サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第52編
今回は、サテライト日田問題について何か特別な動きがあったという訳ではないのですが、いくつかの理由により、新しい記事を掲載いたします。
7月、日田市長選挙が行われました。その結果、現職の大石昭忠氏が三回目の当選を果たしました。
8月に入ってから、日田市対経済産業大臣訴訟で原告日田市の訴訟代理人を務める寺井一弘弁護士など、数名の弁護士が所属され、私もお世話になっている東京のリベルテ法律事務所から、同事務所のニュース2003年夏季号を送っていただきました。この5面が「日田市行政訴訟、福岡高裁へ 第一審は『原告適格なし』で却下」という記事となっております。
基本的には、今年1月28日に大分地方裁判所から出された判決の報告、同日になされた福岡高等裁判所への控訴の報告、そして、6月23日に福岡高等裁判所にて行われた第1回控訴審口頭弁論の報告です。このうち、今年1月28日に大分地方裁判所から出された判決に関連しては、「大分地裁の却下決定は、直ちに新聞、テレビなどで大きく報道されましたが、行政法学者からは厳しい批判が相次ぎ、報道機関の各社もそれぞれ失望のコメントを出しました」と書かれており、その「行政法学者」の代表として、九州大学の木佐茂男教授、そして大分大学の森稔樹助教授(要するに、これを書いている私です)のコメントが掲載されています。
木佐教授のコメントは、既に2003年1月29日付朝日新聞朝刊25面(大分10版)に「理論的検討の貧しさ目立つ」として掲載されたものであり、この不定期連載では第49編において紹介しております。リベルテ法律事務所ニュースでは「新しい社会状況や地方分権を一切考慮しない古色蒼然とした判決」の部分のみが引用されています。
また、私のコメントは、2003年1月28日付朝日新聞夕刊9面3版「『地方自治に逆行』 場外車券訴訟 幕切れ判決十数秒 日田市長怒り強く」中の「あまりに形式的」という部分からの引用で、「あまりにも形式的な判決。日田市の主張の中身に踏み込んでほしかった。」となっております。やはり、この不定期連載では第49編において紹介しております。
そして、リベルテ法律事務所ニュースの記事では、第一審判決後における大石市長の談話を「地方自治体が国を訴える資格がない(原告不適格)とする理由での一刀両断の判断は大変遺憾。市民自らがまちを守るという意欲を踏みにじった」として紹介しております。また、第51編において私自身が報告をしている控訴審第1回口頭弁論における大石市長の弁論の最後を、「国の許可は、法・理・情のいずれにもかなっていないもので、中央集権的な発想でなされた暴挙である」とまとめております。
さらに、6月23日の口頭弁論については、次のように記されています。
「弁護団は、『第一回期日で結審』される事態を予想したうえ必要な対策を練って臨みましたが、星野裁判長は、さらなる審理を求めた弁護団の主張を受け入れ、四ヶ月半先の一一月一〇日午後一時三〇分を第二回期日として指定しました。四月の統一地方選挙で別府市長に初当選した浜田氏が『サテライト日田設置を断念する意向』との報道がなされていることもあって、いわゆる『政治的決着』が可能かどうかも含め、本件の解決は秋以降に持ちこされることになりました。」
大分県に住む者として、少々補足をしておきますと、現在、別府市では、このサテライト日田問題について特別な動きがないようです。浜田博氏が市長就任後初の別府市議会に臨んだ際にも、サテライト日田設置関連補正予算案などは提出されておりません。浜田市長になってから、別府市では本来の温泉を生かしたまちづくりに取り組むNPOなどを支援する方向にあるようです。
今後、サテライト日田問題はどのように動いていくのか。少なくとも、別府市は鍵の一つを握っています。いかに距離が離れていようとも、日田市と別府市は同じ大分県内に存在する市です。今後、両市の関係が改善されることを願ってやみません。
なお、今回の記事ですが、リベルテ法律事務所ニュース2003年夏季号を送っていただき、改めてこの不定期連載の第49編を読み直したことが、作成のきっかけでした。私のコメントの部分が整理されておらず、わかりにくかったかもしれません。ここに、整理したうえで再掲いたします。
まず、2003年1月28日付朝日新聞夕刊9面3版「『地方自治に逆行』 場外車券訴訟 幕切れ判決十数秒 日田市長怒り強く」中の「あまりに形式的」という部分です。
「地方分権とは、単なる国と地方との仕事の役割分担ではなく、住民の手によるまちづくりを意味する。事例は違うが、昨年12月の国立マンション訴訟の判決や、高速増殖原型炉もんじゅの判決など住民の主張が認められ始めてきた。それだけに大分地裁の原告適格を理由にした却下は、あまりに形式的ではないか。日田市の主張の中身に踏み込んで欲しかった。」
次に、2003年1月28日付大分合同新聞夕刊夕F版13面「サテライト設置許可訴訟 『まちづくり権』門前払い 地裁『原告適格なし』 日田市の訴え退ける」からです。
「原告適格の有無で判断せず、住民のまちづくり権について踏み込んだ判断をしてほしかった。地方分権の流れを考えれば、一歩後退した判決。住民は、原告適格の壁をクリアするためにも、まちづくり権を具体化する必要がある。」
最後に、2003年1月29日付読売新聞朝刊24面(大分地域ニュース)「場外車券場訴え却下、控訴 解決には長い道のり 別府市 日田の断念要望門前払い」からです。
「この訴訟が全国に問いかけたものは『地方自治とは何か』に尽きる。その点にほとんど触れておらず、原告適格が広げられる方向にあったのを逆の方向に持っていくとは、いったい何年前の判決なんだという印象を強く持った」
市町村合併の行方とともに、地方分権改革も混迷状況が続いています。それだからこそ、この訴訟は重要な意味を持ちます。第49編において記しましたように、この訴訟は、まさに地方分権のあり方を問うものであり、最終的には「地方自治、そして地方分権とは何かに尽きる」ものです。たとえいかなる解決の形を取ろうとも、このことに変わりはないでしょう。そして、これまで、一貫して私がとってきた考え方も変わらないでしょう。
なお、実は一昨日になって知ったのですが、学習院大学の高木光教授のホームページ「高木光のライブ行政法2003年度版」の「教材コーナー」に、この不定期連載が紹介されております。
この連載は、まだまだ続きます。何か動きがあり次第、新記事を掲載してまいりますので、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
(2003年8月16日)
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