02    課税要件

 

 

 課税要件(Steuertatbestand)は租税要件などともいい、租税債権債務関係を成立または消滅させるために法律(または条例)により定められる要件を指す

 詳細は、新井隆一『租税法の基礎理論』〔第三版〕(1997年、日本評論社)44頁を参照。また、北野弘久編『現代税法事典』〔第2版〕(1992年、中央経済社)30頁[北野弘久担当]も参考になる。

 課税要件が明確にされることにより、初めて私人の納税義務が具体的に定まることとなる。ここで概観しておく

 ※清永敬次『税法』〔新装版〕(2013年、ミネルヴァ書房)65頁は、課税要件として納税義務者、課税物件、帰属、課税標準および税率の5つをあげる。金子宏=清永敬次=宮谷俊胤=畠山武道『税法入門』〔第6版〕(2007年、有斐閣新書)26頁も同様である。しかし、理解を深めるためには本文に記した7つが必要である。

 (1)課税主体

 課税権者ともいい、租税債権者ともいう。国、地方公共団体(都道府県、市町村および特別区)のことである。課税権の行使のうち、内容の定立は立法権に該当し、執行は行政権に該当することとなる。

 もっとも、課税主体についてはとくにあげる必要がない場合が多い。清永敬次教授は、「理論的には、課税・徴収権者たる国又は地方公共団体の存在が納税義務成立の要件の一つに含められるべきであろう。しかし、これらの存在は当然のこととして一般に前提されているのであるから、納税義務の成立要件としての課税要件を問題とするときは、この点を除いて考えて差支えない」と述べる。しかし、課税主体が存在しなければ、納税義務が発生するはずもない。

 清永・前掲書68頁。

 なお、徴収に際しては、法律または条例により、一定の範囲の私人に委任されることもある。所得税などにおける源泉徴収、地方税における特別徴収が該当する。

 (2)納税義務者

 納税義務者とは、租税法律関係において租税債務を負担する者をいう。

 財政学において、納税義務者は租税主体の一種とされる

 ※例として、神野直彦『財政学』〔改訂版〕(2007年、有斐閣)166頁 。なお、租税主体と課税主体とを混同しないよう、注意を要する。

 租税主体には、納税義務者の他に担税者という概念が含まれる。担税者は、経済活動において実際に租税を負担する者のことである。

 同じ租税主体という上位概念に含まれるとは言え、納税義務者と担税者とは、明確に区別する必要がある。第一に、納税義務者は、法律上の概念であり、法律によって租税を負担し、申告などを行う者とされているのであって、実際に租税を負担するか否かとは別の次元の事柄である。第二に、納税義務者と担税者は、税目によって同一である場合と異なる場合とがあり、とくに、直接税と間接税とを区別する基準にもなる

 ※直接税と間接税との区別については、「01  租税と租税法」において述べた。

 所得税などの場合は、担税者が同時に納税義務者でもある。これに対し、消費税や酒税などの間接消費税の場合、担税者は消費者であるのに対し、納税義務者は事業者や製造者である。

 自然人および法人が納税義務などの各種の義務を担う主体とされていることは明らかである。民法その他の法律によって法人格が認められるからである。これに対し、権利能力のない社団・財団は、法人格が認められないのであるから納税義務者ともなりえないと考えることもできるが、それでは租税負担の公正を期することができないため、租税法においては、権利能力のない社団・財団 (「人格のない社団等」という表現が用いられる)についても法人とみなされる場合が多い

 ※但し、租税法においてみなし規定が存在しない場合であっても、権利能力なき社団・財団が納税義務などの義務を負うべきであると解されることがある。例えば、労働者音楽協会(労音)について、東京高判昭和47628日行裁例集23巻6・7号426頁などは、旧入場税の納税義務者であるという趣旨を述べている。同じような趣旨の判決は多い。

 なお、所得税における源泉徴収義務、有価証券取引税、住民税、ゴルフ場利用税、特別地方消費税などにおける特別徴収義務の場合には、納税義務者が自ら負担をなすのではなく、納税義務者から租税を徴収した上で国や地方公共団体に納付する義務を負う者が存在する(地方税法第1条第1項第10号は「特別徴収義務者」という)。このような者は納税義務者ではなく、徴収納付義務を負うに過ぎないが、国税通則法第2条第5号および国税徴収法第2条第6号は、徴収納付義務を負う者を含めて納税者としており、納税義務者と共通の取り扱いをすることがある。

 ※徴収納付義務者が納付義務を怠ったときには、国税通則法第36条、第37条、第40条、国税徴収法第47条などにより、滞納処分を受ける。また、国税通則法第67条、第68条第3項により、加算税を課される。さらに、所得税法第240条によって刑罰を科されることもある。これらは、納税義務者の場合とあまり変わらないこととなる。

 納税義務者は、直接税と間接税との相違、住所または居所の所在、課税物件の源泉の所在地、などによって幾つかの種類に分かれる。ここでは、金子宏教授の論説に従い、概説を試みる(但し、連帯納税義務者や第二次納税義務者、そして税理士についての解説は省略する)。

 直接税については、無制限納税義務者と制限納税義務者とに分けうる。

 無制限納税義務者は、日本に住所または居所を有し、日本の課税権に服す者をいう。課税物件の源泉が国内にあるか国外にあるかを問わない。従って、無制限納税義務者に帰属する課税物件の全てについて納税義務が存在することとなる。所得税法にいう居住者(第2条第1項第3号・第4号、第5条第1項、第7条第1項第1号・第2号)、法人税法にいう内国法人(第2条第3号、第4条第1項。第5条。但し、第4条第3項により、公共法人は納税義務を負わない)が該当する。

 これに対し、制限納税義務者は、日本に財産や事業を有するが住所または居所を有しない者をいう。従って、財産や事業を有する範囲内において、言い換えれば国内に源泉のある課税物件についてのみ納税義務が存在することとなる。所得税法にいう非居住者(第2条第1項第5号、第5条第2項、第7条第1項第3号)、法人税法にいう外国法人(第2条第4号、第4条第2項、第9条、第10条)が該当する。

 間接税については、正規の納税義務者と拡張的納税義務者とに分けうる。正規の納税義務者とは、課税物件の流通や消費が通常行われる過程において、国内において製造され移出される課税物件については、消費税の場合は事業者、酒税法などの場合は製造者、保税地域から引き取られる課税物件については引取者が該当する。これに対し、拡張的納税義務者とは、通常の過程を経ないで流通し、あるいは消費される課税物件について、製造者または引取者以外の者であるがそれらとみなされて納税義務者とされる者をいう(酒税法第6条など)。

 ※保税地域は、関税法第29条に規定される。外国貨物を置き、または、外国貨物の加工や製造・展示などをすることができるものとして、財務大臣が指定し、または税関長が許可したものをいう。該当するものとして、保税倉庫、指定保税地域、保税上屋、保税工場、保税展示場がある。以上は、園部逸夫=大森政輔編『新行政法辞典』(1999年、ぎょうせい)997頁による。

 (3)課税物件(Steuerobjekt

 課税対象、課税客体ともいう。課税の対象となる物、行為または事実をいう。所得税などにおける所得、事業税における個人または法人の事業収益、固定資産税などにおける土地や固定資産など特定の財産、消費税などにおける課税資産の譲渡や外国貨物の引き取り、酒税などにおける酒類などの消費物件、ゴルフ場利用税などにおける消費行為、などが課税物件の例である。

 (4)課税標準

  課税標準とは、課税物件を数量的に確定するための基準であり、所有・収益などの存在および内容の確認に基づき、価格・金額・数量・品質により表現される。例えば、所得税の場合は「総所得金額」などであり(所得税法第22条第1項)、消費税の場合は「課税資産の譲渡等の対価の額」である(消費税法第28条第1項)。

 (5)税率

 税額を計算するため、課税標準に対して適用される比率のことである。課税標準が金額や価額により定められている場合(例、所得税、消費税)には、税率は百分率などによって定められる。これに対し、課税標準が数量により定められる場合(例、酒税、たばこ税、軽油引取税)には、課税標準の一単位について一定の金額として定められる。

 また、課税標準が金額や価額により定められている場合には、比例税率、累進税率のいずれかが採用されることとなる。

 比例税率は、y=axaとして表現されるように、税率が常に一定の割合であるものであり、固定資産税や消費税などで採用される。納税義務者の担税力を直接的に考慮しない場合であり、応益負担原則に結びつきやすい。

 これに対し、累進税率は、金額や価額の増加に伴って税率が上昇するように定められるものであり、所得税、相続税などで採用される。納税義務者の担税力を直接的に考慮する場合であり、応能負担原則に結びつきやすい。

 そして、累進税率は単純累進税率と超過累進税率とに分けられる。単純累進税率は、課税標準が大きくなると単純に全体に対して高い税率が適用されるというものであるが、これではかえって不公平が生じやすいため、課税標準を多段階に区分した上で段階ごとに逓次に高い税率を適用する超過累進課税を採用する。

 なお、地方税法においては、標準税率および制限税率という用語が存在する。

 標準税率は、地方税法第1条第1項第5号に定められるものであり、地方公共団体にとっての目安(基準)となる税率のことである。総務大臣が普通地方交付税の額を定める際に、基礎財政収入額の算定の基礎として用いる

 ※消費課税における標準税率とは意味が全く異なるので注意されたい。消費課税の場合、標準税率の他に軽減税率、ゼロ税率、割増税率、非課税、不課税(課税除外)などとの対比で用いられる。すなわち、標準税率とは、法律において原則的に適用されるものとして規定される税率である。 

 これに対し、制限税率は、地方税法に定められた上限以下の税率により課税しなければならないものをいう。

 また、地方税法には登場しない用語であるが、税率が一定である場合を一定税率といい、税率が地方公共団体の裁量に任されている場合を任意税率という。地方税法において任意税率が規定される租税には、課税するか否かも裁量に委ねられるものが多い。

 ▲注意しなければならないのが、実効税率という用語である。これは多義的に用いられており、文脈による見極めを必要とするものである。

 第一の意味として、納税義務者に様々な税制優遇措置などが適用されなかったと仮定した場合の所得などの課税標準に対する実質的な税負担の割合を指すことがある

 ※石村耕治編『税金のすべてがわかる現代税法入門塾』〔第8版〕(2016年、清文社)36頁[石村耕治・阿部徳幸担当]。

 第二の意味として、法人に対する実効税率の意味で用いられる。この場合には、

 〔法人税率×(1+住民税率)+事業税率〕÷(1+事業税率)=実効税率

という計算式で得られる税率である

 ※石村編・前掲書36頁[石村・阿部]。

 第三の意味として、名目税率または表面税率に対する概念として用いられる。すなわち、法人税の表面税率が40%であるとして、各種控除等がなされた結果、実際には30%しか課税されないという場合に、実効税率という言葉が用いられることがある。第一の意味とは全く逆であることに注意されたい。

 ※代田純『日本国債の膨張と崩壊』(2017年、文眞堂)21頁。

 (6)租税所属関係

 納税義務者が、特定の租税につき、いずれの課税権者に対して納税義務を負うかに関する事柄である。すなわち、租税所属関係とは、納税義務者と課税主体との関係で説明しうる事項である。

 (7)租税帰属関係

 課税物件が納税義務者に帰属する関係のことである。清永敬次教授は「帰属の関係は、各租税に応じて種々の仕方で形成されることになる」として、「例えば、所得税、法人税においては納税義務者が課税物件たる所得を『取得する』ことにより、相続税、贈与税においては相続財産等を『取得する』ことにより、印紙税においては課税文書を『作成する』ことにより、それぞれ納税義務者と課税物件との関係が形成されることになる」と説明する

 ※清永・前掲書70

 このように、租税帰属関係は法律によって示されているのであるが、具体的な事例においては、租税帰属関係が問題となることが多い。また、所得税および法人税に関する実質所得者課税の原則は、租税帰属関係に絡む問題である。

 

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(2011年3月15日掲載)

(2011年3月21日修正)

(2012年8月5日修正)

(2013年3月29日修正)

(2013年8月1日修正)

(2017年11月8日補訂)