サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第36編
2001年、大分県では、中津競馬廃止(これは、今後の公営競技を考える上で非常に重要な事件です)、道路拡張に伴う損失補償に絡む汚職事件など、こと地方政治や地方経済を考える上では話題に事欠かない1年でした。年末になると、どこの新聞社や放送局でも十大ニュースを取り上げますが、このサテライト日田問題をはじめ、3月の別府市議会空転(これもサテライト日田事件が原因の一つなのですが)、杉乃井ホテルの経営破綻、道路拡張に伴う損失補償に絡む汚職事件など、別府市に関係のある事件が多かったのも印象的です。何故なのかはわかりませんが。
このようなことを記したのも、12月17日、テレビ大分(TOS)で17時53分から放映されているTOSスーパーニュースで、地方自治に関係する大分県十大(重大、かもしれません)ニュースの一つとして、サテライト日田問題が取り上げられたからです。この日は仕事でしたので、自宅のヴィデオテープに録画をしておきました。市町村が別の市町村を相手取って訴訟を起こすということも珍しければ(類例を聞いたことがありません)、市町村が国を相手取って訴訟を起こすことも珍しく(摂津訴訟や大牟田電気税訴訟の例はありますが)、まして、国の設置許可に対して市町村が無効等確認訴訟(および取消訴訟)を提起するというのは、前代未聞ではないでしょうか。公営競技そのものの存続も問われている時勢だけに、十大(重大)ニュースとして取り上げられるのは当然です。実は、この番組の途中、ほんの少しですが私が登場します。私のコメントが、字幕付きで大分県内に放映されたのでした。この部分は生放送でなく、12月14日の夕方、TOSのスタッフの方が研究室に来られました(勿論、事前の連絡がありました)。その際に収録されたものです。 コメントの中身は、これまでこのホームページなどにおいて発言してきた内容の要約ともいうべきものであり、今後の地方分権の方向性を占うものであるという趣旨などを述べています。もっとも、ホームページなどを除き、サテライト日田問題に関する 私の発言が公にされるのは、今年の5月7日にNHK総合テレビで18時10分から放映された「情報ボックス」(大分ローカルの番組)以来のことです(収録は4月10日)。その少し前には「サテライト日田をめぐる自治体間対立と条例」も公表されました。勿論、それ以外の場においても、サテライト日田問題に関わり続けています。今年、私はサテライト日田問題だけを追えるような状況になかったのですが、やはりサテライト日田問題に明け、終わった1年でした。とくに前半はそうです。これ以外にも、大分県には地方自治に関する問題が多く、この県は、あたかも全国に存在する地方自治の諸問題を凝縮したような場所ではないかとすら思えてきます。
翌12月18日、大分地方裁判所第1号法廷において、対別府市訴訟の口頭弁論が行われました。同じ法廷では、やはり別府市に関係する訴訟の口頭弁論が行われました。原告はおおいた・市民オンブズマン、被告は別府市長で、情報公開に関する訴訟でした(非公開処分取消請求訴訟)。原告側の永井敬三氏、河野聡弁護士とは、以前から情報交換などをしておりますが、今回の訴訟の詳しい内容をうかがっておりません。しかし、例の汚職事件に関連して大分県に政治倫理条例を作らせようとする運動のことを教えていただきました。12月22日に集会があったのですが、私は仕事の都合で参加していません。また、12月23日付の西日本新聞朝刊社会面には、おおいた・市民オンブズマンが、例の汚職事件に絡んで大分県の職員数名を刑事告発したという記事が掲載されています。大分県といい別府市といい、行政の空気が沈滞気味であることを感じているのは、私だけではないようです。もっとも、これを言い出せば、大分県内のほとんどの市町村も同様なのですが。
非公開処分取り消し請求訴訟は10時から、日田市対別府市訴訟は10時15分からでしたが、被告人側の訴訟代理人がともに内田健弁護士であることから、予定よりも8分ほど早くから、続けてなされたのでした。この日も、原告である日田市側から準備書面が提出され、後は次回の期日が決められて終了しました。
さて、今回は、この12月18日の口頭弁論を紹介し、若干の検討を試みることとします。今回は、12月12日付の準備書面によります。
まず、準備書面は、「地方公共団体の自律性」を述べた上で、「原告のまちづくりの基本的な方針」を紹介しています。ここでは、1990(平成2)年の第3次日田市総合計画(「活力あふれ、文化・教育の香り高いアメニティ都市ひた」として、「歴史・文化・自然を生かし、地域性を尊重した豊かでゆとりのある人間性あふれる市民生活を構築するまちづくり」を方針とするもの)、そして2000(平成12)年の第4次日田市総合計画(「人・まちの個性が輝き、響きあう共生都市」を目指すとされています)に言及しています。
(なお、大変に申し訳ないのですが、この記事をお読みの日田市役所関係者の方がおられたら、第3次日田市総合計画および第4次日田市総合計画を閲覧させていただけないでしょうか。当方から日田市役所にうかがい、相応のコピー代を負担させていただきます。他にも条例などを検索したいのです。1月下旬に日田市役所にお伺いいたします。)
その上で、サテライト日田設置反対に関する運動の経緯を記しています。まず、平成8年12月18日に日田市内の15団体(17団体となるのは平成10年1月26日)が提出した反対決議書を、次に同年20日に日田市議会が全会一致で可決したサテライト日田設置反対決議を述べ、「原告及びその執行機関は、このような住民の意見を行政に反映させ、地方公共団体の自律性を実現する責任を負っている」として、今年6月12日および11月2日付の準備書面でも述べられているように、「平成9年8月以降、『サテライト日田』の設置が文教都市に相応しくないとして、設置反対の意思を表明し、許可権者である通産大臣をはじめ各関係機関に対し、再三再四に亘って、設置不許可を強く申し入れてきたのである」としています。
この部分については、広報ひた2001年3月15日号の表にも掲載されている通り、1999年から2000年5月31日までの動きが明確になっていないという問題点があります。おそらく、日田市としては、当時の通商産業省機械情報産業局車両課長から別府市長あてに出された2000年1月14日付の文書において「本場外車券売場(注:サテライト日田のこと)を予定している日田市においては、日田市、日田市議会及び地域住民が設置に反対しているところです」と記されており、「確約書」として2000年2月25日付で別府市長名により当時の通商産業省機械情報産業局長に提出された文書(別事第4-0574号)において「競輪場外車券売場(サテライト日田)については、日田市、日田市議会及び地元住民が設置に反対しており、また久留米市(久留米競輪場)との商圏調整についての合意形成も整ってない状況にあります」と記されていることを、「日田市、日田市議会及び地元住民」が反対運動を続けてきた事実を示すものと主張しているものと思われます。また、1997年12月2日、サテライト日田設置計画の一時凍結を当時の九州通産局が日田市に連絡していることからしても、1999年から2000年5月31日までの段階で表立った反対運動の足跡を示せなかったとしても、或る意味では当然のことかもしれません。
さて、問題は、別府市の名誉毀損行為です。問題の市報べっぷは、別府市全世帯に配布されるのみならず、大分県内の市町村にも配布されています(余談ですが、大分大学経済研究所にも配布されており、私は、ここで例の記事を読み、コピーしました)。準備書面は、この点を指摘した上で「あたかも原告が過去3年以上に亘って、許可権者である通産大臣に対し明確な反対の意思表示をしなかったという印象を一般人に与えるものである」と述べ、さらに、次のように述べています(引用が長くなります)。
「また、『市報べっぷ』に本件記事が掲載された平成12年11月当時、原告は日田市内の17団体に対し、逐一、通産大臣に対する設置反対の申入れ内容等を説明し、日田市のまちづくりに反する『サテライト日田』の設置運営を断固、阻止しようとしていた時期である。
このような時期における本件記事の事実摘示は、あたかも原告が『通産大臣に何等の反対の意思表明をしなかった』、『市民団体に虚偽の事実を報告していた』という印象を一般の住民に与えた。
それに加えて、(中略)原告のまちづくりの取り組みに対しても、住民に重大な疑問を与えるとともに、住民に真実を知らせるという公正な行政運営・執行に対する信頼をも喪失させるものであった。
現に、原告の担当者が市民から『「市報べっぷ」 に掲載されていることは本当なのか』という問い合わせを電話で受けている。」
(この件については、大分合同新聞2000年11月1日付朝刊朝F版25面、そしてこのホームページの第2編を参照して下さい。なお、これとは逆に、別府市民のほうから、別府市に対し、市報の記事が虚偽であるとの抗議があったという話も、私が複数の別府市民から直接的に伺っていることも記しております。)
刑法第230条に規定される名誉毀損罪については、例えば、甲という人が乙の名誉を実際に毀損したか否かの判断は、第一次的に乙の判断に委ねられることとなるはずです。同第232条(第1項)によって名誉毀損罪が親告罪とされていることからも、このことが判明します。また、名誉毀損罪の場合、基本的に未遂罪などは成立しえません。名誉を毀損すると考えられる言動がなされた段階において既遂となるからです。私は刑法学の専門家でない上に、手許に刑法各論の参考書がないので、確証を持てませんが、いわゆる危険犯の部類に入るものと思われます。実際に、乙の評価が甲によって毀損されたか否かについては、第三者の評価が分かれうるでしょう。従って、実際に乙の評価が第三者にとって低められたか否かの客観的証明は必要がないこととなります(これを求めたら大変なことになります)。
この解釈は、基本的に民法第723条についても妥当しうるのではないかと思われます。例えば、プライヴァシー権の存在を日本で初めて認めたものとして有名な「宴のあと」事件判決(東京地判昭和39年9月28日下民集15巻9号28頁)にしても、作家の三島由紀夫および出版社が、この小説のモデルとなった者の名誉を意図的に侵害するつもりで小説を公表したのかどうか、疑問が残ります。おそらく当事者を含め、そうした意図はなかったと主張するでしょう。問題は、その可能性があったかどうかに尽きます(これも、実際にどうであったかを調査することは不可能に近いでしょう)。
(余談ですが、最近も、同種の訴訟が起き、小説家が敗訴する度に、「文芸の自由」や「表現の自由」が侵害されるという趣旨の発言がなされるのですが、私に言わせれば、このような主張は、いかにその小説家が未熟であるかを示すものに他なりません。熟練した小説家であれば、仮にそのような意味を込めたとしても、洗練された文章を作って、そのような趣旨を上手にぼかすことでしょう。)
ただ、刑法の場合、過失による名誉毀損は犯罪とならないのに対し、民法の場合は故意のみならず、過失によっても名誉毀損が成立しうる点が異なります。
そうなると、日田市対別府市の訴訟の場合、ポイントは2つに絞られます。
(1)日田市に原告適格があるのか。
(2)別府市に故意または過失があるのか。
(1)についてですが、私は、原告適格があると考えます。別府市の主張は、日田市が私人を訴訟の相手とした場合には成立しうるかもしれませんが、今回は公法人対公法人であり、同格の市町村であることからしても、私人の表現の自由などを理由とする抗弁は成立しえないと考えられます。
(2)についてですが、基本的に問題はここにあると思われます。日田市側が提出した証拠からすれば、別府市に故意または過失がなかったと断言はできません。但し、これは別府市側の今後の主張にかかってきます。
最後に、来年のサテライト日田関連訴訟の日程を、ここで記しておきます。場所は、いずれも大分地方裁判所第1号法廷です。
1月29日:13時30分から、対経済産業大臣訴訟。
2月5日:15時30分から、対別府市訴訟(現在のところ、講義の関係もあって、この日だけは傍聴できないのですが、講義の開始時間と終了時間を遅らせることができないか、検討しています)。
3月26日:13時30分から、対経済産業大臣訴訟。
勿論、私は、この訴訟を、可能な限り傍聴し、このホームページで取り上げ、検討を続けて参ります。 そして、第13編から続けてきた第二部は、今回をもって終了し、次編からは第三部として、2002年1月から開始します。これまで、この不定期連載を多くの方にお読みいただいており、感謝の念に堪えません。私自身の性格からして、ここまで続くとは予想もしていなかったのですが、第三編につきましても、これまでと変わらぬ御愛顧をお願い申し上げます。また、御意見などがございましたら、電子メールなどでお寄せ下さい。場合によっては、この連載において紹介させていただきます。
(2001年12月25日)
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