旭川市介護保険条例(第二次)訴訟最高裁判決
最高裁判所平成一八年三月二八日第三小法廷判決、判時一九三〇号八〇頁、判タ一九〇八号七八頁
【事実の概要】
本件は
これに対し、Xは、
旭川地判平成一五年一二月二日判例集未登載、札幌高裁平成一六年五月二七日判例集未登載は、いずれもXの請求を棄却した。Xは上告したが、最高裁判所第三小法廷は上告を棄却した。
本件の主要な争点は、(1)介護保険法第一二九条第二項・第三項、同施行令第三八条に従って制定された本件条例が、市町村民税が非課税とされる者について一律に介護保険料を賦課しないものとする趣旨の規定または全額免除とする趣旨の規定を置いていないことが、憲法第一四条および第二五条に違反するのか、(2)介護保険法第一三五条による介護保険料の特別徴収制度が憲法第一四条および第二五条に違反するのか、(3)介護保険法第一二九条第二項が憲法第八四条に違反するのか、である(注3)。
(注1) この判決の評釈として、碓井光明・法学教室三〇九号一九頁、倉田聡・判例評論五七四号(判時一九四四号)一八〇頁、菊池馨実・季刊社会保障研究四二巻三号三〇四頁、北野弘久・税経新報五四七号二五頁、拙稿・税務弘報五四巻一二号〔拙稿(上)〕一二九頁、同・税務弘報五四巻一四号〔拙稿(下)〕一三五頁がある。
(注2) 第一次訴訟の判決は、旭川地判平成一四年五月二一日賃金と社会保障一三三五号五八頁、札幌高判平成一四年一一月二八日賃金と社会保障一三三六号五五頁である。事案は基本的に第二次訴訟と同様であり、Xの請求は棄却されている。第一次訴訟についての評釈として、嵩さやか・ジュリスト一二五二号一二九頁、小西啓文・季刊社会保障研究三九巻一号九七頁がある。
(注3) なお、最高裁判決において判断されていないその他の論点については、葛西まゆこ・賃金と社会保障一四三〇号五九頁を参照。判例時報一九三〇号および判例タイムズ一二〇八号では、Xの上告理由が省略されている。
〔判旨〕
上告棄却。
(1)
「介護保険法一二九条三項は、介護保険の第一号被保険者の所得の分布の状況、その見通し等に照らしおおむね三年を通じ財政の均衡を保つことができるものでなければならない旨を規定し」、同施行令第三八条は「その保険料率を被保険者本人及び世帯の負担能力に応じて五段階に区分するとともに、(中略)いわゆる境界層該当者(中略)に対する負担軽減規定を設けて」おり、これらの規定に従って本件条例第三条が規定されている。また、同法第一四二条は、市町村が、条例により、「特別の理由」がある者に対して保険料の減免または徴収の猶予をなすことができる旨を定めており、「これを受けて、本件条例一二条一項、一三条一項が火災等により著しい損害を受けるなどした場合における保険料の徴収猶予及び減免を規定している」。「そして、生活保護受給者については、生活扶助として介護保険の保険料の実費が加算して支給され(中略)、介護扶助として所定のサービスを受けることができるものとされている」。このように、介護保険法や生活保護法において「低所得者に対して配慮した規定が置かれているのであり、また、介護保険制度が国民の共同連帯の理念に基づき設けられたものであること(介護保険法一条)にかんがみると」、本件条例が第一号被保険者のうちで要保護者(生活保護法第六条第二項)で市町村税を非課税とされている者について「一律に保険料を賦課しないものとする旨の規定を設けていないとしても、それが著しく合理性を欠くということはでき」ず、「経済的弱者について合理的な理由のない差別をしたものということ」もできず、憲法第一四条および第二五条に違反しないことは、最大判昭和三九年五月二七日民集一八巻四号六七六頁(待命処分訴訟)、最大判昭和五七年七月七日民集三六巻七号一二三五頁(堀木訴訟)の「趣旨に徴して明らかである」。
(2)
「介護保険法一三五条の規定による介護保険の第一号被保険者の保険料の特別徴収の制度は、市町村における保険料収納の確保と事務の効率化を図るとともに、第一号被保険者の保険料納付の利便を図るために導入されたものであ」り、対象は国民年金法による老齢基礎年金等の老齢退職年金給付であって(介護保険法一三一条)、その年額が一八万円以上のものである」。「介護保険の第一号被保険者の保険料は、高齢期の要介護リスクに備えるために高齢者に課されるものであり、その日常生活の基礎的な経費に相当するということができる。そして、一定額を下回る老齢退職年金給付を特別徴収の対象としていないことを踏まえれば、老齢退職年金給付から上記保険料を特別徴収することが、上記公的年金制度の趣旨を没却するものということはできない。また、特別徴収の対象は、公租公課禁止規定(国民年金法二五条)の趣旨に配慮して、同法による老齢基礎年金及びこれに相当する年金とされている」。以上から、「特別徴収の制度は、著しく合理性を欠くということはできないし、経済的弱者を合理的な理由なく差別したものではないから、憲法一四条、二五条に違反しない」ことは、最大判昭和三七年二月二一日刑集一六巻二号一〇七頁(遊興飲食税訴訟)、最大判昭和三七年二月二八日刑集一六巻二号二一二頁(所得税源泉徴収訴訟)の「趣旨に徴して明らかである」。
(3)
「介護保険法一二九条二項は、介護保険の第一号被保険者に対して課する保険料の料率を、政令で定める基準に従い条例で定めるところにより算定する旨を規定し、具体的な保険料率の決定を、同条三項の定め及び介護保険法施行令三八条所定の基準に従って制定される条例の定めるところにゆだねたのであって、保険者のし意を許容したものではない」から「憲法八四条の趣旨に」反しないことは、前掲最大判平成一八年三月一日の「趣旨に徴して明らかである」。
一 争点(一)について
本件判決は、既に示したように、介護保険法や生活保護法に低所得者への配慮を示した規定が置かれていることと、「国民の共同連帯の理念」(介護保険法第一条)とをあげ、とくに堀木訴訟最高裁判決に依拠した広範な立法裁量論を受けている。この立法裁量論が後の判例を強力に支配し(憲法学にも影響を及ぼし)、生存権の性格や違憲審査基準に関する議論が全くと言ってよいほど進んでいないことは、一部の論者から指摘される(注4)。かような状況において「広範な立法裁量が想定される二五条関連事案においては一四条違反を主張することが(純差別的な区別を除いては)困難である」という指摘(注5)指摘がなされるのも当然である。
介護保険法において見られるのは、応益負担原則の強調(受益と負担との連結性、対価性の強調)、リスク分散の観点(所得再分配の要請度は低くなる)である。このことから、被保険者の収入を或る程度は考慮しつつも、生活保護基準に満たないほどの低所得の者から、さらに無収入の者からも保険料を賦課徴収することが正当化されている(厚生労働省の立場)。また、「国民の共同連帯の理念」も、応益負担原則を理由づけるために利用される。
しかし、「国民の共同連帯の理念」から、直ちに応益負担原則を導き出せるのか(注6)。この理念は応能負担原則の理由付けにも利用できるはずであり、本来であれば扶助原理の根拠となるはずである。保険原理からは、加入者間の平等を導き出すことができるが、それは直ちに応益負担と結びつかないであろう。
また、この理念から、年収・所得に関わらず定額負担(所得段階による増減はあるが基本的に)を導き出すことは、論理の飛躍に他ならないのではないか。応益負担原則を言うのであれば、定率負担のほうが理に適い、扶助原理と保険原理との両立にも適うと考えられるであろう。
社会保険には「収支均等の原則」、「給付・反対給付均等の原則」および「保険技術的公平の原則」がそのまま妥当する訳ではない(注7)。社会保険を社会保障制度として位置づけた場合、保険原理を扶助原理によって修正し、所得再分配の機能を構造化したところに本質があると言いうる(注8)。
したがって、社会保険制度の場合、応益負担を部分的に導入することが全く許されないものではないが、応能負担原則を基調とすることが、憲法第二五条の趣旨にかない、憲法第一四条の要請にも適合することになる(注9)。
これとは別に、憲法第一四条違反の主張に関して、Xとの比較の対象が具体的でない旨の指摘がなされる(注10)。しかし、介護保険法施行令第三九条および本件条例第三条の規定から、比較の対象は自ずと判明するはずであるし、憲法第二五条に関する問題を扱う場合、多くは憲法第一四条に関する問題も伴うはずである。この種の訴訟において憲法第一四条違反を争う場合、比較の対象をどこまで明確に決めておく(特定する)必要があるのか。
そして、本件判決は、生活困窮者の保険料減免規定の欠如が違憲でないことの理由を、介護保険法や生活保護法に「低所得者に対して配慮した規定が置かれ」ることに求める。これは、憲法第二五条第一項が保障する最低限度の生活は、法制度全体を通じて保障するのであればよい、すなわち、個々の法制度が保障する必要はないという主張(注11)と同じ趣旨であり、学説においても支持する見解が散見される(注12)。
しかし、ここでいう「配慮」は、被災、死亡、重大な障害、事業の休廃止、失業、不作、不漁などによる減免であり、収入が生活保護基準以下であることは掲げられていない。本件の場合、Xが生活保護受給者であるか否かが明らかでなく、生活能力や資産状況も認定されていないが、現実には、たとえば生活保護に際して厳しい給付抑制政策が存在し、生活保護を受給したくともしえない事情に追い込まれる者が多いと言われる。法制度全体による生存権保障という理論、および本件判決の趣旨は、社会保障・社会福祉制度の運用を考慮に入れていないのではなかろうか。さらに、これらは裁量権の行使に対する統制の試みを最初から放棄するものであり、低度の社会保障水準、さらにその一層の低下をも正当化するという危険性を孕むものであり、妥当とは言い難い。
(注6) 応益負担原則一般に関する問題については、岡田正則「税条例と地方税法」『地方税の法的課題』(日税研論集第四六号、二〇〇一年)一一頁を参照。
(注7) 拙稿(下)一三七頁。
(注8) 伊藤周平『改革提言介護保険―高齢者・障害者の権利保障に向けて―』(二〇〇四年、青木書店)一六八頁。
(注9) 同旨、伊藤・前掲書一六八頁。この点において、「理論的には、『保険』制度においては、あくまで応益負担が原則とされるはずである。(中略)低所得者の負担の問題を考えれば、ある程度応能負担による修正を受けることは許容されるとみるべきであろう」とする葛西・前掲六一頁の主張には疑問を投げかけざるをえないが、昨今の社会保障法学や憲法学においては、このような主張が少なからず見受けられる。
(注10) 関ふ佐子・判例評論五七八号(判例時報一九五六号)一七三頁。
二 争点(2)について
本件判決は特別徴収制度についても、前掲最大判昭和三七年二月二一日、前掲最大判昭和三七年二月二八日を参照しつつ、広範な立法裁量を認める。また、判決文には明示されていないが、最大判昭和六〇年三月二七日民集三九巻二号二四七頁(大嶋サラリーマン税金訴訟)の趣旨にも合致している。結局、本件判決は、介護保険料の徴収の便宜、収納率の確保のみを正当化の根拠とする。
しかし、本件に関して前記の両判決を引用するのは妥当ではなかろう(注13)。
所得税の場合は、雑所得のうち、公的年金等による所得は、一年間の収入金額から公的年金等控除額を控除して得られた金額である(所得税法第三五条)。公的年金等控除額の設定の妥当性はともあれ、年金生活者の生活に多少なりとも配慮をしている。また、事業所得、給与所得など、総合課税の対象となる所得については社会保険料控除などの適用がある。しかし、介護保険料の場合は、公的年金等控除額、社会保険料控除に相当するものが存在しない。かような相違に鑑みれば、介護保険料の特別徴収の合憲性を導くには、さらに詳しい論拠を必要とするものと思われる。
三 争点(3)について(注14)
本件判決は、旭川市国民健康保険条例訴訟最高裁大法廷判決の趣旨を援用して介護保険法第一二九条が憲法第八四条に違反しないと判断し、このことが同大法定判決の「趣旨に弔して明らかである」と述べるが、いかなる点が大法廷判決のどの部分に照らして「明らかである」のかという点について、論旨には不明な点がある。おそらく、介護保険料にも租税法律主義・地方税条例主義の趣旨が及ぶものの、課税要件法定主義の趣旨および課税要件明確主義の趣旨(それぞれ、以下、介護保険料については賦課要件法定主義、賦課要件明確主義と記す(注15))に反するところはないという意味であると思われるが、明言は避けられている。
憲法第八四条をめぐる争点を検討するためには、旭川市国民健康保険条例訴訟最高裁大法廷判決を参照しつつ、国民健康保険条例と本件条例の構造の相違を概観する必要がある。また、
本件判決は、以上の点を軽視して単純に旭川市国民健康保険条例訴訟最高裁大法廷判決を参照しているように思われるが、そうであるならば、まずはこの点で妥当性を欠くであろう(注16)。
ここで租税法律主義の内容を確認しておくならば、憲法第八四条から明らかであるように、新たな租税を国民に課し、または従来からの租税負担を変更するには、必ず国民、少なくとも国民を代表する機関である国会の承認を必要とする。すなわち、租税の賦課および徴収は、必ず、法律の根拠に基づいて行われなければならない。これが租税法律主義である。ここから課税要件法定主義および課税要件明確主義が導き出される。
本件においては、まず課税要件法定主義の趣旨ないし賦課要件法定主義が問題となるために改めて確認しておくならば、課税要件法定主義は、全ての課税要件、租税の賦課・徴収手続が法律によって規定されなければならないという原則である(注17)。
この原則については、法律と行政立法との関係が度々問題とされるが、憲法第七三条第六号において執行命令および委任命令の存在が認められていることからすれば、課税要件、租税の賦課・徴収手続に関する規定について法律が政令・省令に委任することが全く許されない訳ではない。この点は、
もとより、白紙委任のような一般的・包括的な委任は憲法第四一条に違反することになるのであり、個別的・具体的な委任が求められる。
本件判決は、介護保険法第一二九条第二項が憲法第八四条に違反しないと述べているが、その理由として、単に保険料率の決定について保険者の恣意を許容したものではない、としか述べていない。
この点につき、大阪地判平成一七年六月二八日判例自治二八三号九六頁は、より詳細に「保険料に租税法律主義の趣旨が及ぶのは、恣意的な保険料の決定及びその賦課徴収を排除し、民主的なコントロールを及ぼすことにあるから、保険料の賦課徴収に関する事項を、すべて法律に具体的に規定しなければならないわけではなく、賦課徴収の根拠を法律で定め、具体的な保険料率等については下位の法律に委任することも許されるというべきである。むしろ、保険料率は、複雑な諸事情を高度に専門的な観点から考察して定められるものであるから、具体的な保険料率の定めを下位の法規に委任することにも合理性が認められる。したがって、法律において、保険料率の算定の基準や方法を定めた上、それに基づく具体的な定めを下位の法規に委任し、現に下位の法規で具体的な規定が明確に定められている場合には、租税法律主義の趣旨に反しないというべきである」と述べている(注19)。
また、旭川地判平成一四年五月二一日賃金と社会保障一三三五号五八頁は、介護保険料にも租税法律主義・地方税条例主義の趣旨が及ぶとした上で、本件条例は条例が住民の代表たる議会において制定されており、第三条および附則第三条が保険料率を具体的に一義的かつ明確に規定していること、施行令第三八条および第三九条の基準が不明確ではないことを述べ、地方自治法第九六条、憲法第八三条および第八四条に違反しないとする(注20)。
この点については、同第三項が保険料率決定に際して考慮に入れるべき事項を規定していること、条例を制定する市町村が保険者とされていること(同第三条第一項)などから、委任の目的・内容および程度が介護保険法自体において或る程度は明確にされていると言いうるであろう(注21)。また、同第一二九条第三項に列挙されている考慮事項を参照するならば、国が法律により統一的に保険料率を定めることは制度の趣旨にそぐわず、市町村の条例制定権を根本から奪うことにつながりかねない(同第一四六条は、この点に配慮した規定であるとも評価しうる)。
しかし、施行令第三八条および第三九条を参照すると、たしかに技術的な部分が多いとは言え、かなり詳細であり、いかなる被保険者についてどの程度の標準割合で保険料率が定められるべきかということも規定されている。法律が、被保険者の収入、あるいは市町村民税非課税者であるか否かに関することについてまで施行令に委任していることに対しては、一般的・包括的な委任ではないかという疑問が残る(注22)。
また、課税要件法定主義、さらに地方税条例主義という観点からすれば、市町村の介護保険条例の多くは介護保険法施行令が定める基準に従わなければならないという点にこそ、問題がある(注23)。
条例において具体的な保険料率が定められるために地方税条例主義の外観を維持するのであるが、実際には、施行令第三八条および第三九条の基準に従って保険料率を定めざるをえないのであり、市町村議会が議決をなしうる範囲はきわめて限定されていると言わざるをえない。そのため、判決がおそれるような保険者の恣意は、よほどの場合でなければ現われえないであろう。
そして、地方税条例主義との抵触という問題は、介護保険法第一四二条のほうにむしろ強く現われている。
同条は、単に「市町村は、条例で定めるところにより、特別の理由がある者に対し、保険料を減免し、又はその徴収を猶予することができる」と定めるのみであるが、実際には介護保険条例参考例という(厚生労働省老健局介護保険課長の通知が都道府県介護保険担当課(室)長宛に出されており、その第二四条において保険料の減免事由が限定的に列挙されている。
この列挙事由において生活困窮は掲げられていないという点も問題であるが、介護保険料の減免は自治事務とされるにもかかわらず、減免事由について積極的に指導を行っていることは、各市町村における実情を無視することにつながり、到底妥当とは言えない。同省は、いわゆる三原則として、保険料の全額免除は適当でない、収入のみに着目した保険料の一律減免は適当でない、などという趣旨の見解を示してきたが、介護保険法第一四二条から介護保険条例参考例第二四条のように減免事由を限定列挙すべき理由は見当たらず、法律の趣旨を逸脱すると評価しえないであろうか。本件判決が、この点についてほとんど何の判断をしておらず、行政解釈をそのまま繰り返すような判断をした点は、妥当ではない。
次に、課税要件明確主義の趣旨が問題となるが、これについては、保険料率を政令で定める基準に従って条例で定めるという方法が、介護保険のみならず、国民健康保険についても採用されているために、
この方法は、
北野弘久氏は、
これに対し、旭川市介護保険条例の場合、第三条および第四条は、被保険者を訴訟当時の規定では五種(現在は七種)に分けた上で一年間あたりの保険料率を明確に定めている。これは施行令第三九条を受けたものである。施行令第三八条および第三九条は保険料率の算定に関する基準を定めているが、その基準は、内容の妥当性はともあれ、かなり具体的である。介護保険法第一二九条自体において保険料率を定めることが、かえって制度の趣旨にそぐわないため、同条に保険料率が明定されていないことはやむをえないものと言いうることも考え合わせれば、国民健康保険条例第八条と異なり、介護保険条例第三条の規定は賦課要件明確主義に反しないということになる。
しかし、憲法第八四条との関連における介護保険条例の主要な問題点は、賦課要件明確主義ではなく、課税要件法定主義の趣旨との適合性であろう。
以上より、筆者は、争点(3)に関する本件判決の論旨の妥当性についても、とくに賦課要件法定主義という観点から疑問を呈せざるをえない。
(あとがき)
この論文は、会計と監査59巻2号(2008年2月号)30頁から37頁までに掲載されたものです。雑誌掲載時は縦書きでしたが、ホームページに掲載する際に横書きに改めました。その関係で、一部表記を変更した箇所があります。
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