15    法人税の納税義務者および税率

 

 

 法人税法は、納税義務者として内国法人と外国法人とをあげ、納税義務の範囲に差異を設けている。ここで、納税義務者とその範囲について概観することとする。

 

 1.内国法人

 内国法人は、日本国内に本店または主たる事務所を有する法人をいい(法人税法第2条第3号)、無制限納税義務者として、あらゆる所得について、源泉が日本国内に存在するか否かとは無関係に納税義務を負う。内国法人は、さらに、公共法人、公益法人等、協同組合等、人格のない社団等、そして普通法人に分けられる。

 (1)公共法人

 公共法人は、第2条第5号により、別表第一に掲げられた法人とされているもので、第4条第2項により、完全に納税義務を免除されている。これは、公共サービスなどを行うとして公共性が強いものであるとされているためである。各公庫、国立大学法人、地方公共団体、日本中央競馬会、日本放送協会などが列挙されている。

 (2)公益法人等

 公益法人等は、第2条第6号により、別表第二に掲げられた法人とされているもので、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に基づいて設立された法人の他、特別法に基づいて設立された非営利法人などを指す。学校法人、企業年金基金、健康保険組合、宗教法人、商工会、日本赤十字社などが列挙されている。

 これらは公益の追求を目的とするものであり、非営利事業からの所得については非課税である(第7条)。しかし、収益事業を行う場合があるため、収益事業から得られた所得については課税される(第4条第1項)。但し、その場合でも普通法人よりも低い19%の税率が適用される(第66条第3項)。医療法人については、社会保険医療報酬の所得計算について特例が定められており(租税特別措置法第67条)、「財団たる医療法人又は社団たる医療法人で持分の定めがないもの」のうちで一定の要件を満たすとして国税庁長官の承認を受けたものについては、19%の税率が適用される(同第67条の2第1項)。

 また、退職年金等積立金の業務を行う場合(法人税法第84条第2項)について課税される。

 なお、収益事業は、第2条第13号によって「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう」と定義される。これを受け、法人税法施行令第5条第1項は、収益事業の範囲を列挙する。範囲は広いが限定的列挙であり、同項にあげられていない事業は、たとえ営利事業であっても課税の対象とされないこととなる。

 (3)協同組合等

 協同組合等は、法人税法第2条第7号により、別表第三に掲げられた法人とされているもので、漁業協同組合、商店街振興組合、農業協同組合、労働金庫などが列挙されている。協同組合等の場合はあらゆる所得に対して課税されるのであるが、営利を目的としないため、公益法人等と同様に普通法人よりも低い19%の税率が適用される(第66条第3項)。但し、租税特別措置法第68条により、22%の税率が適用されることもある。

 (4)人格のない社団等

 人格のない社団等は、法人税法第2条第8号により、法人格を有しない社団または財団であって、代表者または管理人の定めがなされているものをいう。所得のうち、収益事業から生じたものについてのみ課税される(第4条第1項および第7条)。人格のない社団等の場合、公益法人等および協同組合等と異なり、普通法人と同じ25.5%の税率が適用される(第66条第1項)。但し、所得のうちの800万円以下の部分については19%の税率が適用される(同第2項)。

 なお、民法上の組合は人格のない社団等に該当しない。そのため、法人税の納税義務を負わない。組合の所得は、組合構成員に帰属することとなる。

 (5)普通法人

 上記4種類のいずれにも属しない法人のことである(第2条第9号)。通常の23.2%の税率が適用される(第66条第1項)。中心となるのは株式会社、有限会社などの営利法人であるが、相互会社や中間法人なども含まれる。但し、資本金が一億円以下の法人、基金が一億円以下の中間法人、資本または出資を有しない法人の所得のうち800万円以下の部分については19%の税率が適用される(同第2項)。

 なお、復興特別法人税については「19  法人税額の計算、および同族会社に対する法人税など(および復興特別法人税)」を参照されたい。

 

 2.外国法人

 外国法人は、内国法人でない法人をいう(第2条第4号)。外国法人は制限納税義務者であり、第138条に列挙された国内源泉所得を有する場合、法人課税信託の引き受けを行う場合、または第145条の3に規定される退職年金業務を行う場合に限り、納税義務を負う(第4条第3項。なお、第9条および第141条を参照のこと)。

 

 3.同族会社

 「06  租税回避と納税義務」においても同族会社の定義を記しておいたが、日本の企業のうちの圧倒的多数を中小企業が占めており、税務署の所管に置かれる法人の大多数が同族会社であると言われる。実際に、中小企業の多くが同族会社である。もっとも、同族会社であるか否かと会社の規模とは無関係である。法人税法が同族会社について特別な規定を置くが、同族会社の概念は会社法などに存在しないので、ここで改めて定義などを述べておく。

 法人税法第2条第10号によると、同族会社は、株主等の3人以下、ならびにこれらと一定の特殊な関係のある個人および法人が有する株式の総数または出資金額の総額が、発行済み株式の総数または出資金額総額の50%を超えるという会社をいう。これが従来からの同族会社の定義であるが、2006(平成18)年度改正により、同族会社は三種に分類されることとなり、規定が追加された。但し、2010(平成22)年3月の改正により、現在は二種に分類される。

 第一の種類は、同第10号に定義される、既に述べた従来からの定義による同族会社である。これが基本的な定義であることについて従来と変わりはなく、第二(および第三)の種類は第一の種類の変形であるにすぎない。第一の種類について記すならば、株主の1人を1同族グループとすると、3つ以下の同族グループで会社の資本の半数以上を支配していることになる。

 ここにいう一定の特殊な関係のある個人とは、法人税法施行令第4条第1項により、株主等の親族(同第1号)、株主等と事実婚的関係にある者(同第2号)、個人株主等の使用人(同第3号)、それら以外で個人株主等によって生計を維持しているもの(同第4号)、同第1号ないし同第3号の者と生計を一にする者(同第5号)とされている。

 また、一定の特殊な関係のある法人とは、同第2項により、同族会社と判定されようとしている会社の株主等の1人が支配する他の会社(同第1号)、同族会社と判定されようとしている会社の株主等と第1号に規定される会社が支配している他の会社(同第2号)、同族会社と判定されようとしている会社の株主等と第2号に規定される会社が支配している他の会社(同第3号)とされている。この場合に、他の会社を支配しているか否かは、同第3項により、他の会社の発行済み株式または出資の総数または総額の50%を超えているか、議決権の総数の50%を超えているか、などの基準に従って判断されることとなる。

 第二の種類は、法人税法第67条に定められる特定同族会社である。これは、株主等の1人ならびにその株主と特殊の関係にある個人および法人が、発行済み株式の総数または出資金額の総額の50%を超えるという会社であり、被支配会社とも称される。判断基準は法人税法施行令第139条の7に定められている。

 この他、平成22年法律第6号によって法人税法第35条が削除されるまで、特殊支配同族会社という類型が存在した。これは、同族会社の業務主宰役員および当該業務主宰役員と特殊の関係のある者が有する株式の総数または出資金額の総額が、発行済み株式の総数または出資金額の総額の90%以上に相当するという会社のことであった。すなわち、実質的にはいわゆる一人会社である。

 特殊支配同族会社も2006(平成18)年度改正により設けられたものである。この種の会社から業務主宰役員に支払われる給与については「経費の二重控除」が可能であるすなわち、第一にこの会社から業務主宰役員に支払われる給与については、法人税の計算において損金に算入する。第二に、業務主宰役員は、所得税の計算において自らの給与について給与所得控除を受ける。これが課税の不公平を招くこととなるため、特殊支配同族会社の損金算入制限措置を設けた。しかし、この制度については当初から反対が強く、結局、2010年4月1日以後に終了する事業年度からは適用しないこととなったのである。

 ※谷口勢津夫『税法基本講義』〔第3版〕(2012年、弘文堂)432頁。

 日本における法人のうち、実に97%超が同族会社であり、留保所得課税の対象となりうる会社も94%ほどである。その意味において、法人税法における同族会社に関する規定が特別な意味を有する規定である、とは言い難い。むしろ、法人税法において一般的とされる非同族会社のほうが、実際には例外であると言うべきであるかもしれない。

 

戻る

(2011年3月16日掲載)

(2011年8月19日修正)

(2012年7月11日修正)

(2012年8月8日修正)

(2013年10月16日修正)

(2015年5月19日修正)

(2017年10月18日修正)