第6項本文)。

 (2)相続税の納税の免除

 租税特別措置法第70条の7の2第1項の適用を受けた経営承継相続人等が特例非上場株式等を所有したまま死亡した場合には、納税猶予分の相続税額が免除される(同第16項第1号)。

 また、経営承継期間の末日の翌日以後に、経営承継相続人等が第70条の7第1項の適用に係る贈与をした場合には「猶予中相続税額のうち、当該贈与に係る特例非上場株式等で同項の規定の適用に係るものに対応する部分の額として政令で定めるところにより計算した金額に相当する相続税」が免除される(同第2号。同第17項以下、租税特別措置法施行令第40条の8の2第44項も参照)。

 ※租税特別措置法第70条の7の2第2項第6号により、同第1項の適用を受ける旨の申告書の提出期限の翌日から5年を経過した日、または経営承継相続人等の死亡の日の、いずれか早い日までの期間と定義される。

 (3)納税の猶予の打ち切り

 経営承継期間内に経営承継相続人が認定承継会社の代表権を有しなくなった場合など、納税猶予期間が打ち切られる場合がある(租税特別措置法第70条の2第3項〜第6項、第9項、第10項、第12項、第13項)。

 

 3.贈与税に係る事業承継税制

 (1)贈与税の納税の猶予

 前提として、事業承継税制が適用されるのは、中小企業経営承継円滑化法第12条第1項に定められた認定を経済産業大臣から受けた会社であり、当該会社の常時使用従業員が1人以上であることなど、租税特別措置法第70条の7第2項第1号に掲げられる要件をみたすもの。これを、同第1項は認定贈与承継会社と表現する。

 同項は、認定贈与承継会社の代表権を有し、同第40条の8第1項に掲げられる要件を全て満たす贈与者から、贈与により当該認定贈与承継会社の非上場株式等を取得し、かつ、同第70条の7第2項第3号に掲げられる要件を全て満たす受贈者(経営承継受贈者。同第2項第3号)が、相続または遺贈により当該認定承継会社の非上場株式等を取得した相続人等(経営承継相続人等。同第3項第3号)が、相続税法第27条第1項の規定による申告書に租税特別措置法第70条の7第1項の適用を受けようとする旨の記載をしたときには、納税猶予分の贈与税額に相当する担保を提供した場合に限り、当該経営承継受贈者の死亡の日まで、納税猶予分の贈与税額について納税が猶予される旨を定める。

 ※贈与の日において満20歳以上であること、贈与の時において認定贈与承継会社の代表権を有していること、贈与の日まで引き続き3年以上にわたり認定贈与承継会社の役員などの地位に就いていること、などが要件とされている。

 ここにいう特例受贈非上場株式等とは、当該認定承継会社の発行済株式または出資の総数または総額の3分の2に達するまでの部分(政令で定められた部分)のことであり(同第1項)、納税猶予分の贈与税額とは、当該認定承継会社の特例非上場株式等の価額のことである(同第2項第5号)。

 また、相続税の場合と同様に、贈与税についても猶予が認められるためには担保の提供が要件とされている。国税通則法第50条に定められる担保(公債、社債、土地、建物など。手続は国税通則法施行令第16条による)の他、認定承継会社の特例非上場株式等も認められる(手続は租税特別措置法施行令第40条の8第3項以下に定められる)。特例非上場株式等の全てが担保として提供された場合には、当該特例非上場株式等の価額の合計額が当該納税猶予分の贈与税額に満たないとしても、租税特別措置法第70条の7第1項の適用については当該納税猶予分の贈与税額に相当する担保が提供されたものとみなされる(同第6項本文)。

 (2)贈与税の納税の免除

 まず、贈与者の死亡の時以前に経営承継受贈者が死亡した場合には、猶予中贈与税額に相当する贈与税が免除される(同第15項第1号)。

 次に、贈与者が死亡した場合には、猶予中贈与税額のうち、当該贈与者が贈与した特例受贈非上場株式等に対応する部分の額として政令で定められた金額に相当する贈与税が免除される(同第2号。租税特別措置法施行令第40条の8第37項も参照)。

 そして、経営贈与承継期間の末日の翌日以後に、経営承継相続人等が第70条の7第1項の適用に係る贈与をした場合には「猶予中贈与税額のうち、当該贈与に係る特例受贈非上場株式等で同項の規定の適用に係るものに対応する部分の額として政令で定めるところにより計算した金額に相当する相続税」が免除される(租税特別措置法第70条の7第15項第3号。同第16項以下、租税特別措置法施行令第40条の8第38項も参照)。

 ※租税特別措置法第70条の7第2項第6号により、同第1項の適用を受ける旨の申告書の提出期限の翌日から5年を経過した日、または経営承継相続人等の死亡の日の、いずれか早い日までの期間と定義される。

 (3)納税の猶予の打ち切り

 経営贈与承継期間内に経営承継相続人が認定承継会社の代表権を有しなくなった場合など、納税猶予期間が打ち切られる場合がある(租税特別措置法第70条の2第3項〜第6項、第11項、第12項)。

 

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(2017年12月4日掲載)