第15回    行政指導

 

 

 1.行政指導の性質および定義

 いつのことからか、日本の行政は不透明であると諸外国 (とくにアメリカ)から批判されるようになった。その大きな原因の一つが行政指導である。

 まず、行政指導は、行政組織法の根拠を必要とする。しかし、行政作用法の根拠を必要としない。と言うよりも、法律の根拠がないという事態に臨機応変に対応するための方法であり、法的効果もない事実行為であり、権限の所在や指揮系統・行政責任の不明確性もあって(意図的に不明確にしている場合もある)、当事者以外からは見えにくいものとなっている。とくに、国による行政指導は、官庁の監督権限と結びついて行政の不透明性・密室性を拡大させ、また官民の癒着をも進行させた。日本の行政手続法が制定されたのは、行政指導に関する諸外国からの批判に答える(あるいはかわす?)という意味もあったのである。

 しかし、行政指導が全て悪であるという訳ではない。地方公共団体、とくに市町村において、国の法律の不備、しかも、条例を制定できるかどうかも疑わしい場合などを補う形で、例えば無秩序な宅地開発を防止するために、行政指導が用いられた。

 行政指導には定型がないので、これに対する定義も様々であり、法律においても様々な用語が用いられる(指導、勧告など)。行政手続法第2条第6号は、行政指導を「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないもの」と定義している。この定義にも現われているように、行政指導は、相手方に法的な義務を課するものではなく、任意的な協力を求めるものである。たとえ要綱などにおいて行政指導の基準を定め、相手方がそれに従わない場合の対応措置を定めたとしても、それによって法的な行為にはならない。要綱は内部的な基準にすぎないからである。

 そして、行政指導は、何らかの具体的な行政目的を実現するための手段である。行政指導に従わない私人は、事実の公表や給付の打ち切りなどの制裁を受けることもあるが、刑罰を科される訳ではない。その意味においては、行政指導は非権力的手段である。もっとも、前記の制裁も、刑罰よりはソフトであるとはいえ、場合によっては問題を残すであろう。

 

 2.行政指導の分類

 前述のように、行政指導には定型がない。この点が行政行為などと異なるのであり、行政手続法第2条第6号も一応の定義であるにすぎない。そのため、行政指導の種類と言っても、実態からの帰納的分類であり、実際に果たす機能をみた上での便宜的な分類に過ぎない。実際の行政指導には、社会保障行政などで見られる助成的な指導、規制的な指導、調整的な指導があると言えるが、実際にはいくつかの性格を兼ね備えていることも多く、いずれも、何らかの意味において規制的な機能を帯びる点において共通している。

 @規制的な行政指導

 行政指導において典型的なものであり、多くの行政指導が、何らかの形で行政の相手方である私人(個人、私企業など)の活動を規制する目的のためになされるものであると言いうる。例として、次のようなものがある。

消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法第6条第1項に基づく、公正取引委員会による勧告

 経済産業省によって行われる、不況時における操業短縮勧告(積極的な規制目的)

 建築確認の留保とセットで行われる行政指導

 料金の値上げをめぐる行政指導

 A助成的な行政指導

 情報提供による助成であり、単なる情報提供とは異なり、何らかの政策目的を実現するための手段として位置づけられる。

 B調整的な行政指導

 私人間の紛争を解決するための手段としてなされる行政指導である。例として、マンションの建築主と周辺住民との間での紛争を解決するために行われる行政指導があげられる。ただ、この場合は、実質的にマンションの建築主などに対する一種の規制として働くことが少なくない。その意味においては規制的な行政指導の変種と言えなくもない。帰納的な分類であるため、一つの、あるいは一連の行政指導が複数の性格を有しうることは、むしろ当然のことである。

 

 3.行政指導の問題点

 事実行為であるはずの行政指導は、様々な場面において行政目的を実現するための手段として多用されている。それだけに、様々な問題が存在する。

 @法律の根拠

 既に述べたように、行政組織法の根拠は必要である。それは、所掌事務の範囲内であることが求められるためである(行政手続法第32条も参照)。

 これに対し、行政作用法の根拠が必要であるか否かは問題とされる。既に述べたように、事実行為であることからすれば、行政作用法の根拠は不要であると言いうる。実際的な側面においても、法律の根拠がないという事態に臨機応変に対応するための方法なのであるから、行政作用法の根拠は不要であるとも言えるであろう。判例も、おそらくは行政指導の実態に即して考察したのであろうか、侵害留保の原則から行政作用法の根拠を不要と解する。しかし、学説は様々で、判例と同旨の説、(行政指導の実態に鑑みて、であると思われるが)法律の根拠を必要とすると解する説などがある。

 A制定法の趣旨・目的との関係

 行政指導について行政作用法の根拠が不要であるとしても、このことから直ちに、行政指導がいかなる内容のものであってもよいということにはならない。行政作用法の趣旨や目的にそぐわない行政指導は違法または不当の評価を受けうることとなる。また、かような行政指導に従ったことによって自らの行動の正当性を主張することも許されないと解さざるをえないであろう(但し、この場合は一定の配慮が必要となる場合も考えられる)。

 ●最三小判昭和57年3月9日民集36巻3号265頁

 事案:事業者団体である石油連盟は、第一次オイルショック後に石油製品の価格を引き上げる決定を行い、加盟各社に通知した。これに基づいて加盟各社が製品の価格を引き上げたところ、公正取引委員会は、このような行為が独占禁止法第8条第1項第1号に違反するという審決を行った。これに対し、石油連盟は、前記決定の後に当時の通商産業省から価格引き上げの幅を縮小すべしという行政指導を受け、石油元売業者もこの行政指導に従ったことを理由として、石油連盟による前記決定の違法性は消滅したと主張したが、公正取引委員会はこれを認めなかった。 判旨 最高裁判所第三小法廷は、独占禁止法第8条第1項第1号にいう「競争の実質的制限」の解釈を示した上で、「事業者団体がその構成員である事業者の発意に基づき各自業者の従うべき基準価格を団体の意思として協議決定した場合においては、たとえ、その後これに関する行政指導があったとしても、当該事業団体がその行った基準価格の決定を明瞭に破棄したと認められるような特段の事情がない限り、右行政指導により当然に前記独占禁止法八条一項一号にいう競争の実質的制限が消滅したものとみることは許されない」として、石油連盟の上告を棄却した。

 この判決は、行政指導に従ったからといって、行為の違法が阻却される訳ではないということを示している。但し、行政事件訴訟と刑事事件とでは違法性に関する判断が異なるということもありうる。

 ●最二小判昭和59年2月24日刑集38巻4号1287頁(T−101)

 事案:基本的な部分は前掲最三小判昭和57年3月9日と同じである。石油連盟およびこれに加盟する各社の行為が独占禁止法第2条第6号にいう「不当な取引制限」であって同第3条に違反するとして、石油元売会社などの刑事責任が問われた。これに対して、被告人らは当時の通商産業省による行政指導に従ったことを理由として無罪を主張した。東京高判昭和55年9月26日高刑集33巻5号511頁は被告人らの主張を全て退け、懲役刑または罰金刑を言い渡した。最高裁判所第二小法廷は、被告人らの一部について無罪の判決を言い渡した。

 判旨:「物の価格が市場における自由な競争によつて決定されるべきことは、独禁法の最大の眼目とするところであつて、価格形成に行政がみだりに介入すべきでないことは、同法の趣旨・目的に照らして明らかなところである。しかし、通産省設置法三条二号は、鉱産物及び工業品の生産、流通及び消費の増進、改善及び調整等に関する国の行政事務を一体的に遂行することを通産省の任務としており、これを受けて石油業法は、石油製品の第一次エネルギーとしての重要性等にかんがみ、『石油の安定的かつ低廉な供給を図り、もつて国民経済の発展と国民生活の向上に資する』という目的(同法一条)のもとに、標準価格制度(同法一五条)という直接的な方法のほか、石油精製業及び設備の新設等に関する許可制(同法四条、七条)さらには通産大臣をして石油供給計画を定めさせること(同法三条)などの間接的な方法によつて、行政が石油製品価格の形成に介入することを認めている。そして、流動する事態に対する円滑・柔軟な行政の対応の必要性にかんがみると、石油業法に直接の根拠を持たない価格に関する行政指導であつても、これを必要とする事情がある場合に、これに対処するため社会通念上相当と認められる方法によつて行われ、『一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する』という独禁法の究極の目的に実質的に抵触しないものである限り、これを違法とすべき理由はない。そして、価格に関する事業者間の合意が形式的に独禁法に違反するようにみえる場合であつても、それが適法な行政指導に従い、これに協力して行われたものであるときは、その違法性が阻却されると解するのが相当である」。

 B比例原則、平等原則など

 当然に妥当するものと解される。そのため、度を越した公務員の退職勧奨は不法行為とみなされる場合がある(最一小判昭和55年7月10日判タ434号172頁)。また、信義誠実の原則が妥当することがある〔最三小判昭和56年1月27日民集35巻1号35頁(T―29)など〕。

 C相手方の任意性

 行政指導は、一応、非権力的手段と位置づけられているが、実際には相手方の任意性を失わせ、何らかの行為を強要する結果につながることが多い。 地方公共団体の要綱(行政規則の一種)には、行政指導の基準を定めるとともに、指導に従わない者の氏名の公表(当然、経済的あるいは社会的な損失を招く)、許認可などの留保を定めるものが多い。

 ●最三小判昭和60年7月16日民集39巻5号989頁(T―132)

 事案:東京都の某所にマンションを建設する計画があり、業者Xは東京都に建築確認の申請を行った。しかし、住民の反対が強かったことから、東京都はXに住民との話し合いを指導した。Xはこの指導に従って話し合いをしたが、解決をみなかった。一方、東京都は新高度地区案を発表して建築確認の留保を明示し、Xにさらに話し合いを進めることを指導した。結局、Xはこれ以上指導に従わないこととし、金銭補償によって住民との紛争を解決し、ようやく建築確認を得た。Xは、その間に建築確認が留保されたことを不服として出訴した。東京地判昭和53年7月31日判時928号79頁はXの請求を棄却したが、東京高判昭和54年12月24日判時955号73頁はXの請求を一部認容したため、東京都が上告し、Xも附帯上告した。最高裁判所第三小法廷は、東京都の上告を棄却し、Xの附帯上告も棄却した。

 判旨:「関係地方公共団体において、当該建築確認申請に係る建築物が建築計画どおりに建築されると付近住民に対し少なからぬ日照阻害、風害等の被害を及ぼし、良好な居住環境あるいは市街環境を損なうことになるものと考えて、当該地域の生活環境の維持、向上を図るために、建築主に対し、当該建築物の建築計画につき一定の譲歩・協力を求める行政指導を行い、建築主が任意にこれに応じているものと認められる場合においては、社会通念上合理的と認められる期間建築主事が申請に係る建築計画に対する確認処分を留保し、行政指導の結果に期待することがあつたとしても、これをもつて直ちに違法な措置であるとまではいえない」。しかし、「右のような確認処分の留保は、建築主の任意の協力・服従のもとに行政指導が行われていることに基づく事実上の措置にとどまるものであるから、建築主において自己の申請に対する確認処分を留保されたままでの行政指導には応じられないとの意思を明確にしている場合には、かかる建築主の明示の意思に反してその受忍を強いることは許されない筋合のものであるといわなければならず、建築主が右のような行政指導に不協力・不服従の意思を表明している場合には、当該建築主が受ける不利益と右行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較衡量して、右行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているとの理由だけで確認処分を留保することは、違法であると解するのが相当である」。そのため、「いつたん行政指導に応じて建築主と付近住民との間に話合いによる紛争解決をめざして協議が始められた場合でも、右協議の進行状況及び四囲の客観的状況により、建築主において建築主事に対し、確認処分を留保されたままでの行政指導にはもはや協力できないとの意思を真摯かつ明確に表明し、当該確認申請に対し直ちに応答すべきことを求めているものと認められるときには、他に前記特段の事情が存在するものと認められない限り、当該行政指導を理由に建築主に対し確認処分の留保の措置を受忍せしめることの許されないことは前述のとおりであるから、それ以後の右行政指導を理由とする確認処分の留保は、違法となるものといわなければならない」。

 ●最二小決平成元年11月8日判時1328号16頁(T−97)

 事案:武蔵野市は宅地開発指導要綱を定めた。これは、中高層建築物について住民の同意を得ること、教育施設負担金を同市に寄付することを事業主に求め、従わない場合には上下水道などについての協力を行わないというものである。A建設は、同市内にマンションを建設しようとして住民の同意を得る努力をしたが得られなかったので、市長の承認を得ずに東京都に建築確認申請をして確認を得た。同市はA建設からの給水契約の申し込みを拒否したが、A建設は建設を強行した。A建設は何度も給水契約の申し込みをしたが同市は書類を受理しなかった。こうした同市の対応が水道法第15条第1項に違反するとして、同市長が起訴された。東京地八王子支判昭和59年2月24日判時1114号10頁は同市長を罰金10万円に処し、東京高判昭和60年8月30日判時1166号41頁は同市長の控訴を棄却した。最高裁判所第二小法廷は、市長の上告を棄却した。

 決定要旨:同市長がA建設などから提出された給水契約の申込書の受領を拒絶した時期には、既にA建設が「武蔵野市の宅地開発に関する指導要綱に基づく行政指導には従わない意思を明確に表明し、マンションの購入者も、入居に当たり給水を現実に必要としていた」から「このような時期に至ったときは、水道法上給水契約の締結を義務づけられている水道事業者としては、たとえ右の指導要綱を事業主に順守させるため行政指導を継続する必要があったとしても、これを理由として事業主らとの給水契約の締結を留保することは許されないというべきであるから、これを留保した被告人らの行為は、給水契約の締約を拒んだ行為に当たる」。水道事業者である武蔵野市は、「たとえ指導要綱に従わない事業主らからの給水契約の申込であっても、その締結を拒むことは許されないというべきであ」り、同市長に「本件給水契約の締結を拒む正当の理由がなかった」。

 ●最一小判平成5年2月18日民集47巻2号574頁(T−103)

 事案:Xは武蔵野市に3階建て賃貸マンションの建設を計画した。武蔵野市は、前掲最二小決平成元年11月8日に登場する要綱に基づいて教育施設負担金の寄付を要請した。Xは不満を抱いたが制裁などを恐れたため、市に教育施設負担金を納付した。Xは、この寄付が武蔵野市の強迫によるものであるとして意思表示の取消しを主張した上で、教育施設負担金相当額の返還を求めて出訴した。東京地方八王子支判昭和58年2月9日民集47巻2号603頁はXの請求を棄却し、東京高判昭和63年3月29日民集47巻2号610頁もXの控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷は、次のように述べて、Xの主張のうち、強迫の主張を退けたが、国家賠償の請求について破棄差戻判決を出した。

 判旨:「行政指導として教育施設の充実に充てるために事業主に対して寄付金の納付を求めること自体は、強制にわたるなど事業主の任意性を損うことがない限り、違法ということはできない」が、「指導要綱は、法令の根拠に基づくものではなく、被上告人において、事業主に対する行政指導を行うための内部基準であるにもかかわらず、水道の給水契約の締結の拒否等の制裁措置を背景として、事業主に一定の義務を課するようなものとなっており、また、これを遵守させるため、一定の手続が設けられている。そして、教育施設負担金についても、その金額は選択の余地のないほど具体的に定められており、事業主の義務の一部として寄付金を割り当て、その納付を命ずるような文言となっているから、右負担金が事業主の任意の寄付金の趣旨で規定されていると認めるのは困難である。しかも、事業主が指導要綱に基づく行政指導に従わなかった場合に採ることがあるとされる給水契約の締結の拒否という制裁措置は、水道法上許されないものであ」る(水道法第15条第1項、前掲最二小決平成元年11月7日参照)。本件において、武蔵野市の担当者の対応からは「本件教育施設負担金の納付が事業主の任意の寄付であることを認識した上で行政指導をするという姿勢は、到底うかがうことができ」ず、「右のような指導要綱の文言及び運用の実態からすると、本件当時、被上告人は、事業主に対し、法が認めておらずしかもそれが実施された場合にはマンション建築の目的の達成が事実上不可能となる水道の給水契約の締結の拒否等の制裁措置を背景として、指導要綱を遵守させようとしていたというべきであ」り、Xに対して「指導要綱所定の教育施設負担金を納付しなければ、水道の給水契約の締結及び下水道の使用を拒絶されると考えさせるに十分なものであって、マンションを建築しようとする以上右行政指導に従うことを余儀なくさせるものであり、米久に教育施設負担金の納付を事実上強制しようとしたものということができる」から、「右行為は、本来任意に寄付金の納付を求めるべき行政指導の限度を超えるものであり、違法な公権力の行使であるといわざるを得ない」。

 

 3.行政指導に関する行政手続法第32条以下の規定

 @第32条

 この規定は、行政指導の一般原則を示すものである。

 まず、第1項は、行政指導が行政機関の任務や所掌事務を逸脱するものであってはならない旨を、そして、相手方の任意の協力によってのみ、行政指導の目的が実現されるという旨を規定する。

 次に、第2項は、行政指導に従わなかったことを理由とする不利益な取り扱いの禁止を規定する。但し、法律によって、行政指導としての勧告に従わない者について改善命令や許可の取消処分(実際には撤回処分の場合が多い)をなすという構成がとられている場合には、ここにいう不利益な取り扱いに該当しない。

 この規定に関係する一つの問題として、行政指導に従わなかったものの氏名の公表がある。これについては、第19回を参照していただい。

 A第33条

 この規定は、申請の取り下げ、または申請内容の変更を求める行政指導に関するものであり、 申請者が行政指導に従わない意思を表明した場合には、なおも行政指導を継続することなどによって申請者の権利行使を妨げるようなことをしてはならない旨が示されている。これは、申請者が一度行政指導に従うと、自分の意思で、すなわち任意に協力したものとみなされるため、大きな不利益を被っても事後的に争えなくなってしまうためである。

 B第34条

 この規定は、許認可等の権限に関連する行政指導に関するものである。行政機関がこうした権限を行使できない場合(例、処分基準に達していない、実は処分基準として定められていない、など)、または行使する意思がない場合に、こうした権限を行使しうるという趣旨を殊更に強調することは許されない。

 C第35条

 この規定は、行政指導の方式に関するものである。第1項は、行政指導の趣旨、内容、責任者の明確性を定める。第2項(平成26年改正により追加)は、「行政指導に携わる者」が行政機関の許認可権限等を示す場合に、私人に対して示すべき事項(権限行使の根拠となる法令の条項、要件、権限の行使が要件に適合する理由)を示さなければならない旨を定める。また、第3項は、書面交付請求に対する交付の義務を定める。さらに、第4項は適用除外に関する規定である。

 D第36条

 この規定は、複数の者を対象とする行政指導についての原則を示すものである。

 E第36条の2

 この規定は、平成26年改正により追加されたものであり、行政指導が法律の定める要件に適合しないと私人が思料した場合に、行政機関に対してその行政指導の中止等を求めることができる旨を規定する。行政機関は、この求めを受けて調査を行い、行政指導が法律の定める要件に適合しないと認めたときには中止等の措置をしなければならない。但し、本条が適用されるのは「法令に違反する行為の是正を求める行政指導」に限られる。

 注意:行政手続法は国の行政手続に適用されるものである。地方公共団体の行政手続については各地方公共団体の行政手続条例が適用される。

 

 4.行政指導と訴訟

 @行政指導は事実行為である→それが違法であるとしても、一般的には処分性が認められず、取消訴訟によって争うことはできない(通説・判例)。

 但し、次の判決に注意を要する。

 ●最一小判平成16年4月26日民集58巻4号989頁

 事案:Xは食品輸入業者であり、「フローズン・スモークド・ツナ・フィレ」(冷凍スモークマグロ切り身)100kgを輸入しようとしたが、Y(成田空港検疫所長)から食品衛生法第6条に違反する旨の通知を受けた。そこで、Xはこの通知の取消を求めて出訴した。千葉地判平成14年8月9日民集58巻4号1017頁はXの請求を却下し、東京高判平成15年4月23日民集58巻4号1023頁もXの控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷は、次のように述べて事件を千葉地方裁判所に差し戻した。

 判旨:食品衛生法第16条は「厚生労働大臣が、輸入届出をした者に対し、その認定判断の結果を告知し、これに応答すべきことを定めて」おり、食品衛生法違反通知書による通知は同条に根拠を置く。従って、厚生労働大臣の委任を受けたYは、Xに対して「本件食品について、法6条の規定に違反すると認定し、したがって輸入届出の手続が完了したことを証する食品等輸入届出済証を交付しないと決定したことを通知する趣旨のものということができる。そして、本件通知により」Xは「本件食品について、関税法70条2項の『検査の完了又は条件の具備』を税関に証明し、その確認を受けることができなくなり、その結果、同条3項により輸入の許可も受けられなくなるのであり、上記関税法基本通達に基づく通関実務の下で、輸入申告書を提出しても受理されずに返却されることとなる」から「本件通知は、上記のような法的効力を有するものであって、取消訴訟の対象となる」。

 ●最二小判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁(U−167)

 事案:医師であるXは、富山県高岡市内において病院の開設を計画し、Y(富山県知事)に対し、病床数を400床として病院開設に係る医療法第7条第1項の許可の申請をした。これに対し、Yは、医療法第30条の7の規定に基づいて「高岡医療圏における病院の病床数が、富山県地域医療計画に定める当該医療圏の必要病床数に達しているため」という理由で、Xに対し、病院の開設を中止するよう勧告した。Xはこの勧告を拒否し、速やかに許可をするように求めたので、Yは病院開設の許可を出したが、同日に、富山県厚生部長名により、中止勧告にもかかわらず病院を開設した場合には昭和62年9月21日付厚生省保健局長通知において保健医療機関の指定の拒否をすることとされている旨の通知も行った。Xは、病院開設中止の勧告が医療法第30条の7に反するから違法であるなどとして、勧告の取消および保健医療機関指定拒否の旨の通知の取消を求めて出訴した。富山地判平成13年10月31日訟月50巻7号2028頁はXの請求を却下し、名古屋高金沢支判平成14年5月20日訟月50巻7号2014頁も控訴を棄却した。最高裁判所第二小法廷は、以下のように述べて病院開設中止勧告が行政事件訴訟法第3条第2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると判断し、本件を富山地方裁判所に差し戻した。

 判旨:「医療法は、病院を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事の許可を受けなければならない旨を定めているところ(7条1項)、都道府県知事は、一定の要件に適合する限り、病院開設の許可を与えなければならないが(同条3項)、医療計画の達成の推進のために特に必要がある場合には、都道府県医療審議会の意見を聴いて、病院開設申請者等に対し、病院の開設、病床数の増加等に関し勧告することができる(30条の7)。そして、医療法上は、上記の勧告に従わない場合にも、そのことを理由に病院開設の不許可等の不利益処分がされることはない。

 他方、健康保険法(平成10年法律第109号による改正前のもの)43条ノ3第2項は、都道府県知事は、保険医療機関等の指定の申請があった場合に、一定の事由があるときは、その指定を拒むことができると規定しているが、この拒否事由の定めの中には、『保険医療機関等トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ』との定めがあり、昭和62年保険局長通知において、『医療法第三十条の七の規定に基づき、都道府県知事が医療計画達成の推進のため特に必要があるものとして勧告を行ったにもかかわらず、病院開設が行われ、当該病院から保険医療機関の指定申請があった場合にあっては、健康保険法四十三条ノ三第二項に規定する「著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当するものとして、地方社会保険医療協議会に対し、指定拒否の諮問を行うこと』とされていた(なお、平成10年法律第109号による改正後の健康保険法(平成11年法律第87号による改正前のもの)43条ノ3第4項2号は、医療法30条の7の規定による都道府県知事の勧告を受けてこれに従わない場合には、その申請に係る病床の全部又は一部を除いて保険医療機関の指定を行うことができる旨を規定するに至った。)」。

 「上記の医療法及び健康保険法の規定の内容やその運用の実情に照らすと、医療法30条の7の規定に基づく病院開設中止の勧告は、医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められているけれども、当該勧告を受けた者に対し、これに従わない場合には、相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものということができる。そして、いわゆる国民皆保険制度が採用されている我が国においては、健康保険、国民健康保険等を利用しないで病院で受診する者はほとんどなく、保険医療機関の指定を受けずに診療行為を行う病院がほとんど存在しないことは公知の事実であるから、保険医療機関の指定を受けることができない場合には、実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになる。このような医療法30条の7の規定に基づく病院開設中止の勧告の保険医療機関の指定に及ぼす効果及び病院経営における保険医療機関の指定の持つ意義を併せ考えると、この勧告は、行政事件訴訟法3条2項にいう『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』に当たると解するのが相当である。後に保険医療機関の指定拒否処分の効力を抗告訴訟によって争うことができるとしても、そのことは上記の結論を左右するものではない」。

 いずれの判決も、事実行為としての通知や勧告が、後の行政行為(など法的な行為)につながるという制度に関するものである。従って、両判決によって行政指導が一般的に処分として取消訴訟によって争いうるようになった、と考えるべきではない。

 前掲最二小判平成17年7月15日を例にとると、この判決において勧告に処分性が認められたのは、医療法第30条の7ではなく、健康保険法第43条の3(1998年改正前)の存在であろう。医療法第30条の7による勧告そのものは、開設許可に何らの影響も与えない。しかし、健康保険法第43条の3により、保険医療機関の指定が拒否されるとすれば、病院を開設してもほとんど意味がなくなってしまう。このような構造(当時は機関委任事務の制度が存在していた)では、勧告が次の保険医療機関指定許否処分につながりうることとなる。そのため、勧告は、いわば先行処分のような機能を実質的に有することとなるのである。

 A行政指導に従った結果として損害を受けた場合には、国家賠償法第1条に基づいて損害賠償を請求できる場合がある。前掲最一小判平成5年2月18日がその代表例である。

 B行政指導継続中の建築確認の留保は、直接的には行政行為の不作為の違法性が問題となっているので、その不作為の違法性を理由にする不作為の違法確認訴訟または損害賠償請求によって争う。 また、行政事件訴訟法第37条の2に定められる義務づけ訴訟により争うこともできるであろう。 C行政指導不服従の結果としての給水拒否の場合には、給水拒否の違法を争う損害賠償請求、または給水契約締結を求める訴訟によって争うことになる。

 

(2015年11月30日掲載)

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