サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第35編(本文)
初めに、お断りです。今回は、現場を中心に写真を掲載するのですが、システムの都合上、ここで一気に公開することができません。そのため、本編は、本文、写真1から写真5まで分割されます。
昨年(2000年)の12月9日、別府北浜から別府駅東口までを往復するサテライト日田設置反対運動デモ行進が行われました。実際にこの様子を見聞した者として、2000年12月9日は忘れられない日となるでしょう。少なくとも、「2000年のうちで一番印象に残る日は?」と尋ねられたならば、即、12月9日である、と答えます(あくまでも私の場合ですが)。
それからちょうど1年が経ちます。サテライト日田設置予定場所はどうなっているのかが気にかかり、12月8日、約半年ぶりに現地を訪れることとしました。同じ大分県内であるとは言え、大分市中心部から日田市中心部までは90km以上あります。仕事の関係などで、日田に向かう時間を取ることができなかったのです。しかし、11月24日、北海道大学(札幌市北区)で行われた日本自治学会第1回総会の席で、ほんの少しではありましたが、千葉大学の大森彌教授が、報告においてサテライト日田問題に触れられ、地方分権改革が進められている中でそれに全く対応していないような法律の存在意義を問うものであるという趣旨の見解を示されました。また、当日、九州大学の木佐茂男教授にお会いし、この問題に関する意見交換をいたしました。そのようなことがあったので、仕事が一段落したら日田へ行こうと決めていました。
12月1日にデジタルカメラを購入しましたので、今回は、現地の様子を写真付きでお伝えいたします。なお、第6編においても現地の模様を述べておりますので、お読み下さい。
さて、内容に入る前に、12月9日、西日本新聞日田版に掲載された記事を紹介しましょう。私は、同社のホームページで発見しました。「『サテライト日田」問題 九大生も競輪論争注目 予定地見学や意見交換」という見出しがついております。全文を引用し、紹介させていただきます。西日本新聞本社および日田支局の皆様、九州大学の関係者の皆様、問題がございましたらご連絡をいただけますでしょうか。すぐに削除いたします。
(以下、引用)
別府市が日田市に設置を計画している競輪の場外車券場について、日田市が設置許可の取り消しなどを求めて国との訴訟にまで発展した「サテライト日田」問題で、九州大学法学部の行政法ゼミ(木佐茂男教授)の学生ら十六人が八日、日田市友田の設置予定地見学や担当市職員との意見交換を行った。
同ゼミは九州各地の行政問題をテーマに研究を進めており、まちづくりや公営ギャンブルなどの問題が複雑に絡み合ったサテライト問題に着目。生の意見を聞くため初めて日田市を訪れた。
設置予定地では市職員の説明後、学生が班に分かれて周辺住民や遊戯施設利用者などから、サテライト建設の賛否などについて意見を聴いた。
その後日田市役所で市職員が、国との訴訟に至るまでの経過や、学生から前もって出されていた「設置のメリット・デメリット」「住民の意見をどう反映させているか」などの質問に答えた。
意見交換も活発に行われ「日田市全体が反対していると聞いていたが、『設置してほしい』という人もおり意外な感じがした」という学生に、市側は「市民団体を中心にした運動を議会と行政が支援しており、設置反対は市民の総意。個別に賛成する人がいるのは仕方がないが、自分たちの手で街づくりをするという意識を持ってもらうことが重要」と答えた。
(以上で引用は終わり。木佐先生、ゼミ生の皆様、約束を破ってしまいました。申し訳ございません。しかし、やはり気になる記事ですから……)
実は、この記事に登場しないとは言え、私も現場におり、木佐先生、ゼミ生の皆さん、日田市役所の職員の方(私が存じ上げている方です)、西日本新聞、大分合同新聞、そして毎日新聞の記者諸氏と意見交換などをしておりました。当日に木佐先生とゼミ生の皆さんが日田に来られることは知っておりましたし、ゼミ生の皆さんがこのホームページを読まれていることも知っておりました。日田市役所の皆様は驚かれたと思いますが。なお、私は、日田市役所での質疑応答などには参加しておりません。
少しばかり補足しますと、日田市民および日田市出身者の中にサテライト日田設置に賛成する方がおられることは、ひたの掲示板などで知っておりました。昨年の12月、賛否が議論されたからです。公営競技のファンもおられるでしょうし、商売の関係からすれば設置されたほうがよいという考えを持つ方もおられるでしょう。無関心の方もおられるでしょう。これは当然のことです(或る意味では健全です)。むしろ、イメージとして日田市に場外車券場は似合わないという意見も、とくに外部から多く出されます。
しかし、設置許可に至るプロセスには不透明な部分が多く、中には、最初は何ができるのかよくわからないまま設置に同意したが、後から場外車券場であることがわかって設置反対にまわった人々もおります。また、ここには書けないようなひどい話もあったとのことです。実際、口頭弁論の際に提出される準備書面などを読んでも、行政手続法に従った手続がなされているのか否かなど、不明な点があります。
さて、私自身のことを記しておきます。大分大学を11時30分に出発し、大分自動車道経由で1時間半ほど走ると、日田駅に着きます。このあたりの商店街の様子を見ようと思い(実は、買い物と食事もしようと思い)、行った訳です。三本松の商店街などには「サテライト日田設置反対」の幟や旗などが多く立てられていたのですが、いつの間にか、そのほとんどが撤去されていました。しかし、日田駅前には数本の黄色い旗が残っています(写真1)。後でわかったのですが、現場の裏側(写真2)、三隅川(日田市内での筑後川の名前)や国道212号線沿いなどには、旗、幟、立て看板などが残っています。
日田駅前から田島陸橋を越え、田島にある日田市役所の前に出ました。市役所西側には、「サテライト日田設置反対」の大きな垂れ幕が掛けられています(写真3)。この周辺には、日田警察署、大分地方裁判所日田支部などがあり、田島官公街とも呼ばれます。こうした場所に、「○○建設促進!」というスローガンを掲げた垂れ幕を見つけることは簡単で、営団地下鉄半蔵門線永田町駅(大学院時代、通学のために必ずこの駅を通っていました)でもおなじみであるほどです。しかし、「●●設置反対」の垂れ幕が掛けられている市役所というものを、日田市以外に知りません。私は、大分県内の58市町村全てをまわっていますし、その際には必ず市町村役場の付近を通るようにしていますが、「国の強制による市町村合併反対!」というスローガンでもあれば見たいものです。そもそも、公共事業などに反対するのは住民で、行政は推進側、あるいは賛成派であることが通例です。その点で、日田市は全国的にも珍しく、注目を集めているのです。
さて、田島から豆田町、淡窓を通って、設置予定場所に向かいます。なお、現場は、久大本線の光岡駅からのほうが近いのですが、日田駅からのほうがわかりやすく、便利ではないかと思われます。
これがサテライト日田設置予定場所です。もう少し精確に記すと、手前の駐車場がそうです。昨年の12月3日には、鉄の柵(鉄板による囲い)が周囲を覆っていましたが、今年に入ってから徐々に外され、駐車場に戻りました(写真4)。緑色の屋根のすぐ後はうどん屋です(写真5)。手前の影は自動車整備工場のものです。道路を左側に進むと国道386号線で、土曜日や日曜日の午後ともなると渋滞します(この日も)。
この予定地の中に、私も車を停め、撮影を開始しました。しばらくして、九大木佐ゼミの皆さん、そして日田市役所の皆さんと会うことができました。日田市役所の方から、鉄の柵を立てるために開けたと思われる穴の存在を教えていただきました。何せ、柵が設けられていた時からかなりの時間が経っており、正確な位置を私も覚えていなかったのです。なお、その穴ですが、現在はふさがれています。
この日、駐車場にはかなりの空きスペースがあり(銭湯は例外)、パチンコ屋なども空いていましたが、日曜日ともなると満車状態になるそうです。そうなると、周囲にある農地を買収し、道を広げるなどの措置が必要となりますが、農地の場合は売買契約だけで済まされず、市の農地委員会による転用許可(行政法学上は認可)が必要となります。法律において、許可と認可は厳格な定義づけがなされないままに用いられておりますが、行政法学においては区別されます。農地委員会の認可を得ないでなされた農地売買契約は無効です。しかも、許可より認可のほうが、行政庁の裁量の幅が広いと解されています。
現場の柵が完全に撤去されているということは、少なくとも現段階においては設置の実現性も期待もないということを意味すると思われます。別府市議会は、今年の2月の臨時会において、サテライト日田設置関連予算案を否決しており、その後も同予算案の提出が見送られています。このような状態では、行政事件訴訟法で例外的に認められる執行停止(日田市側による訴状には、執行停止の請求がありません)がなされていなくとも、設置計画が進むとは思えません。このように、予算案提出が見送られ続け、あるいは提出されても否決されるような事態が続けば、設置許可の意味がなくなり、設置許可の撤回(日田市の主張に従えば取消)ということも考えられます。もっとも、或る所では、設置許可から10年ほど経って場外券売場が建設され、オープンしたとのことですが、住民とすれば、おかしな話だとしか思えないでしょう。今回の設置許可にも、停止条件(別府市議会が予算案を可決した段階から効力を生じる旨のもの)か解除条件(2年以内に着工しなければ失効する、というようなもの。地方鉄道法時代の鉄道路線免許によく付せられた)かを付したほうが良かったのではないかと思われます。ドイツでは、行政訴訟において附款を付すべき場合が論じられておりますが、サテライト日田設置許可についても議論の余地があるものと思われます。
最後に、今回の内容とは直接関係のないことを記しておきます。最近、Yahoo! Japanの掲示板において、この不定期連載記事が、大分県民を初めとする多くの方々から注目されており、お読みいただいていることを知りました。私自身は、仕事の関係やその他の事情もあり、Yahoo! Japanの掲示板に登場することができませんが、過分なほどの賛辞をいただいており、恐縮しております。また、この問題は、行政法学者や行政学者などの間でも知られており、日田市役所の方からも、数名の方が協力している旨の話を伺っております。私も、月刊地方自治職員研修2001年5月号に論文を公表しましたし、機会があれば新たに論文を公表しようと考えています。また、他の方の研究に参加(少なくとも協力)するなどの形で、刊行物としてまとまったものを出したいと考えております。
今後も、何か動きがあり次第、新記事を追加して参りますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。
(2001年12月10日。写真1ないし写真5も、時間をずらせて同日掲載)
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