サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第26編

 

 前編において、別府市側の答弁書の検討を試みましたが、まだ一部分のみです。その後、様々な仕事に追われていましたが、昨日(2001年4月27日)、経済産業省のホームページに、サテライト日田問題に関する経済産業省次官の発言が掲載されていることが判明しました。そのため、今回は、まず、その内容を紹介し、検討を加えることとします。その上で、必要に応じて答弁書の検討も行います。なお、次官の発言は、いずれも、次官会議後の記者会見における質疑応答からであり、ここではその模様を、経済産業省のホームページに掲載されたとおりに再現します。

 1.平成13年2月22日(木)、記者会見室、14時15分から14時29分まで(【競輪場外車券場設置】の部分のみ)

 Q:大分県別府市と日田市とで、別府市の競輪場の場外車券場を日田市に設置するということで両市がかなり激しく対立しているようですが、昨日、日田市の方で近く経済産業省を相手取って行政訴訟を起こすと、その理由としては、いわゆる自転車競技法で地元の同意なしで設置できるというのが憲法違反ではないかというような趣旨で提訴するというふうなお話が出てますが、それについてどうお考えですか。

 A:大分県の日田市に場外車券場を設置するというお話がかねてからありまして、昨年の6月だったと思いますけれども、法令に基づいて設置許可をしたという経緯はあります。

 もちろんこれは、自転車競技法などに基づく法令行為でございまして、その中では、例えば、学校が近くにないか、医療機関の運営に支障がないかといったようなことは十分に調べながら許可をするということになっています。そういうことで、法令に照らして十分な調査の上で許可をしたことだというふうに思っています。

 他方、日田市の方でそういう動きがあるというのも承っていますけれども、これは、これからのお話だろうと思いますので、そのこと自体は私の方からコメントするのはまだ、早いかなと思っております。

 いずれにしましても、経済産業省としては法令に基づいて十分に審査の上、許可をしたということです。

 Q:先日、日田市から陳情団が来たときに、別府と日田市とのいわゆる調停案というのを経済産業省の方で今月中にも提示したいという話があるのですけれども、それについてはいかがでしょうか。

 A:調停案の話は私は存じませんけれども、しかし、この場外車券売場というものはできるだけ地元の皆様の理解を得てやることが必要なので、そういう意味では、別府市と地元日田市がよく話を詰めたら良いと思っていますけれども、それが円滑な話の軌道に乗ってないというふうに聞いておりまして、そこは残念な気持ちです。

 2.平成13年3月19日(月)、記者会見室、14時05分から14時19分まで(【日田市場外車券売場】の部分のみ)

 Q:サテライト日田問題ですが、今日、日田市は正式に大分地裁に経済産業省を相手どった、許可無効などを求める裁判を提訴されるようですが、改めて、次官として、そのことに対してコメントはいただけますでしょうか。

 A:今日、そういう訴えが起こされるというふうに聞いておりますけれども、まだ、具体的な中身については、もちろん拝見をしていないわけでございますから、そのこと自身については、コメントを差し控えるべきだろうと、こう思いますけれども、この問題については、平成8年に初めて九州通産局にお話があって、九州通産局では、地元の理解もよく得るようにというお話をし、平成10年には、地元の日田市と別府市の助役の会談を数回にわたって持たせたというようなことがありまして、地元の同意を得る努力を大いに時間をかけてやってきたわけでございます。

 そういう手続を経て、平成12年に法令に基づいて、行ったということでございまして、私どもとしては、地元の理解を得るための努力も十分にやったし、かつまた、法令に基づいて慎重な議論をし、判断をしたものだというふうに考えております。

 Q:現在、係争中だと思いますが、新橋の場外車券場についてですけれども、東京地裁、東京高裁の終審判決の中で自転車競技法そのものの中に、いわゆる個人の権利保護というような条項がないというようなことが指摘されていますけれども、今回の日田市のケースでは、今、言った個人的な権利を保護していない自転車競技法そのものが違憲ではないかというような訴えが出ていますが、そのことについてはどういうふうにお考えでしょうか。

 A:訴えの中身は、まだ、きていないわけでございますから、そのことについてコメントするのはいかがかと、こう思いますけれども、そもそも、憲法の定めるところは、公益上の問題がない限り、いろいろな仕事、ビジネスというものは自由にやるということが原則でございますから、そういう中で、公益的な観点からどこまで整備をしていくかということが問題になるわけですから、そういうところを考えながら、今の自転車競技法があるのだろうというふうに考えています。

 それと、この日田市の関係がどういう関係になるのか。これは、もちろん訴状を見ておりませんから、直接な関係があるかどうか、そこはコメントを差し控えたいと思います。

 以上が、経済産業省のホームページに掲載されている次官会見の模様です。あるいは、これより以前のものも参照できるかもしれませんが、今回は、2月22日および3月19日の分のみ紹介いたしました。

 なお、私も、日田市の訴状をまだ入手しておりませんので、検討するにも少々の難があるのですが、広報ひた号外(2001年3月15日発行)や別府市側の答弁書と照らし合わせつつ、上記会見を分析してみます。

 まず、経済産業省側は、あくまでもサテライト日田設置許可が自転車競技法に基づいて適法に行われた、という前提をとっています(これは当然のことです)。

 次に、調停案のことです。これは、第15編で紹介した、日本共産党別府市議団に対する経済産業省車両課長氏の発言〔2001年1月19日付の朝日新聞朝刊大分13版25面および西日本新聞1月19日付朝刊26面(大分)〕と関係があると思われるのですが、上記次官会見においては否定されております。また、車両課長氏の発言の性格も問題で、経済産業省車両課としての公式見解であるという保障はありません。

 そして、経済産業省は、平成10年に日田市助役と別府市助役との会談が数回にわたって行われたという事実を認めております。しかも、この会談は、当時の通商産業省がお膳立てをしたようです(少なくとも、上記会見からはそのように読めます)。広報ひた号外においても、平成10年に通商産業省および別府市と協議がなされた、と記されています。しかし、別府市答弁書では、この事実が一切登場せず、「本件設置許可がなされた平成12年6月7日まで約3年もの間、原告が通産大臣に対して『サテライト日田』設置反対に係る要望書は提出していないと認識している」とされています。広報ひた号外には、平成9年10月、日田市教育委員会が九州通商産業局(当時)に設置反対要望書を提出したという記述があります。これが事実であれば、別府市の主張の一つは崩れます。また、通商産業省が両市助役会談を行わせたというところからみて、日田市から通商産業省に対し、何らの要望もなされなかったということは、常識的には考えにくいところでしょう(文書の形によるのか口頭によるのかという点があって、立証の点で問題が残ると言えますが)。また、別府市側が設置計画を一時的に凍結しているという事実も、別府市の答弁書には登場しません。

 これまで書かなかったことですが、もう一つ、別府市側の答弁書が抱える問題を指摘しておきます。これから記すことは、答弁書には一切登場しませんが、私自身が入手した資料を基にしております(都合もあり、入手経路を記すことができません。別府市役所の公印が押されていることだけを記しておきます)。

 実は、日田市の場合、位置的に、別府競輪場よりも久留米競輪場のほうが近いのです。このことは、サテライト日田を設置する場合には久留米競輪場の商圏範囲に進出することになり、調整が必要となる、ということを意味します。通商産業省は、この点を認識しており、別府市(長)に対し、日田市、日田市議会および日田市民が設置に反対しているという事実を明確に示した上で、九州通商産業局から商圏調整が不備であるという指摘をしております。通商産業省は、おそらく、日田市から、何度か設置反対の要望(書)を受けているはずです。はからずも、日田市、日田市議会、そして何より日田市民の理解が得られていないことを、鮮やかに示しているのです。

 これに対して、別府市は「確約書」を提出しております。その中においても、日田市、日田市議会および日田市民が設置に反対しているという事実を明確に示されております。従って、答弁書に記されている「継続的に反対をしていないとの認識」は、全くの虚偽ということになります。通商産業省に要望書が提出されているかいないかという問題と、別府市が日田市の継続的な反対を認識しているかいないかという問題は、完全に別の問題です。もし、別府市がこの文書を目にしたら、どのように主張するのでしょうか。私の手許にあるものには、前述のように、別府市役所の公印が押されており、明らかに決裁か供覧の手続がなされていることが示されています。

 また、商圏調整について久留米市との合意がなされていないことも記されております。しかし、「確約書」には、さらに協議を重ねたいとしか書かれておりません。また、既に何度も記し、私が批判しているところですが、地域社会との調整は 溝江建設の責務であって別府市に責任はないという立場を表明しております。たしかに、設置許可申請者は溝江建設ですから、第一次的な調整責任は溝江建設にあります。しかし、 溝江建設は設置するだけであり、車券を販売することはできません。また、対外的に、別府競輪場の場外車券売場という位置づけですから、建物を賃借し、車券発売用の機械などをリース契約で導入して事業を行う別府市が、地域社会との調整に全く関わりを持たないという姿勢が、混乱を招いた元凶です。

 さて、ここで次官氏の発言に戻ります。憲法の問題が登場しますので、この点について記しておきます。

 経済産業省は、公益、憲法にいう「公共の福祉」に反しない限り、経済的自由権は自由に行使されうるものである、という前提を採用しています。たしかに、一般的にはその通りです。しかし、公営競技は、たとえ賭博性を強く有するものであるとしても、法律上、公益のために行われるという前提に立っております。そのためもあるのか、次官氏の発言には、意味不明なところもあります。しかも、競馬法と異なり、自転車競技法においては場外車券売場設置許可申請者について限定的な規定を設けていないとはいえ、許可制をとっているのです。その意味からしても、一般的な株式会社などについて準則主義をとる商法などとは違うと言わざるをえません。その意味において、次官氏の発言は的外れな部分もある、と評することができるでしょう。

 この質疑応答においては、経済産業省のホームページを読む限り、次官に対する質問も少々要領をえないので、自転車競技法の何が問題とされているのか、これだけでは不明確ですが、おそらく、近隣住民の生活権というべきものをあげたいのでしょう。サテライト新橋の判決は、近隣住民に対して原告適格を認めていません。しかし、経済的自由権を無制約に認めることにも問題が残ります。また、公益を理由として、条例によって財産権など経済的自由権を制約することは、奈良県ため池条例判決(最大判昭和38年6月26日刑集17巻5号521頁)においても、一般論として認められております。次官氏の発言には、地域住民の権利・利益という観点、おそらくは、経済的自由権よりもデリケートな精神的自由権などが、忘れられているようなところがある、と考えるのは、私だけでしょうか。

 さらに、次官氏の発言には、或る意味では当然のことですが、地方分権という観点が全く見られません。しかし、地域の活性化のためには、真の地方分権を欠かすことはできません。この点は、大きな課題です。私は、読売新聞2月24日付の読売新聞朝刊36面(大分地域ニュース)に掲載されたサテライト日田問題について(訴訟提起の議案可決を受けて)」(第22編にも掲載されています)において、サテライト日田「問題は、条例制定権の限界、まちづくりの進め方、住民意思の反映の仕方、市町村関係の在り方など、地方自治における重要な諸課題が凝縮されたものである。また、地元住民の意見を十分に反映させる仕組みを予定していない自転車競技法の問題点を、改めて浮き彫りにしたものと言える」と記しました。単純に、設置者が有する経済的自由権を優先させればよいというものではないのです。

 

 付記:4月18日に発売された月刊地方自治職員研修5月号には、私の論文「サテライト日田をめぐる自治体間対立と条例―日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例」が掲載されております。これまでに記してきた「サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題」を基にしていますが、御一読いただければ幸いです。この論文については、同誌6月号発売日以降に、このシリーズとは別に掲載する予定です。

 

(2001年4月28日)

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