18 法人所得その3
「16 法人所得その1」において述べたように、法人税法第22条第3項にいう損金は、基本的に費用および損失の全体を指すものと考えられる。しかし、法人税法は、損金について多くの「別段の定め」を置いている。以下、その状況などを概観する。
(1)売上原価
これは棚卸資産の販売などに深い関係を有するものである。売上原価を把握する方法はいくつか存在するが、その一つとして棚卸資産の評価を通じての確認がある。法人税法第29
条は、棚卸資産の評価方法について政令に委任する※。そこで法人税法施行令第28条が、大別して原価法と低価法を定め、さらに詳細な定めを置いている。いずれの方法を採用するかについては、所轄の税務署長に届出がなされなければならず(同第29条第2項)、評価方法の変更については所轄の税務署長による承認が必要とされている(同第30条)。
ここで原価法とは、同第28条第1項第1号によって「当該事業年度終了の時において有する棚卸資産(以下この条において「期末棚卸資産」という。)につき次に掲げる方法のうちいずれかの方法によつてその取得価額を算出し、その算出した取得価額をもつて当該期末棚卸資産の評価額とする方法」と定義されるものであり、取得価額の算出については以下の6種類があげられる。
個別法:「期末棚卸資産の全部について、その個々の取得価額をその取得価額とする方法」のことである(同イ)。
先入先出法:「期末棚卸資産をその種類、品質及び型(以下この条において「種類等」という。)の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、当該期末棚卸資産を当該事業年度終了の時から最も近い時において取得(適格合併又は適格分割型分割による被合併法人又は分割法人からの引継ぎを含む。以下この号において同じ。)をした種類等を同じくする棚卸資産から順次成るものとみなし、そのみなされた棚卸資産の取得価額をその取得価額とする方法」のことである(同ロ)。
総平均法:「棚卸資産をその種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、当該事業年度開始の時において有していた種類等を同じくする棚卸資産の取得価額の総額と当該事業年度において取得をした種類等を同じくする棚卸資産の取得価額の総額との合計額をこれらの棚卸資産の総数量で除して計算した価額をその一単位当たりの取得価額とする方法」のことである(同ハ)。
移動平均法:「棚卸資産をその種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、当初の一単位当たりの取得価額が、再び種類等を同じくする棚卸資産の取得をした場合にはその取得の時において有する当該棚卸資産とその取得をした棚卸資産との数量及び取得価額を基礎として算出した平均単価によつて改定されたものとみなし、以後種類等を同じくする棚卸資産の取得をする都度同様の方法により一単位当たりの取得価額が改定されたものとみなし、当該事業年度終了の時から最も近い時において改定されたものとみなされた一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法」のことである(同ニ)。
最終仕入原価法:「期末棚卸資産をその種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、当該事業年度終了の時から最も近い時において取得をしたものの一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法」のことである(同ホ)。
売価還元法:「期末棚卸資産をその種類等又は通常の差益の率(棚卸資産の通常の販売価額のうちに当該通常の販売価額から当該棚卸資産を取得するために通常要する価額を控除した金額の占める割合をいう。以下この項において同じ。)の異なるごとに区別し、その種類等又は通常の差益の率の同じものについて、当該事業年度終了の時における種類等又は通常の差益の率を同じくする棚卸資産の通常の販売価額の総額に原価の率(当該通常の販売価額の総額と当該事業年度において販売した当該棚卸資産の対価の総額との合計額のうちに当該事業年度開始の時における当該棚卸資産の取得価額の総額と当該事業年度において取得をした当該棚卸資産の取得価額の総額との合計額の占める割合をいう。)を乗じて計算した金額をその取得価額とする方法」のことである(同ヘ)。
また、低価法とは、同第2号によって「期末棚卸資産をその種類等(前号ヘに掲げる売価還元法により算出した取得価額による原価法により計算した価額を基礎とするものにあつては、種類等又は通常の差益の率。以下この条において同じ。)の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、同号に掲げる方法のうちいずれかの方法により算出した取得価額による原価法により評価した価額と当該事業年度終了の時における価額とのうちいずれか低い価額をもつてその評価額とする方法」と定義されている。
(2)固定資産の減価償却費
固定資産は、法人税法第2条第22号に定義されるもので、減価償却資産(第23号)を含んでいる。そのうち、建物や機械、鉱業権、無体財産権などは、使用や時間の経過によって価値が減少するため、減価償却資産という。減価償却を法人の必要経費や損金として扱うためには、その評価方法が明確にされなければならない。
第31条は、減価償却資産の償却費の計算、および償却の方法に関する規定であるが、具体的な方法などについては法人税法施行令第48条に委任している。主な方法はとして次の3種類がある。
定額法:法人税法施行令第48条の2第1項第1号により、「当該減価償却資産の取得価額にその償却費が毎年同一となるように当該資産の耐用年数に応じた償却率を乗じて計算した金額を各事業年度の償却限度額として償却する方法」と定義される※。
※法人税法施行令第48条第1項第1号イ(1)は「旧定額法」を「当該減価償却資産の取得価額からその残存価額を控除した金額にその償却費が毎年同一となるように当該資産の耐用年数に応じた償却率を乗じて計算した金額を各事業年度の償却限度額として償却する方法」と定義する。
定率法:同第2号ロにより、「当該減価償却資産の取得価額(既にした償却の額で各事業年度の所得の金額又は各連結事業年度の連結所得の金額の計算上損金の額に算入された金額がある場合には、当該金額を控除した金額)にその償却費が毎年一定の割合で逓減するように当該資産の耐用年数に応じた償却率を乗じて計算した金額(当該計算した金額が償却保証額に満たない場合には、改定取得価額にその償却費がその後毎年同一となるように当該資産の耐用年数に応じた改定償却率を乗じて計算した金額)を各事業年度の償却限度額として償却する方法」と定義される※。
※法人税法施行令第48条第1項第1号イ(2)は「旧定率法」を「当該減価償却資産の取得価額(既にした償却の額で各事業年度の所得の金額又は各連結事業年度の連結所得の金額の計算上損金の額に算入された金額がある場合には、当該金額を控除した金額)にその償却費が毎年一定の割合で逓減するように当該資産の耐用年数に応じた償却率を乗じて計算した金額を各事業年度の償却限度額として償却する方法」と定義する。
生産高比例法:同第3号ハにより、「当該鉱業用減価償却資産の取得価額を当該資産の耐用年数(当該資産の属する鉱区の採掘予定年数がその耐用年数より短い場合には、当該鉱区の採掘予定年数)の期間内における当該資産の属する鉱区の採掘予定数量で除して計算した一定単位当たりの金額に当該事業年度における当該鉱区の採掘数量を乗じて計算した金額を各事業年度の償却限度額として償却する方法」と定義される※。
減価償却の方法については、償却資産の性状に応じて選択肢が定められている。
(3)繰延資産の償却費
繰延資産は、創業費や開業費などを指しており、支出の効果が支出の日以後の一年以上に及ぶものをいう。法人税法第32条第1項が、繰延資産の償却費などについて定めている。損金に算入されるのは、償却費として損金処理をした金額のうち、支出の効果の及ぶ期間を基礎として政令(法人税法施行令第64
条)で定められるところに従って計算された金額である。
(4)資産の評価損
第33条は第25条と表裏一体的な関係にあり、所有資産の評価替えによる帳簿価額の減額(評価損)は、原則として損金に算入されない。
但し、第2項および第3項に該当する場合には、損金に算入されることとなる。
まず、法人が有する資産が災害による著しい損害を受けた結果、その価額が帳簿価額を下回るよういなった場合、または、会社更生法または金融機関等の更生手続の特例等に関する法律による更生計画認可の決定があり、これに基づいてこれらの法律に従って評価換えをする必要が生じた場合に、評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときには、評価換えを行う直前の帳簿価額と、評価換えを行った日が属する事業年度の終了時の価額との差額に達するまでの金額まで、当該事業年度の所得金額を計算する際に、損金の額に算入する(第33条第2項)。
次に、民事再生法による再生計画認可の決定があったことなどの事実が生じた場合に、法人が有する資産の価額について政令で定める評定を行っているときには、その資産の評価損は、その事実が生じた日が属する事業年度の所得金額を計算する際に、益金の額に算入する(同第3項)。
(5)役員給与等
2006(平成18)年度改正以前は、役員報酬、役員賞与というように分けられており、原則として役員報酬は損金に算入し、役員賞与は損金に算入しないこととなっていた。しかし、役員報酬でも不相当に過大なものについては損金に算入しないこととされており、役員賞与であっても損金に算入する場合も存在した。
改正後は、会社法第361条が役員報酬と役員賞与を合わせ、取扱いを統一したため、法人税法第34条第1項は役員給与という用語の下に「退職給与及び第五十四条第一項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)に規定する新株予約権によるもの並びにこれら以外のもので使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの並びに第三項の規定の適用があるもの」を除き、損金に算入しないという原則を定めている。
ここで「使用人としての職務を有する役員」は「役員(社長、理事長その他政令で定めるものを除く。)のうち、部長、課長その他法人の使用人としての職務上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するもの」である(同第5項)。
また、法人税法施行令第71条第1項は「使用人としての職務を有する役員」に入らないものとして、代表取締役、代表執行役、代表理事および清算人(以上、第1号)、副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員(以上、第2号)、合名会社、合資会社および合同会社の業務を執行する社員(以上、第3号)、取締役、会計参与、監査役、監事(以上、第4号)、同族会社の役員で第5号に掲げられた要件を充たす者をあげる。
役員給与は原則として損金に算入されない訳であるが、次のものについては損金に算入する。
第一に、支給時期が一月以内の一定の期間毎であって、かつ、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額である給与などである(同第1号。定期定額給与という)。
第二に、役員の職務について所定の時期に確定額を支給する定めに基づいて支給する給与である(同第2号。事前確定届出給与)。これは、定期定額給与の修正である。所轄地の税務署長に届出をなす必要がある。
第三に、業務執行役員に対して支給する利益連動給与で、同第3号のイおよびロに掲げられた要件を全て充たすものである。
第四に、既に示した役員退職給与である。但し、これは原則であり、後に示す例外もある。
以上が改正によって改められた点であるが、それ以外は従前のままである。
租税法学などにおいてとくに解説などを加えられてきたのが、報酬のうちの過大な部分についての損金不算入である。これは第34条第2項に規定されることで、役員の給与(退職給与も含む)のうち、第1項および第3項の適用がないものについて、その額が「不相当に高額な部分の金額として政令に定める金額」であれば損金に算入されないこととされている。
また、第36条も、役員、役員と特殊な関係にある使用人(従業員などのこと)に支払う給与について、やはり「不相当に高額な部分の金額として政令に定める金額」であれば損金に算入されないこととされている。ここで役員と特殊な関係にある使用人とされる者は、役員の家族、役員と婚姻関係と同然の関係(事実婚的関係)にある者、それら以外で役員から生計の支援を受けている者、これらの他に役員と生計を一にする親族である(法人税法施行令第72条の3)。
法人が使用人に対して支給する給与や賞与は、人件費である。このため、原則としては損金に算入すべきである。しかし、役員となれば、話が変わってくる。法人の役員は、会社法第330条にも規定されるように、法人との関係という点において使用人と異なる。そのためもあって、役員賞与、すなわち役員に対して支給される臨時的な給与は人件費というより利益の処分であると考えられており、損金不算入の扱いを受けてきた。このため、従来は役員賞与を支給しない法人が多かった。そればかりでなく、実質的には賞与であっても報酬という名目で役員に給付されることも少なくなかった。そこで、役員報酬のうちの不相当に高額な部分の金額を損金に算入しないこととされたのである。租税回避行為の防止という意味合いをもつ。
それでは、役員報酬のうちの不相応に高額な部分とは、具体的にいかなるものであるのか。法人税法自体には、その基準を示す規定がない。法人税法施行令第70条によると、役員の職務内容、法人の収益や使用人に対する給与の支給状況、同種の事業を営む類似規模の法人の給与の支給状況と比較した額(第1号イ)、定款の規定や株主総会などの決議によって支給することができる金銭の限度額と比較した額(第1号ロ)のいずれか多い額、などの合計額である。役員の職務内容、法人の収益、使用人に対する給与の支給状況は、問題となる法人自体の決算状況などを参照すれば明らかになるが、類似規模の同種事業の法人の給与支払状況は、法人自体や法人の顧問税理士などにはわかりにくいことであり、基準として妥当であるのかが疑問視される。
(6)寄附金
ここにいう寄付金は、法人税法第37条第7項により、寄附金、拠出金、見舞金など、金銭その他の資産や経済的利益の贈与または無償の供与のうち、広告宣伝や見本品の費用、交際費、接待費、福利厚生費を除外したものをいう。なお、政治献金は寄附金に該当することとなる。
寄附金は、法人の純資産を減少させるものである。しかし、収益を生み出すために必要な経費と言える場合もあり、そうでない場合もある(このときには利益処分となる)。また、たとえば公益に役立つような寄附金を奨励する必要もある。そのため、第37条は、規定の上では原則として損金不算入としつつも、寄附金を損金として算入することを認める場合を定め、これに限度額を設けている。
この限度額は、法人税法施行令第73条に、法人の類型ごとに定められており、普通法人の場合には、原則として、事業年度終了時における資本金等の額を12で除し、これに当該事業年度の月数を乗じて得られた額の1000分の2.5に相当する額と、当該事業年度の所得金額の100分の2.5に相当する額との合計額が限度額とされている。
なお、連結法人が同一グループの他の連結法人に対して支出した寄附金の額は、損金に算入しないこととなっている(法人税法第37条第2項)。これに対し、国や地方公共団体に対する寄附金は損金に算入される。また、公益社団法人、公益財団法人など「公益を目的とする事業を行う法人又は団体」への寄附金で、広く一般に募集され、教育や科学の振興、文化の向上、社会福祉の貢献など公益の増進に寄与するものであり、緊急を要するものにあてられることが確実なものとして、財務大臣の指定したものについては、損金算入が認められる(同第3項。指定寄附金という)。さらに、特定公益増進法人への寄附金については同第4項により、NPO法人への寄附金については租税特別措置法第66条の11の2第1項により、一定の限度において損金に算入することが認められる。
(7)租税その他の公課
租税その他の公課についても、費用としての性質が認められるものがある。そのため、何らかの理由に基づき、法律によって損金算入を否定されるのでなければ、租税その他の公課であっても損金に算入されることになる。法人税法は、租税その他の公課で損金の額に算入しないものを定めているが、これらは限定的に列挙されている。もっとも、範囲が狭いとは言えないであろう。
法人税法第38条第1項は、法人税のうち、延滞税、過少申告加算税、無申告加算税、重加算税、そして第1号、第2号および第3号に規定されるものを除いたものについて、損金の額に算入しないことを定める。延滞税などについては後に取り上げるが、第1号、第2号および第3号に規定されるもの以外の法人税を損金に算入しないのは、そもそも所得の中から納付することが予定されているからであるし、法人税の額を損金の額に算入しないのは当然のことであろう。
同第2項は、相続税法第66条第4項の規定による贈与税および相続税(第1号)、都道府県法人住民税および市町村法人住民税(第2号)について、損金の額に算入しないことを定める。贈与税および相続税は、公益法人等に課されることがある。このとき、贈与または遺贈があり、結果として生じた受贈利益は、公益法人の収益事業による利益とは言えない。そのため、贈与税および相続税は、収益事業の費用ではないから、そもそも損金としての性格を認めることはできない。また、都道府県住民税および市町村法人住民税については、法人税法第38条第1項と同じ理由による。
同第3項は「内国法人が各連結事業年度の連結所得に対する法人税の減少額として収入すべき金額として第八十一条の十八第一項(中略)の負担額の減少額を支払う場合には、その支払う金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない」ことを定める。また、同第4項は「前項の他の内国法人が同項の内国法人に書く連結事業年度の連結所得に対する法人税の負担額として支出すべき金額として第八十一条の十八第一項の規定により計算される金額又は附帯税の負担額を支払う場合には、その支払う金額は、当該他の内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない」ことを定める。
第39条は、第二次納税義務に係る納付税額を損金の額に算入しないことを定める。これは、その納付税額が費用としての性格を有しないためであると考えられていることによる。
そして、第40条は法人税額から控除される所得税額を損金に算入しないこと、第41条は法人税額から控除される外国税額を損金に算入しないことを定める。いずれの場合も、損金に算入すれば法人が二重の利益を受けることになるためである。
以上は、租税のうち、損金の額に算入されないものである。従って、固定資産税、自動車税、登録免許税、印紙税、消費税などの租税は、損金に算入されることとなる。
次いで、「不正行為等に係る費用等」である。以前は第38条第2項に規定されていたが、現在は第55条に規定される。同第1項は、隠蔽行為や仮装行為によって法人税の負担を減少させ、または減少させようとした場合に、その行為に関わる費用または損失を損金に算入しないことを定める。これは当然のことであろう(同第2項も参照)。
同第3項第1号は、国税に関する延滞税、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税、過怠税(印紙税法)を損金の額に算入しないことを定める。また、同第2号は、地方税に関する延滞金(但し、地方税法第65条、第72条の45の2、第327条の場合を除く)、過少申告加算金、不申告加算金、重加算金の損金不算入を規定する。
法人税法第55条第4項は、罰金、科料、過料、課徴金および延滞金(国民生活安定緊急措置法、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律、金融商品取引法および公認会計士法)の損金不算入を規定する。また、同第5項は刑法第198条に規定する賄賂、不正競争防止法第18条第1項に規定する金銭その他の利益に該当する金額を損金に算入しないことを定める。
(8)圧縮記帳
圧縮記帳は課税繰延の手段であり※、「補助金等の特定の収益をもって固定資産を取得しまたは改良した場合に、その資産に、実際の取得価額よりもその収益に相当する金額(またはその範囲内の金額)だけ減額した低い帳簿価額をつけ、この減額した金額を損金に算入すること」である※※。元来は損金に算入すべきものではないが、補助金の目的などに鑑みれば、これに課税することは望ましくないため、第42条第1項により、圧縮記帳の損金算入が認められる。なお、圧縮記帳は、第45条、第46条、第47条および第50条に該当する場合にも認められている。
※※金子・前掲書331頁。
(9)引当金
引当金は、将来に費用や損失が発生することに備え、合理的な見積額のうち当該年度の負担に属する金額を費用または損失として繰り入れ、貸借対照表の負債の部にある引当金勘定に繰り入れられる金額のことである。費用または損失として計上することになるから、将来における費用または損失が確実に発生すること、それらの金額を相当に正確に予想できること、および、これらが当該年度の収益と対応関係にあることが求められる。
法人税法は、貸倒引当金と返品調整引当金の計上を認めており、一定の限度内において損金に算入することを認める。また、所得税法は、貸倒引当金、返品調整引当金および退職給与引当金の計上を認め、やはり一定の限度内において必要経費への算入を認める※。
※法人税法でも退職給与引当金が認められていたが、連結納税制度の採用によって法人税収が減少することになるため、2002(平成14年)度改正で廃止された。
貸倒引当金は、第52条に規定され、個別貸倒引当金と一般貸倒引当金とに分けられる。
個別貸倒引当金は、第52条第1項に規定されるものであり、会社更生法による更生計画認可の決定に基づき、金銭債権の弁済を猶予される場合、または賦払によって弁済される場合などにおいて、その一部について貸倒などによる損失が見込まれる金銭債権の見込み額として、損金経理によって貸倒引当金勘定に繰り入れた金額のことである。このうち、損金として認められるのは、事業年度の終了時において取り立てや弁済の見込みがないと認められる部分の金額を基礎として法人税法施行令第96条第1項に従って計算された額である。
また、一般貸倒引当金は、売掛金や貸付金などの金銭債権で個別評価金銭債権を除外したもの(一括評価金銭債権という)の貸倒による損失の見込み額として、各事業年度において損金経理によって貸倒引当金勘定に繰り入れた金額のことである。このうち、損金として認められるのは、当該年度の終了時に有する一括評価金銭債権の額、および最近における売掛金や貸付金などの金銭債権の貸倒による損失の額を基礎として法人税法施行令第96条第2項に従って計算された額である。
返品調整引当金は、法人税法第53条に規定されており、出版業、出版物取次業、医薬品製造業、医薬品卸売業など一定の事業を営む法人が、販売する棚卸資産の大部分について、販売の際の価額による買戻しの特約を結んでいる場合に、その棚卸資産の特約に基づく買戻しによる損失の見込み額として、損金経理により返品調整引当金勘定に繰り入れた金額のことである。このうち、損金として認められるのは、最近における棚卸資産の特約に基づく買戻しの実績を基礎として法人税法施行令第101条に従って計算された額である。
(10)準備金
準備金は、将来における多額の支出または損失の準備として準備金勘定に積み立てる金額のことである。当該年度の収益と対応しない点において、引当金と異なる。そのため、本来は当該年度の必要経費や損金に算入することができないのであるが、租税特別措置法は準備金勘定の設定を多く認め、一定の限度内において必要経費(所得税の場合)や損金(法人税の場合)に算入することを認める。このことは、費用収益対応の原則に対する例外をなしている。なお、準備金を必要経費や損金に算入するには、青色申告によることが必要とされており、確定申告書への記載および明細書の添付、法人の場合にはさらに損金経理が要求されている。
(11)交際費等
法人税法において、交際費等ほど議論が多く、制度の変遷を重ねた部分もない。
交際費等は、交際費、接待費、機密費などの費用のことで、得意先や仕入先など事業に関係のある者に対する接待、供応、慰安、贈答などの行為のために支出するものである。これについては法人税法に規定がなく、租税特別措置法第61条の4に規定されている。本来的に上述の寄附金と同じ性質を有する部分はあるが、法人税法第37条により、寄附金から除外される。また、交際費等は、事業と直接の関連がある場合が多いという点においても寄附金と異なる。
事業との関連性次第によっては、交際費等が必要経費的な意味合いを持つため、損金に算入してもよいはずである。しかし、交際費等には事業と直接の関係性が薄いものもあり、冗費や濫費の増大につながる場合も多い。そのため、租税特別措置法第61条の4は、交際費等の損金算入について、次のように規定している。
資本金が1億円を超える法人の場合:交際費等の損金算入は、一切認められない。
資本金が1億円以下の法人の場合、資本または出資を有しない法人など:当該交際費のうち、800万円に事業年度の月数を乗じて得られた額を12で除して得られた金額、すなわち定額控除限度額以下である場合には、損金不算入額をゼロとする(同第1項第1号)一方で、定額控除限度額を超える場合の、その超える部分の金額については損金算入が認められない(同第2号)。
交際費等の範囲が問題となることは多い。判例で交際費等に該当するとされたものの例をあげておくと、得意先を旅行に招待するための費用(長野地判昭和38年4月9日行裁例集14巻4号790頁)、ドライブ・インの経営者が自己のドライブ・インに駐車した観光バスの運転手に交付する手数料(東京地判昭和50年6月24日行裁例集26巻6号831頁)、中古自動車競売開催業者が支出したオート・オークションにおける抽選会の景品購入費用(東京高判平成5年6月28日行裁例集44巻6・7号506頁)、福利厚生費の名目ではあるが特定の従業員の飲食のために支出された費用(東京高判昭和57年7月28日訟務月報29巻2号300頁)、従業員の忘年会のための費用で社会通念上は福利厚生費として認められる程度を超えているもの(東京地判昭和55年4月21日訟務月報26巻3号529頁)、などである。
(12)使途不明金
使途不明金は、支出の目的や内容、相手方などが租税行政庁にとって明らかでないものをいう。このようなものは、交際費、機密費、接待費などとして処理されることが多いが、そもそも何に使われたのかがわからない。そこで、法人税法基本通達9-7-20により、使途不明金は損金に算入しないこととされている。法人税法には規定がないのであるが、これはやむをえないことであろう。
また、使途不明金は、交際費などのみならず、賄賂や闇献金などの不正につながることが多い。このため、租税特別措置法第62条第1項により、通常の法人税額が課される上に、使途秘匿金とされたものについては、その支出の額の40%に相当する額を法人税として課すこととなっている。
(13)繰越欠損金
欠損金は、各事業年度における損金の額が益金の額を超える場合に、その超える部分の金額をいう。
或る事業年度の欠損金をその前後の事業年度の利益と通算することがある。そのうち、過去の事業年度の利益と欠損金とを通算することを欠損金の繰戻という。これに対して、将来の、すなわち、次以降の事業年度の利益と通算することを欠損金の繰越という。
法人税法第80条は、欠損金を生じた事業年度について青色確定申告を行い、かつ、過去の年度において青色確定申告を行ったことを条件として、欠損金を繰り戻し、過去の事業年度(当該事業年度開始の日より前の1年以内の事業年度)の税額を計算し直した上で、その差額の還付を求めることを認めている(但し、租税特別措置法第66条の12を参照のこと)。
他方、法人税法第57条第1項は、やはり欠損金を生じた事業年度について青色確定申告を行い、かつ、その後の事業年度についても青色確定申告を行うことを条件として、法人の各事業年度開始の日の前7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金を当該各事業年度に繰り越し、それらの事業年度の所得の金額を計算する上で損金に算入することを認めている。
なお、青色確定申告を行っていない場合、すなわち、通常の確定申告を行っている場合には、第58条により、棚卸資産や固定資産などについて風水害や火災などの災害により生じた損失に関するものに限って、繰越控除が認められる。
(14)債務免除益、受贈益、資産の純評価益
これらは、いずれも企業再建を税制上で支援するためのものである。
このうち、資産の評価換えによる評価益および評価損については、既に述べた。そして、繰越欠損金の算入の際の順序を、法人税法第59条が定めている。
同第1項は、会社更生法または金融機関等の更生手続の特例等に関する法律による更生手続開始の決定があった場合に、その法人に対して債権を有する者※から債務の免除を受けた場合、その決定があったことに伴ってその法人の役員等から金銭その他の資産の贈与を受けた場合、第25条第2項および第33条第2項による評価換えを行ったときに該当する場合に、債務免除益の金額、受贈益の金額、評価換えの額による益金から評価換えによる損金の額を控除した金額、これらの合計額に達するまでの金額を、青色欠損額金に優先して損金に算入することを認める。この場合、第59条第4項により、確定申告書に欠損金の損金算入に関する明細を記載するとともに、財務省令で定められた書類の添付が必要とされる(同第5項も参照)。
また、同第2項は、民事再生法による再生手続開始の決定その他これに準ずる事実が生じ、その法人に対して債権を有する者から債務の免除を受けた場合、その法人の役員等から金銭その他の資産の贈与を受けた場合、第25条第3項および第33条第3項による評価換えを行ったときに該当する場合に、これらの事実があった事業年度より前の各事業年度において生じた期限切れ欠損金額のうち、債務免除益の金額、受贈益の金額、評価換えによる益金の額から損金の額を控除した金額、これらの合計額に達するまでの金額を、青色欠損額金に優先して損金に算入することを認める。この場合も、第59条第4項により、確定申告書に欠損金の損金算入に関する明細を記載するとともに、財務省令で定められた書類の添付が必要とされる(同第5項を参照)。
さらに、同第3項は、解散した内国法人に残余財産がないと見込まれる場合に、その内国法人の生産中に終了する事業年度※より前の各事業年度において生じた欠損金額を「基礎として政令で定めるところにより計算した金額に相当する金額」を、損金の額に算入することを認める。この場合も、第59条第4項により、財務省令で定められた書類の添付が必要とされる(同第5項を参照)。
※第59条第1項または第2項の適用を受ける場合は除外される。
(15)特定資産譲渡等損失額
法人と特定資本関係法人との間でその法人を合併法人や分割承継法人または被元物出資法人とする特定適格合併等が行われた場合に、その特定資本関係がその法人の特定適格合併等の日が属する事業年度の開始日の5年前の日以降に生じている場合には、その法人の適用期間において生ずる特定資産譲渡等損失額(第62条の7第2項)は、損金の額に算入しない(第62条の7第1項)。
ここで、特定資本関係法人とは、第57条第3項に定められる特定資本関係を有する法人のことである。いずれか一方の法人が、他方の法人の発行済み株式または出資の総数または総額の50%を超える数または金額を、直接または間接に保有する、という関係のある法人をいう。
また、特定適格合併等とは、適格合併(第2条第12の8号)、適格分割(第2条第12の11号)または適格現物出資(第2条第12の14号)のうち、第57条第3項に規定される共同で事業を営むための適格合併等として政令に定めるものに該当しないもの、とされる(第62条の7第1項かっこ書きによる)。
損金不算入の趣旨は、グループ企業の間でグループ関係が生じる前から有していた資産等の含み損を実現させずに適格合併等が行われ、その後の一定の期間内に含み損を実現させると、これによって損失が生じ、これを控除することで租税を回避しうるため、この回避を防止することにある。
(16)欠損等法人の資産の譲渡等損失額
法人税法第57条の2第1項に規定される法人(欠損等法人)は、その適用事業年度開始の日から3年を経過する日までの期間中に生ずる特定資産の譲渡、評価換え、貸倒、除却その他の事由による損失の額を、損金に算入しない(第60条の3第1項)。欠損等法人が被合併法人となる適格合併等の適格組織再編成によって特定資産を合併法人等に移転した場合には、合併法人等が欠損法人等とみなされる(同第2項)。
(17)契約者配当等
本来、法人の利益の分配は損金に算入しない。しかし、次のものについては損金に算入する。
第一に、保険会社が保険契約に基づいて保険契約者に対して分配する金額である。これは、政令で定められる範囲において損金に算入される(第60条)。保険料の割戻の性質を有するためである。
第二に、協同組合等が決算確定時に、組合員などの構成員に対してその者が事業年度中に取り扱った物の数量、価額その他協同組合等の事業を利用した分量に応じて分配する金額、および、その組合員などの構成員に対してその者が事業年度中に協同組合等の事業に従事した程度に応じて分配する金額を支出すべき旨を決議した場合に、これらの金額は損金に算入される(第60条の2)。これらの金額は、組合員などの構成員に対する売上の値引き、組合員などの構成員が行った役務に対する補償の意味合いを有するために、損金に算入されるのである。
(18)特定目的会社および投資法人の配当
特定目的会社は、資産流動化法によって設立される法人であり、各種の財産を証券化し、その流動化と有効利用を促進することを目的とする。特定目的会社の利益の大部分は社員に配当することが予定されている。そのため、特定目的会社が利益の90%超を配当した場合には、配当が損金に算入される(租税特別措置法第67条の14)。同じ趣旨は、投資法人法によって設立される投資法人についても規定される(同第67条の15)。また、特定信託に対する法人税についても、特定目的信託の利益の分配、および特定投資信託の収益の分配について同様の扱いをなす(同第68条の3の3第1項、第68条の3の4第1項)。
(19)組合等の法人組合員の損失
法人が特定組合員であり、その組合事業にかかる債務の弁済の責任限度が実質的に組合財産の価額(出資額)とされている場合などについては、法人に帰属すべき組合損失額のうち、当該法人の出資の価額を基礎として計算される調整出資金額を超える部分の金額は、損金の額に算入しない(租税特別措置法第67条の12第1項。同第41条の4の2および第68条の105の2も参照)。これは、組合等に出資することによって生じうる損失を利用した租税回避に対処するためのものである。
ここで特定組合員とは、民法上の組合の組合員、投資事業有限責任組合の組合員、商法上の匿名組合の出資組合員のうち、組合事業について相当のリスクを負う者、または自ら組合事業と同種の事業を営んでいる者以外の者のことである。
また、有限責任事業組合法による有限責任事業組合契約を締結している組合員である法人の、組合事業にかかる損失金額が調整出資金額を超える場合には、その超える部分の金額に相当するものについて、損金に算入しない(租税特別措置法第67条の13第1項)。これも、租税回避に対処するためのものである。
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(2011年3月16日掲載)
(2011年8月19日修正)
(2012年8月12日修正)
(2013年11月19日修正)