第17回 情報公開法制度
以下、法律については次のように略記する。
行政機関の保有する情報の公開に関する法律⇒行政機関情報公開法
独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律⇒独立行政法人情報公開法
1.情報公開制度総論
(1)情報公開の意義
情報公開は、行政による情報管理の一態様であり、次の二つの意味を併せ持つ。
@行政機関が管理する情報を、私人の請求により開示すること。一般的に情報公開という場合は、この意味である。
A行政機関が管理する情報を、行政機関の側で積極的に提供すること。これは、情報提供とも言われている。広報もその一種であろう。
情報公開の出発点は、国民主権・民主主義の理念である(行政機関情報公開法第1条を参照)。この理念において、行政機関が収集し、管理する情報は、本来、国民の共有財産である。民主主義においては公開政治が原則であるから「国民主権から出発すれば、情報公開は当然である」※。また、行政運営の公開性、および国民に対する政府の説明責任も、国民主権・民主主権の理念から説明しうるものである。
※山崎正『住民自治と行政改革』(2000年、勁草書房)56頁注(4)。拙稿「大分県における情報公開(1)―大分地方裁判所平成12年4月3日判決の評釈を中心に―」大分大学教育学部研究紀要第22巻第2号427頁も参照。
(2)行政手続との関係、行政手続との違い
情報公開は、行政手続の整備と並び、適正な行政運営(国家運営)を担保するために欠かせないものである。恣意的な行政運営(国家運営)は、近現代史の教訓が示すように、行政ないし国家の堕落、さらには滅亡、破滅をもたらす。社会が複雑化し、行政に認められる裁量権が拡大する中において、情報公開と行政手続の整備は、いずれも必要不可欠なものであると考えてよいであろう。
但し、情報公開と行政手続は、考え方などに違いがある。
行政手続(法)の整備は、第16回において述べたところから明らかであると思われるが、元々、私人の権利や利益を国家権力から保護するという考え方に由来する。これは自由主義的な発想に基づいているのである。
それに対し、情報公開は、国民主権の原理に由来する。これは、行政への適切な参加、あるいは行政に対する監視という考え方である。
さらに言うならば、行政手続には事件性の観念が必要であるのに対し、情報公開に事件性の観念は不要である。従って、情報公開の場合、自己の権利や利益などと関係のない情報(文書)であっても請求の対象となる(横浜地判昭和59年7月25日行裁例集35巻12号2292頁および東京高判昭和59年12月20日行裁例集35巻12号2288頁を参照)。言い換えれば、情報公開の場合、開示請求権が広く国民・住民などに認められている。
また、歴史的な面での違いもある。行政手続法制の整備は国が先行したが、情報公開法制の整備は地方が先行した。情報公開条例の第1号は、1982年に制定された山形県金山町の条例である。都道府県における情報公開条例の第1号は、やはり1982年に制定された神奈川県の条例である。ちなみに、国の情報公開法は1999年に制定され、2001年に施行された。
(3)情報公開制度の憲法上の根拠
情報公開制度も、それが国や地方公共団体の制度である以上、憲法の理念に即したものでなければならない。それでは、情報公開法制度の憲法上の根拠は何処に求められるのであろうか。これについては、いくつかの説が存在する。
@憲法第21条説
国民の「知る権利」(表現の自由から導かれる)に求め、情報公開請求権が「知る権利」を具体化したものとする説である※。
※憲法学においては、「知る権利」の根拠を憲法第21条以外の条文に求める説も存在するが、ここでは通説に従っておく。
A国民主権説 特定の条文に求めるのではなく、国民主権原理から行政側のアカウンタビリティ(説明責任と仮に訳しておく)があるものと考える説である。
●「知る権利」は、憲法学説において一般化しているようであるが、意味や内容が広汎にわたり、とくに、情報開示請求権としての意味については、最高裁判決が出ていないこともあって、情報公開法には示されていない(若干の条例で示されているが)。
2.行政機関情報公開法の構造
(1)行政機関情報公開法の目的
昨今の実定法規と同様に、行政機関情報公開法第1条は法律の目的を示すものとなっている。この規定は、次のことを示している。
@前述のように、国民主権の理念を明示する。
A政府(対象は行政機関に限定される)が保有する情報に対する国民の開示請求権を認める。
通説は、この法律によって初めて具体的な情報開示請求権が認められると理解する。 もっとも、このような見解を採るとするならば、情報開示請求権の人権としての意味は薄まることも否定できない。
B「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにする」
C「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する」
これは、国民参加、そして国民による行政への監視と同義である。なお、「知る権利」が明示されていないことについては根強い批判が存在するが、表面的な事柄ではないかとする見解もある。
(2)対象となる機関(第2条第1項)
国の行政機関である。従って、会計検査院は対象となる機関であり※、外交、防衛、警察関係の行政機関も対象とされる。
※但し、不服審査の機関は、行政機関情報公開法第18条および会計検査院法第19条の2により、会計検査院の中に置かれる会計検査院情報公開・個人情報保護審査会である。
他方、国会や裁判所は行政機関でないことから除外される。また、地方公共団体も除外される。但し、国会や裁判所が作成した文書、地方公共団体が作成した文書であっても、その文書または写しが国の行政機関にあれば、開示の対象となる。
●独立行政法人、特殊法人、認可法人などは、独立行政法人等情報公開法の対象である※。同法別表第一および第二を参照されたい。
※特殊法人については、様々な定義が存在するが、ここでは、法律によって直接設立される法人(公社)、または特別の法律によって特別の設立行為をもって設立される法人(公団、事業団など)、と定義しておく。また、認可法人は、特別な法律によるが、私人の自主的な行為によって設立されるものをいう。
(3)対象となる文書
@「行政文書」
行政機関情報公開法第3条は「行政文書」の開示を規定している。ここにいう「行政文書」は、同第2条第2項において 「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政組織の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの」と定義されている(但し、第1号および第2号に規定されているものを除く)。
この定義から、「行政文書」には、文書は当然として、写真、フィルム、磁気テープ、パソコンで作成した文書データなども含まれることとなる。
そして、先行した地方公共団体の情報公開条例では「公文書」として決裁や供覧という手続を経た文書のみが公開の対象とされていたが、行政機関情報公開法ではこのような手続を経ていない文書でも開示の対象となる。従って、職員個人の私的なメモは開示の対象にならないが、組織的に使われているメモ(薬害エイズ事件で問題とされたノートなど)は、保管されているだけであっても開示の対象となる。
(4)開示に関する諸事項
@開示請求者
行政機関情報公開法第3条は、「何人も」情報開示請求権を有する旨を規定する。ここにいう「何人も」は文字通りのものであって、日本国民に限定されていないし、居住も要件になっていない。
情報開示請求権は、個人の権利であり、裁判上の救済を受ける。従って、開示請求に対して不開示決定がなされた場合、対象となる文書の内容を問わず、裁判や不服審査で争いうる。このことから、行政機関の長による開示決定・部分開示決定・不開示決定は、行政行為(処分)であり、行政手続法第2章にいう「申請に対する処分」に該当する。とくに同第8条が重要であり、不開示決定および部分開示決定(=一部不開示決定)については、不開示としたことについて行政機関の長が理由を示さなければならない。また、開示請求は、行政手続法第2条第3号にいう「申請」に該当する。
一方、義務についての一般的な規定はないが、手続として同第4条に規定がある(行政手続法よりも申請人の保護に厚い)。情報開示請求権者は、開示請求書という書面によって請求をするのであるが、その際、氏名、住所などの記載、行政文書の名称など、開示を請求しようとする行政文書を特定しうる事項の記載が求められる。法律上はこれらの記載のみで十分であり、その範囲を超える記載を行政機関から求められたとしても拒否できると理解すべきである。逆に言えば、行政機関は、行政機関情報公開法第4条に定められていない事項を要件として記載することを情報開示請求権者に強要することは、情報開示請求権者に萎縮効果などを生じさせかねず、情報公開法の趣旨からして許されないと理解すべきである。
ただ、実際には同第4条の範囲を超える記載などを求める省庁が存在する。これは、法律の趣旨を完全に逸脱しており、許されないものと解すべきである。
A行政機関の開示義務
同第3条が私人に情報開示請求権を認めていることとの関係で、同第5条は行政機関の開示義務を規定する。すなわち、行政文書については開示することが原則とされているのである。
もっとも、行政文書に含まれている情報であればいかなるものであっても開示しなければならないというものではないし、むしろ、開示してはならない情報(不開示情報)もある。不開示情報が含まれている場合には、情報の開示はできない。不開示情報を開示しないこと自体については、行政機関に裁量が認められない(但し、同第7条により、公益上特に必要であるとして開示することが認められる場合があることに注意を要する)。ただ、現実的には、一つの行政文書の中に開示情報と不開示情報とが混在することが多いため、部分開示が認められている。
B不開示情報とされるもの
行政機関情報公開法第5条各号は、不開示情報を定めている。各号ごとにみていくこととする。
第1号:個人情報。個人が識別されうるものであれば、原則として不開示である。
個人情報については、個人情報であれば定型的に不開示とするタイプ(個人識別型)と、プライバシーとして保護に値するならば不開示とするタイプ(プライバシー型)とが存在するが、情報公開法は個人識別型を採用する。
なお、個人情報であるから全てが不開示情報とされる訳ではない。第1号のイ〜ハは、個人情報でありながら不開示情報とされないものを列挙する。
かねてから、個人情報として開示(公開)か不開示(非公開)かが争われたのが、公務員の職および職務遂行に係る情報である。判例の蓄積などによって、地方公共団体の条例においては、職務遂行に関する情報である場合については、公務員の職のみならず、氏名を開示情報とする場合が多くなっている(最三小判平成15年11月11日民集57巻10号1387頁(T−35)、最三小判平成19年4月17日判時1971号109頁(T−37)を参照)。これに対し、情報公開法は、公務員の職および職務遂行の内容に係る情報を開示情報としており、氏名は含まれないとされている。但し、人事異動などの際に課長以上の職であれば開示されるのが慣行である。
〔念のために記しておくが、職務遂行に関係のない情報であれば、いかに公務員に関する情報であるといえども通常の個人情報と同じく不開示(非公開)とすべきである。例えば、公務員個人が保有する銀行預金の口座番号、運転免許証の番号などは不開示とされることになる。これらは公務員の個人的な生活に関わるからである。〕
第2号:法人の情報および個人の事業に関する情報。個人情報と異なり、イおよびロに掲げられた事由に限定されている。
イは「正答な利益を害するおそれのあるもの」となっていて、ノウハウや信用などを広く含むとされる。この場合、「おそれがあるもの」と規定されているので、「おそれ」が実際に存在したか否かについては裁判所の審査に服する。
ロはいわゆる任意提供情報で公にしないという条件が付されたものとなっている。但し、「行政機関の要請を受け」たものである、などの条件が付されている。
第3号:国の安全等に関する情報。これについては、「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」となっており、実際に「おそれ」があるか否かについての判断は行政機関の長の要件裁量が認められる。従って、裁判所は、行政機関の長が「おそれがある」と判断したことに「相当の理由」があるか否かについてのみ審査する(要件を全面的に審査するのではない)。
第4号:公共の安全と秩序の維持に関する情報。司法警察活動に関する情報である。これについても、「おそれがある」か否かについての判断は行政機関の長の要件裁量が認められるので、裁判所は、行政機関の長が「おそれがある」と判断したことに「相当の理由」があるか否かについてのみ審査する。
第5号:行政機関などの内部または相互間での審議、検討または協議に関する情報(意思形成過程情報)。この場合は「おそれ」があるか否かについて裁判所の全面的な審査が及ぶ。例えば、審議会における審議の内容が逐一公開されるならば、場合によっては外部からの不当な圧力や干渉を招くことになる。また、場合によっては不要な憶測を招き、地域の混乱などを招くこともありうる。そのため、このような情報は不開示とされるのである。しかし、逆に、審議や検討などの最中にある案件について、最終的な意思決定がなされるまでに不開示(非公開)としておくと問題が生じることもありうる(後掲最二小判平成6年3月25日を参照〕。
第6号:事務事業情報。この場合も「おそれ」があるか否かについて裁判所の全面的な審査が及ぶ。不開示とされる情報はイないしホに分類されているが、これは例示であるとされている。
なお、不開示情報については、審査基準を設定し、公表しなければならない(行政手続法第5条)。
C開示・不開示の判断
行政機関情報公開法に基づく開示請求がなされた場合、行政機関の長は開示または不開示の決定をなさなければならないが、既に述べたように、同第5条本文により、原則として開示決定をなさなければならないことになる。
しかし、例外として、行政機関の長は不開示決定をなすこともできる。一つは全部不開示で、これは申請に対する拒否処分としての性格を有する。次に部分開示であり、これは申請に対する一部拒否処分としての性格を有する。そして、同第6条第2項による、氏名など、個人識別情報を除外しての開示処分である。
同第7条は、前述のように、例外の例外を認めている。裁量的開示決定である。これは行政機関の長に効果裁量を認めるものである。
なお、同第8条は、特殊な判断として存否応答拒否処分を認めている(グローマー条項ともいう)※。開示請求の対象となっている文書の存否そのものを回答するだけで、開示請求の目的が達成される場合がある。その場合に、行政機関の長は、文書の存否を明らかにすることなく、開示請求を拒否することができるのである。北海道情報公開条例第12条は、存否応答拒否処分ができる場合を限定的に定めているが、行政機関情報公開法第8条は特別な限定を加えていないため、濫用されないことが望まれる※※。
※存否応答拒否処分は、アメリカの判例法で形成されたものである。CIAと国防総省が、当時のソ連の潜水艦グローマー・イクスプローラ号を合同で引き揚げようとした計画があった。これについて開示請求がなされた際に、記録の存否に関する応答が拒否されたという事件があった。これについて、1981年、連邦最高裁判所判決は拒否を妥当と解した。この事件がきっかけとなり、存否応答許否処分を定める規定をグローマー条項というようになった。
※※行政機関情報公開法第8条が適用される例として、塩野教授は国立病院に特定の人のカルテの開示請求があった場合をあげ、宇賀教授は司法試験の出題予定に関するものをあげる。
開示決定または不開示決定をなす際に、手続的に考慮しなければならない事項が存在する。同第13条は、第三者に対する意見書提出の機会の付与等を規定する。開示請求の対象となった行政文書に第三者の情報が記録されている場合がありうる。このときに、その第三者の情報が開示された場合に不測の権利侵害などが生じる可能性も否定できない。そのため、その第三者に意見書の提出などの機会を与えることができる。なお、同条のうちの第1項は裁量事項であり、第2項は義務的事項を定めるものである。
開示決定・部分開示決定・不開示決定のいずれも要式行為である(同第9条)。また、前述のように、部分開示決定・不開示決定については理由付記が求められる(同第8条)。
期間は、開示請求があった日から原則として30日以内とされている(同第10条第1項)。
(5)部分開示決定・不開示決定に対する救済措置
@救済措置を申し立てることができる者
まず、開示請求者は開示請求権を有するので、不服申立適格(行政不服審査制度)、原告適格(行政事件訴訟制度)を有する。
その他の個人や法人は、情報公開法によって保護される利益がある限り、行政機関情報公開法第13条・第19条・第20条にいう「第三者」として、不服申立適格(行政不服審査制度)、原告適格(行政事件訴訟制度)を有する。
A救済制度その1 行政事件訴訟
行政機関情報公開法に特別の規定が存在しないので、行政不服審査制度を利用することなく、直ちに、行政事件訴訟法に定められる抗告訴訟を提起することができる。
a.取消訴訟 従来から認められている。これは、開示請求者にも「第三者」にも認められる。
b.義務付け訴訟 行政事件訴訟法の改正によって明文で認められた(同第3条第6項第2号)。
c.差止訴訟 「第三者」が開示決定について提起することができる(同第3条第7項、第37条の4)。
B救済制度その2
直ちに抗告訴訟を提起するのではなく、行政不服審査制度を利用することができる。基本的には行政不服審査法の規定によるが、行政機関情報公開法には特別な手続が規定されている。
a.不服申立てがなされた場合、同第19条に規定されている場合を除き、行政機関の長は「情報公開・個人情報保護審査会」に諮問する。
b.諮問した旨を、不服申立人などに通知する(同条)。
c.諮問を受けた審査会は、審査の結果を答申として示すことになるが、答申の写しは不服申立人などに交付され、一般に公表される(情報公開・個人情報保護審査会設置法第16条)。
d.答申を受けた行政機関の長が、最終的に不服申立に対して裁決または決定を行う。行政機関の長は、審査会の答申に法的に拘束されないが、尊重される必要がある。
●情報公開・個人情報保護審査会(内閣府に設置される機関)
当初は情報公開審査会として情報公開法に規定された機関であったが、個人情報保護法の施行により、新たに情報公開・個人情報保護審査会設置法によって設置された。この機関は、行政機関情報公開法第18条、独立行政法人情報公開法第18条第3項、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(行政機関個人情報保護法)第42条および独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(独立行政法人個人情報保護法)第42条第3項による不服申立てについての調査・審議を行う権限を有する。委員は15名で、両議院の同意を得て内閣総理大臣によって任命され、原則として非常勤である(但し、5名以内を常勤とすることも可能)。任期は3年で、再任可能である。また、守秘義務が課されている。
情報公開・個人情報保護審査会の調査権限は、情報公開・個人情報保護審査会設置法第9条により、次のように定められている。
α.諮問庁(不服申立を受けた行政機関の長)に対し、行政文書または保有する個人情報の提供を求めることができる(諮問庁はこれを拒むことができない)。
いわゆるインカメラ審理が認められる。これは、裁判官にも認められていない権限である。
β.諮問庁に対し、行政文書等に記録されている情報、または保有する個人情報に含まれている情報の内容を、審査会の指定する方法によって分類または整理した資料を作成し、提出することを求めることができる。いわゆるボーンインデックスの作成の指示権である。
γ.不服申立人などに対して資料の提出や意見の陳述を求めることもできる。なお、調査審理手続は非公開である(同第14条)。
4.情報公開に関する判例
(情報公開法については判例がほとんど蓄積されていないので、以下は情報公開条例に関する判例を紹介しておく。)
(1)最一小判平成6年1月27日民集48巻1号53頁(大阪府知事交際費公開請求訴訟、T―34)
事案:大阪府の住民等であるXらは、大阪府公文書公開条例に基づいて、昭和60年1月から3月までの大阪府知事の交際費に関係する文書の公開を請求した。これに対し、知事Yは一部を公開したが、債権者の請求書および領収書、歳出額現金出納簿、支出証明書について、同条例第8条第1号・第4号・第5号、第9条第1号に該当するとして非公開とした。大阪地方裁判所はXの請求を認めたのでYは控訴したが、大阪高等裁判所は控訴を棄却したので、Yが上告した。最高裁判所は破棄差戻判決を下した。
判旨:知事の交際事務は、相手方との間の信頼関係や友好関係を増進するためのものである。そして、相手方の氏名などの公表などが当然に予定される場合は別として、相手方を識別できるような情報が公開されることになれば、懇談に際して、相手方に不快感や不信感を抱かせるなどの事態が考えられ、交際事務自体の目的を達成できなくなるおそれがある。そして、交際費の支出の要否や内容などは、知事の裁量により決定すべきであるが、交際の相手方や内容などが逐一公開されることとなれば、交際事務を適切に行うことについて著しい障害が生じるおそれがある。従って、債権者の請求書および領収書、歳出額現金出納簿、支出証明書のうち、懇談や慶弔などに関する文書で「交際」の相手方が識別しうるものは、氏名等が外部に公表されることが当初から予定されているものなどを除き、同条例第8条第4号・第5号によって非公開とすることができる。
また、知事の交際は職務で行われるとしても、相手方にとっては私事であり、懇談、慶弔などの別を問わず、具体的な費用や金額などについては他人に知られたくないと望むものである。従って、このような情報は、一般に公表などが予定されているものを除き、同条例第9条第1号によって公開してはならない情報に該当する。
(2)最三小判平成6年2月8日民集48巻2号255頁(大阪府水道部文書公開請求訴訟または大阪府食糧費情報公開訴訟)
事案:大阪府の住民であるXは、大阪府公文書公開条例に基づいて、昭和59年12月に行われた大阪府水道部の会議接待費および懇談会費についての公文書の公開を請求した。これに対し、Yは、この請求に対応する文書を支出伝票、債権者の請求書および経費支出伺と特定した上で、同条例第8条第1号・第4号・第5号に該当するとして非公開とした。Xは異議申立てを行ったがYは棄却の決定を行った。このため、Xが出訴した。大阪地方裁判所はXの請求を認めたのでYは控訴したが、大阪高等裁判所は控訴を棄却したので、Yが上告した。最高裁判所は、Yの上告を棄却した。
判旨:本件で問題とされた文書には、飲食店業者の営業上の秘密など秘匿を要する情報が記録されている訳ではなく、公開されたとしても業者の競争上の地位など正当な利益を害するとは認められがたい。
本件の情報は、大阪府水道部の事務事業遂行に関するものであり、内容次第では非公開事由に該当しうるが、本件の場合は開催場所、開催日、人数などに関するものであり、相手方の氏名もほとんど含まれておらず、懇談会などの内容が明らかになるようなものではない。このため、公開することによって事務の目的が達成できなくなり、または事務の公正かつ適切な執行に著しい障害を及ぼすおそれがあるとは言い難い。
懇談会等に関する文書を公開することにより、大阪府公文書公開等条例8条4号・5号にいう事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるというためには、Yの側において、当該懇談会等が企画調整事務または交渉等事務に当たり、しかもそれが事業の執行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行われたものであり、かつ、当該文書を公開することによって懇談会等の相手方等が了知される可能性があることを主張、立証する必要がある。こうした点についての判断を可能とする程度に具体的な事実を主張、立証しない限り、公開による著しい支障が存在すると判断することはできない。
(3)最二小判平成6年3月25日判時1512号22頁(京都府鴨川ダムサイト情報公開訴訟、T―36)
事案:京都府知事Yは、鴨川の河川管理者であり、鴨川の改修計画について幅広く意見を聴くために鴨川河川協議会を設置した。この協議会においてダムサイト候補地点選定位置図が提出された。そして、協議会が終了した後、ダム構想の存在と先の位置図が提出されたことが記者会見で発表された。これを知ったXは、京都府情報公開条例に基づいてダムサイト候補地点選定位置図の公開を請求したが、Yは、これが条例第5条第6号に規定される意思形成過程情報に該当するとして非公開の決定をした。なお、ダムサイト候補地点選定位置図は初期の段階の資料であり、地質などの自然要件や用地確保の可能性などといった社会的条件については全く考慮されていなかった。
京都地方裁判所は、Yの処分を違法とした。これに対し、大阪高等裁判所は、Yの処分が相当であるとしてXの請求を棄却した。理由として、先の記者会見によって委員や担当課に対して交渉の申し入れや強要があったなどという事実の下では、本件文書が意思形成過程における未成熟な情報であり、これを公開すれば無用の誤解や混乱を招き、さらに協議会の意思形成を公正かつ適切に行うことに著しい支障が生ずるおそれがあると述べている。
判旨:最高裁判所第二小法廷は、大阪高等裁判所の判断を正当として是認し、京都府情報公開条例第5条第6号が憲法第21条などに違反するというXの主張を退けた。
(2017年10月25日掲載)
(2017年12月20日修正)
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