第16回 行政手続法―事前手続に対する統制―
(注:以下、日本の制定法としての行政手続法については「行政手続法」と表記する。鍵括弧のない場合は、制定法ではなく、行政法の一分野などとしての行政手続法を指す。)
1.行政手続法の一般的な存在意義と機能
(1)行政手続の意味
行政手続を最も広く捉えるならば、行政活動の手続的な側面をいい、行政活動に関する一連の行為を法的手続の観点からみた表現である。しかし、これは、事前手続と事後手続とを総合するものであり、一般的には事前手続のみを指している。
ここで、事前と事後とを区別する基準は、何らかの行政決定(例.行政行為)がなされた時点である。
行政不服審査制度は、行政決定に関する行政上の救済手続であるため、事後手続に含めるのが普通である。また、行政苦情処理手続やオンブズマン制度は、法律上行政行為として明確な位置づけがなされていない行政作用一般に対する手続であるから、事後手続の一種と考えるべきである。
これに対して、行政強制は、行政行為という行政決定の後に行われる場合もあるが、強制手段に対して行政不服審査や行政事件訴訟を提起することも可能であるし、強制の前提となる不利益処分の場合は、相手方の義務の履行によって行政手続が完了すると考えられるため、事前手続に含めて考えるべきである。しかし、行政強制は一つの制度として存在するし、行政決定の事後に行われるものであるため、別項目として概説する。
また、行政審判は、聴聞手続として位置づけられるために事前手続であると考えられるものがあり(独占禁止法第49条などを参照)、行政不服審査や行政事件訴訟と類似する手続であるために事後手続と考えられる側面もある(これについても、別の機会に概説を試みる)。
授益処分は、通常、それに至るまでの事前手続が問題となる。このための確保手段が行政手続による強制執行である。行政処罰も、広義の執行手続に含まれる。
事前手続は、第一次的行政手続あるいは一般的行政手続ともいう。日本では、一般的行政手続に関する基本法が1993年に「行政手続法」として制定・公布され、翌年に施行された。通知および聴聞に関する行政行為の送達に関する規定などを総括して、事前手続規定としておく。
ちなみに、行政庁の処分など、公権力の行使にあたる行為の実現を目的とする行政決定は、実際には行政決定に関する審理を行い、決定の起案を作成する職員→関係役職→決裁権者(行政庁のこと)の 決裁という流れを経て、決裁の名で外部に公表される。
事前手続としての行政手続には、二つの意味合いがある。
まず、手続的な措置を指す場合である。これは、告知・聴聞、意見書の提出、審議会への諮問、公聴会、裁量基準や解釈基準(処分基準や審査基準)の定立や公表、文書または資料の閲覧権の保障、会議の公開などを指している。
次に、行政の過程を指す場合である。これは、何らかの行政決定(行政庁の処分など、公権力の行使にあたる行為の実現を目的とするものが多い)に至るまでの過程を指している。例えば、行政庁の処分の通常過程は、申請または職権に基づく開始→処分の内容の決定→文書または口頭による相手方への了知(これで完了)となる。これを別の側面からみると、 上述の通り、行政決定に関する審理、決定の起案を作成する職員→関係役職→決裁権者(行政庁のこと)の決裁、決裁権者の名で外部に公表、ということになる。
(2)「行政手続法」
日本において、行政強制(行政上の義務履行確保の諸制度)は以前から存在する。大日本帝国憲法時代には、行政執行法という包括的な法制度が存在したが、戦後は行政代執行法や国税徴収法などに分かれている。しかし、一般的行政手続(申請、聴聞など)に関する基本法の制定は遅れた。
世界最初の「行政手続法」は、スペインで1899年に制定されたものである(その後、1958年にも制定されている)。しかし、行政法学において行政手続法が重要視されるようになったのは第一次世界大戦後であろう。この講義ノートは世界各国の「行政手続法」の紹介を目的としていないので、以下は簡単に述べるに留めるが、1925年にはオーストリアにおいて連邦行政手続法が制定されている。これは 日本においても注目されていた。そして、日本の行政法学への影響という点で忘れてはならないのが、1931年のヴュルテンベルク州行政手続法草案である。これは、結局のところ法律とならなかったが、ドイツ連邦行政手続法などに影響を与えている。
第二次世界大戦後になって、「行政手続法」の制定は本格化する。1949年にはアメリカ連邦行政手続法(Administrative Procedure Act.略称はAPA)が制定される。これは日本国憲法の下で注目を浴び、とくに日本の行政法学が非常に強い影響を受けたとみられる。そして、1976年にはドイツ連邦行政手続法(Verwaltungsverfahrensgesetz.略称はVwVfG)が制定される。これも、日本の行政法学において注目を浴び、やはり強い影響がみられる。
第二次世界大戦後の先進国における流れを受けて、日本においても「行政手続法」の制定が試みられた。1960年代前半には、第一次臨時行政調査会において議論が積み重ねられており、中央大学の橋本公亘博士が中心となって作成された草案は、1964年7月、第一次臨時行政調査会の「行政手続法草案逐条説明―行政の公正確保のための手続の改革に関する意見―」※として公表されたが、結局は法律とならなかった。1980年代に入ってから、再度、法律とするための議論が積み重ねられ、制定されたのは1993年のことである(翌年に施行)。
※第一次臨時行政調査会「行政手続法草案逐条説明―行政の公正確保のための手続の改革に関する意見―」は、同調査会の「行政手続に関する報告」などとともに、橋本公亘『行政手続法草案』(1974年、有斐閣)に掲載されている。同書は、現在においても第一級の資料であると評価されるものである。そればかりでなく、第二次世界大戦後の日本行政法学において、いち早くアメリカ行政手続法に関する研究を行ってこられ、かつ、戦前から日本において研究の対象とされてきたドイツ公法学とアメリカ公法学との高い次元における融合を試みられた橋本公亘博士の功績は、ここで改めて強調されるべきであろう。
(3)行政手続法の存在意義
上記の他にも、先進各国などにおいて行政手続法の制定が進んできた。このことは、行政手続法の存在意義が現代社会の発展とともに増大していることを意味する。それでは、何故に行政手続法(以下、事前手続を指すものとする) が存在するのであろうか。これは、次の諸点にあるものと思われる。
第一に、私人の権利・利益の保護であり、さらに その完全な実現である。 これは、最も大きな存在意義であると言えよう。
かつては、私人の権利・利益の保護であれ、法治国家の原理の完全な実現であれ、事後手続による救済で足りると考えられていた。しかし、実のところ、裁判による救済(事後手続)のみによっては、違法な行政活動に対する統制として不十分であり、私人の権利・利益の保護としても十全なものではない。ここで、主に塩野宏『行政法T』〔第六版〕(2015年、有斐閣)268頁により、事後手続(とくに裁判)による救済の問題点をあげておく。
a.私人に時間と費用がかかる。
b.違法な処分を取り消す判決を得たとしても、完全に処分以前の状態が回復されることはなかろう。
c.違法な処分によって一度状態が変更されると、それを取り巻く秩序ができてしまい、覆すことが困難であるばかりか、覆すことのデメリットが生じる。
d.賠償や補償を得られたとしても、金銭によるのが原則(原状回復が不可能である場合も存在する)。
e.日本の行政事件訴訟制度は、違法な「処分」のみを救済の対象とする。不当な「処分」は、裁量の逸脱・濫用などがない限り、対象としえない。
f.裁判所の態度→「著しく合理性を欠くとは認められない」、「著しく合理性を欠くものでない限り」など、実体的な統制(とくに裁量)に対する消極的な姿勢→裁量などの統制の法理が形成されにくい。
ここから、行政手続法が有する一般的機能を考えることが可能である。芝池義一『行政法総論講義』〔第4版補訂版〕(2006年、有斐閣)284頁は、行政手続法の一般的機能として、次の諸点をあげる。
甲 「行政決定の民主的正当性の確保に資する」こと
乙 「行政決定にあたっての行政機関の慎重さを確保する」こと
丙 「行政機関が単独で判断するよりもより適切な決定が得られる可能性が与えられる」こと
丁 「違法な行政活動による権利侵害の未然防止、既成事実の発生の予防の意味がある」こと
また、芝池義一『行政法読本』〔第3版〕(2013年、有斐閣)221頁は「行政手続の有用性」として次の諸点をあげる。
A 「事実の確認・情報の収集としての行政手続」 これは結局のところ「適法な決定をするために、行政手続は役に立つ」ということである。
B 「民主的正当性の獲得手段としての行政手続」 行政庁に裁量権が認められる場合に、その行政庁による選択と決定の際に「民意を反映させ」て「民主的正当性の確保に役立つ」ということである。
C 「早期の権利保護手段としての行政手続」
さらに私なりの考え方を述べてみると、次の通りである(芝池教授の指摘と重なる部分もある)。
一 事前手続の整備により、適正な行政権の執行を図ることができる。
二 事前手続を可能な限り統一することにより、行政の事務処理が透明度を増し、私人にも手続の内容を理解しうることになるから、行政の側において労力を省くことも可能であるし、無駄な争いごとを生じさせる必要もなくなる。
三 相手方に防禦権行使を保障し、法律による行政の原理をよりよく実現できることになるのである。事前手続に私人を参加させ、意見を述べさせることにより、私人にも行政決定を納得させることが可能である。
四 行政計画などについては、地域住民の同意を得やすいし、発意を得ることも可能であるから、より住民の支持を得られるものができる可能性がある。
2.適正な行政手続とは
(1)私人を保護するための理念
日本において、適切な行政手続に関する考え方は、natural justice(英)、そしてdue process of law(米)を基盤とするようである。これらは、行政庁の管轄下に置かれる市民を保護するための理念である。告知(通知。notice)、聴聞(hearing)、適当な記録(adequate record)、上訴(appeal。要するに裁判所の審査を受けること)という基礎的な手続の維持が導かれる。とくに告知と聴聞が重要である。
これらは、とくにイギリスおよびアメリカにおいて発展したが、それ以外の国々においても行政手続における最も重要なものである。
日本行政法学が模範としてきたドイツ行政法学は、適正な行政手続の考え方をほとんど持たなかった。但し、第二次世界大戦後のドイツ行政法学および連邦行政裁判所(など)の判例は、事前手続に対する関心を徐々に深め、連邦行政手続法制定に至った。
(2)国民参加の原理
適正な行政手続についてのもう一つの考え方として、国民参加の原理を欠かすことはできない。
行政手続は、行政の政治的過程と直接の関係をもたない。だが、行政手続は法的手続である。そうであるとすれば、客観的に行政権発動の対象となる権利紛争が存在するときに、行政主体が国民・住民が互いに相争う中で、国民の権利義務が確定され、その結果として行政権が発動されることになる。
@告知・聴聞:行政決定をする前に、相手方たる私人に決定(となりうべきもの)の内容および理由を知らせ、私人の主張を聴くことによって、決定の適法性や妥当性を確保するとともに、私人の権利・利益を保護しようとするものである。元来、統治機関が、その意思決定の際に当事者や利害関係人に対して口頭審理をするという意味である。
A文書閲覧:聴聞に際して行政決定の相手方たる私人が、問題となっている事案に関して行政側の文書などの記録を閲覧すること。行政決定(となりうべきもの)の証拠を私人が知ることを意味し、聴聞の際に私人が的確な意見を述べる上において重要であり、聴聞を実質化する意味をも有する。ドイツの連邦行政手続法第29条第1項第1文が、文書閲覧を規定する例である。文書閲覧を発展させれば、情報公開法になる(アメリカが典型例)。
B理由付記:行政行為をなす際に、その理由を書面に付記して相手方たる私人に知らせること(口頭による場合もあるが、不十分であると考えられることもある)。
C基準の設定・公表:処分などの性質を問わず、また、解釈基準か裁量基準かを問わず、設定・公表することにより、私人の側の予測可能性に資するし、行政側の恣意や独断を防ぐ意味がある。また、公表することにより、無用な争いを避ける意味合いもある(所得税などの基本通達が公開されているのも、こうした理由によるものと考えられる)。
以上は、塩野宏教授により、「適正手続四原則」と言われる。塩野・前掲書295頁を参照。
3.行政手続法(適正な行政手続)の憲法上の根拠と判例の状況
(1)学説の状況
適正な行政手続の原則を定める法としての役割が期待される行政手続法については、制定以前から様々な議論が行われていた。ここでは、まず、学説の状況を概観する。
「行政手続法」の制定以前における学説は、判例評釈のレベルを別とすれば、まずは適正な行政手続を定める法の憲法上の根拠に関する議論を行っていた。これは現在においても続けられている。日本国憲法が国民の権利や自由の保障を第一の目的としているのであれば、当然、適正な行政手続を要請しているものと考えられるのであるが、憲法には行政手続に関する明文の規定が存在しないためである。
@憲法第31条説
憲法第31条は刑事手続の適正に関する基本的な規定であるが、これが行政手続にも適用あるいは準用されるべきである、とする説である。行政手続であっても法の定めによることが要請されるのは当然であるし、行政手続によって権利や自由が侵害される可能性は常に存在する。その意味においては妥当な点を含む説である。しかし、行政手続には、刑事手続に類似するものもあれば、全く異なる性格のものもあるので、この説には疑問が寄せられる。
A憲法第13条説
「国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」という規定から、実体的な保障はもちろん、手続的にも尊重(配慮)が求められるとする考え方である。この考え方は、憲法第31条よりも権利や自由の保護の幅を広げうる可能性を帯びており、その意味において妥当性を有するが、憲法第13条を単純に基本的人権の総則的規定であると理解することができるのかという問題があることなどから、やはり不十分な点が残る。また、第13条から、行政手続法の目的の一つである法治国家の原理を導き出せるかについても問われなければならない。さらに言うならば、国民参加の原理を第13条にどこまで読み込めるかという疑問もある。 国民参加の原理を持ち出すのであれば、たとえば第1条や第15条を補足的にあげるべきであろう。
B憲法第31条・憲法第13条併用説
やや安直な説とも言えるが、憲法第31条説と憲法第13条説のそれぞれの短所をカヴァーしうる考え方である。憲法の明文の規定に根拠を求めるべきであるという命題が存在するとするならば、この説が最も妥当であろう。但し、補強として他の条文を援用する必要があると考えられる。
C手続的法治国説
これは、他の説と異なり、憲法の特定の条文に根拠を求めない考え方である。法律による行政の原理が憲法上の明文の根拠に依拠していないことを指摘して、国民の権利や利益を、実体的に保障するのは当然として、手続的にも保障することが憲法上の要請である、と述べる。第31条、第13条のいずれも、行政手続法の根拠として十分でないと思われるだけに、敢えて明文の根拠を求めないという点に妥当性がある。しかし、手続的法治国は、何も行政手続のみに求められる原理ではないのであり、少なくとも第31条(ないし第40条)に重要な部分が含まれていることは否定できない。行政手続の多様性を前提とするにしても、やはり、可能な限り明文の根拠を前提とするのが憲法解釈の基本原則ではなかろうか。
D判例の立場(傾向)
現在の「行政手続法」が制定されるまで、日本において、行政手続(とくに告知・聴聞)は多くの法律により規定されていたが、統一性を欠いていた。類似する処分について異なる手続が定められ、あるいは全く定められていない、という状態であった。そのためであろうか、少々不明確であると思われる判例の立場あるいは傾向を敢えて整理すると、適正な行政手続に全く理解を示さなかった訳ではないが、ほとんどが個別法の規定の有無、あるいは個別法の解釈という次元に留まっていたようである(憲法第31条説に、或る程度の理解を示してはいるが)。
●最一小判昭和46年10月28日民集25巻7号1037頁(個人タクシー事件、T―117);告知・聴聞に関して、また、審査基準・処分基準の設定に関して
第8回において取り上げた判決である。道路運送法の解釈を通じて、基準の設定についての行政手続の法理を読みだしている。但し、設定された基準の講評などについては言及していない。
●最一小判昭和50年5月29日民集29巻5号662頁(群馬中央バス事件、U―118);告知・聴聞に関して、また、審議会への諮問手続の公正確保に関して
第8回において取り上げた判決である。個別法に告知・聴聞に関する規定が存在する場合である。結果は原告の敗訴であるが、最高裁判所第一小法廷は、制定法に審議会の諮問手続(公聴会を内容とする)が定められている場合について、諮問手続の公正確保を強調する。
●最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁(成田新法事件、T―116);告知・聴聞に関して
事案:新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(いわゆる成田新法。現在は成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法)の第3条第1項に定められた工作物使用禁止命令の合憲性が問われたものである。この規定には、命令の相手方に対する告知、弁解、防御の機会を与えるという趣旨が盛り込まれていない。Y(運輸大臣)は、毎年、Xに対し、空港の規制区域内所在のX所有の小屋につき、暴力主義的破壊活動者の集合や活動などへの供用を禁止する処分を繰り返した。Xは処分の取消および国家賠償を求めて出訴したが、千葉地裁昭和59年2月3日訟月30巻7号1208頁は、取消請求については却下し、国家賠償請求については棄却した。東京高判昭和60年10月23日民集46巻5号483頁は、千葉地方裁判所判決の一部を変更したものの、やはりXの請求を一部却下し、一部棄却した。最高裁判所大法廷も、Xの請求を一部却下し、一部棄却した。
判旨:「憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない」が、「同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である」。
この判決と同じ趣旨を述べるものとして、最一小判平成4年10月29日民集46巻7号1174頁(伊方原子力発電所訴訟、T―77)、最三小判平成5年3月16日民集47巻5号3483頁(家永第一次教科書訴訟、T―79@)などがある。
理由付記については、第12回において取り上げた最三小判昭和47年12月5日民集26巻10号1795頁(T―86) の他、次の判決がある。
●最三小判昭和60年1月22日民集39巻1号1頁(U―121);やはり理由付記に関して
事案:Xは、Y(外務大臣)に対してサウジアラビアを渡航先とする一般旅券の発給を申請した。Yは拒否処分を行ったが、その際、「旅券法13条1項5号に該当する」という理由を付した。Xはこの処分の取消と国家賠償を請求して訴訟を提起し、拒否処分に付された理由が単に根拠条文をあげているだけで具体的な理由が何も記されていないことが違法である、などと主張した。大阪地判昭和55年9月9日行集33巻1・2号229頁はXの請求を認容して拒否処分を取り消した。Yが控訴し、大阪高判昭和57年2月25日行集33巻1・2号217頁は大阪地裁判決を取り消してXの請求を棄却した。Xが上告し、最高裁判所第三小法廷は大阪高裁判決を破棄してYの控訴を棄却した。
判旨:・「外国旅行の自由は憲法二二条二項の保障するところであるが、その自由は公共の福祉のために合理的な制限に服するものであり、旅券発給の制限を定めた旅券法一三条一項五号の規定が、外国旅行の自由に対し公共の福祉のために合理的な制限を定めたものであつて、憲法二二条二項に違反しない」(最大判昭和33年9月10日民集12巻13号1969頁を参照)。
・「一般に、法律が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである」(最二小判昭和38年5月31日民集17巻4号617頁を参照)。
・「旅券法が(中略)一般旅券発給拒否通知書に拒否の理由を付記すべきものとしているのは、一般旅券の発給を拒否すれば、憲法二二条二項で国民に保障された基本的人権である外国旅行の自由を制限することになるため、拒否事由の有無についての外務大臣の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、拒否の理由を申請者に知らせることによつて、その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものというべきであり、このような理由付記制度の趣旨にかんがみれば、一般旅券発給拒否通知書に付記すべき理由としては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して一般旅券の発給が拒否されたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは、それによつて当該規定の適用の基礎となつた事実関係をも当然知りうるような場合を別として、旅券法の要求する理由付記として十分でないといわなければならない。この見地に立つて旅券法一三条一項五号をみるに、同号は『前各号に掲げる者を除く外、外務大臣において、著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認めるに足りる相当の理由がある者』という概括的、抽象的な規定であるため、一般旅券発給拒否通知書に同号に該当する旨付記されただけでは、申請者において発給拒否の基因となつた事実関係をその記載自体から知ることはできないといわざるをえない。したがつて、外務大臣において旅券法一三条一項五号の規定を根拠に一般旅券の発給を拒否する場合には、申請者に対する通知書に同号に該当すると付記するのみでは足りず、いかなる事実関係を認定して申請者が同号に該当すると判断したかを具体的に記載することを要すると解するのが相当である」。
●最一小判平成4年12月10日判時1453頁116頁
事案:Xは、東京都公文書の開示等に関する条例に基づき、警視庁から東京都に提出された文書(個人情報実態調査に関するもの)の開示を請求した。これに対し、東京都知事は、この文書が同条例第9条第8号に該当するものとして非開示とする決定を行った(その際、理由として「本条例9条8号に該当」と記載されていたのみであった)。Xは非開示決定の取消を求めて出訴した。東京地判平成3年3月1日行集42巻3号371頁はXの請求を棄却したが、東京高判行集42巻11・12号1806頁は東京地裁判決を取り消し、非開示決定を取り消した。東京都知事が上告したが、最高裁判所第一小法廷は上告を棄却した。
判旨:・「一般に、法令が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法令の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである」(前掲最二小判昭和38年5月31日を参照)。
・「本条例が右のように公文書の非開示決定通知書にその理由を付記すべきものとしているのは、同条例に基づく公文書の開示請求制度が、都民と都政との信頼関係を強化し、地方自治の本旨に即した都政を推進することを目的とするものであって、実施機関においては、公文書の開示を請求する都民の権利を十分に尊重すべきものとされていること(本条例一条、三条参照)にかんがみ、非開示理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してそのし意を抑制するとともに、非開示の理由を開示請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものというべきである。このような理由付記制度の趣旨にかんがみれば、公文書の非開示決定通知書に付記すべき理由としては、開示請求者において、本条例九条各号所定の非開示事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず、単に非開示の根拠規定を示すだけでは、当該公文書の種類、性質等とあいまって開示請求者がそれらを当然知り得るような場合は別として、本条例七条四項の要求する理由付記としては十分ではないといわなければならない」。
・「公文書の開示の請求は、開示を請求しようとする公文書を特定するために必要な事項を記載した請求書を提出してしなければならないとされている(本条例六条三号)ので、当該公文書の非開示理由として本条例九条八号に該当する旨の記載のみによって、開示請求者において、当該公文書の種類、性質あるいは開示請求書の記載に照らし、非開示理由が同号所定のどの事由に該当するのかをその根拠とともに了知し得る場合があり得るとしても、同号に該当する旨の記載だけでは、開示請求者において、非開示理由がいかなる根拠により同号所定のどの事由に該当するのかを知り得ないのが通例であると考えられる。これを本件についてみるに、被上告人によって前示のとおり特定された本件文書の種類、性質等を考慮しても、本件付記理由によっては、いかなる根拠により同号所定の非開示事由のどれに該当するとして本件非開示決定がされたのかを、被上告人において知ることができないものといわざるを得ない。そうであるとすれば、単に『東京都公文書の開示等に関する条例第九条第八号に該当』と付記されたにすぎない本件非開示決定の通知書は、本条例七条四項の定める理由付記の要件を欠くものというほかはない」。
・「公文書の非開示決定通知書に理由付記を命じた規定の趣旨が前示のとおりであることからすれば、これに記載することを要する非開示理由の程度は、相手方の知、不知にかかわりがないものというべきである」(最一小判昭和49年4月25日民集28巻3号405頁を参照)。「また、本件において、後日、実施機関の補助職員によって、被上告人に対し口頭で非開示理由の説明がされたとしても、それによって、付記理由不備の瑕疵が治癒されたものということはできない」。
●注意:いずれの判決も、制定法に理由付記に関する規定が存在する場合についての判断を示している。制定法にこの種の規定が存在しない場合には、理由付記を必要としていなかった。
なお、文書閲覧については、判例が存在していない。
4.「行政手続法」の構造その1
1993(平成5)年に公布され、翌年に施行された「行政手続法」は、当初から「申請に対する処分」(授益的行政行為などを指す)、「不利益処分」(賦課的行政行為などを指す)、行政指導および届出を設けていた。そのほとんどは実体法的規定ではなく、手続法的規定であるが、行政指導に関しては実体法的規定を含めた一般的規定を置く点に特徴がある。
他方、当初は行政立法や計画策定などに関する規定は存在しなかった。しかし、2005(平成17)年6月29日に公布された「行政手続法の一部を改正する法律」により、第6章「意見公募手続等」として第38条ないし第45条が追加された。これらは主に命令等(政令、政令、省令の他、地方公共団体の執行機関が制定する規則、審査基準、行政指導指針をいうとされる)を定める手続の規定を置いている。なお、計画策定手続に関する規定は現在も存在していない。
また、行政上の強制執行、即時強制、行政調査などは、「行政手続法」の対象ではない。
「行政手続法」は、行政手続(事前手続)に関する一般法であるが、同法第3条第1項において適用除外の範囲が定められており(この範囲は決して狭いと言えず、批判の対象となっている)、「行政手続法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律」においても適用除外の範囲が規定されている。この他、個別法において「行政手続法」の適用を除外するものも多い。
「行政手続法」に努力義務規定が多いことも注目される。例えば、「申請に対する処分」について、第6条(標準処理期間の設定)、第9条(情報の提供)、第10条(公聴会の開催)が努力義務規定である。
以下、「行政手続法」の構造を概観する。
(1)規定の対象
既に述べたように、「行政手続法」は、考えられうる全ての行政手続について規律をなす訳ではなく、次のものを対象とする。
一 「申請に対する処分」(主に授益的行政行為を指す)
二 「不利益処分」(賦課的行政行為を指す。但し、第2条第4号イ〜ニに該当するものを除く。)
三 行政指導
四 届出
五 行政立法〔政令、省令(「行政手続法」第2条第8号においては「法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む。次条第二項において単に「命令」という。)または規則」とされている)、行政規則のうちの審査基準、処分基準、行政指導指針が対象とされている〕
逆に、次のものは対象とならない。
一 行政立法のうちの上記以外のもの、行政契約、行政計画など(将来の課題?)
二 行政上の強制執行、即時強制、行政調査など(固有のしくみが求められるため、とされる)
そして、次のいずれかに該当する場合には「行政手続法」の適用が除外される。
一 第3条第3項により、地方公共団体の行為のうち、次のもの
「地方公共団体がする処分」のうち、根拠規定が条例又は規則に置かれているもの
行政指導
「地方公共団体の機関に対する届出」のうち、第2条第7号にいう「通知」の根拠規定が条例または規則に置かれているもの
「地方公共団体の機関が命令等を定める行為」
〔これらについては、地方公共団体が「措置を講ずるように努めなければならない」(同第46条)。現在、多くの地方公共団体において行政手続条例が制定され、施行されている。〕
注意:なお、「地方公共団体がする処分」であっても、根拠規定が法律に置かれているものについては、行政手続法の適用がある。また、「地方公共団体の機関に対する届出」であっても、第2条第7号にいう「通知」の根拠規定が法律に置かれているものについても、同法の適用がある。
二 第3条第1項各号において適用除外とされているもの
三 「行政手続法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律」において適用除外とされているもの
四 個別法において「行政手続法」の適用を除外するとされているもの
(2)第1条の目的規定について
「行政手続法」第1条は、同法の目的を示している。それによると、同法の目的は「行政運営における公正の担保と透明性」を向上させ、それによって「国民の権利利益の保護」を実現することにある、とされる。このことから、第1条の目的規定は、次のような性質を有することになる。
@第1条は、最終的に個人的な権利・利益の保護を主眼としている。このため、国民参加・住民参加の理念は盛り込まれていないと評価してよいであろう。仮にそれらの理念があるとしても稀薄であることは否めない。
A第1条は、行政手続における公正の担保と透明性の向上を中間目的としている。ここにいう透明性とは、処分の相手方(名宛人)、行政指導の相手方など、利害関係者にとっての透明性である。
(3)手続の基本原則
塩野・前掲書316頁は、「処分手続の基本原則」として次のものをあげる。
@職権主義の原則
A書面審理主義と口頭審理主義:一般的には書面審理主義であるが、不利益処分に関する聴聞手続は口頭審理主義を採ると解される。
B文書主義と口頭主義:個別の作用法次第ではあるが、文書主義が優先すると考えられる。
5.「行政手続法」の構造その2 申請に対する処分
「行政手続法」は、基準の設定・公表、標準処理期間の設定などについて、「処分」の性質に応じて行為義務と努力義務とを分けている。また、私人が権利を有する場合とそうでない場合などがある。
申請に対する処分 |
不利益処分 |
|
基準の設定・公表 |
行為義務(第5条、審査基準) |
努力義務(第12条、処分基準) |
標準処理期間の設定・公表 |
設定は努力義務(第6条) |
― |
申請に対する審査応答 |
行為義務(第7条) |
― |
理由の提示(理由付記) |
行為義務(第8条) |
行為義務(第14条) |
情報の提供 |
努力義務(第9条) |
― |
公聴会 |
努力義務(第10条) |
― |
複数の行政庁が関与する処分の迅速な処理 |
遅延の禁止は行為義務(第11条第1項) |
― |
聴聞手続(正式) |
― |
行為義務(第13条第1項第1号)、但し、不利益度による。 |
文書・資料等閲覧請求権 |
― |
行為義務(第18条。聴聞手続についてのみ認められる。拒否事由も定められている) |
行政不服申立ての制限 |
― |
聴聞手続を経てなされた処分については、行政不服申立てをなすことができない(第27条) |
弁明の機会の付与(略式) |
行為義務(第13条第1項第2号)、但し、不利益度による。 |
(1)「申請」および「処分」の意味
まず、「申請」とは、私人が、法令に基づいて行政庁の許可、認可など「自己に対して何らかの利益を付与する処分」を「求める行為」であって、これに対して「行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう」(「行政手続法」第2条第3号)。私人がただの通知を行うのでなく、何らかの行為を求めるのであり、行政庁は応答義務を負い、申請の内容に関して要件審査権限を有する。
「申請」と「届出」との違いに注意されない。「届出」の意味については後述する。
次に、「処分」とは「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう」(同第2号)。第9回において述べたように、「処分」についての満足な定義とはなっていないが、第3号に例示されているように、中核となるのが行政行為である。
従って、「申請に対する処分」には、行政法学に言う授益的行政行為の多くが該当することとなる。
(2)審査基準の設定・公表
@審査基準の意味
「行政手続法」第2条第8号ロは、審査基準を「申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準」と定義する。従って、審査基準は裁量基準と解釈基準の両方を指すこととなる。
ここで、裁量基準とは、裁量行使の基準を意味する。第5条により、基準の定立そのものは行政庁の行為義務であるが、いかなる基準を設定するかは行政庁の裁量に委ねられると考えられる。従って、裁判所は、裁量基準の適法性などを全面的に審査しうる訳ではない。すなわち、裁判所が、行政庁の判断を自らの判断に置き換えることはできない。
これに対し、解釈基準とは、処分の根拠となる法令(の規定)の解釈を内容とするものである。従って、裁判所は、解釈基準の適法性を全面的に審査しうる、と解すべきである。
第2条第8号ロは、同イと異なり、存在形式(政令、省令、告示、訓令・通達など)を示していないので、審査基準の存在形式には、閣議決定、告示、通達など、様々な形態が考えられるが、主に行政規則の形態をとることとなろう。
A審査基準の設定
前掲最一小判昭和46年10月28日は、個別法の解釈を通じて、手続が行政庁の独断を疑わせるような不公正なものであってはならず、法律の趣旨を具体化した審査基準の設定および公正かつ合理的な適用が必要であり、そして申請人に主張と証拠の提出の機会を与えなければならないと述べた。また、申請人には公正な手続を受ける法的利益があるとした。
B審査基準の設定手続
2005年の「行政手続法」改正により、第六章(第38条以下)が追加された。これにより、審査基準は意見公募手続の対象とされた。但し、それ以前からパブリック・コメントの対象とされていた。
C設定された審査基準の公表
前掲最一小判昭和46年10月28日は、審査基準の公表について述べていなかったが、審査基準を設定しても公表しなければ、申請(を行おうとする)者にとっては行政庁の諾否について予測がつかないこととなりかねない。また、審査基準の不公正な運用などに対するチェック機能が働かず、設定そのものの意味を失いかねない。そこで、「行政手続法」第5条第3項は、「行政上特別の支障があるときを除き」設定された審査基準の公表を義務づけることとした。
公表と記したが、正確には「申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない」とされているのであって、公にする方法は行政庁の裁量に委ねられている。従って、たとえばインターネットのウェブサイトにおいて広く公開しなければならないという訳ではない。要は申請(を行おうとする)者が実際に審査基準を目にすることができるようにしておかなければならない、ということである。
ここで、「行政上特別の支障があるとき」とは「定められた審査基準について、これを公にしておくと当該個別法の適正な運用に著しい支障を来すおそれがあって、申請者又は申請をしようとする者の不利益を考慮してもなお公益上の観点から公にしておかないほうがよいと判断される場合」をいう※。結局、この判断は行政庁の裁量に委ねられるということであろうが、この裁量の幅が広いと解されてはならないことは言うまでもない。
※行政管理研究センター編『逐条解説行政手続法』〔27年改訂版〕(2015年、ぎょうせい)137頁。
D審査基準の具体性の要請
「行政手続法」第5条第2項は「行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない」と定める。勿論、要請される具体性は許認可等の性質により異なるので、具体性の程度は「許認可等」の根拠規定にされるところが大きいであろう。見方を変えれば、根拠規定がどの程度まで行政庁の裁量に委ねているかということでもある。また、「許認可等の性質」によっては審査基準を設定する必要がない場合もありうる※。
※行政管理研究センター編・前掲書136頁は、「個々の申請について個別具体的な判断をせざるを得ないものであって、法令の定め以上に具体的な基準を定めることが困難であると認められる場合」をあげている。また、仙台高判平成20年5月28日判タ1283号74頁を参照。
ともあれ、具体性が要請されているため、審査基準が示さなければならないものとしては、例えば次のようなものが考えられる。
・技術上の基準
・許認可等が根拠規定の要件に適合している場合の優先順位
・許認可等を行政庁が行う際に考慮すべき事項
(3)標準処理期間の設定・公表
標準処理期間は、「行政手続法」第6条により、「申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間」と定義される。また、「法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合」には「当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間」を含むものとされる。
同条の視点は、行政運営の適正化の観点に置かれており、行政庁による申請の迅速な処理の確保が目的である。但し、申請を放置した場合の法的効果については範囲外であることに注意しなければならない。
標準処理期間の設定そのものは、行為義務でなく、努力義務に留められている。その理由として、行政庁の責任に帰さない事由により処理に要する期間が変わることがあり、その場合には設定が困難であることがあげられる。
もっとも、標準処理期間が設定されるならば、公表まで努力義務に留める必要性はない。そこで、行政庁には、標準処理期間を設定した場合の公表について行為義務が課せられる。
注意しなければならないのは、標準処理期間が定められている場合で、その期間を経過してもなお処分がなされないときに、そのことから直ちに不作為の違法が問われる訳ではない、ということである。標準処理期間があくまでも目安であることからすれば、仕方のないところではあろう。なお、この点については、旧行政不服審査法第3条・第49条以下、新行政不服審査法第3条・第4条、行政事件訴訟法第3条第5項および第6項・第37条・第37条の2以下も参照すること。
(4)審査応答
「行政手続法」第7条は「行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない」と定める。この規定は、「行政手続法」において私人の申請権が保障されることを最もよく示す規定である※。
※芝池義一『行政法読本』〔第3版〕(2013年、有斐閣)103頁。
引用した条文から明らかであるように、第7条は、行政庁に対し、次のことを行為義務として課する。
・申請が到達したら、遅滞なく審査を開始しなければならない。
・申請が形式上の要件に適合しない場合には、申請社に対し、補正を求めるか、申請の拒否をしなければならない。すなわち、応答義務が課せられる。
・従って、私人の申請を行政庁(行政機関)が窓口で受理を拒否する、あるいは受け付けない、というようなことをしてはならない。
・また、申請が行政機関に到達した後に「留保する」、すなわち審査を開始しないままでいることも許されない。
なお、学説においては、一般的に、第7条が準行政行為的行政行為としての受理の概念を排除したものと考えられている※。
※塩野・前掲書320頁、宇賀克也『行政法概論T行政法総論』〔第5版〕(2013年、有斐閣)419頁、大浜啓吉『行政法総論第三版行政法講義T』(2012年、岩波書店)247頁。芝池・前掲書102頁、櫻井敬子・橋本博之『行政法』〔第4版〕(2013年、弘文堂)212頁、中原茂樹『基本行政法』〔第2版〕(2015年、日本評論社)107頁も参照。
(5)理由の提示
行政庁に対し、処分と同時に理由の提示(理由付記などが該当する)を行うことを行為義務として課する規定は、第8条および第14条として「行政手続法」に置かれている。申請に対する処分については第8条が定めている。
第8条第1項本文にいう「申請により求められた許認可等を拒否する処分」は、申請の全部を拒否する処分はもとより、申請が形式上の要件に適合しないとして申請を拒否する処分も含まれる(第7条も参照すること)。また、申請の一部を拒否する処分についても同条が適用される。
また、これらの処分を行う際には、同時に、理由の提示を行わなければならない。提示が処分と同時に行われなかった場合、さらに全く理由が提示されない場合には、手続上の瑕疵を帯びる行為となるので、違法な処分となりうる(前掲最三小判昭和47年12月5日、前掲最三小判昭和60年1月22日、前掲最一小判平成4年12月10日を参照。また、後掲最三小判平成23年6月7日も参照)。但し、「法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる」(第8条第1項ただし書き)。
第8条(および第14条)には、理由を提示すべき程度に関して何ら言及していないが、これまでの判例にならい、単に根拠条文を示すだけでは足りず、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して(法的理由によって)申請を拒否したかが、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならない。この際に、相手方が理由を知っているか否かは問わない。従って、行政手続法が施行されている現在においては、該当する事実、処分の根拠条例に示された要件、さらに、適用すべき審査基準・処分基準を、理由として提示しなければならないこととなる(後掲最三小判平成23年6月7日を参照)。
(6)情報の提供
「行政手続法」第9条は、行政庁が審査の進行状況や処分の時期の見通しを示すこと(第1項)、ならびに「申請書の記載及び添付書類に関する事項その他の申請に必要な情報の提供」を行うことを、努力義務としている。なお、情報の提供は行政指導にあたらない。
(7)公聴会
「行政手続法」において、第三者の意見を聴取する機会についての規定は、公聴会の開催等を定める第10条以外にない。しかし、同条が「申請者以外の者の意見を聴く機会を設ける」ことを努力義務としていることから明らかであるように、広く国民参加や住民参加を正面から認める規定とはなっていない。
(8)複数の行政庁が関与する処分の迅速処理
「行政手続法」第11条第1項は、「行政庁は、申請の処理をするに当たり、他の行政庁において同一の申請者からされた関連する申請が審査中であることをもって自らすべき許認可等をするかどうかについての審査又は判断を殊更に遅延させるようなことをしてはならない」と定めている。これは明らかに行為義務である。一方、同第2項は「一の申請又は同一の申請者からされた相互に関連する複数の申請に対する処分について複数の行政庁が関与する場合」について「当該複数の行政庁」が「必要に応じ、相互に連絡をとり、当該申請者からの説明の聴取を共同して行う」ことなどによって審査を促進させることを努力義務としている。
6.「行政手続法」の構造その3 不利益処分
(1)不利益処分の意味
「不利益処分」は、「行政手続法」第2条第4号により、「行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう」と定義される。従って、基本的には行政法学にいう賦課的行政行為(侵害的行政行為)と同義である。但し、次のものは不利益処分とされない。
a.特定の者を名宛人としない処分(第4号本文)=対物処分(名宛人を想定していない)、一般処分(相手方が不特定多数の者であるという処分)
b−1.事実上の行為(第4号イ)=行政上の強制執行、即時強制など
b−2.事実上の行為をなすに際して範囲や時期を明らかにするため、法令によって必要とされている手続としての処分(第4号イ )=行政代執行の戒告など
c−1.申請拒否処分(第4号ロ)
c−2.「その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分」(第4号ロ)=申請に基づいて行われる取消(撤回)処分など
d.名宛人の同意の下になされる処分(第4号ハ)
e.「許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるもの」(第4号ニ)=行政行為の撤回のうち、事業の廃止の届出があった場合や、要件事実が事後的に消滅したという趣旨の届出があった場合のこと
(2)処分基準の設定および公表
「行政手続法」第2条第8号ハは、処分基準を「不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準」と定義する。やはり裁量基準と解釈基準とに分けることができるであろう。また、審査基準と同様に、処分基準の存在形式には様々な形態が考えられるが、やはり、主に行政規則の形態をとることとなろう。
第12条第1項は、処分基準の設定および公表について、審査基準と異なり、行政庁の努力義務としている。一応の理由として、画一的に定めることの技術的な困難性、公表することによる脱法的行為の助長のおそれがあげられる。申請に対する処分と比較して、定型性などが少ないと考えられるからであろう。
なお、処分基準を設定する場合には「不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない」(同第2項)。
(3)理由の提示
第14条により、行政庁の行為義務とされる。理由の提示が処分と同時に行われなければならない点は、申請に関する処分の場合と同様であり、理由を提示すべき程度についても、申請に関する処分の場合と同様である。なお、次の判決を参照されたい。
●最三小判平成23年6月7日民集65巻4号2081頁(T−120)
従って、不利益処分をなす際には、原則として告知・聴聞を行わなければならないこととなるが、「行政手続法」第13条第1項は、聴聞手続が行われる場合を限定的に定め、不利益処分の際に行われる手続として、聴聞、弁明の機会の付与の二種類を定めている。
このうち、聴聞は正式の手続と位置づけられており、同第1号により、次のような不利益処分をなそうとする際に行われなければならないこととされている。
・「許認可等を取り消す不利益処分」(同号イ)=これは、行政法学にいう取消はもとより、撤回も含む。
・「(許認可等を取り消す不利益処分以外で)名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分」(同号ロ)
・「名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分」(同号ハ)
・「(名あて人が法人である場合に)名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分」(同号ハ)
・「(名あて人が法人である場合に)名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分」(同号ハ)
・その他「行政庁が相当と認めるとき」(同号ニ)
以上のいずれにも該当しない不利益処分については、第2号により、略式の手続である弁明の機会の付与が行われる。
(5)聴聞手続
行政手続法が聴聞手続を正式なものと位置づけていることは、第15条以下において手続に関する詳細な規定を置いていることからも明らかである。ここでは概略のみを示しておくこととしよう。
聴聞を実施する際には、まず、不利益処分の名宛人(相手方)となるべき者に告知をしなければならない。「行政手続法」第15条第1項は「通知」として、書面により、以下の点を告知しなければならない旨を定める。
・「予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項」(第1号)
・「不利益処分の原因となる事実 」(第2号)
・「聴聞の期日及び場所」(第3号)
・「聴聞に関する事務を所掌する組織の名称及び所在地」(第4号)
この際、聴聞期日までに「相当な期間」を置かなければならない(第1項柱書)。
しかし、以上を通知しただけでは聴聞の実をあげることはできないであろう。そこで、第2項は、行政庁に対し、「通知」の書面において次の事項を名宛人に教示する義務を課している。
・「聴聞の期日に出頭して意見を述べ、及び証拠書類又は証拠物(以下「証拠書類等」という。)を提出し、又は聴聞の期日への出頭に代えて陳述書及び証拠書類等を提出することができること」(第1号。第20条および第21条も参照)
・「聴聞が終結する時までの間、当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができること」(第15条第2項第2号。第18条も参照)
聴聞主宰者は「行政庁が指名する職員その他政令で定める者」である(第19条第1項。同第2項に除斥事由が定められている)。「行政庁が指名する職員その他政令で定める者」であるが、「行政庁の事実認識に判断の誤りがないかどうかを聴聞の審理を通じて自己の責任において評価(意見)する必要がある」ことから「聴聞において処分庁たる行政庁から相対的に独立した人格として法律上これを位置付けて」いる※。
※行政管理研究センター編・前掲書210頁。櫻井・橋本・前掲書216頁も参照。
また、聴聞主宰者は、単に口頭審理を主宰するに留まらず、審理終了後に聴聞調書および報告書を作成しなければならない(第24条)。報告書においては聴聞主宰者の意見も記載されなければならず(同第3項)、行政庁はその意見を十分に参酌する義務を負う(第26条)。
聴聞手続における審理は、第20条に定められるところによる。すなわち、「最初の聴聞の期日の冒頭」に、聴聞主宰者が行政庁の職員に、予定されている不利益処分の内容、およびその根拠となる法令の条項、さらにその不利益処分の原因となる事実を「聴聞の期日に出頭した者に対して説明させ」ることから始まる(同第1項)。これを受けて、当事者または参加人※は、意見を陳述し、証拠書類を提出することができ、主宰者の許可を得ることを要件とはするが行政庁の職員に対して質問を行うことができる(第20条第2項)。他方、聴聞主宰者は、必要姓を認めたときには当事者または参加人に質問をすることができ、当事者または参加人に意見陳述または証拠書類等の提出を促すことができる。また、行政庁の職員に対して説明を求めることもできる(以上、同第4項)。
※「行政手続法」に定められる「参加人」や「関係人」の用語法は、ややわかりにくい。第17条第1項は、「第十九条の規定により聴聞を主宰する者(以下「主宰者」という。)は、必要があると認めるときは、当事者以外の者であって当該不利益処分の根拠となる法令に照らし当該不利益処分につき利害関係を有するものと認められる者(同条第二項第六号において「関係人」という。)に対し、当該聴聞に関する手続に参加することを求め、又は当該聴聞に関する手続に参加することを許可することができる」と定める。これを受ける形で、同第2項は「前項の規定により当該聴聞に関する手続に参加する者(以下「参加人」という。)は、代理人を選任することができる」と定める。他方、第19条第2項第6号は、聴聞主宰者の除斥事由として「参加人以外の関係人」をあげる。要するに、利害関係人のうち、聴聞主宰者が聴聞手続への参加を求めた者、または聴聞主宰者が聴聞手続への参加を許可した者が「参加人」であり、それ以外の者が「関係人」である、ということになる。
聴聞は非公開が原則であるが、行政庁の判断によって公開されることもありうる(第20条第6項)。
なお、聴聞手続を準司法的手続や行政審判などとして位置づけることはできない。そのため、聴聞手続を経てなされた行政庁の処分について、実質的証拠法則など特別の効果を認めることはできない※。
※塩野・前掲書279頁。
「行政手続法」第27条は、2014(平成26)年に新行政不服審査法が成立したこと(従来の行政不服審査法の全部改正)に伴って改正されたが、新行政不服審査法がまだ施行されていないため、現在は改正前の規定が施行されている。
まず、改正前の同第1項によると、
相手からの求めを受けて、行政機関は調査を行い、その結果により中止など必要な措置をとらなければならない(同第3項)。しかし、「求め」を申し出たものに対する行政機関の通知義務は定められていない。従って、申し出た者は、行政機関に対して結果に関する通知を求める権利を有しない。
8.「行政手続法」の構造その5 「処分等の求め」
やはり2014年の改正により、「行政手続法」に「第四章の二 処分等の求め 」が追加された。この章の規定は第36条の3のみであるが、これまで事実上の手続として行われた嘆願※などを、多少なりとも法的な意味のある行為とするものとして、注目しておく必要はある。
※森稔樹「租税法における行政裁量」『日税研論集65 税務行政におけるネゴシエーション』(2014年、日本税務研究センター)237頁も参照。
第36条の3第1項は、「何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることができる」と定める。
「求めることができる」ものは、「法令に違反する事実」を是正するためになされるべき処分または行政指導であるが、行政指導については、第36条の2第1項と同様に法律に根拠規定があるものに限定される。
上記の「求め」を受けた行政庁・行政機関は、必要な調査を行い、必要があると認めるときには「処分」または行政指導を行う義務を負う(同第3項)。但し、第36条の2と同様に、「求め」を申し出た者に対する通知義務は定められていない。従って、申し出た者は、行政機関に対して結果に関する通知を求める権利を有しない。
9.「行政手続法」の構造その6 届出
※戸籍法などの場合は、「届出」という文言が用いられていても、内容に関する要件審査権限が行政庁に認められるので、行政手続法第2条第7号にいう届出に該当しない。
念のため、届出と申請とを比較し、相違点をみよう。
まず、届出は、私人から行政機関へ、何らかの事柄を知らせることである。私人は、行政機関に対して何らかの行為を求めていない。従って、届出に対して行政機関の意思や判断がなされることはないし、なされてはならない。
第37条は、私人による届出の形式的な要件が充足されているならば、行政機関の事務所に到達したときに、届出の効果が生じることになる旨を定める。すなわち、私人が行った届出が行政機関の事務所に到達した段階で、私人の手続上の義務が履行されたことになる。このことから、行政機関は、届出が形式上の要件を充足しているならば、不受理(受理の拒否)や返戻などという扱いを行ってはならない(第37条にも規定される)。
それでは、届出の形式上の要件が充足されていない場合は、どのように扱われるべきであろうか。この点について「行政手続法」には規定が存在しない。そのため、個別法の解釈に委ねられることとなる※。
10.「行政手続法」の構造その7 意見公募手続等
(1)行政立法手続としての意見公募手続等
(2)「命令等」の意味
(3)「命令等を定める場合の一般原則」
第38条は、「行政手続法」において数少ない実体法的な規定である。第1項は「命令等を定める機関(閣議の決定により命令等が定められる場合にあっては、当該命令等の立案をする各大臣。以下「命令等制定機関」という。)は、命令等を定めるに当たっては、当該命令等がこれを定める根拠となる法令の趣旨に適合するものとなるようにしなければならない」と定め、行政立法を制定する際の一般原則を示す。また、第2項は「命令等制定機関は、命令等を定めた後においても、当該命令等の規定の実施状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、必要に応じ、当該命令等の内容について検討を加え、その適正を確保するよう努めなければならない」と定めている。
いずれも当然の事柄を規定しており、まさに確認的規定である※。しかし、第2項に定められた努力義務が重要視されている。
「行政手続法」第六章に規定される意見公募手続の大まかな流れを示すと、次のとおりである。
「命令等」の案および関連資料の公示(第39条第1項)→一般の意見・情報の公募(第39条第1項)→提出された意見・情報の考慮(第42条)→結果の公示(第43条)
「命令等」の案は、命令等制定機関が作成することとなるが、
案の公示は、勿論、広く国民(等)からの意見・情報の公募のためであるが、そのための期間、すなわち意見提出期間が設けられなければならない。この期間は、原則として、公示の日から起算して30日以上でなければならない(第39条第3項。但し、第40条第1項を参照)。
但し、委員会等の議を経て命令等を定めようとする場合で、委員会等が意見公募手続に準じた手続を実施したときには、命令等制定機関が自ら意見公募手続を行う必要がない(第40条第2項。準用については第44条も参照)。
一方、意見公募手続の実施の周知や、当該手続の実施に関連する情報の提供は、命令等制定機関の努力義務とされている(第41条)。
意見公募手続は、「命令等」の案に対する意見・情報を募り、案に国民(等)の意見などを反映させるための手続であるから、意見提出期間中に提出された意見・情報を命令等制定機関は十分に考慮しなければならない(第42条。行為義務である)。ここで考慮しなければならないのは、意見・情報の内容を考慮する義務であり、意見の多数・少数は無関係である。また、考慮することが義務づけられているのであって、提出された意見や情報を命令等に反映させるか否か、どの程度まで反映させるかは、命令等制定機関の判断に委ねられる。すなわち、命令等制定機関は、国民(等)から提出された意見・情報を必ず、命令等の内容に反映させなければならないという訳ではない※。
意見公募手続の最後として、結果の公示(等)がある。これは第43条に定められており、原則として、第1項各号に掲げられた事項を、当該命令等の公布(または公にする行為)と同時期に公示しなければならない。
・「命令等の題名」(第1号)
・「命令等の案の公示の日」(第2号)
・「提出意見(提出意見がなかった場合にあっては、その旨)」(第3号)
・「提出意見を考慮した結果(意見公募手続を実施した命令等の案と定めた命令等との差異を含む。)及びその理由」(第4号)
結果の公示(等)が求められる理由は、次の点に求められると考えられる。
・命令等制定機関による判断の合理性を担保すること。
・命令等制定機関の判断の合理性、同機関が意見・情報を十分に考慮するという義務を果たしたか否かについて、国民が検証する機会や材料を得ること。
・命令等制定手続の公正性の確保と透明性の向上。
・命令等制定手続に対する国民の信頼を確保すること。
審査基準・処分基準を「公にすること」の方法が行政庁の裁量に委ねられているのに対し、意見公募手続等の結果としての公示については「行政手続法」に明文で定められている。すなわち、第45条第1項は、公示を「電子情報処理組織その他の情報通信の技術を利用する方法」により行うものと定める。ここにいう「電子情報処理組織」は行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律第3条※に定義されている言葉であり、インターネットを意味する。従って、意見公募手続の公示については、インターネット上のウェブサイトを利用することが義務づけられるのである。
※「行政機関等は、申請等のうち当該申請等に関する他の法令の規定により書面等により行うこととしているものについては、当該法令の規定にかかわらず、主務省令で定めるところにより、電子情報処理組織(行政機関等の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下同じ。)と申請等をする者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。)を使用して行わせることができる。」
(2015年11月30日掲載)
(2017年10月26日修正)
(2017年12月20日修正)
〔戻る〕