26  贈与税

 

 

 1.贈与税の類型

 贈与税は、「24 相続税その1 相続税と贈与税との関係、相続税の性質、相続税の納税義務者」において述べたように、生前贈与によって財産が移転する機会に、その財産に関連して課される租税であり、歴史的には相続税の回避を防止するために補完物として導入されたものである。このため、遺産税方式の相続税に対応する贈与者課税方式の贈与税と、遺産取得税方式の相続税に対応する受贈者課税方式の贈与税が存在する。日本の贈与税は受贈者課税方式である。

   

 2.贈与税の納税義務者

 (1)原則

 贈与税の納税義務者は、個人たる贈与者から生前贈与により財産を取得した個人である

 ※贈与者が個人であるか法人であるか、および、受贈者が個人であるか法人であるかにより、受贈者に課される税目が異なる。

 ①贈与者が個人で受贈者が個人である場合:受贈者には贈与税が課される。

 ②贈与者が法人で受贈者が個人である場合:受贈者には所得税が課される。

 ③贈与者が個人で受贈者が法人である場合:受贈者には法人税が課される。

 ④贈与者が法人で受贈者が法人である場合:受贈者には法人税が課される。

 相続税法第1条の4は、納税義務者を無制限納税義務者と制限納税義務者とに大別する。これは、主に受贈者の住所等による区別であるが、贈与者の住所等によっても区別されるため、やや煩雑なものとなっている。

 (2)無制限納税義務者

 相続税法第2条の2第1項は、贈与により取得した全ての財産(国内にあるか国外にあるかを問わない)について納税義務を負う者無制限納税義務者と位置づける。これに該当するのは、同第1条の4第1項第1号または第2号に定められる者である。

 第1の類型は、受贈者が財産を取得した時に日本国内に住所を有し(国籍は無関係)、かつ、一時居住者でない場合である(同第1条の4第1項第1号イ)。この場合、贈与者の住所が日本国内にあるか否かを問わない。この類型が大原則である。

 ※一時居住者とは、当該贈与の時において在留資格を有する者で、当該贈与前15年以内において日本国内に住所を有してきた期間の合計が10年以下であるものをいう(同第3項第1号)。

 第2の類型は、受贈者が一時居住者であり、かつ、贈与者が一時居住贈与者でも非居住贈与者※※でもない場合である。

 ※一時居住贈与者とは、贈与者のうち、当該贈与の時において在留資格を有し、かつ、日本国内に住所を有していた者で、当該贈与前15年以内においてこの法律の施行地に住所を有していた期間の合計が10年以下であるものをいう。(同第2号)。

 ※※非居住贈与者とは、贈与者のうち、当該贈与の時において日本国内に住所を有していなかった者であって、(a)当該贈与前10年以内のいずれかの時においてこの法律の施行地に住所を有していたことがあり、当該贈与前15年以内においてこの法律の施行地に住所を有していた期間の合計が10年以下であり、かつ、当該期間中に日本国籍を有していなかったもの、または(b)当該贈与前10年以内のいずれの時においても日本国内に住所を有していたことがないものをいう(同第3号)。

 第三の類型は、受贈者は日本国籍を有するが財産取得時に日本国内に住所を有せず、かつ、当該贈与前10年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していたことがある場合である〔同第2号イ(1)〕。この場合には、贈与者の住所が日本国内にあるか否かを問わない。

 第四の類型は、受贈者は日本国籍を有するが財産取得時に日本国内に住所を有せず、かつ、当該贈与前10年以内のいずれかの時においても日本国内に住所を有していたことがない場合である〔同イ(2)〕。この場合には、贈与者は一時居住贈与者でも非居住贈与者でもない者である。

 第五の類型は、受贈者が日本国籍を有しない個人であり、かつ、贈与者が一時居住贈与者でも非居住贈与者でもない者である場合である(同ロ)。

 (3)制限納税義務者

 相続税法第2条の2第2項は、贈与により取得した財産で日本国内にあるものについて納税義務を負う者制限納税義務者と位置づける。これに該当するのは、同第1条の4第1項第3号または第4号に定められる者である。従って、制限納税義務者が取得した日本国外所在の財産については贈与税が課されないこととなる。

 第一の類型は、受贈者が財産取得時に日本国内に住所を有する者であり、かつ、同第1号に掲げる者でない者である場合である(同第3号)。従って、受贈者が一時居住者であり、かつ、贈与者が一時居住贈与者、非居住贈与者のいずれかである場合が該当する(同第3号)。

 第二の類型は、受贈者は日本国籍を有するが財産取得時に日本国内に住所を有しておらず、かつ、相続等の開始前10年以内に日本国内に住所を有したことがない者であり、贈与者が一時居住贈与者、非居住贈与者のいずれかである者である場合である(同第4号)。

 第三の類型は、受贈者は財産取得時に日本国内に住所を有しておらず、かつ、日本国籍を有していない者であり、贈与者が一時居住贈与者、非居住贈与者のいずれかである者である(同号)。

 以上についての図示

  (4)例外

 租税回避を防止する見地から、法人が納税義務を負う場合が定められる。これは相続税の場合と共通するので、「24 相続税その1 相続税と贈与税との関係、相続税の性質、相続税の納税義務者」を参照されたい)。

 

 3.贈与税の課税物件

 (1)贈与財産

 贈与税の課税物件を贈与財産という。これは生前贈与によって取得された財産である。範囲は広汎であり、財産権の対象となる一切の物および権利である。この点も相続税と共通する。

 (2)納税義務の成立時期

 国税通則法第15条第2項第5号により、贈与税の納税義務は「贈与による財産の取得の時」に成立するものとされる。問題は、その具体的な意味である。

 書面による贈与の場合は、契約の効力の発生した時点が「贈与による財産の取得の時」である。

 一方、書面によらない贈与については問題がある。一つの考え方として、贈与の効力が発生した時点が「贈与による財産の取得の時」であると解することが可能である。しかし、売買などと異なり、贈与は、民法第550条により、履行がなされるまでの間において自由に取り消すことができるとされていることから、履行の終了の時点が「贈与による財産の取得の時」であると解すべきであるという考え方もある。なお、贈与そのものが無効であったとしても、現に取得された財産に対する管理や支配が行われている場合には、贈与税が課されることとなる。

 また、次のような場合には、贈与が行われたと推定され、贈与税が課される場合がある。

 まず、財産の名義変更である。例えば、子の結婚を機会にして、親が所有する土地を子の名義に変える場合である。

 次に、本人以外の名義による財産の取得である。例えば、夫が株式を購入したが、妻の名義とする場合である。

 (3)みなし贈与財産

 相続税についてみなし相続財産が存在するように、贈与税についてもみなし贈与財産が存在する。これは、法律上は生前贈与によって取得された財産ではないが、実質的には生前贈与によって取得されたのと同じであるとして、贈与により取得されたものとみなされる財産や権利である。

 ①保険金

 生命保険または損害保険の契約による保険金のうち、保険金受取人以外の者が負担した保険料に対応する部分である(相続税法第5条)。

  ②定期金に関する権利           

 生命保険契約を除く定期金給付契約(郵便年金契約など)で、定期金受取人以外の者が掛金の全部または一部を負担していた場合に、その定期金受取人以外の者が負担した掛金に対応する部分である(同第6条)。

  ③著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた者

 相続税と同じく、同第7条の適用がある。すなわち、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた者は、当該財産の譲渡があった時点においてその対価と財産の時価との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなされる。但し、譲渡を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者からその債務の弁済に充てるために財産の譲渡がなされた時には、贈与を受けたものとみなされない。

 ④債務免除等による利益

 相続税と同じく、同第8条の適用がある。すなわち、著しく低い価額(無償も含まれる)により債務の免除、引受けまたは第三者のためにする債務の弁済による利益を受けた者は、免除、引受けまたは弁済の時点において、その債務の免除、引受けまたは弁済に係る債務の金額に相当する金額(対価の支払いがあった場合にはその価額を控除した金額)を贈与により取得したものとみなされる。但し、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合にその債務の全部または一部の免除を受けたときは、贈与を受けたものとみなされない。また、同じ場合で債務者の扶養義務者によって 当該債務の全部又は一部の引受け又は弁済がなされたときも、贈与を受けたものとみなされない。

 ⑤その他の利益

  相続税と同じく、同第9条の適用がある(低額譲受または無償譲受に関するものである)。

 ⑥信託受益権

 相続税と同じく、同第9条の2〜第9条の6の適用がある。但し、同第21条の4を参照されたい。

 (4)非課税財産

 非課税財産は、相続税法第21条の3第1項または租税特別措置法に定められる財産や権利である。次のものがある。

 ①法人からの贈与によって取得した財産(同第21条の3第1項第1号)

 既に述べた通り、贈与税は相続税の補完税であり、個人からの贈与による財産のみが課税の対象となる。そのために、法人からの贈与によって取得した財産については贈与税が非課税となる。但し、あくまでも贈与税について非課税として扱われるのであって、所得税が課されることとなる点には、注意を要する。

 また、人格のない社団または財団で代表者または管理者の定めのあるものからの贈与によって取得した財産についても、贈与税は課されない(相続税基本通達213-2

 ②扶養義務者相互間において生活費または教育費に充てるためになされた贈与により取得した財産のうち、通常必要と認められる範囲のもの(相続税法第21条の3第1項第2号)。

 ここにいう「通常必要と認められる範囲」については、相続税法に明確な基準が示されておらず、相続税基本通達が定めるところに拠っている。参考までに引用しておく。

(「生活費」の意義)

213-3 法第21条の31項第2号に規定する「生活費」とは、その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費を除く。)をいい、治療費、養育費その他これらに準ずるもの(保険金又は損害賠償金により補てんされる部分の金額を除く。)を含むものとして取り扱うものとする。

(「教育費」の意義)

213-4 法第21条の31項第2号に規定する「教育費」とは、被扶養者の教育上通常必要と認められる学資、教材費、文具費等をいい、義務教育費に限らないのであるから留意する。

(生活費及び教育費の取扱い)

213-5 法第21条の31項の規定により生活費又は教育費に充てるためのものとして贈与税の課税価格に算入しない財産は、生活費又は教育費として必要な都度直接これらの用に充てるために贈与によって取得した財産をいうものとする。したがって、生活費又は教育費の名義で取得した財産を預貯金した場合又は株式の買入代金若しくは家屋の買入代金に充当したような場合における当該預貯金又は買入代金等の金額は、通常必要と認められるもの以外のものとして取り扱うものとする。

(生活費等で通常必要と認められるもの)

213-6 法第21条の31項第2号に規定する「通常必要と認められるもの」は、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産をいうものとする。

(生活費等に充てるために財産の名義変更があった場合)

213-7 財産の果実だけを生活費又は教育費に充てるために財産の名義変更があったような場合には、その名義変更の時にその利益を受ける者が当該財産を贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。

 ③宗教、学術その他公益を目的として行う事業の用に供することが確実なもの(相続税法第21条の3第1項第3号)

 ここにいう「事業」の範囲は、相続税法施行令第4条の5・第2条に規定される。なお、相続税法第12条第2項が準用される。

 ④所得税法第78条第3項に規定される特定公信託から交付される金品で、学術に関する顕著な貢献に対する表彰としてのもの、もしくは研究を奨励するものとして財務大臣が指定するもの、または学資の支給のもの(相続税法第21条の3第1項第4号)。

 ⑤地方公共団体の条例により、精神または身体に障害がある者について実施する共済制度により支給される給付金を受ける権利(同第5号)。

 ⑥公職選挙法の適用を受ける選挙において公職の候補者が選挙運動に関して贈与を受けた金銭や物品など(同第6号)。

 但し、公職選挙法第189条に定められた報告がなされることを前提とする。

 ⑦特定障害者(同第19条の4第2項にいう特別障害者)については、贈与税が課税されない場合がある(同第21条の4)。

 ①~⑦までは相続税法に規定されているが、以下は租税特別措置法に規定されるものである。

 直系尊属から住宅取得等の資金の贈与を受けた者(直系卑属)に関する特例

 2015(平成27)年1月1日から2021(平成33)年1231までの期間中に、直系尊属から住宅取得等資金を取得した特定受贈者については、次の場合に、住宅資金非課税限度額の範囲まで、住宅取得等資金を贈与税の課税価格に算入しない(租税特別措置法第70条の2第1項)。

 ・贈与を受けた年の翌年3月15日までに、住宅取得等資金の全額を住宅用家屋の新築等(土地または土地の上に存する権利の取得も含む)に充て、かつ、同日までにその家屋に居住した、または同日後に遅滞なく居住することが確実であると見込まれる場合。

  ・贈与を受けた年の翌年3月15日までに、住宅取得等資金の全額を既存住宅用家屋(耐震基準や経過年数基準を満たす中古住宅)の取得(土地または土地の上に存する権利の取得も含む)に充て、かつ、同日までにその家屋に居住した、または同日後に遅滞なく居住することが確実であると見込まれる場合。

  ・贈与を受けた年の翌年3月15日までに、住宅取得等資金の全額を特定受贈者が居住する家屋の増改築等に充て、かつ、同日までにその家屋に居住した、または同日後に遅滞なく居住することが確実であると見込まれる場合。

 前出の特定受贈者とは、直系尊属から住宅取得等資金を贈与により取得した直系卑属であって、無制限納税義務者であり、住宅取得等資金の贈与を受けた日の属する年の1月1日において満20歳以上であり、かつ、住宅取得等資金の贈与を受けた日の属する年の年分の合計所得金額(所得税法第2条第1項第30号を参照)が2000万円以下であるものである(租税特別措置法第70条の2第2項第1号)。

 住宅資金非課税限度額は、「特定受贈者が住宅取得等資金を充てて新築、取得又は増改築等(以下この号及び次号において「新築等という。)をした住宅用の家屋(同号に規定する住宅用の家屋(平成31年3月31日までに新築等に係る契約を締結したものを除く。)を除く。)の次に掲げる場合の区分に応じ、当該特定受贈者ごとにそれぞれ次に定める金額(次に掲げる場合のいずれにも該当する場合には、当該特定受贈者ごとにそれぞれ次に定める金額のうちいずれか多い金額)をいう」と定義されるものであり(同第6号)、「エネルギーの使用の合理化に著しく資する住宅用の家屋、地震に対する安全性に係る基準に適合する住宅用の家屋又は高齢者等(第41条の3の2の第1項に規定する高齢者等をいう。)が自立した日常生活を営むのに必要な構造及び設備の基準に適合する住宅用の家屋として政令で定める」家屋(同第70条の2第2項第6号イ)、それ以外の家屋(同ロ)に分けて定められている※※

 (住宅資金非課税限度額の図

 ※消費税・地方消費税の合計税率が8%である場合に適用される。合計税率が10%に引き上げられた段階において特別住宅資金非課税限度額(同第7号)が適用されることとなっているが、消費税・地方消費税の税率引き上げが行われるか否かが不透明であるため、この講義ノートにおいては省略する。

 ※※小池正明「知っておきたい相続税の常識」〔第18版〕(2017年、税務経理協会)179頁。

   ⑨直系卑属から教育資金の一括贈与を受けた者(直系卑属)に関する特例

 2013(平成25)1月1日から2019(平成31)年1231日までの期間において、次の場合に該当するときには、信託受益権、金銭または金銭等の価額のうち1500万円までの金額を、贈与税の課税価格に算入しない(租税特別措置法第70条の2の2第1項)。

 ・直系尊属と信託会社との間で締結された教育資金管理契約に基づき、直系卑属たる受贈者が信託受益権を取得した場合。

 ・直系尊属から書面による贈与により取得した金銭を、受贈者が銀行などの金融機関に預貯金として預け入れた場合。

 ・受贈者が、教育資金管理契約に基づき、直系尊属からの書面による贈与により取得した金銭等で有価証券を購入した場合。

 いずれの場合についても、受贈者は、直系尊属と信託会社との間で教育資金管理契約を締結した日において満30歳未満でなければ、特例の適用対象者とならない(同項)。また、受贈者は、教育資金非課税申告書を取扱金融機関の営業所等を経由して所轄税務署長に提出しなければ、適用を受けられない(同第3項)。さらに、受贈者は、教育資金の支払いに充てた金銭に係る領収書等の書類を、一定の期日前に金融機関の営業所等に提出または提供しなければならない(同第7項。取扱金融機関の営業所等の義務については同第8項を参照)。

 適用の対象となる教育資金は、学校教育法第1条に規定される学校(幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学および高等専門学校)、同第124条に規定される専修学校、同第134条第1項に規定される各種学校などに直接支払われる入学金、授業料など(租税特別措置法第70条の2の2第2項第1号イ)、および「学校等以外の者に、教育に関する役務の提供の対価として直接支払われる金銭その他の教育を受けるために直接支払われる金銭で政令で定めるもの」(同ロ)である。

 前出の教育資金管理契約の内容は、租税特別措置法第70条の2の2第2項第2号により、受贈者の教育に必要な資金を管理することを目的とする契約であって、かつ、次に掲げるものでなければならない。

 ・受贈者の直系尊属と信託会社との間で締結された信託契約(主たる目的は教育資金の管理で、信託の利益の全てが受贈者のものになること)。

 ・受贈者と銀行等との間で締結された、普通預金・通常貯金などに係る契約(受贈者が教育資金の支払いに充てるために預貯金を引き出した場合には、領収書等の書類を銀行等に提出または提供しなければならない)。

 ・受贈者と金融商品取引業者との間で締結された、有価証券の保管の委託に係る契約(受贈者が教育資金の支払いに充てるために有価証券の譲渡や償還などをして金銭の交付を受けた場合には、領収書等の書類を銀行等に提出または提供しなければならない)。

 なお、教育資金管理契約は、受贈者が満30歳に達した日、受贈者が死亡した日、一定の場合に契約が終了する日(教育信託財産の価額、預貯金の額、有価証券の価額のいずれかが0円になった日に契約が終了する旨の合意がなされていた場合)、のいずれか早い日に終了する(同第10項)。

 ⑩直系卑属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた者(直系卑属)に関する特例

 2015(平成27)年4月1日から2019(平成31)年3月31日までの期間中において、次の場合に該当するときは、信託受益権、金銭または金銭等の価額のうち1000万円までの金額を、贈与税の課税価格に算入しない(租税特別措置法第70条の2の第1項)。

 直系尊属と信託会社との間で締結された結婚・子育て資金管理契約に基づき、直系卑属たる受贈者が信託受益権を取得した場合。

 ・直系尊属から書面による贈与により取得した金銭を、受贈者が銀行などの金融機関に預貯金として預け入れた場合。

 ・受贈者が、結婚・子育て資金管理契約に基づき、直系尊属からの書面による贈与により取得した金銭等で有価証券を購入した場合。

 いずれの場合においても、受贈者は、直系尊属と信託会社との間で結婚・子育て資金管理契約を締結した日において満20歳以上満50歳未満でなければ、特例の適用対象者とならない(同項)。また、受贈者は結婚・子育て資金非課税申告書を取扱金融機関の営業所等を経由して所轄税務署長に提出しなければ、適用を受けられない(同第3項)。さらに、受贈者は、結婚・子育て資金の支払いに充てた金銭に係る領収書等の書類を、一定の期日前に金融機関の営業所等に提出または提供しなければならない(同第7項。取扱金融機関の営業所等の義務については同第8項を参照)。

 適用の対象となる結婚・子育て資金は、受贈者の結婚に際して支出する費用(同第2項第1号イ)、および受贈者(その配偶者も含む)の妊娠、出産または育児に要する費用(同ロ)である。

 前出の結婚・子育て資金管理契約の内容は、同第2項第3号により、受贈者の教育に必要な資金を管理することを目的とする契約であって、かつ、次に掲げるものでなければならない。

 ・直系尊属と信託会社との間で締結された信託契約(主たる目的は結婚・子育て資金の管理で、信託の利益の全てが受贈者のものになること)。

 ・受贈者と銀行等との間で締結された、普通預金・通常貯金などに係る契約(受贈者が結婚・子育て資金の支払いに充てるために預貯金を引き出した場合には、領収書等の書類を銀行等に提出または提供しなければならない)。

 ・受贈者と金融商品取引業者との間で締結された、有価証券の保管の委託に係る契約(受贈者が結婚・子育ての支払いに充てるために有価証券の譲渡や償還などをして金銭の交付を受けた場合には、領収書等の書類を銀行等に提出または提供しなければならない)。

 なお、結婚・子育て資金管理契約は、受贈者が満50歳に達した日、受贈者が死亡した日、一定の場合に契約が終了する日(教育信託財産の価額、預貯金の額、有価証券の価額のいずれかが0円になった日に契約が終了する旨の合意がなされていた場合)のいずれか早い日に終了する(同第11項)。また、結婚・子育て資金管理契約の終了日前に贈与者が死亡した場合には、残額を受贈者が相続・遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象とされる(同第10項第2号)

 ※これに対し、教育資金管理契約の終了日前に贈与者が死亡した場合には、残額について相続税は課されない。租税特別措置法第70条の2の2には、同第70条の2の3第10項のような規定がないためである。

 

 4.贈与税の課税標準および税額の計算

 相続税法第21条の2は、贈与税の課税標準を贈与税の課税価格と表現する。課税価格は、その年の1月1日から1231日までの間に、贈与により取得した財産の価額の合計額である(但し、相続または遺贈により財産を取得した者が相続開始前3年以内に贈与により取得した財産の価額のうち、相続税法第19条により相続税の課税価格に加算されるものを除く。同条)。

 なお、負担付贈与については、「負担付贈与に係る贈与財産の価額は、負担がないものとした場合における当該贈与財産の価額から当該負担額を控除した価額によるものとする」ものとされる(相続税基本通達212-4

 まず、原則的な場合について述べると、課税価格から基礎控除を差し引く。相続税法第21条の5は基礎控除の額を60万円とするが、租税特別措置法第70条の2の4は、2001(平成13)年1月1日以後になされた贈与によって財産を取得した者について、基礎控除の額を110万円とする。

 次に、婚姻期間が20年以上の配偶者から、居住用不動産またはその取得費の贈与を受けた者については、翌年の3月15日まで居住し、さらに引き続いて居住するなど、一定の条件の下に配偶者控除として最大で2000万円を差し引く(第21条の6)。続いて、こうして得られた残額について、第21条の7に規定される税率表を適用し、贈与税額を算出する。やはり超過累進税率である。そして、在外資産について外国政府によって贈与税が課された場合には、その贈与税額を控除する(第21条の8)。

 そして、税率の適用、すなわち税額の計算である。概略を述べておくと、まず、課税価格から基礎控除額を差し引き、基礎控除後の課税価格を得る。次に、基礎控除後の課税価格に税率を乗じて贈与税額を得る。そして、税額控除の適用である。

 贈与税の税率は、次に示すように2種類がある。①が一般税率であり、②が軽減税率である。

 ①一般税率(相続税法第21条の7)

基礎控除後の課税価格

税率 速算法(基礎控除後の課税価格をXとする)
200万円以下の金額 10

0.1X(円)

200万円を超え300万円以下の金額

15

0.15X-100,000(円)
300万円を超え400万円以下の金額 20 0.2X-250,000(円)

400万円を超え600万円以下の金額

30

0.3X-650,000(円)

600万円を超え1000万円以下の金額

40

0.4X-1,250,000(円)

1000万円を超え1500万円以下の金額

45

0.45X-1,750,000(円)

1500万円を超え3000万円以下の金額 50

0.5X-2,500,000(円)

3000万円を超える金額 55

0.55X-4,000,000(円)

 軽減税率:2015(平成27)年1月1日以後に、満20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合に適用される税率(租税特別措置法第70条の2の5)

基礎控除後の課税価格

税率 速算法(基礎控除後の課税価格をXとする)
200万円以下の金額 10

0.1X(円)

200万円を超え400万円以下の金額

15

0.15X-100,000(円)
400万円を超え600万円以下の金額 20 0.2X-300,000(円)

600万円を超え1000万円以下の金額

30

0.3X-900,000(円)

1000万円を超え1500万円以下の金額

40

0.4X-1,900,000(円)

1500万円を超え3000万円以下の金額

45

0.45X-2,650,000(円)

3000万円を超え4500万円以下の金額 50

0.5X-4,150,000(円)

4500万円を超える金額 55

0.55X-6,400,000(円)

 ③贈与税の納税義務者が、同じ年に直系尊属、直系尊属以外の者の双方から贈与により財産を取得した場合(例、同じ年に父から贈与を受けるとともに姉から贈与を受けた場合)の計算方法(租税特別措置法第70条の2の5第3項)

 まず、直系尊属からの贈与により取得した財産の価額を特例贈与財産価額とし、直系尊属以外の者からの贈与により取得した財産の価額を一般贈与財産価額とする。

 次に、Aとして次の計算を行う。

 A=(基礎控除後の課税価格)×(軽減税率)× 〔(特例贈与財産価額)÷(課税価格)〕

 続いて、Bとして次の計算を行う。

 B=(基礎控除後の課税価格)×(一般税率)× 〔(一般贈与財産価額)÷(課税価格)〕

 そして、AとBとを合計することにより、贈与税額が算出される。

 

 5.相続時精算課税制度

 (1)制度の概要

 相続税法16条と第21条の7(租税特別措置法第70の2の5でもよい)とを比較すれば明らかであるが、贈与税の負担は相続税の負担より重い。このため、生前贈与は極端に不利なものとなり、親から子などへの資産の移転に障害をもたらすと考えられた。このことは、資産移転の時期の選択において中立性に欠けるという点において問題視される。また、高齢化の進展により、相続による次世代への資産の移転(承継)の時期が大幅に遅れるようになった。さらに、高齢者が保有する資産を有効に活用することで経済の活性化につなげられるという期待もあった※。そのため、相続時清算課税制度2003(平成15)年度改正により創設された。

 ※金子宏『租税法』〔第二十二版〕(2017年、弘文堂)638頁、安島和夫『相続税 理論と計算』〔八訂版〕(2016年、税務経理協会)96頁。

 相続時精算課税制度は相続税法21条の9以下に規定されるものであり、生前贈与を受けた者の選択により、特別に低く設定された税率による贈与税を納めておき、その後に生じる相続の時点において、その贈与財産と相続財産との合計の価額を土台とした相続税額から、既に納めた贈与税を控除する、という制度である。すなわち、贈与税の負担を軽くした上で、相続時に相続税と贈与税とをまとめて納めるということになる。換言すれば、贈与税の(分割)後払いというという性格が強い。

 (2)相続時精算課税の適用の要件と手続

 この制度を選択できるのは、贈与者(以下、特定贈与者)、受贈者(以下、相続時精算課税適用者)のそれぞれについて、次の要件を満たすものである。

 特定贈与者:贈与が行われた年の1月1日において満60歳以上の者(相続税法第21条の9第1項、租税特別措置法第70条の2の6第1項)。

 相続時精算課税適用者:特定贈与者の推定相続人たる直系卑属(代襲相続人も含まれる)であり、かつ、贈与により財産を取得した年の1月1日において満20歳以上の者(相続税法第21条の9第1項)。但し、贈与が行われた年の途中において養子になった者については、養子縁組により推定相続人となった後の贈与についてのみ、相続時精算課税適用者となる(同第4項)。

 相続時精算課税適用者の特例:2015(平成27)年1月1日以後は、満20歳以上である孫も相続時精算課税適用者となりうる(租税特別措置法第70条の2の6第1項)。但し、孫は代襲相続人でない限り、本来は推定相続人ではないため、後に相続税の20%加算が行われることとなる(相続税法第18条。相続時精算課税適用者となったら相続人として扱われることとなるためである)。

 相続時精算課税制度の適用を選択するためには、最初の贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間(すなわち、同第28条第1項に定められる贈与税の納付期限以内)に、贈与により取得した財産について同制度の適用を受ける旨などの事項を記載した届出書を、納税地の所轄税務署長に提出することが必要である(同第21条の9第2項)。

 ここで注意しなければならないことがある。相続時精算課税制度の適用の選択は、特定贈与者ごとに行うことができるが、適用を受けた場合には、特定贈与者からの贈与により取得した財産について、相続時まで継続して適用を受けることになる(同第3項)。届出書の撤回をすることはできないので(同第6項)、例えば父を特定贈与者とした相続精算課税適用者は、途中で適用を受けることをやめるということはできない。また、届出書に係る贈与財産については、相続時精算課税適用者が特定贈与者の推定相続人でなくなった場合であっても、相続時精算課税制度の適用を受ける(同第5項)。なお、贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はない。

 相続時精算課税制度の適用を選択した場合には、特定贈与者からの贈与とその他の贈与とを区別しなければならない。そして、特定贈与者ごとに、その年の間に贈与によって取得した財産の価額を出し、その合計額を課税価額とする(同第21条の10。この際に注意しなければならないのは、たとえその年に特定贈与者から贈与を受けた財産の合計額が贈与税の基礎控除の額より低かったとしても、贈与税の申告が必要となることである。

 (3)相続時精算課税制度の適用を受ける場合の贈与税額

 相続時精算課税者については、相続税法第21条の5ないし第21条の7は適用されない(同第21条の11)。そのため、同第21条の5に規定される基礎控除などの適用はない。代わりに、次のように算定する。

 まず、特定贈与者ごとに、その年の間に贈与により取得した財産の価額を算出し、その合計額を課税価格とする(同第21条の10)。

 次に、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格から、非課税枠の2500万円または特定贈与者ごとの贈与税の課税価格のいずれか低い金額を控除する(同第21条の12)。こうして得られた残額に、一律20%の税率を乗じる(同第21条の13)。この計算によって得られた額が納税額となる

 例えば、大東文化大学法学部法律学科の学生Aが、2017年某月某日、3500万円という評価額の財産を祖父から贈与されたとする。ここでAが相続時精算課税の適用を選択すれば、

 (35,000,000-25,000,000)×0.2=10,000,000×0.2=2,000,000

 200万円が贈与税額となる。

 他方、Aが、2017年某月某日、1000万円という評価額の財産を母から贈与されたとする。これについてはAが相続時精算課税の適用を選択しなかったのであれば、

 (10,000,000-1,100,000)×0.3-900,000=8,900,000×0.3-900,000=1,770,000

 贈与税額は177万円となる。

 贈与税の申告に際しては、相続時精算課税の適用を受けたものとそうでないものとを合わせて行わなければならないので、Aの贈与税額は370万円となる。

 (4)住宅取得等資金の贈与に関する特例

 住宅取得等資金の贈与に関しては、贈与者が、贈与が行われた年の1月1日において満60歳未満であっても、特定贈与者として扱う。従って、受贈者は相続時精算課税制度の適用を受けることが可能である(租税特別措置法第70条の3)。これは2021(平成33)年12月31日まで適用される特例である。

 この特例を受ける場合には、前述の直系尊属から住宅取得等の資金の贈与を受けた者(直系卑属)に関する特例の非課税限度額を、相続時精算課税の控除額と併せて利用することができる(同条を参照。また、住宅資金非課税限度額の図も参照)。

 (5)相続時精算課税制度の適用を受ける場合の相続税額

 特定贈与者の死亡により相続が開始した場合には、相続時清算課税適用者は、この制度による贈与財産と相続財産とを合算し、法定相続分による遺産取得課税方式で相続税額を計算した上で、既に納付した贈与税相当額を控除する(相続税法第21条の14、同第21条の15第3項)。控除しきれない金額があれば、贈与税の還付を受けることも可能である(同第33条の2)。但し、還付を受けるためには、本来であれば相続税の申告が不要な場合であっても相続税の申告を行わなければならない。

 また、相続時精算課税の適用を受けた場合、贈与財産については債務控除の適用を受けることができるが(同第2項)、相続税についての小規模宅地特例を受けることができない。

 ここでも注意しなければならないことがある。相続時に合算する相続財産の価額は相続開始時の時価であるが、贈与財産の価額は相続開始時の時価ではなく、贈与時の時価である(同第21条の15第1項)。贈与税の(分割)後払いというという性格からすれば当然のことであるが、財産の価値の変動を念頭に置けば、既に記した点を含め、適用の選択には慎重な判断が欠かせない。とくに、贈与時の時価より相続時の時価のほうが低い場合には、適用を受けるほうが不利であるという結果になるためである。逆に、贈与時の時価より相続時の時価のほうが高い場合には、適用を受けるほうが有利であるという結果になる。しかし、これはあくまでも結果論であって、完全に贈与時において相続時の経済情勢などを予測しうる訳ではない。

 

戻る

(2011年3月16日掲載)

(2011年8月19日修正)

(2012年8月12日修正)

(2017年10月18日修正)

(2017年12月11日修正)

(2017年12月13日修正)

(2017年12月18日修正)