16    法人所得その1

 

 

  1.法人所得の概念

  法人税の課税物件は法人の所得である。そして、法人税法第21条は「内国法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の課税標準は、各事業年度の所得の金額とする」と規定する。

  まず、事業年度について説明を加えておこう。これは、第13条第1項本文により、「法人の財産及び損益の計算の単位となる期間(以下この章において「会計期間」という。)で、法令で定めるもの又は法人の定款、寄附行為、規則、規約その他これらに準ずるもの(以下この章において「定款等」という。)に定めるものをいい、法令又は定款等に会計期間の定めがない場合には、次項の規定により納税地の所轄税務署長に届け出た会計期間又は第三項の規定により納税地の所轄税務署長が指定した会計期間若しくは第四項に規定する期間をいう」と定義される。但し、以上の期間が1年を超える場合には「当該期間をその開始の日以後一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、その一年未満の期間)をいう」(同項ただし書き)。

  ここで、法人の所得を利益と同一として捉えると、その利益は、日本の企業会計において採用される損益法により計算される。第22条第1項は、このことを前提として「内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した額とする」と定める。すなわち、(法人の所得金額)=(益金)−(損金)ということになる。

  基本的に、益金は収益と、損金は費用と同じ意味である。しかし、法人税法は、往々にして企業会計と異なる取り扱いを定める。このために言葉を代えているのである。

  法人の所得を計算するためには、益金および損金の意味を明確にする必要がある。

  (1)益金

  法人税法第22条第2項は、益金について「別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」と定義する。

  この規定によると、法人の純資産を増加させるようなもので、取引によって実現された利益であれば、原則としていかなる利益であっても益金に含まれる。そのため、営業利益か営業外利益かは問われないこととなるし、取引が合法か不法か、あるいは有効か無効かも問われない。例えば、利息制限法に規定される制限を超えた率の利息は、超過した分について無効となるが、現実に収受されたものであれば、法人税法上は益金と解され、課税の対象とされる(最判昭和4611月9日民集25巻8号1120頁、最判昭和461116日刑集25巻8号938頁を参照)

  ※これに対し、未収の場合は益金とならない。前掲最判昭和4611月9日によれば、「一般に、金銭消費貸借上の利息・損害金債権については、その履行期が到来すれば、現実にはなお未収の状態にあるとしても、旧所得税法一〇条一項にいう『収入すべき金額』にあたるものとして、課税の対象となるべき所得を構成すると解されるが、それは、特段の事情のないかぎり、収入実現の可能性が高度であると認められるからであつて、これに対し、利息制限法による制限超過の利息・損害金は、その基礎となる約定自体が無効であ」り、「約定の履行期の到来によつても、利息・損害金債権を生ずるに由なく、貸主は、ただ、借主が、大法廷判決によつて確立された法理にもかかわらず、あえて法律の保護を求めることなく、任意の支払を行なうかも知れないことを、事実上期待しうるにとどまるのであつて、とうてい、収入実現の蓋然性があるものということはでき」ないからである。

   なお、この判決は、引用したところから明らかであるように旧所得税法に関するものであるが、説示の趣旨は法人税法にも妥当する(前掲最判昭和461116日によって確認されている)。なお、最判昭和461116日集民104303頁は、このような未収の違法な所得に対する更正処分および加算税賦課処分を違法としたが、その違法が直ちに処分を無効とするものではない旨を述べる。

   また、相手方に無効の原因である錯誤があった場合の土地交換契約によって生じた譲渡所得も、益金に含まれることとなる(東京地裁平成12年9月29日訟務月報47113466号を参照)

  ※この他の例については、金子宏『租税法』〔第十七版〕(2012年、弘文堂)279頁などを参照。

  また、規定に示されているように、資産の無償譲渡などの無償取引に係る収益も益金となる

  ※このため、無利息融資の場合には通常の利息相当額が益金となる。これに対し、株式の無償割当ておよび新株引受権の無償割当ては、各株主の持分に変動を生じない場合に課税関係を生じさせない。これは株式分割と同様の扱いである。

  無償で資産の譲渡等を行ったのであれば「当該事業年度の収益」は生じないとも考えられるのであるが、同項は逆に、収益を発生させるものとして益金に算入するという趣旨を規定する。そこで、いかなる理由によるものかについて考察する必要があるが、見解は分かれている。

   通説は適正所得算定説を採る。これは、正常な対価で取引を行ったものとの関係で負担の不公平が生じないように、また、法人の間の競争中立性を確保するために、無償取引からも収益が生ずることを擬制して規定されたものと理解する説である。そのため、この説の場合、法人税法第22条第2項は租税回避行為を否認するための創設的規定であると理解することになる。判例(および実務)もこの説を採り、その上で益金とされる収益については第37条に規定される寄附金として認定し、損金の算入に限定を加えるという方法を採る

  ※金子・前掲書279頁が代表例である。

  ※※水野忠恒『租税法』〔第5版〕(2011年、有斐閣)385頁、411頁。通説も同様に理解する。

  南西通商株式会社事件第一審判決(宮崎地判平成5年9月17日行裁例集4489792頁)は、「資産譲渡にかかる法人税は、法人が資産を保有していることについて当然に課税されるのではなく、その資産が有償譲渡された場合に顕在化する資産の値上がり益に着目して清算的に課税がされる性質のものであり、無償譲渡の場合には、外部からの経済的な価値の流入はないが、法人は譲渡時まで当該資産を保有していたことにより、有償譲渡の場合に値上がり益として顕在化する利益を保有していたものと認められ、外部からの経済的な価値の流入がないことのみをもって、値上がり益として顕在化する利益に対して課税されないということは、税負担の公平の見地から認められない」と述べ、「同項は、正常な対価で取引を行った者との間の負担の公平を維持するために、無償取引からも収益が生ずることを擬制した創設的な規定」であると理解する。また、同事件控訴審判決である福岡高宮崎支判平成6年2月28日訟務月報43巻3号1025頁は、第一審判決をほぼそのまま引用している。

   なお、同事件上告審判決(最三小判平成7年1219日民集49103121頁)も適正所得算定説を採ると理解されるのが通常である。しかし、同判決は第22条第2項が「法人が資産を他に譲渡する場合には、その譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにしたものと解される」と述べるのみであり、適正所得算定説を採ることが明確であるとは言えないものと思われる

  ※水野・前掲書387頁。金子・前掲書280頁も参照。

   ※※増井良啓「低額譲渡と法人税法22条2項」水野忠恒=中里実=佐藤英明=増井良啓=渋谷雅弘編『租税判例百選』〔第5版〕(2011年、有斐閣)96頁を参照。また、谷口・前掲書334頁の記述は、南西通商事件上告審判決が適正所得算定説を採用していないとする理解に立脚するものと思われる。

  適正所得算定説に対しては、「課税はあくまでも納税者が現実に行った取引を対象とするのが原則であり、擬制による課税は、課税上の弊害等の観点から、立法者が例外的に特別な根拠規定を設けている場合に限るべきであ」り、「租税法律主義から見て適当でな」く、「公正処理基準の定めとの関係においても、通説による22条2項の解釈には無理があると思われる」とする批判がある

 岡村忠生『法人税法講義』〔第3版〕(2007年、成文堂)43

   通説・判例と異なり、第22条第2項は租税回避行為を否認するための創設的規定ではないとする見解もある。

   たとえば、岡村忠生教授は、購入時から値上がりしている資産を譲渡した納税義務者が存在する場合、資産の値上がり益は当該資産を値上がり時に保有していた者に課税されるべきであり、「たとえ対価が無償であっても、値上がり益は存在するから、清算課税は発生する」と説明する。これを清算課税説または増加益清算課税説と呼んでおく。

  ※岡村・前掲書42

  ※※増加益清算課税説は谷口・前掲書330頁による表現である(増加益実現擬制説とも表現される)。

  この見解によれば、企業会計が無償による資産の譲渡などから「時価の対価を得たときと同じ収益を認識することは、一般的には認められていない」ことを理由として、第37条第8項が存在するがために「益金側で22条2項により時価までの値上がり益が課税の対象として認識され、損金側で寄付資産を時価として寄付金の額が算定されるのである」と考えられる

  ※岡村・前掲書43

  一方、北野弘久博士は、同項が「簿記会計における商品勘定のように、両建て経理を前提としたグロスの計算構造についての例示規定にすぎない」と述べる。これを例示規定説として呼んでおく※※

  ※北野弘久『税法学原論』〔第六版〕(2007年、青林書院)133頁、同「法人税法22条2項と租税回避行為」『税法問題事例研究』(2005年、勁草書房)154頁、157頁、159頁、北野弘久編『現代税法講義』〔五訂版〕(2009年、法律文化社)87頁[北野弘久担当]。

  ※※谷口・前掲書331頁は有償取引同視説または二段階説と表現する。

  この見解によると、簿価による無償譲渡の場合でも、貸方に収益が生じる。低額所得に関する説明を先取りする形になるが、たとえば、時価100万円の資産を80万円で売却したとする。この時、確かに売却価格は80万円であるが、実は80万円の売却行為と、時価と売却価格との差額の20万円の贈与行為とが同時に行われている。この贈与行為が明示的に行われているか否かの問題に過ぎない。完全な無償取引の場合も同様に考えればよいこととなる。時価までの値上がり益については清算課税説と同じ趣旨の説明となるが、第37条の寄附金については清算課税説と異なり、一種の確認規定とする考え方に立つと考えられる。

   なお、あまり指摘されないことであるが、法人税法第22条第2項については、所得税法第40条第1項第2号および同第59条と関連付けて検討することが必要であると考えられる。

  (2)損金

  法人税法第22条第3項は、次のように定める。

  「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。

  一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額

  二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額

  三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」

  以上から、損金は基本的に費用および損失の全体を指すものと考えられる。益金の場合と異なり、不法な支出または違法な支出が損金として認められるか否かについては議論があり、取引において実現した支出または損失は基本的に損金とされる、という考え方が成立したのであるが、後にも述べるように、第55条第1項により、隠蔽工作または仮装行為による損失の額は損金に算入しないこととされた。この趣旨は、同第2項により、他の租税の負担を減少させるような行為についても準用される。また、賄賂(刑法)、公務員等に対する不正な利益の供与(不正競争防止法)に相当する費用または損失の額も、損金に算入しない。

  なお、第22条第3項第2号かっこ書きに該当するものは、費用として認められない。

  (3)資本等取引

  ここで資本等取引とは、第22条第5項によって「法人の資本等の金額の増加又は減少を生ずる取引」および「法人が行う利益又は剰余金の分配」と定義される。

  資本等取引に係る収益および損失は、益金および損金から除外される。但し、同じ理由によるものではない。

  「法人の資本等の金額の増加又は減少を生ずる取引」については、企業会計の考え方により、損益取引と異なって利益および損失が生じないという前提がある。これは、資本維持の要請によるものである。また、資本剰余金の増減を生ずる取引も資本取引に含められている(企業会計原則第1一般原則3など。また、会社計算規則第48条以下、会社法第431条・第445条第2項および第3項・第448条・第449条なども参照)。

  ※金子・前掲書278頁は「狭義の資本等取引」と表現する。

  これに対し、「法人が行う利益又は剰余金の分配」については、課税の対象とするために損金の範囲から除外している。法人税法は、法人所得≒法人の利益とする理解を前提としており、出資者に利益を還元する前の段階の所得を課税の対象としている。

   なお、会社法は最低資本金制度を廃止している。また、資本金の減少を同第447条により、準備金の減少を同第448条により、資本剰余金の配当を同第453条以下により認めている。しかし、資本等取引と損益取引との区別を放棄したものとは考えられていない

  ※金子宏『租税法』〔第十一版〕(2006年、弘文堂)865

  

   2.企業会計と租税会計

  一般的に、法人の収益、原価、費用などは、企業会計の基準に従って算定される。この企業会計にならい、租税会計が行われるのが便宜であろう。

   そこで、法人税法第22条第4項は「第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする」と定め、基本的に益金の基礎となる(あるいは同義である)収益、同様に損金の基礎となる(あるいは同義である)原価や費用は、企業会計に従って算定すべきであるという趣旨を定めている。

   ここでいう企業会計は、企業会計原則、商法、会社法や証券取引法の計算規定、さらに確立している会計慣行のことである。会社法第431条は「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」と定める。持分会社の会計に関する同第614条も同じ趣旨の規定である。法人税法第22条第4項も、基本的には同じ立場をとることとなる。

  もっとも、以上のように規定されているから常に企業会計に準拠しなければならないという訳でもない。法人税法や租税特別措置法に別段の定めがあれば、例外あるいは修正としての扱いがなされる。また、企業会計自体が常に公正妥当であると言えるかという問題もある。そして、企業会計原則や確立している会計慣行も決して網羅的ではない。このようなことから、法人税法第22条第4項の文言とは逆に、租税会計が企業会計に影響を与えることも決して少なくはないと言いうる。

 

  3.収益および費用の年度帰属

   12  収入金額と必要経費おいて、所得税法の収入金額の帰属年度について述べた。所得税法の場合は、原則として発生主義のうちの権利確定主義が採用される。それでは、法人税法の場合はどのようになるのであろうか。

   法人税法には明文の規定がないが、第22条第4項に従い、企業会計原則を参照すると、やはり発生主義のうちの権利確定主義が妥当することになる。従って、不動産の販売収益については所有権が移転した時点、仲介手数料の収益については取引成立の時点、ということになる。しかし、不動産の売買において実際に所有権が移転するのは、売買契約の成立の時点ではなく、代金支払い、引渡し、登記などが行われた時点であると解する考え方もあり、そのほうが現実の取引慣行などにも合致する。また、契約成立時ではなく、現実に引渡しがなされた日と判断する判決もいくつか存在する。

   旧法人税基本通達249は権利確定主義を明文でうたっていた。この点は旧所得税基本通達194や同198も同様である。しかし、現行の諸通達では様相が異なる。参考までに、現在の諸通達の規定を紹介しておく。

  所得税基本通達36-1:「法第36条第1項に規定する『収入金額とすべき金額』又は『総収入金額に算入すべき金額』は、その収入の起因となった行為が適法であるかどうかを問わない。」

  同36-8:「事業所得の総収入金額の収入すべき金額は、別段の定めがある場合を除き、次の収入金額についてはそれぞれ次に掲げる日によるものとする。

  (一)棚卸資産の販売(試用販売及び委託販売を除く。)による収入金額については、その引渡しがあった日

  (二)棚卸資産の試用販売による収入金額については、相手方が購入の意思を表示した日。ただし、積送又は配置した棚卸資産について、相手方が一定期間内に返送又は拒絶の意思を表示しない限り特約又は慣習によりその販売が確定することとなっている場合には、その期間の満了する日

  (三)棚卸資産の委託販売による収入金額については、受託者がその委託品を販売した日。ただし、当該委託品についての売上計算書が毎日又は一月を超えない一定期間ごとに送付されている場合において、継続して当該売上計算書が到達した日の属する年分の収入金額としているときは、当該売上計算書の到達の日

  (四)請負による収入金額については、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の提供の完了した日。ただし、一の契約により多量に請け負った同種の建設工事等についてその引渡量に従い工事代金等を収入する旨の特約若しくは慣習がある場合又は一個の建設工事等についてその完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて工事代金等を収入する旨の特約若しくは慣習がある場合には、その引き渡した部分に係る収入金額については、その特約又は慣習により相手方に引き渡した日

  (五)人的役務の提供(請負を除く。)による収入金額については、その人的役務の提供を完了した日。ただし、人的役務の提供による報酬を期間の経過又は役務の提供の程度等に応じて収入する特約又は慣習がある場合におけるその期間の経過又は役務の提供の程度等に対応する報酬については、その特約又は慣習によりその収入すべき事由が生じた日

  (六)資産(金銭を除く。)の貸付による賃貸料でその年に対応するものに係る収入金額については、その年の末日(貸付期間の終了する年にあっては、当該期間の終了する日)

  (七)金銭の貸付による利息又は手形の割引料でその年に対応するものに係る収入金額については、その年の末日(貸付期間の終了する年にあっては、当該期間の終了する日)。ただし、その者が継続して、それぞれ次に掲げる日により収入金額に計上している場合には、それぞれ次に掲げる日

    イ  利息を天引きして貸し付けたものに係る利息  その契約により定められている貸付元本の返済日

    ロ  その他の利息  その貸付に係る契約の内容に応じ、三六−五の(一)に掲げる日

    ハ  手形の割引料  その手形の満期日(当該満期日前に当該手形を譲渡した場合には、当該譲渡の日)」

  同3637共−1:「事業を営む者がその販売に係る棚卸資産を引き渡した場合において、その引渡しの日の属する年の一二月三一日までにその販売代金の額が確定していないときは、同日の現況によりその金額を適正に見積もるものとする。この場合において、その後確定した販売代金の額が見積額と異なるときは、その差額は、その確定した日の属する年分の総収入金額又は必要経費に算入する。」

  法人税基本通達2−1−1:「棚卸資産の販売による収益の額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する。」

  同2−1−2:「二−一−一の場合において、棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、例えば出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行う日としている日によるものとする。この場合において、当該棚卸資産が土地又は土地の上に存する権利であり、その引渡し日がいつであるかが明らかでないときは、次に掲げる日のうちいずれか早い日にその引渡しがあったものとすることができる。

  (一)代金の相当部分(おおむね五〇%以上)を収受するに至つた日

  (二)所有権移転登記の申請(その登記の申請に必要な書類の相手方への交付を含む。)をした日」

  同2−1−14:「固定資産の譲渡による収益の額は、別に定めるものを除き、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する。ただし、その固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合において、法人が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日の属する事業年度の益金の額に算入しているときは、これを認める。」

  もっとも、権利確定主義によらない場合がある。

  第一に、2年以上にわたる長期割賦販売等に該当する資産の販売・譲渡、工事の請負、役務の提供による収益については、一定の要件を満たした上で、これらがなされた時に収益および費用が発生するとするのではなく、契約において割賦金の支払期日とされている日が属する事業年度に収益および費用を計上することが認められている(第63条第1項・第4項。なお、連結納税に関して、第61条の11および第61条の12を参照)。

  第二に、長期大規模工事の請負である。この場合の長期大規模工事とは、法人税法第64条第1項および法人税法施行令第129条により、着手の日から引渡期日までの期間が2年以上であり、かつ、対価の額が50億円以上のものとされており、工事進行基準によることとなる。

  第三に、一事業年度を超えるが長期大規模工事に該当しないものの請負である。この場合は、法人税法第64条第2項および法人税法施行令第129条第3項により、工事進行基準によることができるとされる。従って、第二の場合とは異なる。権利確定主義を採用した場合には特定年度に所得が集中してしまうためである。

  この他、最近の金融取引の発展により、原則として益金や損金に算入しないとされている資産の評価益および評価損についても、デリバティブ取引を中心に時価主義によって益金や損金の処理を行うこととされる場合がある。法人税法第61条以下によって定められている

  ※この講義ノートでは省略する。金子・前掲書〔第十七版〕295頁を参照。

  費用については、償却費以外は債務の確定によって初めて損金に計上することが可能となる(第22条第3項第2号のかっこ書き)。

 

  4.費用収益対応の原則

  これは企業会計上の原則の一つであり、収益と費用とは同一会計年度に計上されなければならないというものである。法人税法においてもこの原則が妥当する。

 

  5.確定決算の原則

   これは、法人税法第74条において規定されるものである。

  確定申告の際に、確定した決算に基づいて申告しなければならないのは当然のことであるとも言える。そして、企業会計は、企業(会社)の経営成績と財政状態に関する情報を株主や会社債権者に提供する必要があるために、また、剰余金配当などの分配の基礎とするために必要とされるので、決算が確定しないことには話が始まらない。

  ここで、会社法の関係規定を、必要な分のみ引用しておく。

  第435条:「株式会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。

  2 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。

  3 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、電磁的記録をもって作成することができる。

  4 株式会社は、計算書類を作成した時から十年間、当該計算書類及びその附属明細書を保存しなければならない。」

  第436条:「監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含み、会計監査人設置会社を除く。)においては、前条第二項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、法務省令で定めるところにより、監査役の監査を受けなければならない。

  2 会計監査人設置会社においては、次の各号に掲げるものは、法務省令で定めるところにより、当該各号に定める者の監査を受けなければならない。

    一 前条第二項の計算書類及びその附属明細書 監査役(委員会設置会社にあっては、監査委員会)及び会計監査人

    二 前条第二項の事業報告及びその附属明細書 監査役(委員会設置会社にあっては、監査委員会)

  3 取締役会設置会社においては、前条第二項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(第一項又は前項の規定の適用がある場合にあっては、第一項又は前項の監査を受けたもの)は、取締役会の承認を受けなければならない。」

  第437条:「取締役会設置会社においては、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、法務省令で定めるところにより、株主に対し、前条第三項の承認を受けた計算書類及び事業報告(同条第一項又は第二項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。)を提供しなければならない。」

  第438条:「次の各号に掲げる株式会社においては、取締役は、当該各号に定める計算書類及び事業報告を定時株主総会に提出し、又は提供しなければならない。」

    一 第四百三十六条第一項に規定する監査役設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第四百三十六条第一項の監査を受けた計算書類及び事業報告

    二 会計監査人設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第四百三十六条第二項の監査を受けた計算書類及び事業報告

    三 取締役会設置会社 第四百三十六条第三項の承認を受けた計算書類及び事業報告

    四 前三号に掲げるもの以外の株式会社 第四百三十五条第二項の計算書類及び事業報告

  2 前項の規定により提出され、又は提供された計算書類は、定時株主総会の承認を受けなければならない。

  3 取締役は、第一項の規定により提出され、又は提供された事業報告の内容を定時株主総会に報告しなければならない。」

  第439条:「第四百三十九条 会計監査人設置会社については、第四百三十六条第三項の承認を受けた計算書類が法令及び定款に従い株式会社の財産及び損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合には、前条第二項の規定は、適用しない。この場合においては、取締役は、当該計算書類の内容を定時株主総会に報告しなければならない。」

  第440条:「株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。

  2 前項の規定にかかわらず、その公告方法が第九百三十九条第一項第一号又は第二号に掲げる方法である株式会社は、前項に規定する貸借対照表の要旨を公告することで足りる。

  3 前項の株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、第一項に規定する貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後五年を経過する日までの間、継続して電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとることができる。この場合においては、前二項の規定は、適用しない。

  4 証券取引法第二十四条第一項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社については、前三項の規定は、適用しない。」

  そして、法人税法第74条にいう確定した決算は、会社法第435条以下に定められるように、監査役または会計監査人による監査を受け、定期株主総会において承認を受けた決算のことをいう。

  この確定決算原則が法人税法にも取り入れられている理由であるが、次の三点があげられている。

  第一に、会社法や企業会計原則などに基づいて計算された確定決算による利益は、さしあたって適正なものと考えられる。しかも、この決算および利益は公表される。

  第二に、課税所得を計算するためには、企業の取引事実を確定する必要がある。確定決算によるならば、取引事実の確定が容易である。

  第三に、申告調整主義よりも確定計算主義のほうが所得水準の維持に資する。申告調整主義では、会社計算よりも課税所得が減少する可能性が高くなる。

  なお、法人税法は、こうした決算についても別段の定めを置いている。

  

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(2011年3月16日掲載)

(2011年8月19日修正)

(2012年8月12日修正)