第23回    取消訴訟の訴訟要件その1―処分性を中心に―

 

 

 1.訴訟要件

 訴訟要件とは、訴訟における実質的な審理(本案審理)に入るための要件のことである。この要件が揃っていなければ、本案審理に入ることができず、訴えは却下される(却下判決。訴訟判決ともいう)。訴訟要件が揃っていれば、本案審理に入ることとなり、その結果として、大別すれば請求を認容する判決、請求を棄却する判決のいずれかが下される。

 とくに行政事件訴訟法の場合、この訴訟要件について多くの問題があり、判例も多数にのぼる。そこで、今回は、行政事件訴訟法において中心に置かれている抗告訴訟のうち、とくに代表的な存在である取消訴訟を取り上げて考察する。これは、判例や学説の蓄積があるという理由が大きいが、行政事件訴訟法自体が取消訴訟を中心として多くの規定を置き、他の類型の訴訟については取消訴訟の規定を準用するという、構造上の理由もある。

 取消訴訟の訴訟要件は、処分性、原告適格、狭義の訴えの利益(客観的訴えの利益ともいう)、被告適格、出訴期間からなる。このうち、原告適格を広義の訴えの利益ともいう(処分性を含めることもある。なお、論者によって多少意味が異なる)。行政事件訴訟、とくに取消訴訟の場合は、訴訟要件が問題となることが多く、処分性、原告適格はその最たるものである。今回は、処分性の問題を取り上げることとする。

 

 2.取消訴訟の対象―処分性の有無―

 〔1〕取消訴訟の対象は「処分」である

 取消訴訟などの抗告訴訟の対象は、行政事件訴訟法第3条第2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」でなければならない。このような行為であれば「処分」としての性格、すなわち処分性を有するので、原則として取消訴訟により争わなければならない(逆であれば争うことができない)。

 しかし、行政手続法、行政不服審査法と同様に、行政事件訴訟法第3条第2項は「処分」を正面から定義している訳ではない。この点において、ドイツ連邦行政手続法第35条と異なる。行政事件訴訟法第3条第2項を読めば、処分が「公権力の行使に当たる行為」であることは理解できる。そして、行政行為が「処分」に該当することに争いはない。また、行政行為に準ずる権力的な行為(身柄の拘束などの権力的な事実行為、私人の権利を直接かつ具体的に決定づける法令や条例)も含まれることも了解されている。しかし、他にどのような行為が「処分」として取消訴訟の対象となるのかが問題となる。

 〔2〕判例の概観

 行政法学において、処分性の問題については、判例の分析や批評などを通じて議論が進められてきた。法律学の後追い的性格を象徴するものであるが、事柄の性質上、やむをえないことではある。ここでも、判例の基本的な態度をみていくこととする。

 @議会への議案の提出、議会における可決、建設会社との契約

 次に示す判決は、判例が「処分」をどのように定義づけるかを示す代表例である。

 最一小判昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁(U―148)

 事案:東京都は、既に所有していた土地にごみ焼却場を設置するという計画案を都議会に提出した。都議会は昭和32年5月30日にこの計画案を可決した。東京都は、同年6月8日に議会の可決を公報に掲載した上で、建設会社と建築契約を締結した。これに対し、近隣住民は、このごみ焼却場の設置場所が環境衛生上最も不都合な土地であって清掃法第6条に違反する、煤煙や悪臭などによって保健衛生上の損害を受けるおそれがある、などとして、東京都による一連のごみ焼却場設置のための行為の無効確認を求める訴訟を提起した。東京地方裁判所は訴えを却下し、東京高等裁判所も控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷も、次のように述べて上告を棄却した。

 判旨:「行政事件訴訟特例法一条にいう行政庁の処分とは、所論のごとく行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」(最一小判昭和30年2月24日民集9巻2号217頁を参照)。原判決が確定した事実によると「本件ごみ焼却場は、被上告人都がさきに私人から買収した都所有の土地の上に、私人との間に対等の立場に立つて締結した私法上の契約により設置されたものであるというのであり、原判決が被上告人都において本件ごみ焼却場の設置を計画し、その計画案を都議会に提出した行為は被上告人都自身の内部的手続行為に止まると解するのが相当であるとした判断は、是認できる。

 ▲最高裁判所は「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」を「処分」と理解しており、伝統的・通説的な見解とされてきた田中二郎博士による行政行為の定義とは異なる表現ではあるが、「処分」は基本的に行政行為である、ということになる。

 A準法律行為的行政行為

 最高裁判所の判例における定義(前掲最一小判昭和39年10月29日参照)から、行政行為は「処分」に該当する。これについては学説においても争いはない。たとえば、規制行政における命令および強制、規制行政における許認可(取消および撤回を含む)は「処分」である。但し、準法律行為的行政行為については、事実行為との区別との関係があり、若干の問題がある。準法律行為的行政行為の法的効果は法律の定めるところによるため、何らかの法的効果が付与されなければ単なる事実行為に留まることになる。

 ●最三小判昭和54年12月25日民集33巻7号753頁

 事案:Xは写真集を輸入しようとして税関長Yに輸入申請をしたが、Yはこの写真集が輸入禁制品であるという趣旨の通知を行った。Xは異議を申し出たが棄却され、出訴した。一審はXの請求を棄却し、二審はXの訴えを却下したのでXが上告した。最高裁判所第三小法廷は破棄差戻判決を出した。

 判旨:税関長による、関税定率法第21条第3項に基づく通知は、「当該輸入申告にかかる貨物が輸入禁制品である『公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品』に該当すると認めるのに相当の理由があるとする旨の税関長の判断の結果を表明するものであり、かつ、同条二項の規定と同条三項ないし五項の規定とを対比して考察すれば、右のような判断の結果を輸入申告者に知らせ当該貨物についての輸入申告者自身の自主的な善処を期待してされるものであると解される」から、法的性質としては観念の通知に該当するが、「もともと法律の規定に準拠してされたものであり、かつ、これにより上告人に対し申告にかかる本件貨物を適法に輸入することができなくなるという法律上の効果を及ぼすものというべきであるから、行政事件訴訟法三条二項にいう『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』に該当するもの、と解するのが相当である」。

 ▲余談に近くなるが、この判決こそ、準法律行為的行政行為、およびその一種としての通知という概念の必要性を改めて示すものである。近年の行政法学において、準法律行為的行政行為そのものを不要とする見解が多いようであるが、通知が単なる事実行為でなく、行政行為としての効果を有する場合があることは否定できないのである。

 ●最一小判平成11年1月21日判時1675号48頁・判タ1002号94頁

 事案:甲は乙を母とし、丙を父とする。乙と丙は婚姻の届出をしていない。甲の出生届の通知を受けた市長は、職権により、乙の世帯票に甲を記載し、住民票の記載を行った。その際、甲の世帯主である乙との続柄が「子」と記載された。当時、住民基本台帳事務処理要領(国が制定)によると、嫡出子については長男、長女などと記載し、非嫡出子については一律に子とのみ記載されることとなっていた。乙と丙は市長に対して住民票の記載処分の取消しなどを求め、甲、乙、丙は市に対して損害賠償を請求した。一審は記載処分の取消しについて訴えを却下し、損害賠償請求を棄却した。二審も甲、乙、丙の控訴を棄却し、最高裁判所も上告を棄却した。

 判旨:「市町村長が住民基本台帳法7条に基づき住民票に同条各号に掲げる事項を記載する行為は、元来、公の権威をもって住民の居住関係に関するこれらの事項を証明し、それに公の証拠力を与えるいわゆる公証行為であり、それ自体によって新たに国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する法的効果を有するものではない」。「住民票に特定の住民と世帯主との続柄がどのように記載されるかは、その者が選挙人名簿に登録されるか否かには何らの影響も及ぼさないことが明らかであり、住民票に右続柄を記載する行為が何らかの法的効果を有すると解すべき根拠はない。したがって、住民票に世帯主との続柄を記載する行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分にはあたらない」。

 ▲この判決は、準法律行為的行政行為の公証行為について処分性を否定したものである。他に、公証行為の処分性を否定した判決として、最二小判昭和39年1月24日民集18巻1号113頁(家賃台帳の作成と登載行為)などがある。たしかに、公証行為は「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する」という性格を持たないものであることから、処分性を認めることが難しいであろう。これが、行政行為を法律行為的行政行為・準法律行為的行政行為に分類する方法の問題点にもなっていると言えよう(もっとも、既に記したように、私は準法律行為的行政行為の概念を否定しない立場に立つ)。なお、準法律行為的行政行為のうち、最も処分性を認めやすいのは確認行為である(但し、これを法律行為的行政行為とする見解もある)。

 B定型的非行政処分

 法律の規定、さらに判例などから、取消訴訟など抗告訴訟の対象にならないことが明白なものがある。民法の行為形式による行政活動(例、土地の任意買収、物品の購入行為)が代表である。また、法規命令も、基本的には「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」とは言い難いため、処分性を認めることはできないであろう。

 C内部行為

 判例における定義によると、行政の内部行為は国民との間に直接の権利変動を生じさせないため、「処分」に該当しない。

 ●最一小判昭和34年1月29日民集13巻1号32頁(T―20)

 事案:Xは煙火工場を設け、始発筒の製造販売を営んでいたが、火薬の爆発で工場のうちの3棟を失い、臨時建築制限規則に基づいて県知事に建築許可を申請した。この許可には消防法第7条による消防庁Yの同意が必要であった。Yは、一度は同意して同意書を県の土木事務所に提出させたが、翌日、住民の反対などもあったため、土木事務所長に対して同意の撤回を通告した。福岡地方裁判所はXの請求を棄却し、福岡高等裁判所も控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷も上告を棄却した。

 判旨:「本件消防長の同意は、知事に対する行政機関相互間の行為であつて、これにより対国民との直接の関係においてその権利義務を形成し又はその範囲を確定する行為とは認められないから、前記法律の適用については、これを訴訟の対象となる行政処分ということはできない」。

 ▲この判決は、行政組織法における組織間関係(内部関係)についての代表的な判決でもある。行政行為の定義からすれば、行政の内部関係の行為は、法律において行政行為と同種の用語が使用されていたとしても行政行為に該当しないことになる。しかし、行政行為であるか否かと、行政事件訴訟法にいう処分であるか否かとは、一応は別次元の問題であるとも言えるのであり、問題を残す。

 ●最三小判昭和43年12月24日民集22巻13号3147頁(T―55)→第6回において扱った。なお、通達に処分性を認めた判決として、東京地判昭和45年11月8日行裁例集22巻11・12号1785頁がある。これは、計量法の通達が争われた事件に関する判決である。

 ●最二小判昭和53年12月8日民集32巻9号1617頁(成田新幹線訴訟。T―2)

 事案:当時の運輸大臣は成田新幹線の基本計画などを全国新幹線鉄道整備法に基づき決定し、公示した上で、昭和46年、日本鉄道建設公団に建設を指示した。同公団は昭和47年に運輸大臣に工事実施計画の認可を申請し、同年に認可を受けた。この計画の予定地域内とされる東京都江戸川区などは、新幹線計画の確定により土地を買収または収用される蓋然性が高く、所有権を侵害されるおそれがあること、騒音や振動などにより良好な環境を享受する利益が侵害されるなどとして出訴した。東京地判昭和47年12月23日行集23巻12号934頁は訴えを却下し、東京高判昭和48年10月24日行集24巻10号1117頁は控訴も棄却した。最高裁判所第二小法廷も上告を棄却した。

 判旨:「本件の認可は、いわば上級行政機関としての運輸大臣が下級行政機関としての日本鉄道建設公団に対しその作成した本件工事実施計画との整合性等を審査してなす監督手段としての承認の性質を有するもので、行政機関相互の行為と同視すべきであり、行政行為として外部に対する効力を有するものではなく、また、これによって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うわけではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらない」。

 ▲本件に登場する日本鉄道建設公団は特殊法人であり、独立した法人格を有している(注意!)。本件のように、行政と特殊法人などとの関係を行政組織内部の関係と捉えた判決として、次のようなものがある。

 最一小判昭和49年5月30日民集28巻4号594頁(T―1。大阪市と大阪府国民健康保険審査会)

 広島地判昭和51年5月27日行裁例集27巻5号802頁/広島高判昭和53年4月12日行裁例集29巻4号532頁(建設大臣が日本道路公団に対して行った山陽自動車道の工事実施計画書の認可)

 福岡地判昭和53年7月7日行裁例集29巻7号1264頁(国営土地改良事業施行に際しての市町村の事業計画等の申請に対して都道府県が行う同意)

 D行政契約など

 給付行政分野においては契約の方式によることが多く、その推定が働くとも言われているが、時に処分性が認められることがある。

 ●最大判昭和45年7月15日民集24巻7号771頁(U―147)

 事案:XはAに地代を提供したが、受領を拒絶された。そのため、弁済供託を続けてきた。XとAとの間で裁判上の和解が成立し、Xは法務局供託官のYに供託金の取戻しを請求したが、時効消滅を理由として却下された。そこでXは、Yを被告として却下処分の取消訴訟を提起した。東京地判昭和39年5月28日民集24巻7号800頁はXの請求を認容した。Yは控訴したが東京高判昭和40年9月15日高民集18巻6号432頁は控訴を棄却した。最高裁判所大法廷はYの上告を棄却した。

 判旨:「供託事務を取り扱うのは国家機関である供託官であり(供託法一条、同条ノ二)、供託官が弁済者から供託物取戻の請求を受けた場合において、その請求を理由がないと認めるときは、これを却下しなければならず(供託規則三八条)、右却下処分を不当とする者は監督法務局または地方法務局の長に審査請求をすることができ、右の長は、審査請求を理由ありとするときは供託官に相当の処分を命ずることを要する(供託法一条ノ三ないし六)と定められており、実定法は、供託官の右行為につき、とくに、「却下」および「処分」という字句を用い、さらに、供託官の却下処分に対しては特別の不服審査手続をもうけている」。従って、「供託官が供託物取戻請求を理由がないと認めて却下した行為は行政処分であり、弁済者は右却下行為が権限のある機関によつて取り消されるまでは供託物を取り戻すことができないものといわなければなら」ない。

 ▲この判決の多数意見が却下処分の取消訴訟の提起を認めたのに対し、入江裁判官など4裁判官の反対意見は民事訴訟説を採り、松田裁判官など2裁判官の反対意見は形式面の不服について抗告訴訟、実質面の不服について民事訴訟という説を採っている。

 ▲本質は契約であっても、とくに法律が行政上の不服申立ての規定を含む場合には処分性が認められることになる。逆に、法律に行政上の不服申立ての規定が含まれないことを理由として、農地法第80条に基づく政府保有農地の売払行為について処分性を認めなかったのが、最大判昭和46年1月20日民集25巻1号1頁(T―51)である。また、給付行政において、本来は命令や強制という意味における権力性を有しない行為であるが行政行為とされることがある(補助金交付決定など)。

 E一般的行為

 法律、法規命令、条例、地方公共団体の長による規則は、いずれも一般的行為であり、規律力を有するが、一般的抽象的義務を定めるだけであるから、通常は処分性が否定される。但し、時に具体的な「処分」と考えられることがある 。

 ●東京地決昭和40年4月22日行裁例集16巻4号708頁

 事案:厚生大臣(当時)は、健康保険法第43条の9第2項に基づき、昭和40年1月9日厚生省告示第10号をもって「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(昭和33年6月30日厚生省告示第177号)の一部を、および、昭和40年1月9日厚生省告示第11号(以下、同日告示第10号とともに、本件告示)をもって「看護、給食及び寝具設備の基準」(昭和33年6月30日厚生省告示第178号)の一部を改正した。これに対し、四健康保険組合および健康保険組合連合会は、本件告示によって保険者の支払負担が増大し、保険者が不利益を被るなどとして、本件告示の効力停止を申し立てた。東京地方裁判所は、健康保険組合連合会の申立てを却下したが、四健康保険組合の申立てを認容し、昭和40年5月1日から本案判決が確定するまで本件告示の効力を停止する決定を下した。

 判旨:行政事件訴訟法第3条第1項は、「取消訴訟の対象が行政庁の処分、すなわち法律行為的行政行為のみならず広く行政庁が法によつて与えられた優越的地位に基づき公権力の発動としてなす国民の具体的権利義務ないし法律上の利益に直接関係のある行為に及ぶことを認めている。そして、ここにいう『公権力の行使に当たる行為』は、主として、行政庁が一般的抽象的な法に基づき個別的、具体的な事実又は法律関係を規律する行為を指すものと解されるが、これのみに限られるものではなく、行政庁の行為が一面において一般的、抽象的な定めを内容とし将来の不特定多数の人をも適用対象とするため法規制定行為‖立法行為の性質を有するものとみられるものであつても、他面において右行為が、これに基づく行政庁の他の処分を待つことなく、直接に国民の具体的な権利義務ないし法律上の利益に法律的変動をひき起こす場合には、当該行政庁の行為も、その限りにおいては、特定人の具体的権利義務ないし法律上の利益に直接関係するにすぎない行政行為と何ら異なるところはないのであるから、取消訴訟の対象となりうるものと解するのが相当である。しかしながら、立法行為の性質を有する行政庁の行為が取消訴訟の対象となるとはいつても、それは、その行為が個人の具体的な権利義務ないし法律上の利益に直接法律的変動を与える場合に、その限りにおいて取消訴訟の対象となるにすぎないのであるから、取消判決において取り消されるのは、その立法行為たる性質を有する行政庁の行為のうち、当該行為の取消しを求めている原告に対する関係における部分のみであつて、行為一般が取り消されるのではないと解すべきである。(中略)本件告示が立法行為としての性質を有するものであるとしても、それが同時に特定人の具体的な権利義務ないし法律上の利益に直接法律的変動を与える場合には、その限りにおいていわゆる行政行為と実質的に何ら異なるところはなく、取消訴訟の対象となることは、前述したところから明らかである」。本件告示は「旧告示において定められた『療養に要する費用の額』を改定して平均9.5%増額し、しかも、保険者の支払うべき費用については本件告示のなされた昭和40年1月9日より前に遡つて同月1日から適用することを主たる内容とするものであるから、本件告示当時存立する申立人ら各健康保険組合は、改めて行政庁の何らかの処分を待つことなく、本件告示そのものにより、右申立人らが将来保険医療機関等に対して支払うべきことの確実な療養の給付に関する費用を増額されるとともに、あわせて昭和40年1月1日から本件告示のなされた同月九日までの間の、すでに被保険者又は被扶養者が療養の給付を受けることによつて生じていた保険者の保険医療機関等に対する右費用支払の債務も直接増額されたことになる。したがつて、本件告示は、前記のように、一面立法行為たる性質を有するものではあるが、他面、右に述べたとおり、申立人ら各健康保険組合に対し直接法律上の不利益を与えるものであるから、取消訴訟の対象となりうるものというべきである」。

 ●最二小判平成18年7月14日民集60巻6号2369頁(U―155)

 事案:山梨県高根町(係争中に合併し、北杜市が承継)は、昭和63年に高根町簡易水道事業給水条例を制定したが、平成10年に同条例を改正し、水道料金を改定(増額)した。その内容は、同町の住民基本台帳に記録されていない別荘に係る給水契約者については基本料金(水道メーターの口径が13mmの場合)を3000円から5000円に引き上げるのに対し、その他の給水契約者については1300円から1400円に引き上げるに留まるというように、基本料金に大きな格差を生じさせるものであり、また、別荘について水道の一時的な休止を認めず、仮に休止した後に再開する場合には再度加入金を課すというものであった。同町に別荘を所有するXらは、改正条例による水道料金の定めが別荘所有者に対して不合理な差別措置を採っており、憲法第14条第1項などに違反するとして、高根町簡易水道事業給水条例の別表第一並びに高根町簡易水道事業給水条例及び施行規則に関する内規の無効確認請求を求め、さらに損害賠償等を求めて出訴した。甲府地判平成13年11月27日民集60巻6号2416頁はXらの無効確認請求を却下、その他の請求を棄却した。これに対し、東京高判平成14年10月22日民集60巻6号2438頁は、高根町簡易水道事業給水条例の別表第一が無効であるとした上で、Xらのその他の請求の一部を認容した。同町が上告し、最高裁判所第二小法廷は、前記東京高裁判決のうち、高根町簡易水道事業給水条例の別表第一が無効であるとした部分を破棄したが、その他の部分については上告を棄却し、上記に示した基本料金の改定が地方自治法第244条第3項にいう不当な差別的取扱いに当たるとした。

 判旨:「抗告訴訟の対象となる行政処分とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいうものである。本件改正条例は、旧高根町が営む簡易水道事業の水道料金を一般的に改定するものであって、そもそも限られた特定の者に対してのみ適用されるものではなく、本件改正条例の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできないから、本件改正条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないというべきである」。

 ●最一小判平成21年11月26日民集63巻9号2124頁(U―204)

 事案:横浜市は、保育所の民営化を図るため、横浜市保育所条例の一部を改正する条例(平成15年横浜市条例第62号)を制定した。この条例は、市立保育所のうちの4つを平成16年3月31日に廃止するという内容である。これに対し、廃止された保育所に入所していた児童およびその保護者である原告らが、廃止の取消しおよび国家賠償を請求して訴訟を提起した。横浜地方裁判所は原告らの請求を一部認容したが、東京高等裁判所は原告らの請求を全て却下または棄却した。最高裁判所第一小法廷は原告らの上告を棄却したが、次のように述べて条例の制定行為に処分性を認めた。

 判旨:「条例の制定は、普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから、一般的には、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものでない」が、「本件改正条例は、本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る上記の法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視し得る」。また「市町村の設置する保育所で保育を受けている児童又はその保護者が、当該保育所を廃止する条例の効力を争って、当該市町村を相手に当事者訴訟ないし民事訴訟を提起し、勝訴判決や保全命令を得たとしても、これらは訴訟の当事者である当該児童又はその保護者と当該市町村との間でのみ効力を生ずるにすぎないから、これらを受けた市町村としては当該保育所を存続させるかどうかについての実際の対応に困難を来すことにもなり、処分の取消判決や執行停止の決定に第三者効(行政事件訴訟法32条)が認められている取消訴訟において当該条例の制定行為の適法性を争い得るとすることには合理性がある」。

 ▲また、行政決定に形式的な名宛人がいない場合(道路区域決定、道路供用開始行為、道路供用廃止行為、保安林指定行為、保安林指定解除行為、道路通行禁止行為など)については、個別的な検討を要する。最一小判昭和57年9月9日民集36巻9号1679頁(長沼ナイキ訴訟。U―177)は、保安林指定解除行為の処分性を暗黙の前提としている。一方、最判昭和40年11月19日判時430号24頁は、禁猟区の設置行為に処分性を認めていない。また、次のような判例がある。

 ●最一小判平成14年1月17日民集56巻1号1頁〔御所町(現在は御所市)二項道路指定事件。U―154〕

 事案:奈良県知事Yは、昭和37年、告示によって幅員4m未満(1.8m以上)の道路を建築基準法第42条第2項のみなし道路として一括指定した。Xは自己所有地に建物を新築する際に、通路部分がみなし道路に該当するか否かを県の土木事務所に照会した。建築主事は、本件通路部分がみなし道路であると回答したため、Xが不満を抱き、Yを被告として本件通路部分について指定処分が存在しないことの確認を求める訴訟を提起した。奈良地判平成9年10月29日訟月44巻9号1624頁は本件指定の処分性を肯定してXの請求を認容したが、大阪高判平成10年6月17日訟月45巻6号1072頁が訴えを却下したため、Xが上告した。最高裁判所第一小法廷は、事件を大阪高等裁判所に差し戻した。

 判旨:本件の告示は「幅員4m未満1.8m以上の道を一括して2項道路として指定するものであるが、これによって、法第3章の規定が適用されるに至った時点において現に建築物が立ち並んでいる幅員4m未満の道のうち、本件告示の定める幅員1.8m以上の条件に合致するものすべてについて2項道路としての指定がされたこととなり、当該道につき指定の効果が生じるものと解される」から「このような指定の効果が及ぶ個々の道は2項道路とされ、その敷地所有者は当該道路につき道路内の建築等が制限され(法44条)、私道の変更又は廃止が制限される(法45条)等の具体的な私権の制限を受けることになる」。そのため、「特定行政庁による2項道路の指定は、それが一括指定の方法でされた場合であっても、個別の土地についてその本来的な効果として具体的な私権制限を発生させるものであり、個人の権利義務に対して直接影響を与えるものということができる」から「本件告示のような一括指定の方法による2項道路の指定も、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる」。

 F段階的行為

 手続上、いくつかの行為が段階を踏んで行われることがある。そのうちのどの段階において処分性が認められるのかが問題となることもある。土地収用法に基づく事業認定については、行政上の不服申立て制度が用意されており、処分性が認められる(通説・判例)。また、自作農創設特別措置法に基づく農地買収計画も処分性が認められる(通説・判例)。土地改良法に基づく事業計画およびそれに対応する事業施行の認可も、処分性が認められる例である(最判昭和61年2月13日民集40巻1号1頁)。

 段階的行為についてとくに問題となるのが、都市計画法、土地区画整理事業法などに定められる事業計画である。

 ●最一小判平成4年11月26日民集46巻8号2658頁→第7回において扱った。

 ●最大判昭和41年2月23日民集20巻2号271頁→第7回において扱った。同旨の判決として、最三小判平成4年10月6日判時1439号116頁がある。

 ●最大判平成20年9月10日民集62巻1号1頁(U−152)

 これは上記最大判昭和41年2月23日を変更する判決である。第7回において扱ったが、 再度、重要な部分を引用しておく。

 「土地区画整理事業の事業計画については、いったんその決定がされると、特段の事情のない限り、その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ、その後の手続として、施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることにな」り、「建築行為等の制限は、このような事業計画の決定に基づく具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐために法的強制力を伴って設けられているのであり、しかも、施行地区内の宅地所有者等は、換地処分の公告がある日まで、その制限を継続的に課され続ける」。

 施行地区内の宅地所有者等は、事業計画の決定がされることによって、前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ、その意味で、その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり、事業計画の決定に伴う法的効果が一般的、抽象的なものにすぎないということはできない」から「事業計画の適否が争われる場合、実効的な権利救済を図るためには、事業計画の決定がされた段階で、これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性があるというべきであ」り、「市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である」。

 ●最一小判昭和57年4月22日民集36巻4号705頁(U―153)→第7回において扱った。

 G事実行為のうち、行政指導など

 行政指導は取消訴訟の対象とならない、というのが、これまでの判例であった(大阪地判昭和58年9月29日行裁例集30巻3号397頁など)。しかし、最近、行政指導に処分性を認める判決も登場している。最二小判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁(U―160)である(第15回を参照)。

 また、指針的なものに留まる行政計画(法的拘束力を持たない行政計画。新産業都市建設基本計画など)も、取消訴訟の対象にならない(大分地判昭和54年3月5日行裁例集30巻3号397頁)。

 一方、下級審判例の傾向であるが、行政代執行法の戒告およびその通知は「処分」である。また、納税の告知は、課税処分に何らかの法的効果を及ぼすものではないが、処分性を有する。次の判例を参照されたい。

 ●最一小判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁(T―61)

 事案:X社(原告・被控訴人・被上告人)は、昭和35年度分の所得について所轄税務署による税務調査を受けた。その結果、所轄税務署は、昭和39年2月10日、X社の元代表取締役Y1(被告・控訴人・上告人)および元取締役Y2(同)に対する簿外定期預金の払い出しおよび土地の定額譲渡を賞与と認定し(認定賞与という)、この認定賞与の所得税について源泉徴収および政府への納付を行わなかったとして、X社に対し、源泉所得税および不納付加算税の支払を請求した(後日、利子税も請求した)。X社は同年中にこれら全てを政府に納入した。そこで、X社は、旧所得税法第43条第2項に基づき、Y1およびY2に対して源泉所得税、不納付加算税等の合計金額を支払うよう請求する旨の訴訟を提起した。一審判決(名古屋地判昭和41年12月22日民集24巻13号2260頁)はXの請求を認容し、二審判決(名古屋高判昭和42年12月18日民集24巻13号2209頁)はY1およびY2の控訴を棄却した。Y1およびY2が上告し、最高裁判所第一小法廷は二審判決の一部を破棄したが、その余の請求(Y1およびY2による)を棄却した。

 判旨:(本件は納税の告知そのものが争われたものではないが、上告論旨の検討に先立つものとして源泉徴収の法律関係が考察されているので、その部分から抜粋して引用する。)

 ・「源泉徴収による所得税については、申告納税方式による場合の納税者の税額の申告やこれを補正するための税務署長等の処分(更正、決定)、賦課課税方式による場合の税務署長等の処分(賦課決定)なくして、その税額が法令の定めるところに従つて当然に、いわば自働的に確定するものとされるのである。そして、右にいわゆる確定とは、もとより行政上または司法上争うことを許さない趣旨ではないが、支払われた所得の額と法令の定める税率等から、支払者の徴収すべき税額が法律上当然に決定されることをいうのであつて、たとえば、申告納税方式において、税額が納税者の申告により確定し、あるいは税務署長の処分により確定するのと、趣きを異にする」。

 ・「税務署長が、支払者の納付額を過少とし、またはその不納付を非とする意見を有するときに、これが納税者たる支払者に通知されるのは、前記の納税の告知によるものであり、この点において、納税の告知は、あたかも申告納税方式による場合の更正または決定に類似するかの観を呈するのであるが、源泉徴収による所得税の税額は、前述のとおり、いわば自働的に確定するのであつて、右の納税の告知により確定されるものではない。すなわち、この納税の告知は、更正または決定のごとき課税処分たる性質を有しないものというべきである。」

 ・「一般に、納税の告知は」、国税通則法第36条によって「国税徴収手続の第一段階をなすものとして要求され、滞納処分の不可欠の前提となるものであり、また、その性質は、税額の確定した国税債権につき、納期限を指定して納税義務者等に履行を請求する行為、すなわち徴収処分であ」り、「それ自体独立して国税徴収権の消滅時効の中断事由となる」が、「源泉徴収による所得税についての納税の告知は、前記により確定した税額がいくばくであるかについての税務署長の意見が初めて公にされるものであるから、支払者がこれと意見を異にするときは、当該税額による所得税の徴収を防止するため、異議申立てまたは審査請求……のほか、抗告訴訟をもなしうるものと解すべきであり、この場合、支払者は、納税の告知の前提となる納税義務の存否または範囲を争つて、納税の告知の違法を主張することができるものと解される。けだし、右の納税の告知に先だつて、税額の確定(およびその前提となる納税義務の成立の確認)が、納税者の申告または税務署長の処分によつてなされるわけではなく、支払者が納税義務の存否または範囲を争ううえで、障害となるべきものは存しないからである。」

 H事実行為のうち、公権力の行使たる性質を有するもの

 このような事実行為は処分性を有し、取消訴訟の対象となる。例として、直接強制による行為、即時執行による行為がある。

 Iその他

 ●最一小判平成7年3月23日民集49巻3号1006頁(U―156)

 事案:Xは盛岡市の市街化調整区域の開発を計画した。そして、都市計画法第32条に基づき、公共施設管理者である盛岡市長Yに同意を求めるとともに、開発によって新設される道路などについて協議を求めた。しかし、Yは同意できないとする回答を行った。そこで、XはYを被告として出訴した。一審判決(盛岡地判平成3年10月28日行集42巻10号1686頁)はYの同意と協議の処分性を否定したが、二審判決(仙台高判平成5年9月13日行集44巻8・9号771頁)が処分性を肯定したため、Yが上告した。最高裁判所第一小法廷は二審判決を破棄し、Xの控訴を棄却した。

 判旨:都市計画法第32条の定めは「事前に、開発行為による影響を受けるこれらの公共施設の管理者の同意を得ることを開発許可申請の要件とすることによって、開発行為の円滑な施行と公共施設の適正な管理の実現を図ったものと解される」。そして、行政機関等がこの同意を拒否する行為は「公共施設の適正な管理上当該開発行為を行うことは相当でない旨の公法上の判断を表示する行為」である。「この同意が得られなければ、公共施設に影響を与える開発行為を適法に行うことができないが、これは、法が前記のような要件を満たす場合に限ってこのような開発行為を行うことを認めた結果にほかならないのであって、右の同意を拒否する行為それ自体は、開発行為を禁止又は制限する効果をもつものとはいえない」ので「国民の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすもので」はない。

 ●最一小判平成15年9月4日判時1841号89頁(U−157)

 事案:XはA(外国人労働者)の妻であり、Aが死去したことにより、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の受給権者となった。Xは、その子Bが都立高校に通っていた時に同法第23条第1項第2号(当時)および「労災就学援護費の支給について」(通達)に基づいて労災就学援護費支給申請書を提出したところ、Y(中央労働基準監督署長)は労災就学援護費の支給を行う旨の決定を行った。その後、同援護費の支給が続いたが、BがAの母国の大学に入学したことにより、Yは労災就学援護費を支給しない旨の決定を行い、Xに対して平成8年8月9日付で通知した。Xは、この通知の取消を求めたが、東京地判平成10年3月4日訟月45巻3号475頁は訴えを却下し、東京高判平成11年3月9日労働判例858号55頁もXの控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷は、本件を東京地方裁判所に差し戻した。

 判旨:労働者災害補償保険法は「労働者が業務災害等を被った場合に、政府が、法第3章の規定に基づいて行う保険給付を補完するために、労働福祉事業として、保険給付と同様の手続により、被災労働者又はその遺族に対して労災就学援護費を支給することができる旨を規定しているものと解するのが相当である。そして、被災労働者又はその遺族は、上記のとおり、所定の支給要件を具備するときは所定額の労災就学援護費の支給を受けることができるという抽象的な地位を与えられているが、具体的に支給を受けるためには、労働基準監督署長に申請し、所定の支給要件を具備していることの確認を受けなければならず、労働基準監督署長の支給決定によって初めて具体的な労災就学援護費の支給請求権を取得するものといわなければならない」から「労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり、被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと解するのが相当である」。

 J処分性を拡張しようとする考え方

 判例が示す以上の立場に対しては、処分性を拡張し、取消訴訟の対象を拡大しようとする考え方がある。これは、通達など、民事訴訟においても争いえないものや、民事訴訟において争いうるもの、例えば、議会に対するごみ焼却場設置計画案の提出など一連の行為についても、実質的に国民生活を一方的に規律する行為であれば取消訴訟の対象とすべきである、と論じる

 ※この考え方については、さしあたり、原田尚彦・行政法要論〔全訂第七版補訂二版〕(2012年、学陽書房)386頁を参照。東京地決昭和45年10月14日行裁例集21巻10号1187頁は、この立場を採る数少ない実例である。

 ちなみに、前掲最一小判昭和39年10月29日のような「不快施設」の設置を争う場合、民事訴訟などの差止請求が認められていた。しかし、最大判昭和56年12月16日民集35巻10号1369頁(U―149、241)は、国営空港の管理における「航空行政権」(「空港管理権」と区別されている)を理由に、このような場合における民事訴訟による請求を却下した。その後、最二小判平成元年2月17日民集43巻2号56頁(U―192)においては、周辺住民の原告適格を認めている。

 ※前掲最大判昭和56年12月16日は、大阪空港周辺に住み、航空機騒音などに苦しむ住民が、夜間の空港使用差し止め(民事訴訟による)、および過去および将来に係る損害賠償の支払い(国家賠償法に基づくものであり、これも民事訴訟による)を求めて出訴したものである。これに対し、前掲最二小判平成元年2月17日は、新潟空港周辺の住民が、やはり騒音によって健康や生活における利益を侵害されたと主張してはいるが、運輸大臣が某航空会社に対して与えた定期航空運送事業免許の取消を求めたものである。

(2017年10月25日掲載)

(2017年12月20日修正)

(2017年12月20日修正)

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