サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第34編

 

 昨年(2000年)の11月、市報べっぷ掲載記事問題が起こりました。この記事がきっかけとなって、日田市と別府市との対立が激しさを増しています。この「サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題」が、不定期ながら連載となったのも、昨年の11月からでした。振り返ってみますと、市報べっぷ掲載記事問題を取り上げた第2編から第4編までは昨年11月に掲載しておりますし、12月に掲載した第5編も、11月の動きを捉えたものです。

 あれから1年、昨年の熱気が失せてきたのかと思っていたのですが、そうではなく、県民、とくに日田市民および別府市民にとっては、地域行政のあり方の問題として根付いていました。

 10月30日、西日本新聞社のホームページに、日田版として「サテライト訴訟  実質審議求め2万9000人署名  上積みし地裁提出へ」という記事が掲載されました。それによれば、「サテライト日田」設置反対連絡会は、大分地方裁判所が訴訟において日田市の原告適格を認めて実質審議に入るように求める署名が1ヶ月半の間(9月半ばに署名運動を開始)に2万9000人分も集まったことを、10月29日に明らかにしました。但し、これは自治会連合会分のみで、昨年の反対署名運動より2000人分ほど多いとのことです。さらに、「サテライト日田」設置反対連絡会の一員でもある日田市連合育友会などの分を加えると、合計で3万5千人分は確保できるようで、市外などにも働きかけて5万人分を集めるそうです。

 一方、別府市民の少なからぬ方々も、サテライト日田問題についての別府市の対応に批判的であり、日田市にエールを送っているようです。昨年の12月9日(この日は、私にとっても忘れられない日です)には、別府市側からも設置反対運動に参加する方が多くおられました。すぐ後にも述べますが、汚職事件に関して、別府市民の方からお電話をいただいた時も、その方はサテライト日田問題について別府市に対する怒りの念を表されました。

 別府市には、日本中央競馬会の場外馬券売場が南立石地区に設置されるという計画があり、最近、杉乃井ホテルなどが経営破綻という事態に至ったこともあって、観光業界などから設置に向けた要望書が別府市に出されたようです。しかし、別府市といえば、別府駅東口に近鉄百貨店跡地があり、建物が解体された後も手付かずのままだそうで、ここに建設できないのかという疑問もあります。11月6日にも、毎回傍聴されている日田市民の方と、この話をいたしました。

 先月(2001年10月)、大分県別府市の市道拡張工事に伴う移転(立ち退きなど)補償をめぐる汚職事件が発覚し、県議が逮捕されました。片や、賄賂を贈った者については補償が増額され、片や、賄賂を贈っていない者については不透明な形で補償が減額されており、大分県の行政の不透明さが改めて浮き彫りになりました。しかし、これは大分県だけではなく、別府市の市政の問題にもつながっています。この汚職事件に関して、補償に関係した複数の住民の方からお電話をいただいたのですが、その時にも、別府市から大分県への引き継ぎがなされていたのかという問題に端を発し、このサテライト日田問題、APU(立命館アジア太平洋大学)問題にまで話が及ぶのです。諸問題の関連性の有無はともあれ、別府市民の間には相当の不満がたまっているようです。お話を伺っていて、よくわかりました。サテライト日田問題では、市報の内容に抗議した別府市民も少なくなかったようです。折りしも、11月4日付の大分合同新聞朝刊1面には、公営競技の大部分が赤字であるという記事が出ていました。別府競輪については記されていなかったのですが、大幅な黒字であるとは考えにくいのです。サテライト宇佐の収益もどの程度のものなのでしょうか。

 また、大分市内の「ボートピア大分」建設問題など、公営競技の場外券売場問題は、九州内でも意外と多く、住民の反対運動が活発に行われています。そうした運動にも、サテライト日田問題の影響が見られます。しかし、地域住民と市町村が一体となって反対運動を展開している所はほとんどないようで、その意味で日田市は特別な例です。

 さて、サテライト日田問題の本題に入ります。11月6日、大分市も北風のために冷え込みました。12時半に大分地方裁判所に入りますと、既に傍聴予定の市民の方と日田市役所の方がおられました。早速、対別府市訴訟の準備書面(11月2日付)および対経済産業大臣訴訟の準備書面(11月6日付)をいただき、雑談をしておりました。その後、大石市長、梅木弁護士、寺井弁護士などの方々が到着、早速、寺井弁護士と少々の意見交換をしました。その後、大石市長とも地方分権の話をいたしましたが、市長からも、今回提出された被告(経済産業大臣側)の準備書面はひどいという話をうかがいました。寺井弁護士もおっしゃっていたのですが、この準備書面は地方分権を真っ向から否定する趣旨なのか、新地方自治法(昨年改正後の地方自治法のことです)の趣旨はどこへ行ってしまったのか、ということでした。もっとも、大石市長も同意されたように、地方分権推進委員会の諸勧告なども、回を重ねるごとに中身が後退していておりますが。

 法廷に入り、最前列に座って準備をしました。この訴訟において面識を得た方々も多く、裁判官が入廷するまで雑談をしています。13時10分を少しすぎて、裁判官が入廷、対別府市訴訟の口頭弁論に入ります。いつもは傍聴人が少ないのですが、この日は13時30分から対経済産業大臣訴訟の口頭弁論があるため、傍聴人は多めです。裁判長からは、日田市が主張する名誉とは何かを明らかにしてほしいという要請がありました。被告側からは、とくに準備書面などが提出されていません。そして、次回は12月18日の10時15分から、ということになりました。

 準備書面は、まず、被告の市報掲載記事について、「論評」が設置許可申請から設置許可までの3年間に限ったものであるとする被告の主張について、文脈からは到底そのように判断できないということを主張しております。次に、被告の認識と論評との関連を論じています。そして、被告の認識について、事実に反すると主張し、経緯を列挙しています。私が、今年の3月2日、日田市役所でいただいた書類も、甲第5号証および甲第6号証として提出されておりました。甲第5号証は、当時の通商産業省機会情報産業局長から別府市長宛てに出された、平成12年1月14日付の「競輪場外車券売場(サテライト日田)の設置問題について」という文書です。また、甲第6号証は、別府市長から当時の通商産業省機会情報産業局長宛てに出された、平成12年2月25日付の「競輪場外車券売場(サテライト日田)での車券発売について」という文書です。当時、日田市役所でサテライト日田問題を担当されていた職員の方も憤慨気味に語っておられ、私にコピーを下さったものです(事情を考えて、月刊地方自治職員研修5月号に掲載された「サテライト日田をめぐる自治体間対立と条例」においては言及を避けています)。続いて、訂正文について述べており、「名誉回復処分には謝罪という観念が本質的に含まれて」いること、被告が主張する「本件論評の範囲を越えた謝罪」の意味が不明確であることなどを主張しています。最後に、「要望書」の提出の有無について言及しており、原告は「要望書の提出」について何ら触れていないと主張しております。

 準備書面も主張するように、市報記事には、少なくとも結果的な誤りが含まれていると思われます。そうすると、あとは日田市の名誉という問題が残ります。

 続いて、13時30分から、対経済産業大臣訴訟の口頭弁論が始まりました。原告と被告の双方から準備書面が提出された上で、原告側から補足説明が行われました。地方自治法に言及し、住民に身近な行政は地方公共団体の役割であること、自治事務の存在、などが説明されました。また、被告側は、乙15号証以下を提出しておらず、早急に提出するという釈明がなされました。原告側は、今後、ドイツ、英国、米国の地方自治にも言及することとしています。そして、次回は1月29日の13時30分から、次々回は3月26日の13時30分から、となりました。

 口頭弁論が終了し、早速、日田市の職員の方から被告側の準備書面をいただきました。寺井弁護士とお話をしながら目を通したのですが、思わず「何だこれは!?」と叫んだ箇所がありました。大石市長も激怒されたという箇所でした。私は、怒りを通り越して呆れて笑ってしまいました。「いくら何でも、これはないだろう?」、「何年前の学説だ?」、「憲法ならともあれ、法律でプログラム規定だと?」という思いでいっぱいでした。これを行政法学者の方(私も行政法学者ですが)にお見せしたら、頭を抱える方が少なからず存在するでしょう。地方自治法第2条(被告側は「2条の2」という、存在しない条文を書いています)と地方分権推進法第1条(被告側は、これについても「1条の2」という、存在しない条文を書いています)の規定はプログラム規定であるというのでしょうか。その部分を抜粋して紹介します。

 「また、確かに、地方分権推進法1条の2、地方自治法2条の2が国と地方公共団体の役割分担について規定し、同法2条11項において立法に関し、同条12項において法令の規定の解釈・運用について同様に役割分担を踏まえるべきことを、同条13項において国が地方公共団体が地域の実情に応じた事務処理ができるように特に配慮すべき旨規定しているが、上記各規定は、国に対し、国と地方公共団体の役割分担に関して十分に配慮すべきという宣言的・指針的性格を有するにすぎず、これらの規定から直ちに地方公共団体が『まちづくり権』なる権利を有すると解することはできないというべきである。」

 さすがに、地方自治法第2条第1項をプログラム規定と解する愚挙を冒していません。それはどうでもいいことです。法律の規定は、どのようなものであれ、当然、宣言的・指針的性格を有しますから、宣言的・指針的性格を有するだけであるということは、法的な拘束力を持たないことを意味します。こうしたものをプログラム規定といいます。元々、ヴァイマール憲法第151条の解釈の際に登場した学説によるもので、日本では憲法第25条について用いられましたが、現在では、判例はともあれ、学説では通説の地位から脱落し、克服されようとしているものです。行政法規の法的拘束力については、強弱様々であることは否めませんが、普通の法律の解釈でプログラム規定説をとる人は皆無か、それに近いでしょう。さらに、経済産業大臣側の主張では、第2条第8項(自治事務の定義規定)および第9項(法定受託事務の定義規定)をどう捉えているのかわかりませんが、これを「宣言的・指針的性格を有するにすぎ」ないものであるという解釈をしていないでしょう。もしそうであるとしたら、ナンセンスな話で、地方自治法自体、そして行政法規の体系が崩壊します。

 この訴訟では、口頭弁論が終了した後、大分地方裁判所の玄関で、大石市長、寺井弁護士、日田市民の方々などが集まり、市長や弁護士が解説などをされます。私もその中に入っているのですが、今回は寺井弁護士から指名をいただき、発言をいたしました(既に、私が単なる傍聴人に留まっていることは許されなくなっています)。私は、被告側の準備書面の、例の箇所を読み上げ、これは半世紀前の学説であると述べたら、笑い声も飛び出しました。そして、法律について、法的拘束力を持たない規定というものは基本的に存在しないという趣旨を述べました。そして、地方分権やまちづくりについて、北海道ニセコ町のまちづくり基本条例や東京都杉並区で進められている同様の条例作りについて触れ、こうしたものをも否定する解釈であると述べました。

 これについて、研究室へ行ってから原告側の弁護団に向けて電子メールを作成して送信しました。地方自治法第2条についての私の意見を書いておりますので、その部分を紹介します。

 「●地方自治法第2条について

 経済産業省側は「2条の2」という言い方をしていますが、こういう条文は存在しないので、第2条第2項のことだと思われます。

 経済産業省の主張は、出典も何も示されておらず、どこに由来するのか不明で、行政実務関係書を参照した形跡もないようです。

 K大学の学生であるT君(原文では実名)とも話したのですが、憲法第25条ならともあれ、プログラム規定の法律など、聞いたこともありません。

 行政実務での定番である、松本英昭・新版逐条地方自治法(2001年、学陽書房)などを参照しても、この規定が宣言的・指針的性格を有するに過ぎないという解釈は示されていません(当然ですが)。

 むしろ、第2項で「普通地方公共団体が、まず、『地域における事務』を包括的に処理する権能があることを明らかにし」ています(同書23頁)。

 それを受けて、第3項以下の規定が都道府県または市町村の権限を一般的に規定しています。

 抽象的なことは否めず、具体的な事柄は他の法律によって定められるとしても、国、都道府県および市町村の権限配分の原則を規定するものであって、法的な拘束力を有するのは明らかです。

 まちづくりに関する権能も、この規定などから導き出せるはずですし、地方分権推進委員会もまちづくり部会まで設けて言及しています。

 もし、この規定が『宣言的・指針的性格を有するにすぎ』ないとすれば、都道府県も市町村も、結局、存在しなくともどうでもいいことになります。」

 少々舌足らずな感も否めないので、補足をいたします。

 地方自治法第2条は、普通地方公共団体(都道府県および市町村のことです)がなすべきことを規定しています。この規定は、確かに包括的ですが、しかし、重要な意味を持っています。第2項に「法律又はこれに基づく政令により」という部分がありますので、ここに注目して下さい。普通地方公共団体は、「法律又はこれに基づく政令」の範囲において、地域に関する事務をするという拘束を課せられます。これらに規定がない場合は別ですが、基本的に、この「法律又はこれに基づく政令」によって、権限が普通地方公共団体に与えられるのです(これを授権といいます)。この権限を越えれば違法と評価されます。具体的な範囲は、地方自治法を含めた他の法律で決定されるのですが、地方公共団体にとっては、一般的であるとは言え、事務を行うという義務を課せられているのです。これは、上記のように、「法律又はこれに基づく政令」が授権する範囲を越えて事務を行ってはならないという義務を意味するとともに、正当な理由がないのにこうした事務を行わないことも許されないということをも意味します。第2条の他の項も同様に解釈すべきです。第4項においては市町村が「その地域における総合的かつ計画的な行政の運営を図るための基本構想を定め、これに即して行なうようにしなければならない」と規定されていますが、これが「宣言的・指針的性格を有するにすぎ」ないというのでしょうか。他の項について記すと冗長になりますので、ここでやめておきましょう。

 もう一つ、地方分権推進法第1条をあげます。この法律は、今年7月2日を持って解散した地方分権推進委員会の設置根拠規定を含むものであり、法律の名宛人は、国民・住民でなく、地方公共団体でもありません。国、もう少し精確に記せば内閣以下の行政権です。そして、この第1条は法律の目的を定めるものですから、「宣言的・指針的性格」を濃厚に持つものです。また、規定の性格からして、何かの具体的な義務を課するものでもありません。しかし、他の規定とも絡んで、この法律は、内閣以下の行政権に対し、憲法に従いつつ、地方分権を進めることを義務づけております。これは「宣言的・指針的性格」にすぎないものではありません。法律の解釈には様々な種類がありますが、地方分権推進法の場合、個々の条文を区切って文言解釈をすべきであるのかという疑問が残ります。最近の最高裁判例でも、行政事件訴訟に関しては、当該条文のみならず、他の規定をも含めて目的なり趣旨を解釈する手法を採っております。地方分権推進法の場合は、とくにこうした方法が求められるはずです(法学では目的論的解釈あるいは合目的的解釈ということになるでしょう)。

 また、以前から気になっていることがあったので、同じ電子メールに記しておきました。その部分を紹介します。

 「1.行政手続について

 憲法第31条から攻めるのは難しいのですが、行政手続法のレベルであればどうにかなると思われますので。

 今回の許可手続で行政手続法に従った形で公聴会などが開催されているのでしょうか。

 自転車競技法の中には、行政手続法の適用を除外する規定がないはずで、整備法その他にも、適用除外の規定がないと記憶しているからです。

 手続で瑕疵があったとして裁判所が重大な違法と認定してくれるかという問題はあるのですが。」

 別府市側による説明会が今年の2月まで行われなかったことについては、既にこのホームページでも取り上げております。サテライト日田について、行政手続法第10条に従った公聴会などが行われたのかどうか、よくわかりません。もっとも、第10条は努力義務規定ですが、努力義務というものは、実際に行ったか否かはともあれ、努力が法的に義務づけられると解するべきでしょう。この規定から、直ちに公聴会が行われなければならないと結論づけることはできませんが、少なくとも利害関係者に意向を訊くことくらいは義務づけられるでしょう。そうでなければ、努力義務そのものの意味すらなくなります。私も国家公務員で行政の一員ですが、だからこそ、努力義務の意味を捉え直したいという思いがあります。

 第33編において、「この他の点については、『準備書面(第1)』が長大であり、様々な論点を含んでいることから、別の機会に取り上げます」と記しましたが、今回は見送ることとします。

 

(2001年11月7日)

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