第26回    取消訴訟以外の抗告訴訟、当事者訴訟

 

 

 1.無効等確認訴訟

 無効等確認訴訟は、行政事件訴訟法第3条第4項において「処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟」と定義されるものであり、「処分」の無効確認訴訟が中心となる。さらに、「処分」の不存在確認訴訟、有効確認訴訟、「処分」の存在確認訴訟、「処分」の失効確認訴訟などがある。

 無効等確認訴訟は、取消訴訟と異なり、出訴期間や不服申立前置の制約から外れるので、出訴期間を徒過してから提起されることが少なくない。そのため、塩野宏教授は「行政行為の無効を前提とする訴訟はいわば時機に後れた取消訴訟であ」ると指摘する。その意味において、無効等確認訴訟、とりわけ「処分」の無効確認訴訟は実質的に取消訴訟の補完的な制度になっている。

 ※塩野宏『行政法U』〔第五版補訂版〕(2013年、有斐閣)214頁。

 〔1〕原告適格および訴えの利益

 そもそも、無効等確認訴訟は、行政事件訴訟法において補充的制度と位置づけられている。そのため、原告適格が制限されているのであるが、行政事件訴訟法第36条の規定は非常に難解なものであり、広義の訴えの利益について次の二説に分かれている。

 立法者は二元説をとっていた。この説によると、原告適格は「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」または「その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」に認められることとなる。結局、「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」であれば、予防訴訟(差止訴訟)としての無効確認訴訟が認められることになるが、文理的に難しい解釈である。

 二元説が文理的に難しいとするならば、文理解釈に忠実なものとして一元説が浮かび上がる。この説によると、原告適格は「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」であり、かつ「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」に認められることになる。ただ、この説によると、原告適格はほとんど認められなくなり、争点訴訟(民事訴訟)で行くしかなくなる。

 〔2〕「処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」の意味

 これについても見解が分かれる。

 形式的解釈説は、申請却下処分や営業許可の取消処分の無効のように、「現在の法律関係に関する訴え」を提起できない場合にのみ、無効確認訴訟の提起が許される、とする説である。所有権確認訴訟や身分確認訴訟というような「現在の法律関係に関する訴え」が可能であれば、無効確認訴訟の提起は許されないこととなる。

 これに対し、実質的解釈説は、「現在の法律関係に関する訴え」を、実質的意味における当事者訴訟(後述)または民事訴訟と解する。この説によると、土地収用法に基づく収用裁決の無効については所有権確認訴訟のみが許されるが、公務員の免職処分については身分確認訴訟と無効確認訴訟の両方が許されることになる。これも難解な説ではある。

 判例は、二元説か一元説かに立ち入っていない。無効確認訴訟が、現実的には出訴期間に遅れて提起された取消訴訟として提起されることが多いこともあって、次のような場合に原告適格を認めている。

 ●最三小判昭和51年4月27日民集30巻3号384頁

 課税処分を受けてまだ租税を納付していない者は、滞納処分を受けるおそれがあるため、無効確認訴訟の原告適格を有すると判断された。

 ●最三小判昭和60年12月17日判時1179号56頁

 土地区画整理組合の設立認可処分の無効確認を求める原告について、土地区画整理事業施行区域内の宅地の所有権者や借地権者が法律上当然に組合員としての地位を取得させられるということから、原告適格を認めている。

 ●最二小判昭和62年4月17日民集41巻3号286頁(U―180)

 事案:Xは土地改良区Yから、土地改良法に基づいて換地処分を受けたが、それによって農道に接する部分が極端に狭くなり、農作業の遂行が困難になったとして、本件換地処分が「照応の原則」に違反するとしてその無効確認を求める訴訟と訴外Aに対する関連換地処分の無効確認を求める訴えを提起した。一審判決(千葉地判昭和53年6月16日行集33巻3号558頁)はXの請求を棄却し、控訴審判決(東京高判昭和57年3月24日行集33巻3号548頁)は一審判決を破棄してXの請求を却下したが、最高裁判所第二小法廷は控訴審判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻した。

 判旨:土地所有者など多くの権利者に対する換地処分は「通常相互に連鎖し関連し合っているとみられるのであるから、このような換地処分の効力をめぐる紛争を私人間の法律関係に関する個別の訴えによって解決しなければならないとするのは」換地処分の性質に照らして適当と言い難い。また、本件の場合は「換地処分がされる前の従前の土地に関する所有権等の権利の保全確保を目的とするものではな」く、「当該換地処分の無効を前提とする従前の土地の所有権確認訴訟等の現在の法律関係に関する訴え」が本件のような紛争を「解決するための争訟形態として適切なものとはいえ」ない。

 ●最三小判平成4年9月22日民集46巻6号571頁・1090頁(「もんじゅ」訴訟。U―181)

 事案:第24回において取り上げた判決である。なお、本件については、旧動燃を被告として「もんじゅ」の建設および運転の差止めを求める民事訴訟も併合提起されている。

 判旨:第24回において紹介した部分に加えて、前掲最二小判昭和62年4月17日が引用されており、行政事件訴訟法第36条にいう「現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」は、「当該処分に起因する紛争を解決するための争訟形態として、当該処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟との比較において、当該処分の無効確認を求める訴えのほうがより直截的で適切な争訟形態であるとみるべき場合をも意味する」と述べられている。

 〔3〕取消訴訟の規定の準用の有無

 同第38条第1項ないし第3項は、取消訴訟に関する規定を無効等確認訴訟に準用する場合などを規定する。

 @同第38条第1項により準用されるもの

 被告適格等(同第11条)、管轄(同第12条)、関連請求(同第13条)、請求の客観的併合(同第16条)、共同訴訟(同第17条)、第三者による請求の追加的併合(同第18条)、原告による請求の追加的併合(同第19条)、国または公共団体に対する請求への訴えの変更(同第21条)、第三者の訴訟参加(同第22条)、行政庁の訴訟参加(同第23条)、職権証拠調べ(同第24条)、判決の拘束力(同第33条)、訴訟費用の裁判の効力(同第35条)。

 A同第38条第2項により準用されるもの

 取消しの理由の制限のうち、裁決の取消しの訴えに関するもの(同第10条第2項)、原告による請求の追加的併合のうち、処分の取消しの訴えを裁決の取消しの訴えに併合して提起する場合(同第20条)。

 B同第38条第3項により準用されるもの

 釈明処分の特則(同第23条の2)、執行停止(同第25条)、事情変更による執行停止の取消し(同第26条)、内閣総理大臣の異議(同第27条)、執行停止等の管轄裁判所(同第28条)、執行停止に関する規定の準用(同第29条)、執行停止の決定等への第32条第1項の準用(同第32条第2項)。

 C準用されないもの(主なもののみ)

 出訴期間(同第14条)、事情判決(同第31条)、取消判決の第三者効(同第32条第1項)

 〔4〕主張および立証責任

 「処分」の無効(裁量権の逸脱濫用→処分の違法性が重大かつ明白であること)についての主張および立証責任は、原告が負う〔最二小判昭和42年4月7日民集21巻3号572頁(U―197)〕。

 

 2.不作為の違法確認訴訟

 〔1〕不作為の違法確認判決の意味

 不作為の違法確認訴訟は中途半端な訴訟形態であるが、処分または裁決についての申請がなされたにもかかわらず、相当の期間を過ぎても行政庁が不作為を続けている場合に、その不作為の違法性を確認することによって、申請権者の救済を図るというものである。行政事件訴訟法第38条第1項によって同第33条が不作為の違法確認訴訟に準用されるため、勝訴判決には拘束力が認められる。すなわち、不作為の違法を確認する判決は、原告に対する何らかの応答義務を行政庁に課することになる。

 〔2〕不作為の違法確認訴訟の原告適格

 原告適格は、同第37条により、処分または裁決についての申請をした者に限定される。この申請が適法であるか不適法であるかは問題にならない。仮に申請が不適法であれば却下すればよいだけの話であり、その点においても行政庁は応答義務を負うこととなるためである。

 同第3条第5項にいう「法令に基づく申請」の意味については、法令に明文の規定がある場合は勿論、明文に規定が存在しなくとも、解釈によって原告の申請権が認められればよいとするのが通説および判例である。また、「法令」の意味について、内規や要綱などを含める考え方もある。

 また、同項にいう「相当の期間」の意味も問われることとなるが、標準処理期間(行政手続法第6条)が参考となるであろう。但し、標準処理期間を経過したから直ちに不作為が違法性を帯びるという訳ではない。

 〔3〕取消訴訟の規定の準用の有無

 同第38条第1項および第4項は、取消訴訟に関する規定を無効等確認訴訟に準用する場合などを規定する。

 (1)第38条第1項により準用されるもの

 被告適格等(同第11条)、管轄(同第12条)、関連請求(同第13条)、請求の客観的併合(同第16条)、共同訴訟(同第17条)、第三者による請求の追加的併合(同第18条)、原告による請求の追加的併合(同第19条)、国または公共団体に対する請求への訴えの変更(同第21条)、第三者の訴訟参加(同第22条)、行政庁の訴訟参加(同第23条)、職権証拠調べ(同第24条)、判決の拘束力(同第33条)、訴訟費用の裁判の効力(同第35条)。

 (2)同第38条第4項により準用されるもの

 処分の取消しの訴えと審査請求との関係(同第8条)、取消しの理由の制限のうち裁決の取消しの訴えに関するもの(同第10条第2項)

 なお、注意すべき点が2つある。

 第一に、不作為の違法確認訴訟には同第9条が準用されないものの、「法律上の利益」は必要と解される。従って、不作為違法確認訴訟の提起後、行政庁が処分または裁決をした場合には、不作為状態が解消されるため、「法律上の利益」は失われ、訴訟は却下される。

 第二に、不作為の違法確認訴訟の性質上、同第14条は準用されない。従って、不作為の状態が継続している限り、不作為違法確認訴訟を提起できる

 

 3.義務付け訴訟

 〔1〕義務付け訴訟の意味

 義務付け訴訟とは、行政庁に対して公権力の行使を求める訴訟である。行政事件訴訟法第3条第6項は、「行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)」(同第1号)、または「行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき」(同第2号)に「行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう」と定義する。

 〔2〕義務付け訴訟の種類

 先に引用した行政事件訴訟法第3条第6項の規定から明らかであるように、義務付け訴訟には二つの類型がある。同第1号に定められる義務付け訴訟非申請型義務付け訴訟といい、同第2号に定められる義務付け訴訟申請型義務付け訴訟という。二種類に分けられる理由は、訴訟要件および本案勝訴要件の違いにある。

 〔3〕処分の特定性

 非申請型義務付け訴訟、申請型義務付け訴訟のいずれについても、「一定の処分」を求める点において共通する。そのため、「処分」については裁判所における判断が可能である程度にまで特定される必要性がある

 〔4〕非申請型義務づけ訴訟

 法令に基づく申請を前提としない義務付け訴訟であり、直接型義務づけ訴訟ともいう。申請権を有しない原告が、行政庁に一定の処分をなすことを請求し、裁判所が判決でその処分をなすことを義務付ける、というものである。

 (1)訴訟要件

 行政事件訴訟法第37条の2は、非申請型義務付け訴訟の訴訟要件を定める。

 同第1項は、まず「一定の処分がなされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあ」ることをあげるが、「おそれがあ」るだけでは足りず、「その損害を避けるため他に適当な方法がない」こと、すなわち補充性の要件も必要であることを定める。抽象的な規定であるが、補充性については、義務付け訴訟に代わりうる救済手続がとくに法律で定められている場合(例、国税通則法第23条に定められる更正の請求)を指すものと解される。また、「例えば、法令において、一定の処分を求めるための申請権が与えられている場合には、その申請をしないでその処分を求める義務付けの訴えを提起することは、他に適当な方法がない場合であるとはいえないであろう」と述べる見解がある※※

 ※塩野・前掲書240頁、櫻井敬子・橋本博之『行政法』〔第5版〕(2016年、弘文堂)333頁。

 ※※小林久起『司法制度改革概説3 行政事件訴訟法』(2004年、商事法務)74頁。

 同第2項は、同第1項にいう「重大な損害」に関する解釈の指針であり、裁判所には執行停止と同様の態度が求められることとなる(同第25条第2項を参照すること)。

 非申請型義務付け訴訟の原告適格は、「行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者」に認められる(同第37条の2第3項)。取消訴訟の原告適格と同様に「法律上の利益」を有することが要件とされる訳であるが、その有無の判断についても、取消訴訟と同様に行われなければならない(同第37条の2第4項により、同第9条第2項が準用される。

 (2)本案勝訴要件

 勝訴判決により、行政庁は処分(または裁決)をすることを義務付けられることになる。そのためには、同第37条の2第5項により、「行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ」ること、または、「行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる」こと、これらのうちのいずれかが必要となる。

 (3)仮の義務付け

 取消訴訟について執行停止が定められるのと同様に、非申請型義務付け訴訟については仮の義務付けが定められている。行政事件訴訟法第37条の5第1項は、仮の義務付けを、原告の申立てによって裁判所が「仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずること」と位置づける。

 仮の義務付けが行われるための要件は、第一に「その義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」ことであり、第二に「本案について理由があるとみえる」こと、第三に「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれが」ないことである(同第3項)。第一の要件は執行停止よりも厳格であるが、「償うことのできない損害」は、金銭賠償が不可能な損害はもとより、社会通念上、金銭賠償のみで救済することが不相当と認められる場合も含まれる※。また、第二の要件は、本案について原告が勝訴する見込みを意味する。

 ※櫻井・橋本・前掲書346頁。

 仮の義務付けについては、執行停止に関する規定である同第25条第5項ないし第8項が準用される他、同第33条第1項が準用される(同第37条の5第4項)。なお、仮の義務付けに基づいて行われる処分の性質については、仮の処分説と本来の処分説との争いがある。

 〔5〕申請型義務付け訴訟

 法令に基づく申請を前提とする義務付け訴訟であり、申請満足型義務付け訴訟ともいう。申請権を有する原告が、行政庁に対し、申請を満足させる応答をなすことを求め、裁判所が判決でその応答をなすことを義務付ける、というものである。

 (1)訴訟要件

 行政事件訴訟法第37条の3は、申請型義務付け訴訟の訴訟要件を定める。

 同第1項は、申請型義務付け訴訟の対象を、「当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと」(すなわち不作為。同第1号)、「当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること」(すなわち申請拒否処分または審査請求却下もしくは棄却裁決。同第2号)と定める。また、同項に定められる義務付け訴訟のうち、「行政庁が一定の裁決をすべき旨を命ずることを求めるものは、処分についての審査請求がされた場合において、当該処分に係る処分の取消しの訴え又は無効等確認の訴えを提起することができないときに限り、提起することができる」(同第7項)。これは、「当該処分に係る処分の取消しの訴え又は無効等確認の訴えを提起することができ」るときには処分について取消訴訟などを提起すべきであるということを意味する

 ※小林・前掲書81頁は、次のように説明する。

 「不利益処分を受けた者が、その処分の取消しを求めて審査請求をした場合でも、原処分について取消訴訟又は無効等確認の訴えを提起することができるときは、審査請求に対する裁決をすべき旨を命ずる義務付けの訴えを提起する必要性がない」。「許認可等の処分を求める申請を拒否する処分を受けた者が、拒否処分の取消しを求めて審査請求をした場合も、拒否処分について取消訴訟又は無効等確認の訴えを提起することができるときは、これに併合して申請で求める許認可等の処分をすべき旨を命ずることを求める義務付けの訴えを提起することができる」。

 同第2項は、同第1項各号に定められる当該法令に基づく申請又は審査請求をした者」に原告適格が認められる旨を定める。

 (2)申請型義務付け訴訟と他の抗告訴訟との併合提起

 行政事件訴訟法第37条の3第3項は、申請型義務付け訴訟を単独で提起することはできず、必ず、他の抗告訴訟と併合して提起しなければならない旨を定める。すなわち、行政庁の不作為に対する申請型義務付け訴訟については不作為の違法確認訴訟と併合提起しなければならず(同第1号)、申請拒否処分または審査請求却下もしくは棄却裁決に対する申請型義務付け訴訟については取消訴訟または無効等確認訴訟と併合提起しなければならない(同第2号)。従って、義務付け訴訟を提起するには、不作為違法確認訴訟、取消訴訟、無効等確認訴訟のいずれかを適法に提起できる必要がある(同第4項および同第6号も参照)。これは、他の抗告訴訟との役割・機能の分担の観点に立つものである。

 (3)本案勝訴要件

 非申請型義務付け訴訟と同様に、申請型義務付け訴訟についても、勝訴判決により、行政庁の処分(または裁決)をすることを義務付けられることになる。そのためには、同第37条の3第5項により、次のいずれかが認められる場合が、原告が本案で勝訴するために必要な要件となる。

 第一に、「各号に定める訴えに係る請求に理由があると認められ、かつ、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきであることがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ」ることである。

 第二に、「各号に定める訴えに係る請求に理由があると認められ」、かつ「行政庁がその処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる」ことである。

 (4)仮の義務付け

 申請型義務付け訴訟についても仮の義務付けが認められる。非申請型義務付け訴訟についてと同じく、行政事件訴訟法第37条の5の定めるところによるので、前述のところを参照されたい。

 

 4.差止訴訟

 差止訴訟は不作為的義務付け訴訟ともいい行政庁が何らかの処分(または裁決)をすべきでないにもかかわらず、これがなされようとしている場合に、行政庁にその処分(または裁決)をしてはならない旨を命ずることを裁判所に求める訴訟である(行政事件訴訟法第3条第7項)。

 ※かつては予防訴訟、予防的差止訴訟などとも言われた。

 〔1〕処分の特定性

 義務付け訴訟と同様に、差止訴訟についても、一定の処分または裁決について裁判所における判断が可能である程度にまで特定される必要性がある

 〔2〕訴訟要件

 差止訴訟の訴訟要件は、義務付け訴訟と異なり、行政事件訴訟法第3条第7項および同第37条の4に定められている。

 まず、第一の要件として、「行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている」こと(同第3条第7項)、すなわち、処分または裁決がなされる蓋然性が求められる。これは、要件というより前提と捉えるほうが正しいかもしれない。差止訴訟の定義に含まれているためである。

 その上で、第37条の4の各項に定められる要件を充足する必要がある。

 同第1項本文は、「一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある」ことをあげる。この「重大な損害」は、取消訴訟、またはその取消訴訟提起後の執行停止では救済が困難なほどの障害と解される。また、同項ただし書きは「その損害を避けるため他に適当な方法が」ないことをあげており、これは、原則として、差止訴訟よりも処分が行われた後の取消訴訟が優先するという趣旨も含まれることを意味する。なお、同第2項は「重大な損害」の解釈指針を、同第37条の2第2項および同第25条第2項と同じ文言により定めていることに注意を要する

 ※小林・前掲書83頁によると、「例えば、差止めを求める処分の前提となる処分があって、その前提となる処分の取消訴訟を提起して執行停止を得れば、後続する差止めを求める処分をすることが当然にできないことが法令上定められているような場合」には、差止訴訟を起こすことができない。

 同第37条第3項は、差止訴訟の原告適格が「行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り」認められる旨を定める。「法律上の利益」の解釈については、同第4項により、第9条第2項が準用される(義務付け訴訟と同様である)。

 ●最一小判平成24年2月9日民集66巻2号183頁(U−207)

 事案:東京都教育委員の教育長は、平成15年10月23日付で、都立学校の各校長宛に「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」を発し、各校長に対し、(1)学習指導要領に基づき、入学式、卒業式等を適正に実施すること、(2)入学式、卒業式等の実施に当たっては、式典会場の舞台壇上正面に国旗を掲揚し、教職員は式典会場の指定された席で国旗に向かって起立して国歌を斉唱し、その斉唱はピアノ伴奏等により行うなど、所定の実施指針のとおり行うものとすること、(3)教職員がこれらの内容に沿った校長の職務命令に従わない場合は服務上の責任を問われることを教職員に周知すること、などを求めた。これに対し、東京都立の高等学校や特別支援学校に教職員として勤務するXら(原告、被控訴人、上告人)が、東京都(行政事件訴訟法改正前は東京都教育委員会)に対し、@「各所属校の卒業式や入学式等の式典における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱する義務のないこと及びピアノ伴奏をする義務のないことの確認」、およびA「上記国歌斉唱の際に国旗に向かって起立しないこと若しくは斉唱しないこと又はピアノ伴奏をしないことを理由とする懲戒処分の差止め」を求め、さらに国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償請求を行った。東京地判平成18年9月21日判時1952号44頁はXらの請求を認容したが、東京高判平成23年1月28日判時2113号30頁@は東京地方裁判所判決を取り消したため、Xらが上告した。最高裁判所第一小法廷はXらの上告を棄却した。

 判旨:差止訴訟についての部分のみを示す。

 ・「法定抗告訴訟たる差止めの訴えの訴訟要件については、まず、一定の処分がされようとしていること(行訴法3条7項)、すなわち、行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があることが、救済の必要性を基礎付ける前提として必要となる」。

 ・「免職処分以外の懲戒処分(停職、減給又は戒告の各処分)の」差止訴訟の要件については「当該処分がされることにより『重大な損害を生ずるおそれ』があることが必要であり(行訴法37条の4第1項)、その有無の判断に当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされて」おり(同条第2項)、「行政庁が処分をする前に裁判所が事前にその適法性を判断して差止めを命ずるのは、国民の権利利益の実効的な救済及び司法と行政の権能の適切な均衡の双方の観点から、そのような判断と措置を事前に行わなければならないだけの救済の必要性がある場合であることを要するものと解される」から「差止めの訴えの訴訟要件としての上記『重大な損害を生ずるおそれ』があると認められるためには、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解するのが相当であ」り、(中略)「本件通達を踏まえた本件職務命令の違反を理由として一連の累次の懲戒処分がされることにより生ずる損害は、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものであるとはいえず、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであるということができ、その回復の困難の程度等に鑑み、本件差止めの訴えについては上記「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められる」。

 ・「差止めの訴えの訴訟要件については、『その損害を避けるため他に適当な方法があるとき』ではないこと、すなわち補充性の要件を満たすことが必要であるとされている(行訴法37条の4第1項ただし書)。(中略)本件通達及び本件職務命令は(中略)行政処分に当たらないから、取消訴訟等及び執行停止の対象とはならないものであり、また、(中略)本件では懲戒処分の取消訴訟等及び執行停止との関係でも補充性の要件を欠くものではないと解される。以上のほか、懲戒処分の予防を目的とする事前救済の争訟方法として他に適当な方法があるとは解されないから、本件差止めの訴えのうち免職処分以外の懲戒処分の差止めを求める訴えは、補充性の要件を満たすものということができる」。

 ・差止訴訟の本案について「行政庁がその処分をすべきでないことがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められることが要件とされており(行訴法37条の4第5項)」、当該差止請求においては、本件職務命令の違反を理由とする懲戒処分の可否の前提として、本件職務命令に基づく公的義務の存否が問題となる。この点に関しては、(中略)本件職務命令が違憲無効であってこれに基づく公的義務が不存在であるとはいえないから、当該差止請求は上記の本案要件を満たしているとはいえない」。また、「差止めの訴えの本案要件について、裁量処分に関しては、行政庁がその処分をすることがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることが要件とされており(行訴法37条の4第5項)、これは、個々の事案ごとの具体的な事実関係の下で、当該処分をすることが当該行政庁の裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることをいうものと解される。」

 〔3〕本案勝訴要件

 義務付け訴訟と同様に、差止訴訟についても本案勝訴要件が定められている。行政事件訴訟法第37条の4第5項によれば、「行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ」ること、「行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる」こと、のいずれかが必要となる。

 〔4〕仮の差止め(第37条の5第2項)

 仮の差止めとは、原告の申立てにより裁判所が「仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずること」である(同第37条の5第2項)。義務付け訴訟における仮の義務付けを不作為命令に変更しただけであり、要件も仮の義務付けとほぼ同じである。

 

 5.法定外抗告訴訟

 無名抗告訴訟ともいう。行政事件訴訟法に規定されていない類型の抗告訴訟のことである。かつては義務付け訴訟および差止訴訟も法定外抗告訴訟に含まれていたが、平成16年改正法によって法定抗告訴訟となったため、他にいかなる法定外抗告訴訟が残されているかについて、議論がある。

 

 6.公法上の当事者訴訟

 (1)形式的当事者訴訟

 当事者間の法律関係を確認し、または形成する処分または裁決に関する訴訟のうち、法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とする訴訟を、形式的当事者訴訟という(行政事件訴訟法第4条前段)。

 例として、土地収用法の損失補償を請求する訴訟(同第133条第2項)があげられる。本来は収用委員会の裁決に関する訴えであるが、形式的に「起業者」と「土地所有者又は関係人」と間の訴えとする(同第3項)。収用委員会の裁決のうち、土地の収用に関しては収用委員会の裁決について国土交通大臣に対する審査請求を行うことができる(土地収用法第129条)。しかし、損失補償に関する事項については審査請求を行うことができない(同第132条第2項)。この他、著作権法第72条、農地法第85条の3、自衛隊法第105条第9項・第10項などがある。

 取消訴訟の規定の準用:行政事件訴訟法第41条第1項により、行政庁の訴訟参加(同第23条)、職権証拠調べ(同第24条)、判決の効力(同第33条第1項)、第35条(訴訟費用の裁判の効力)、釈明処分の特則(同第23条の2)が準用される(他のものについては同第41条第2項を参照)。

 (2)実質的当事者訴訟

 公法上の法律関係に関する確認の訴えなど、公法上の法律関係に関する訴訟を、実質的当事者訴訟という(行政事件訴訟法第4条後段)。公法上の当事者訴訟ともいう。なお、公法上の法律関係に関する確認の訴えは、平成16年改正法によって明示されるに至った

 ※以前は存在しなかったという訳ではなく、存在することが確認されたという意味である。

 この訴訟が置かれている意味であるが、公法と私法との区別が絶対的なものでなく、民事訴訟との区別が付きにくい(実際に、裁判実務では民事訴訟として扱っている)ことから、疑問視されている。

 取消訴訟の規定の準用:形式的当事者訴訟と同様であるが、実務上の意味は乏しいといわれている。とくに、第33条第1項の準用については、その具体的な意味について議論がある。

 実質的当事者訴訟によるとされる例としては、国家公務員法に基づく免職処分が無効であることを前提とする公務員の身分確認訴訟、国立学校における学生退学処分の無効を前提とする在学関係確認訴訟がある。

 (3)参考:争点訴訟

 行政行為の有効・無効が先決問題となっている事件で、私法上の法律関係に関する訴訟を、争点訴訟という。行政事件訴訟ではなく、民事訴訟であるが、行政事件訴訟法第45条に特別の規定がある。

 争点訴訟の例として、農地買収処分の無効について旧地主と新地主との間で争われる訴訟、土地収用裁決が無効であるとして地権者と起業者との間で土地所有権をめぐって争われる訴訟がある。 

 

(2017年11月1日掲載)

(2017年12月20日修正)

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