第21回    行政不服審査制度―2014(平成26)年行政不服審査法の概要―

 

 

 ▲以下、平成26年度改正前の行政不服審査法(昭和37年9月15日法律第160号)を旧行政不服審査法と記す。また、現行の行政不服審査法(平成26年6月13日法律第68号)を新行政不服審査法と記す。

 

 1.行政不服審査制度の意義

 行政不服審査制度とは、行政行為など、行政庁による公権力の行使に対する不服を行政機関に対して申し立てる手続(制度)のことである。一般法として行政不服審査法が存在する。一応は私人の権利・利益の正式な救済制度として位置づけられるが、行政事件訴訟制度よりは簡略化された制度である。

 行政不服審査制度は、行政事件訴訟制度と比べ、次のようなメリットがある。

 第一に、簡易迅速性と経済性が高いことである。

 第二に、処分の妥当性・不当性の問題をも扱うことが可能であることである。行政事件訴訟の場合、処分の適法・違法の問題だけが対象となるのであり、当・不当の問題は扱われないこととなる。従って、裁判所は、裁量権の逸脱・濫用の有無を審査し、有りと認められるならば当該処分を違法と判断しうるが、無いと認められるならば、当該処分の当・不当の問題に留まるが故に適法と判断せざるをえない。これに対し、行政不服審査の場合は、処分の当・不当の問題も扱われることとなっているから、行政不服審査を担当する行政庁(審査庁)は不当な行政処分についても取り消すことができる。

 第三に、大量になされる処分について、争点を或る程度明確にし、裁判所の過重負担を避けうることである。

 第四に、行政にとっても自己統制を図る機会となりうる(勿論、あくまでもその可能性があるということである)。

 

 2.行政不服審査制度の特徴

 現行の行政不服審査制度を歴史的に概観する際に、まず取り上げられなければならないのが訴願法(明治23年10月10日法律第105号)である。この法律は日本国憲法施行下においても存続し続けたが、権利・利益の救済制度としては不十分な制度であり、1962(昭和37)年、旧行政不服審査法の施行とともに廃止された。

 まず、訴願法第1条は、訴願の対象を第1号から第6号までにおいて限定列挙していた。これを列挙主義という。その結果として、同法によっては事実行為および行政庁の不作為に対する不服申立てが認められていなかった。

 ※同条は他に法律や勅令においてとくに訴願を許すものも含めていたが、限定列挙であることに変わりはない。

 また、訴願法には教示制度も定められていなかった。

 これに対し、旧行政不服審査法は、不服申立ての対象を法令で限定しなかった。これを概括主義という(例外は同第4条)。その結果として、事実行為に対する不服申立て(同第2条第1項)および行政庁の不作為に対する不服申立ても認められた(同第2条第2項)。一方、同法は、不服申立ての種類として審査請求と異議申立てを基本に据え、審査請求中心主義を採っていた。審査請求と異議申立ての違いは、基本的には不服申立てを審理・裁断する機関の違いによるものであるが(同第3条第2項、同第5条、同第6条などを参照)、この区別が必ずしも一貫しておらず、そのこともあってかなり複雑な制度となっていた。よく、行政法学の教科書などで行政不服審査制度を簡易迅速な救済制度というように表現するが、旧行政不服審査法はそのような制度と言い難い部分も有していた。

 ※この他、再審査請求も規定されていた(同第3条第1項、同第8条)。

 もっとも、訴願法と異なり、旧行政不服審査法には教示制度が定められており(同第57条)、教示すべき場合に行政庁が教示をしなかった場合の不服申立て(同第58条)、誤った教示を受けた場合の救済措置(同第19条、同第20条)も定められていた。

 1993(平成5)年に行政手続法が制定され、2004(平成16)年に行政事件訴訟法が改正されたことにより、旧行政不服審査法もこれらの法律(とくに行政事件訴訟法)に対応したものとなることが求められるようになった。そこで2008(平成20)年4月11日に行政不服審査法案が第169回国会に提出されたが、閉会中審査を繰り返した上で、結局、2009(平成21)年の第169回国会で審議未了のまま廃案となった。その後の紆余曲折を経て、2014(平成26)年の第186回国会に新行政不服審査法案が提出され、可決・成立した。

 新行政不服審査法も、不服申立ての対象について概括主義を採り(同第7条)、事実行為に対する不服申立ておよび行政庁の不作為に対する不服申立てを認める(事実行為について同第1条第2項および同第2条、行政庁の不作為について同第3条)。しかし、不服申立ての種類については、旧行政不服審査法と異なり、審査請求に一本化した。すなわち、新行政不服審査法第2条は処分についての審査請求を定め、同第3条は行政庁の不作為についての審査請求を定める。

 一方、新行政不服審査法は、審査請求への一本化に対する例外として、再調査の請求(同第5条および同第54条以下)、再審査請求(同第6条および第62条以下)を定める。

 このうち、再調査の請求は、審査請求の前段階の手続として認められるものであり、国民は再調査の請求と審査請求のいずれかを選択することができるが、再調査の請求を選択した場合には、その際調査の請求についての決定を経なければ、審査請求を行うことができない(同第5条第2項柱書本文)。

 また、再審査請求は、法律が認める場合に、審査請求の裁決に不服がある者が行うことができる。

 

 3.行政不服審査の要件

 〔1〕審査請求書の提出

 旧行政不服審査法第9条は、原則として書面の提出によって審査請求を行う旨を定めていた。書面主義を採用していた訳である。また、同第17条は、処分庁を経由して審査請求を行うことができる旨を定めていた。

 新行政不服審査法も、書面主義を引き継いだ。すなわち、審査請求は、原則として審査請求書の提出による(同第19条第1項)。

 審査請求書に記載しなければならない事項は、審査請求の内容により異なる。

 まず、処分についての審査請求書については、次の事項を記すこととされている。

  ・審査請求人の氏名または名称、および住所または居所(同第2項第1号)。

  ・審査請求に係る処分の内容(同第2号)。

  ・審査請求に係る処分があったことを知った年月日。当該処分についての再調査の請求に対する決定を経たときには、当該決定があったことを知った年月日(同第3号)。

  ・審査請求の趣旨および理由(同第4号)。

  ・処分庁の教示の有無。教示があった場合には、その教示の内容(同第5号)。

  ・審査請求の年月日(同第6号)。

  ・同第5条第2項第1号に該当する場合で再調査の請求に対する決定を経ないで審査請求をするときには、再調査の請求をした年月日(同第19条第5項第1号)。

  ・同第5条第2項第2号に該当する場合で再調査の請求についての決定を経ないで審査請求をするときには、当該決定を経ないことについての正当な理由(同第19条第5項第2号)。

  ・審査請求期間を経過した後に審査請求をする場合には、同第18条第1項ただし書きまたは第2項但し書きに規定する正当な理由(同第19条第5項第3号)。

 行政庁の不作為についての審査請求書については、同第3項により、次の事項を記すこととされている。

  ・審査請求人の氏名または名称、および住所または居所(同第1号)。

  ・行政庁の不作為に係る処分についての申請の内容、および当該申請を行った年月日(同第2号)。

  ・審査請求の年月日(同第3号)。

 審査請求人が法人である場合には、同第19条第2項各号または第3項各号に掲げられる事項の他に、法人の代表者の氏名および住所または居所を記載しなければならない。権利能力なき社団または財団である場合、総代を互選した場合、代理人により審査請求をする場合についても「その代表者若しくは管理人、総代又は代理人の氏名及び住所又は居所を記載しなければならない」(同第4項)。

 また、同条に違反する審査請求書については、審査庁が「相当の期間」を定めた上で審査請求人に補正を命ずる(同第23条)。この期間内に補正が行われなければ、審査庁は却下裁決を下すことができる(同第24条第1項)。

 旧行政不服審査法時代に、提出された書類が不服申立ての申し出なのか陳情書なのかについて問題となることがあった。新行政不服審査法においても同様の問題が生ずる可能性もあろう。これについては、次に示す訴願法時代の判決が参考になる。

 ●最二小判昭和32年12月25日民集11巻14号2466頁

 鳥取市内で大火災が発生した後、鳥取県知事が都市計画法施行令第17条(当時)に基づいて土地区画整理施行規程を告示し、土地所有者や関係人の縦覧に供したところ、施行区域内の土地所有者から「都市計画法に基く区画整理異議申立書」が提出された。鳥取県火災復興事務所長は、この文書が同条に基づく異議の申出なのか陳情書なのかについて疑問を抱き、鳥取市長に真意を確認させたところ、提出者は陳情書であると回答した。そこで、鳥取県知事は、異議申立てがなされていないと判断して都市計画審議会の議決に付さず、施行規程などを認可し、換地予定地指定処分を行った。この処分を受けたXらが手続上の重大な瑕疵を主張し、処分の無効確認を求めた。

 鳥取地方裁判所はXの請求を認容したが、広島高等裁判所松江支部はXの請求を棄却し、最高裁判所第二小法廷も、本件の文書が都市計画法施行令第17条(当時)による異議の申出であるのか陳情であるのかは、当事者の意思解釈の問題に帰すると述べて、Xの上告を棄却した。

 〔2〕口頭による審査請求ができる場合

 既に新行政不服審査法第19条第1項も書面主義を引き継いだ旨を記したが、同項は、例外として法律または条例に特別の規定がある場合には審査請求を口頭で行うことができる旨を定める(旧行政不服審査法においても同様であった)。

 この場合には、審査請求人が新行政不服審査法第19条第2項から同第5項までに規定する事項を陳述し、その「陳述を受けた行政庁」が内容を録取し、審査請求人に読み聞かせて誤りの無いことを確認した上で押印させなければならない(同第20条)。

 〔3〕審査請求の対象としての「処分」

 旧行政不服審査法第2条第1項は、「この法律にいう『処分』には、各本条に特別の定めがある場合を除くほか、公権力の行使に当たる事実上の行為で、人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するもの(以下「事実行為」という。)が含まれるものとする」と定めていた。

 一方、新行政不服審査法第1条第1項は「この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする」と定め、同第2項は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下単に「処分」という。)に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる」と定める。

 旧法と新法とで表現は異なり、しかも旧法の規定がややわかりにくい表現を採っているが、いずれも「処分」を審査請求の対象としていることを表しており、その「処分」の意味するところも同じである(さらに行政手続法第2条第2号、行政事件訴訟法第3条第2項を参照。新行政不服審査法第1条第2項の表現は行政手続法第2条第2号と同じである)。従って、次のようなものが「処分」である。

 a.行政庁が法令に基づき、公権力を行使して(すなわち優越的立場で)、国民・住民に対して、個別的・具体的に法律上の効果を発生させる行為。これは行政行為であり、「処分」の中心となるべき存在である。

 b.公権力の行使にあたる事実行為であり、かつ「人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するもの」。このようなものは行政行為ではないが、公権力の行使にあたり、しかも名宛人に対する事実上の効果または影響が行政行為と類似するために「処分」に含めている。

 しかし、具体的な「処分」の意味について、行政事件訴訟法第3条第1項と同様の解釈問題が存在する。これについては第23回において取り上げることとする。

 なお、対象としうる「処分」の範囲は、行政不服審査法(新旧とも)と行政事件訴訟法で少々異なる。このことにも注意を要する。

 ここで、改めて新行政不服審査法第1条第1項をお読みいただきたい。そこには「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為」と書かれている。これは、審査請求人が違法と考える「処分」はもとより、違法ではないが不当と考える「処分」についても、審査請求の対象となりうることを示している。従って、裁量行為についても幅広く審査請求の対象としうることとなる。以上の点は、旧行政不服審査法においても同じであった。

 これに対し、行政事件訴訟法は、違法な「処分」のみを抗告訴訟の対象とするのであり、不当な「処分」を対象としない。同第30条が「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる」と定めているのがその表れであるが、裁判所の権能を考えれば当然のことでもある。すなわち、裁判所は行政庁の行為または活動が適法か違法かを判断する機関なのであり、妥当か不当を判断する機関ではない。従って、裁判所が当該行為を適法と判断するならば、たとえ妥当性を欠いているとしても適法であることに変わりはないから、当該行為を取り消すことはできないのである。

 〔4〕審査請求の対象としての「不作為」

 ここにいう「不作為」とは、新行政不服審査法第3条により「法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないことをいう」と定義されている。なお、旧行政不服審査法も行政庁の「不作為」を審査請求および異議申立ての対象としていた。

 〔5〕審査請求期間

 (1)処分について

 旧行政不服審査法第14条第1項は審査請求の期間を、同第45条は異議申立ての期間を、いずれも原則として「処分のあつたことを知つた日の翌日から起算して六十日以内」と定めていた。

 これに対し、新行政不服審査法第18条は、次のように規定し、期間を延長した。

 まず、主観的審査請求期間については、原則として「処分があったことを知った日の翌日から起算して」3か月以内とされる。また、先に再調査の請求を行った場合については「再調査の請求についての決定があったことを知った日の翌月から起算して」1か月以内とされる(同第1項本文)。

 ここで「処分があったことを知った日」とは、例えば、処分が名宛人に対して個別に通知される場合は、処分があったことを名宛人が現実に知った日(通知書が名宛人の住居に到着した日、など)のことである。但し、次の判例に注意されたい。

 ●最一小判平成14年10月24日民集56巻8号1903頁(U―131)

 事案:群馬県知事は、都市計画法第59条第1項に基づいて、平成8年9月5日に前橋都市計画道路事業3・4・26号県道の認可をし、同月13日に同法第62条第1項に基づいてその告示をした。被上告人(原告)は、同年12月2日、建設大臣(当時)に対して県知事の認可の取消しを求める審査請求をしたが、建設大臣は、行政不服審査法14条第1項に定められた審査請求期間はこの認可の告示の日の翌日から起算すると解し、この期間の徒過を理由として審査請求を却下する裁決をした。そこで被上告人が裁決の取消しを求めて出訴した。東京地判平成11年8月27日は被上告人の請求を棄却したが、東京高判平成12年3月23日判時1718号27頁は、「処分があつたことを知つた日」とは現実に知った日を意味するなどとして東京地裁判決を取り消し、建設大臣の裁決を取り消した。建設大臣が上告し、最高裁判所第一小法廷は東京高裁判決を取り消し、被上告人の請求を棄却した。

 判旨:旧行政不服審査法第14条第1項本文にいう「処分があつたことを知つた日」とは「処分がその名あて人に個別に通知される場合には、その者が処分のあったことを現実に知った日のことをいい、その者が処分のあったことを知り得たというだけでは足りない」が、「都市計画法における都市計画事業の認可のように、処分が個別の通知ではなく告示をもって多数の関係権利者等に画一的に告知される場合には、そのような告知方法が採られている趣旨にかんがみて、上記の『処分があつたことを知つた日』というのは、告示があった日をいうと解するのが相当である」。

 次に、客観的審査請求期間については、原則として、処分があった日の翌日から起算して1年以内とされる。また、先に再調査の請求を行った場合については、当該再調査の請求についての決定があった日の翌日から起算して1年以内とされる(同第2項本文)。公示送達の場合など、限られた場合にしか適用されない。

 いずれも「正当な理由があるとき」には上記の期間を超えていても審査請求が認められることとなっている(同第1項ただし書き、同第2項ただし書き)。

 (2)不作為について

 不作為が続く間であれば、審査請求を行うことが可能である。但し、「申請から相当の期間が経過しないでされた」審査請求であれば、審査庁は却下裁決を下す(同第49条第1項)。この「相当の期間」については、結局のところ個別具体的な検討を待つしかないが、行政庁が標準処理期間を定め、公にしている場合(行政手続法第6条)には、その標準処理期間が参考となる

 ※宇賀克也『行政不服審査法の逐条解説』(2015年、有斐閣)18頁。行政不服審査制度研究会編集『ポイント解説新行政不服審査制度』(2014年、ぎょうせい)32頁も参照。

 (3)再調査の請求

 新行政不服審査法第54条により、原則として、主観的請求期間は「処分があったことを知った日の翌日から起算して」3か月(同第1項)、客観的請求期間は「処分があった日の翌日から起算して」1年(同第2項)とされる。

 (4)再審査請求

 同第62条により、原則として、主観的請求期間は「原裁決があったことを知った日の翌日から起算して」1か月(同第1項)、客観的請求期間は「原裁決があった日の翌日から起算して」1年(同第2項)とされる。

 〔6〕審査請求適格を有する者(不服申立適格を有する者)

 ▲旧行政不服審査法第4条は、違法または不当な処分により、直接に自己の権利利益を侵害された者は、不服申立て人となる資格を有すること、また、「直接に自己の権利利益を侵害された」とは言えなくとも 「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害されるおそれのある者」も不服申立て人となる資格を有することを定めていた。しかし、実際にいかなる場合が「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害されるおそれのある」場合であるかは、必ずしも明確なものではない。そのため、行政事件訴訟法第9条に定められる原告適格と同様に、誰が不服申立てをなすことができるのか、言い換えれば不服申立適格を有する者の範囲という問題があった。

 ●最三小判昭和53年3月14日民集32巻2号211頁(主婦連ジュース訴訟、U―132)

 事案:公正取引委員会は、社団法人日本果汁協会などの申請に基づき、果汁飲料等の表示に関する公正競争規約を認定した。これに対し、主婦連などは、この認定が不当景品類及び不当表示防止法第10条第2項第1号ないし第3号の要件に適合せず不当であるとして、公正取引委員会に不服申立てをした。公正取引委員会は、主婦連などに不服申立て適格がないとして却下審決を出した。そこでこの審決の取消しを求める訴訟が提起されたが、東京高判昭和49年7月19日行集25巻7号881頁は請求を棄却し、最高裁判所第三小法廷も上告を棄却した。

 判旨:不当景品類及び不当表示防止法第10条第6項にいう「公正取引委員会の処分について不服があるもの」とは、一般の「処分」についての不服申立ての場合と同様に「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害されるおそれのある者」をいう。そして、「法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であって、それは、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定のものが受けることとなる反射的利益とは区別されるべきものである」。不当景品類及び不当表示防止法の目的は公益の保護であって、一般消費者の受ける利益は「反射的な利益ないし事実上の利益」にすぎ」ない。

 ●最一小判昭和56年5月14日民集35巻4号717頁(U―134)

 事案:某市議会議員のXは、同市議会議員のAが当選後の4ヶ月間に同市の廃棄物収集業務を請け負う会社の取締役の地位にあり、地方自治法第92条の2に違反するとして、同第127条第1項によるAの議員資格の有無に関する決定を求めた。市議会はAが議員資格を有するという決定をしたので、Xは知事Yに審査の申立てをしたが、Yは却下裁決を出した。そこで、Xは却下裁決の取消を求めて出訴した。長崎地判昭和55年3月31日判時971号46頁および福岡高判昭和55年7月17日民集35巻4号734頁は請求を認容したが、最高裁判所第二小法廷は二審判決を破棄し、Xの請求を棄却した。

 判旨:地方自治法第127条第1項による決定は「特定の議員について右条項の掲げる失職事由が存在するかどうかを判定する行為で、積極的な判定がされた場合には当該議員につき議員の職の喪失という法律上の不利益を生ぜしめる点において一般に個人の権利を制限し又はこれに義務を課する行政処分と同視せられるべきものであって、議会の選挙における投票の効力に関する決定とは著しくその性格を異に」する。そのため、「不服申立をすることができる者の範囲は、一般の行政処分の場合と同様にその適否を争う個人的な法律上の利益を有する者に限定されることを当然に予定し」ており、その決定によって職を失うことになる当該議員に対して不服申立ての権利を与えたものにすぎない。

 ▲新行政不服審査法第2条は、「行政庁の処分に不服がある者は、第4条及び第5条第2項の定めるところにより、審査請求をすることができる」と定める。旧行政不服審査法第4条と異なって「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害されるおそれのある者」という文言はないが、新行政不服審査法第2条は旧行政不服審査法第4条の趣旨を否定したものではないとされている。従って、不服申立て適格の問題は審査請求適格の問題として残ることとなった。

 その際に注意しなければならないのが、行政事件訴訟法第9条第2項の存在である。審査請求適格の判断についても、同項が参照されなければならないのである。すなわち、審査請求適格については、次の事項について考慮をしなければならない。

 ・処分の根拠規定の文言

 ・法令の趣旨・目的(当該法令はもとより、関係法令についても参酌しなければならない)

 ・当該処分により侵害される利益の内容・性質、侵害の態様や程度

 〔7〕審査請求などの提起先

 (1)審査請求の提起先

 新行政不服審査法第4条が規定するが、旧行政不服審査法と比較しても複雑なものと言いうる。次の表を御覧いただきたい。

  審査庁(提起先) 該当号
処分庁または不作為庁に上級行政庁がない場合(例、会計検査院、人事院、公正取引委員会) 当該処分庁または不作為庁 第1号
処分庁または不作為庁が主任の大臣である場合
処分庁または不作為庁が宮内庁長官である場合
処分庁または不作為庁が内閣府設置法第49条第1項に規定される庁の長である場合
内閣府の外局として置かれる庁のこと。従って、庁の長官が提起先であり、審査庁である。
処分庁または不作為庁が内閣府設置法第49条第2項に規定される庁の長である場合
(現在はこのような庁が存在しない)
処分庁または不作為庁が国家行政組織法第3条第2項に規定される庁の長である場合
各省の外局としておかれる庁のこと。従って、庁の長官が提起先であり、審査庁である。
宮内庁長官が処分庁または不作為庁の上級行政庁である場合 宮内庁長官 第2号
内閣付設置法第49条第1項に規定される庁の長が処分庁または不作為庁の上級行政庁である場合 当該庁の長
内閣府設置法第49条第2項に規定される庁の長が処分庁または不作為庁の上級行政庁である場合
国家行政組織法第3条第2項に規定される庁の長が処分庁または不作為庁の上級行政庁である場合
主任の大臣が処分庁または不作為庁の上級行政庁である場合 主任の大臣 第3号
上記以外の場合 当該処分庁または不作為庁の最上級行政庁 第4号

 なお、同第21条第1項により、「審査請求をすべき行政庁が処分庁等と異なる場合における審査請求は、処分庁等を経由してすることができる」(同前段。後段も参照)。

 (2)再調査の請求

 処分庁に対して行う(同第5条)。なお、不作為は再調査の請求の対象とならない。

 (3)再審査請求

 別に法律の規定がある場合に行いうるものであるため、その法律に定められた行政庁に対して行うこととなる(同第6条)。

 〔8〕教示制度

 (1)必要的教示

 旧行政不服審査法(第57条以下)においても教示制度が定められていたが、新行政不服審査法においては第82条以下に定められている。同第82条第1項に定められるのが必要的教示であり、行政の決定通知書の末尾に、必ず、不服申立てのできること、不服申立てをすべき行政庁、不服申立期間が記載されなければならない旨が規定される。

 (2)利害関係人の請求による教示

 同第2項および第3項には、利害関係人の請求による教示が定められる。

 (3)教示すべき場合に行政庁が教示を行わなかった場合の不服申立て

 同第82条による教示を行政庁が行わなかった場合には、処分について不服がある者は当該行政庁に不服申立書を提出することができる〔同第83条第1項。この場合には、同第2項により第19条(同第5項第1号および第2号を除く)が準用される〕。

 また、当該処分が処分庁以外の行政庁に対して審査請求をすることができる処分であるときは、処分庁が「速やかに、当該不服申立書を当該行政庁に送付しなければならない(第83条第3項)。これにより不服申立書が送付されたときには「初めから当該行政庁に審査請求又は当該法令に基づく不服申立てがされたものとみな」され(同第4項)、第83条第1項によって不服申立書が提出されたときには「初めから当該処分庁に審査請求又は当該法令に基づく不服申立てがされたものとみな」される(同第3項の場合を除く。同第5項)。

 (4)誤った教示と救済措置

 @審査請求をすることができる処分について、処分庁が誤って審査庁でない行政庁Aを審査庁として教示した場合に、Aに審査請求がなされたときには、行政庁Aは、審査請求書を処分庁または審査庁となるべき行政庁に送付し、審査請求人に通知しなければならない(第22条第1項)。また、処分庁に審査請求書が送付されたときは、これを審査庁となるべき行政庁に送付し、審査請求人に通知しなければならない(同第2項)。

 A再調査の請求をすることができない処分について、処分庁が誤って再調査の請求をすることができる旨を教示した場合に「当該処分庁に再調査の請求がなされたとき」には、処分庁は、速やかに再調査の請求書または再調査の請求録取書を「審査庁となるべき行政庁に送付し、かつ、その旨を再調査の請求人に通知しなければならない」(同第3項)。

 B再調査の請求をすることができる処分について、処分庁が誤って審査請求をすることができる旨を教示しなかった場合に「再審査の請求人から申立てがあったとき」には「処分庁は、速やかに、再調査の請求書又は再調査の請求録取書及び関係書類その他の物件を審査庁となるべき行政庁に送付しなければならない。この場合において、その送付を受けた行政庁は、速やかに、その旨を再調査の請求人及び第61条において読み替えて準用する第13条第1項又は第2項の規定により当該再調査の請求に参加する者に通知しなければならない」(同第22条第4項)。

 C以上の場合に該当し、審査請求書または再調査の請求書もしくは再調査の請求録取書が審査庁となるべき行政庁に送付されたときには、初めから審査庁となるべき行政庁に審査請求がなされたものとみなされる(同第5項)。

 D処分庁が審査請求期間を教示しなかった場合には、審査請求人が他の方法で審査請求期間を知りえなかったならば、第18条第1項ただし書きにいう「正当な理由」に該当し、法定の審査請求期間内に審査請求がなされたものとして扱う。

 E処分庁が誤って法定の期間よりも長い期間を審査請求期間として教示した場合:その教示された期間内に審査請求がなされたならば、やはり第18条第1項ただし書きにいう「正当な理由」に該当し、法定の審査請求期間内に審査請求がなされたものとして扱う。

 

 6.審査請求の審理手続

 〔1〕審理員

 新行政不服審査法は、審査請求の審理手続について新たに規定を置き、旧行政不服審査法よりも審理の独立性および中立性を高めている。

 まず、新行政不服審査法第9条第1項により、原則として、審査請求がされた行政庁、すなわち審査庁は、その審査庁に所属する職員のうちから審理員を指名し、その旨を処分庁または不作為庁および審査請求人に通知する。

 但し、同第9条第1項各号のいずれかに該当する機関が審査庁である場合、または同第24条の規定により審査請求を却下する場合には、審理員を指名する必要がない。

 次に、同第9条第2項は、審理員の指名要件を掲げる。同項は、各号に該当しない者、単純化すれば審理の対象となる処分に関与しない者が審理員となりうる旨を定める。例えば、次のような者が審理員に指名されてはならない。

  ・審査請求に係る処分についての決定に関与した者

  ・再調査の請求についての決定に関与した者

  ・審査請求に係る不作為に関与した者

  ・審査請求人本人

  ・同第13条第1項に掲げられる利害関係人

 以上から、審理員は、審査庁から「一定の独立性」を有する。すなわち、審理員は、審査庁から相対的に独立していることとなる。

 ※行政不服審査制度研究会編集・前掲書40頁。

 審査庁となるべき行政庁は、審理員の名簿を作成し、公にする(同第17条)。名簿の作成は努力義務であるが、公にするのは行為義務である。

 審理員の権限は、同第9条第1項において「審理手続を行う権限」、すなわち審理の主宰者としての権限が定められる他、次のようなものが認められる。

  ・物件の提出要求(同第33条)

  ・参考人の陳述および鑑定の要求(同第34条)

  ・検証(同第35条)

  ・審理関係人に対する質問(同第36条)

  ・審理手続に関する意見の聴取(その前提の招集も含む。同第37条)

  ・審理手続の併合または分離(同第39条)

  ・審査庁に対して執行停止をすべき旨の意見書の提出(同第40条)

  ・審理手続の終結(同第41条)

 〔2〕標準審理期間

 審査庁となるべき行政庁は、審査請求が事務所に到達してから裁決まで通常要すべき標準的な期間を定め、公にする(同第16条)。標準審理期間の設定は努力義務であるが、公にするのは行為義務である。

 なお、標準審理期間が経過したからと言って直ちに不作為の違法や裁決の瑕疵が導かれる訳ではないことには、注意を要する。

 〔3〕執行不停止の原則

 審査請求の対象とされた処分の効果をどのように扱うかは、立法政策の問題であるとしても重要な課題である。新行政不服審査法第25条第1項は、旧行政不服審査法を引き継ぎ、執行不停止の原則を採る。すなわち、審査請求がなされても、原則として処分の効果は維持されるのであり、処分の効果は停止しない。

 もっとも、常に執行不停止の原則が貫徹される訳ではなく、例外的ではあるが執行停止がなされる場合もある。

 同第2項は、「処分庁の上級行政庁又は処分庁である審査庁」が執行停止を行うことができる場合を定める。この場合の執行停止は「処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止その他の措置」とされる。

 同第3項は、「処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない審査庁」が執行停止を行うことができる場合を定める。この場合は「処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止」に限られる。

 同第4項本文は、審査庁が執行停止を義務として行わなければならない場合として、「処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると認めるとき」をあげる。

 同第5項は、同第4項に規定される「重大な損害」についての判断に際して、「損害の回復の困難の程度を考慮」し、「損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案する」と定める。

 同第6項は、処分の効力の停止を行うことができない場合を定める。

 同第7項は、「執行停止の申立て」または「執行停止をすべき旨の意見書」が出された場合について定める。この場合に、執行停止をなすかなさないかについては、審査庁の裁量に委ねられる。

 〔4〕弁明書の提出

 同第29条第2項は、審理員が処分庁または不作為庁に対して弁明書の提出を求める旨を定める。弁明書に記載すべき事項は、同第3項に掲げられている。

 〔5〕反論書等の提出

 処分庁または不作為庁による弁明書に対し、審査請求人は反論書を提出できる(同第30条第1項)。また、参加人は、審査請求に係る事件に関する意見書を提出できる(同第2項)。

 〔6〕口頭意見陳述

 新行政不服審査法は、原則として書面審理主義を採用するが、審理員は、審査請求人または参加人の申立てがあった場合には、口頭による意見陳述の機会を与えなければならない(同第31条第1項本文)。これは、審理員の職権では行うことができない。

 口頭意見陳述は、全ての審理関係人を招集して行う(同第2項)。また、口頭意見陳述に際しては、申立人(口頭意見陳述を申し立てた者)が、審理員の許可を得て処分庁または不作為庁に対して質問を発することができる(同第5項。質問権)。

 〔7〕審査請求人または参加人による提出書類等の閲覧等

 同第38条に定められる。

 〔8〕審理手続の終結および審理員意見書

 審理員は、必要な審理を終えたと認めるときには審理手続を終結する(同第41条第1項)。また、審理員が提出を求めた弁明書などの書類、証拠書類その他の物件が期間内に提出されなかったとき、申立人が正当な理由無く口頭意見陳述に出頭しないときには、審理手続を終結することができる(同第2項)。

 審理員が審理手続を終結したときには、速やかに、審理関係人に対して審理手続を終結した旨を通知しなければならず、同第42条第1項に規定する審理員意見書および事件記録を審査庁に提出する予定時期を通知しなければならない(同第3項。予定時期の変更についても同じである)。

 そして、審理員は、審理手続の終了次第、遅滞なく、審理員意見書(審査庁が行うべき裁決に関する意見書)を作成し、速やかに事件記録とともに審査庁に提出しなければならない(同第42条)。

 〔9〕行政不服審査会等への諮問

 審理員による審理手続とともに、行政不服審査会等への諮問も、旧行政不服審査法にはなく、新行政不服審査法において初めて設けられた手続である。

 審理手続が終結し、審理員意見書が審査庁に提出されたら、審査庁が国の行政機関である場合には原則として行政不服審査会(同第67条)に諮問しなければならず、審査庁が地方公共団体の長である場合には同第81条に規定される機関に諮問しなければならない(同第43条)。

 〔10〕行政不服審査委員会等からの答申、裁決

 同第44条に定められる。

 〔11〕裁決の種類

 新行政不服審査法は、4種類の裁決を定める。

 @却下裁決

 審査請求が要件を欠き、不適法である場合になされる(同第45条第1項、同第49条第1項)。

 A棄却裁決

 審査請求が理由のないものである場合になされる(同第45条第2項、同第49条第2項)。

 B事情裁決

 処分が違法または不当であっても、取消や撤廃が公の利益に著しい障害を生じる場合に、処分が違法または不当であることを宣言しつつ、審査請求を棄却する場合になされる(同第45条第3項)。

 C認容裁決

 同第46条および同第49条第3項に定められる。

 第46条に該当する場合には、次のような内容となる(同第2項)。

  ・処分の一部または全部を取消す。

  ・処分の一部または全部を変更する(できない場合もある)。

  ・申請に対する一定の処分を行うよう、処分庁に命ずる。

 第49条に該当する場合には、次のような内容となる(同第3項)。

  ・不作為が違法または不当である旨を宣言する。

  ・当該不作為に係る処分を行うよう、不作為庁に命ずる。

 

 7.行政不服審査会

 新行政不服審査法により新たに設けられる行政不服審査会は、総務省に置かれる機関(国家行政組織法第8条に基づく審査会等)であり(新行政不服審査法第67条第1項)、9人の委員により組織される(同第68条第1項)。

 委員の任期は3年であり(再任も可能)、両議院の同意を得て総務大臣が任命する(第69条。詳細については同条各項を確認すること)。

 行政不服審査会の会長については同第70条に、専門委員については同第71条に規定されている。

 行政不服審査会の調査審議は、原則として3人の委員からなる合議体で行う。但し、同審査会が定める場合においては、全委員からなる合議体で調査審議を行う(同第72条)。

 この他、行政不服審査会の調査権限が同第74条に、行政不服審査会における審査関係人の意見陳述の機会が同第75条に、行政不服審査会への審査関係人の主張書面等の提出が同第76条に、行政不服審査会の委員による調査手続が同第77条に、行政不服審査会への審査関係人の提出資料の閲覧請求などが同第78条に、行政不服審査会の答申の写しの送付および公表が同第79条に、それぞれ規定されている。

   

(2017年10月25日掲載)

(2017年12月20日修正)

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