税法・財政法試験問題集・その1 解説など
当初、このレポート課題については、解説を掲載しないつもりであったが、所得税(第3回目のレポート)とともに「単純累進課税と超過累進課税との区別を理解していないのではないか」と思われるレポートが多かったので、(1)の@およびAについてのみ、解説を掲載することとした。
なお、最初にお断りをしておく。超過累進税率の場合、実際には、計算を楽にするための早見表が存在する。実務ではそちらを使うが、講義では、超過累進税率の基本を理解していただくため、あえて早見表を使わず、面倒な計算をしてい る。この解説でもある。
また、本来であれば、小数点については調整などを行うことになっているが、この解説では、小数点以下を切り捨てている。税額控除も省略した(相続税の基本を理解するという趣旨からは外れると考えられるためで ある)。
●超過累進税率は、所得税法第89条の表に従い、所得控除を行った後の金額を、表に対応するように分割し、それぞれに税率を乗ずる。こうすることにより、僅かに金額が増えることによる急激な負担の増加を抑えることができ る。
また、相続税法第16条は「相続税の総額」の計算について、やはり超過累進税率を採用する。趣旨は所得税法第89条とほぼ同じである。以下、レポートの課題については相続税法第 16条を用いることとなる。
●(1)の@について
合計課税価格は12億円であるから、基礎控除は、5000万円+1000万円×4=9000万円である。
従って、課税遺産額は12億円−9000万円=11億1000万円
ここで、法定相続分で分割すると仮定する。
Bは、11億1000万円×1/2=5億5500万円
C、D、Eは、それぞれ、11億1000万円×1/6=1億8500万円
ここで、Bについて超過累進税率を適用する。
1000万×0.1+(3000万−1000万)×0.15+(5000万−3000万)×0.2+(1億−5000万)×0.3+(3億−1億)×0.4+(5億 5500万−3億)×0.5
=100万+300万+400万+1500万+8000万+1億2750万
=2億3050万(円)
同様に、C、D、Eのそれぞれについて超過累進税率を適用すると、
1000万×0.1+(3000万−1000万)×0.15+(5000万−3000万)×0.2+(1億−5000万)×0.3+(1億8500万−1億)×0.4
=100万+300万+400万+1500万+3400万
=5700万(円)
B、C、D、Eの分を合算すると、
2億3050万+5700万×3=2億3050万+1億7100万=4億150万(円)
これを実際の相続割合で按分すると、
B:4億150万円×2/12=4億150万円×1/6=6691万6666円
C:4億150万円×3/12=4億150万円×1/4=1億37万5000円
D:4億150万円×1/12=3345万8333円
E:4億150万円×6/12=4億150万円×1/2=2億75万円
●(1)のAについて
A新たに9億円の遺産が見つかったので、合計遺産額は21億円となる。計算をやり直さなければならない。
基礎控除は同額であるから、課税遺産額は20億1000万円になる。
これを法定相続分で分割すると仮定する。
B:20億1000万円×1/2=10億500万円
C、D、E:10億500万円×1/3=3億3500万円
それぞれに超過累進税率を適用すると、
1000万×0.1+(3000万−1000万)×0.15+(5000万−3000万)×0.2+(1億−5000万)×0.3+(3億−1億)×0.4+(10億500万−3億)×0.5
=100万+300万+400万+1500万+8000万+3億5250万
=4億5550万(円)
1000万×0.1+(3000万−1000万)×0.15+(5000万−3000万)×0.2+(1億−5000万)×0.3+(3億−1億)×0.4+(3億3500万−3億)×0.5
=100万+300万+400万+1500万+8000万+1750万
=1億2050万(円)
B、C、D、Eの分を合算すると、
4億5550万円+1億2050万円×3=8億1700万円
これを実際の相続割合で按分すると、
B:8億1700万円×5/21=1億9452万3809円
C:8億1700万円×6/21=8億1700万円×2/7=2億3342万8571円
D:8億1700万円×1/21=3890万4761円
E:8億1700万円×9/21=8億1700万円×3/7=3億5014万2857円
付記.超過累進課税について
1.所得税法第89条の読み方
これについては、講義で、黒板に数字を出して説明した。少々わかりにくい規定であるが、次のように読む。
●
「その年分の課税総所得金額又は課税退職所得金額をそれぞれ次の表の上欄に掲げる金額に区分し」例えば、課税総所得金額が1000万円だったとする。
表の上の欄には、330万円以下、 330万円を超え900万円以下の金額、 900万円を超え1800万円以下の金額と出ている。
そこで、1000万円をこれらに区分するのである。そうすると、
@
330万円までの部分A
330万1円から 900万円までの部分B900万1円から
1800万円までの部分(結局、 900万1円から1000万円までの部分、ということになる)に分かれる。
●「それぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額」
上で、1000万円を3つの部分に分けた。そのそれぞれに税率をかけ る。
@の部分
330万円×10%=33万円Aの部分
(900万円−330万円)×20%=570万円×20%=114万円Bの部分
(1000万円−900万円)×30%=100万円×30%=30万円これらを合計すると、
33
万円+114万円+30万円=177万円となる。
あとは、これに税額控除の分を差し引けば、最終的な納税額が出る。
図にすると、下のようになる。
10 パーセント |
20 パーセント |
30 パーセント |
@ |
A |
B |
0
330万円 900万円 1000万円2.相続税法第16条の読み方
基本的に所得税法第
89条と同じ であるが、相続税法の場合は、一旦、相続人が民法第900条に定められた相続分によって相続したものと仮定した場合の取得金額に基づいて計算 する。念のため、説明をしておく。例えば、合計課税価格から基礎控除額を差し引いて得られた課税遺産額が1億円であり、配偶者と2人の子が相続人であったとすると、配偶者が5000万円、子はそれぞれ 2500万円となる。そこで、それぞれについて「その金額を次の表の上欄に掲げる金額に区分」する。
配偶者であれば、
@
1000万円以下の金額A
1000万円を超え3000万円以下の金額B
3000万円を超え 5000万円以下の金額に区分することになる。
同様に、子であれば、
@
1000万円以下の金額A
1000万円を超え3000万円以下の金額(∴1000万円を超えて 2500万円までの部分)に区分することになる。
そして、区分した「それぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計」する。配偶者の場合であれば、
@の部分
1000万円×10%=100万円Aの部分
(3000万円−1000万円)×15%=2000万円×15%=300万円Bの部分
(5000万円−3000万円)×20%=2000万円×20%=400万円これらを合計すると、
100
万円+300万円+400万円=800万円子の場合も同様に計算すると、それぞれについて
225万円とな る。表にすると、下のようになります。
配偶者10パーセント | 20パーセント | 30パーセント |
@ | A | B |
0
1000万円 3000万円 5000万円子
10パーセント | 20パーセント |
@ | A |
0 1000万円 2500万円 3000万円
3.超過累進税率と単純累進税率との違い
ここで、何故に単純累進税率ではなく、超過累進税率という複雑な制度を用いるのか。
私が大東文化大学および西南学院大学で担当する講義の教科書、三木義一『よくわかる税法入門』〔第2版〕(2003年、有斐閣)150頁は、「計算の簡便さからすれば単純累進課税のほうが優れているようにみえるのですが、今日の各国の所得税はほとんどが超過累進税率を採っています。というのは、単純累進課税には次のような重大な欠陥が含まれているからです」と述べ、説明を加えてい る。
ここで、所得税法第89条に従って私なりに例を示しておく。
甲の課税(総)所得金額が330万円だったとする。その場合には10%の税率が適用され るので、税額控除前の納税額は33万円とな る。
次に、乙の課税(総)所得金額が331万円であると する。
もし、単純累進課税を使うとすると、330万円を超えると20%となるから、
331万円×20%=66万2000円
となる。
甲と乙と課税(総)所得金額が1万円しか違わないのに、納税額が33万2000円も違う。税額控除が一切なされないと仮定して、甲と乙の、納税後の所得(手許に残る金額)を比較してみれば、この不合理さがさらに はっきりとする。
甲の場合は、330万円−33万円=297万円
乙の場合は、331万円−66万2000円=264万8000円
これでは不公平になってしまうので、超過累進税率を使い、乙については、
330万円×10%+1万円×20%=33万円+2000円=33万2000円
というようにする。
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