11    所得税法における所得の分類

 

 所得税法は、所得を10種類に分類する。これは、所得の性質、発生の形態によって担税力が異なるという前提に由来するものであり、公平課税・公平負担を図るためである。従って、所得の種類に応じて計算方法や課税方法が異なっている。勿論、現実には、所得の種別の定め方それ自体を含め、様々な問題点が存在するが、さしあたり、その点をおいて概説を試みる。

 十種類の所得は、一時所得および雑所得を除くと、資産性所得、資産勤労結合所得、勤労所得に大別される。

 資産性所得に該当するものは、利子所得、配当所得、不動産所得、山林所得、譲渡所得であり、これらは、資産の運用などから生じることに共通点がみられる。担税力が最も高いと考えられるため、資産性所得に対しては所得税を重く課するのが基本的な考え方である。しかし、実際には、様々な租税特別措置によって優遇されているため、むしろ軽く課するという結果になりやすい。

 資産勤労結合所得は、事業者自らの労働による所得と資産の運用による所得とが融合するものであり、事業所得が該当する。山林所得は、資産勤労結合所得に含めて考えることも可能である。担税力は、資産性所得より小さいが勤労所得より大きいとされる。この類型の所得についても、様々な租税特別措置によって優遇されているため、むしろ軽く課するという結果になりやすい。

 ※三木義一編著『よくわかる税法入門』〔第7版〕(2013年、有斐閣)108頁[伊川正樹担当]は山林所得を資産勤労結合所得(資産プラス勤労所得)に含める。一方、金子宏『租税法』〔第十八版〕(2013年、弘文堂)195頁は山林所得を資産性所得に含める。北野弘久編『現代税法講義』〔五訂版〕(2009年、法律文化社)153頁[伊藤悟、中村芳昭担当]も同様である。

 勤労所得に該当するものは給与所得および退職所得である。上記では雑所得を除外しているが、雑所得の中には勤労所得と考えられるものも存在する。担税力が最も低いものであるが、把握率が資産性所得および資産勤労結合所得よりも高く、租税特別措置で優遇されることが少ないため、実質的には最も重く課されやすい

 ※このことは、最適課税論および二元的所得税の思想・思考によるならば、むしろ望ましいのであろう。

 また、以上とは別に、所得概念との関係もあって、回帰性所得と非回帰性所得との区別も可能である。回帰性所得は、継続的に発生することとされる所得であり、給与所得や事業所得が該当する。これに対し、非回帰性所得は、継続的に発生するものと考えられていない所得であり、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得などが該当する。

  ここで、所得税法に定められる各所得について概説する。

 (1)利子所得(第23条)

 ここにいう利子は、一般的に用いられる言葉としての利子とは意味が異なり、公社債(公債および社債。第2条第1項第9号)および預貯金(同第10号)の利子、合同運用信託(同第11号)、公社債投資信託(同第15 号)および公募公社債等運用投資信託(同第15号の3)の収益の分配を指す。従って、利子所得は、これらの利子または収益の分配により得られる所得のことである。消費貸借契約による貸し付けの結果としての利子は、利子所得に含まれず、事業によって貸付が行われるなら事業所得、そうでない場合は雑所得となる。

 このうち、預貯金の利子は、消費寄託契約(民法第666条)に基づいて受け入れられた資金に対して支払われるという性質を有する。これに対し、公社債の利子、合同運用信託、公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託の収益の分配は、法的には預貯金の利子と性質が異なる。しかし、実質的には公社債などへの投資も貯蓄の一形態である。また、合同運用信託、公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託の収益の分配も定期的に、定率で、多数の者に同一の条件で支払われるから、預貯金の利子と同一視される

 ※・前掲書196頁、北野編・前掲書51頁[三木、奥谷]。また、東京高判昭和3912月9日行集15122307頁も参照

 ※※金子・前掲書196頁。

 但し、社債については議論がある。社債の発行は、株式の発行と同様に会社の資金調達の方法である。また、社債は投資の対象でもあり、社債の取得の際に、株式の引受けと同様に、銀行等から資金を借り受けることが少なくない。また、株式の種類によっては議決権制限株式のように社債に近い性質を有するものがあるとともに、社債の種類によっては新株予約権付社債のように株式に近い性質のものもある。無担保のワラント債(新株引受権付社債)の利子が利子所得に該当するのか、それとも配当所得または雑所得に該当するのかが争われた事案について、横浜地判平成2年3月19日税資1751228頁、およびその控訴審の東京高判平成2年8月8日税資180451頁は利子所得に該当すると判示した

 ※この点につき、拙稿「利子所得」中村芳昭=三木義一編『演習ノート租税法』〔第3版〕(2013年、法学書院)52頁も参照。

 以上より、利子所得は、法的性格の異なる金融商品の利子または収益の分配をひとまとめにした概念であり、所得税法第23条第1項は上記の五種類を排他的に列挙したものであると言える

 ※水野忠恒『租税法』〔第5版〕(2011年、有斐閣)165頁。

 利子所得の場合には、収入金額がそのまま所得金額となる。必要経費などは認められていない。このことが憲法第14条第1項および第29条に違反するかしないかが問題となりうるのであるが、東京高判平成2年8月8日税資180451頁、およびその上告審である最判平成3年4月11日税資18366頁は、合憲の判断を示し、結局は立法裁量の問題とした

 ※拙稿・中村=三木編前掲書53頁も参照。

 なお、一定の手続をとること、または一定の要件を充足することを条件として非課税とされているものがある。障害者等の少額預金などの利子(所得税法第10条、租税特別措置法第3条の4)、障害者等の少額国債の利子(租税特別措置法第4条)、勤労者財産形成住宅貯蓄の利子所得等(同第4条の2)、勤労者財産形成年金貯蓄の利子(同第4条の3)、勤労者財産形成貯蓄契約に基づく生命保険等の差益等(同第4条の4)、特定寄託信託の利子所得(同第4条の5)、納税準備預金の利子の非課税(同第5条)、非居住者や外国法人が支払いを受ける振替国債等の利子(同第5条の2)、振替社債等の利子(同第5条の3)、民間国外債等の利子(同第6条第4項)である。

 利子所得は、本来、総合課税の対象であるが、実際には一律源泉分離課税の対象となっている。そのため、利子所得を他の所得と分離して一律に比例税率とし(同第3条、第3条の3)、分離税率と同一の税率によって源泉徴収を行う(所得税法第181条および第182条第1号)。

 また、所得税法第23条に規定される利子所得には該当しないが、定期積金、抵当証券、金貯蓄口座、外貨建て定期預金、保険期間が5年以下の一時払い養老保険や損害保険などの金融類似商品による収益などは、一律源泉分離課税の対象である。

 (2)配当所得(第24条)

  法人から受ける利益の配当(第2条第3項)、剰余金(会社法第453条以下)の配当、利益の配当(資産の流動化に関する法律第115条第1項に規定されるものを含む)、剰余金の分配、基金利息、投資信託および特定目的信託の収益の分配により得られる所得である。

  従って、基本的には法人の利益の処分に係る所得であり、中心となる剰余金の配当は株式または出資に係るものに限られることとなる。商法第290条第1項、第291条は「利益ノ配当」という言葉を用いていたが、会社法では「剰余金の配当」という言葉に改められたので、所得税法もこれにならっている。

 ※配当所得と事業所得との相違が問題となることがある。この点については、東京地判平成9年8月14日税務訴訟資料228256頁、その控訴審である東京高判平成10年4月27日税務訴訟資料231851頁を参照。また、拙稿『配当所得』中村=三木編・前掲書54頁も参照。

 違法な配当であっても、法人の損益計算に基づき、利益が出資額に応じて配分される限りにおいて、所得税法にいう配当所得に該当する。また、現金以外の資産により利益が配分される場合も含まれる。

  なお、所得税法第25条により、みなし配当所得が規定される。これは、法人の合併や分割型分割(法人税法第2条第13号)などが原因となって法人から金銭などの交付を受けた場合に、利益の配当または剰余金の分配とみなされることによる。

  配当所得の場合も、基本的には収入金額がそのまま所得金額となるが、利子所得と異なり、配当所得を生ずべき元本を取得するために必要とした負債の利子を控除することが認められる。これは、元本を取得するために他人から資金を借り受けて投資や出資を行うことが少なくないからである。

 配当所得は、利子所得と異なり、総合課税の対象となる。しかし、租税特別措置法第8条の2および第8条の3により一律源泉分離課税が行われるものがある他、同第9条の3により、源泉分離課税が強化されており、申告も不要とされる場合がある(少額配当の申告不要特例など。同第8条の5を参照)。株式の配当については、源泉徴収課税がなされる場合が多くなる。

  源泉徴収は、所得税法第181条および第182条第2号に規定され、20%の税率である。但し、申告不要特例などを選択しなかった場合には、第92条に規定される配当控除を受ける。これは、配当所得に対して法人税と所得税との二重課税が行われることから、その調整をなすためである。

 (3)不動産所得(第26条)

  不動産、不動産の上に存在する権利、船舶または航空機の貸付による所得である。

  不動産の貸付は、賃貸借は当然として、地上権や永小作権の設定も含む。これに対し、鉱業権、採石権、漁業権などは含まれない。

  不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額であり(第26条第2項)、総合課税の対象とされる。また、不動産所得の金額の計算において生じた損失の金額があるときには、他の所得(事業所得、山林所得、譲渡所得)の金額より控除することが認められる。これを損益通算という(第69条第1項、所得税法施行令第198条)。

  不動産所得の計算方法は、事業所得と同じである。しかも、事業所得と同様に青色申告が認められている。そのため、不動産所得と事業所得との相違について問題がある。そして、第26条第1項が、不動産等の貸付による所得であっても事業所得たりうることを明示している。

  既に述べたように、不動産所得は資産性所得であるのに対し、事業所得は資産勤労結合所得である。これが根本的な性質の相違である。このことを念頭に置いて、不動産所得の範囲を確定していかなければならない。

  まず、不動産の貸付による所得自体には勤労の対価が含まれていない。あるいは、対価が本質とされない。一般的に、マンションの一室の貸付、船舶の貸付などにより得られる所得は、人的役務を伴わない(仮に伴ったとしても、それは付随的であるにすぎない)から、勤労の対価を伴うとは言えない。そのため、不動産所得とされる。これに対し、食事などを提供する下宿業のようなものは、勤労の対価を伴い、人的役務が付随的なものに留まるとは言えないため、事業所得に該当する(雑所得に該当することもありうる)。

  次に、不動産所得については、不動産に関する権利金の扱い方が問題となる※。

 ※以下、拙稿「不動産所得」中村=三木編・前掲書57頁による。

  不動産、とくに土地に地上権や借地権(賃借権)を設定する際に、借主より貸主に権利金が支払われる慣行が、地域によってはみられる。とくに、借地権の存続期間が長期にわたり、借地権の譲渡性を認める契約に際し、更地価格の5割以上という割合の権利金が支払われることがある。かような借地権設定契約は、事実上、貸主の所有権の権能の一部を借主に譲渡することを内容とするものである。そのため、権利金は、所有権の権能の一部の実質的譲渡への対価として、不動産所得ではなく、譲渡所得として扱われるべきであるのかが問題となった。

 改正前の所得税法に関してではあるが、最二小判昭和451023日民集24111617頁は、上述のような借地権設定契約に際して支払われる権利金で、更地価格に対してきわめて高い割合となるような場合について、実質的に「所有権の権能の一部を譲渡する対価としての性質」を有することは否定できず、譲渡所得に該当すると類推解釈すべきであると判断した。かような解釈に対して疑問なしとしないが、同判決は、類推解釈が「明らかに資産の譲渡の対価としての経済的実質を有するものと認められる」場合にのみ許されるものであり、これに該当しない場合には原則に従って不動産所得に該当するとも述べているので、妥当な結論であろう。

 なお、現在の第33条第1項は「建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定」等を「資産の譲渡」に含め、これによる所得を譲渡所得と規定する。要件は所得税法施行令第79条に定められ、土地の価格の2分の1を超える金額などとされる。このような、地上権の設定または賃借権の設定等により得られる所得を、不動産所得ではなく譲渡所得と扱うのは、累進税率の適用を緩和するためであり、地上権、借地権等の譲渡性の有無を問わない

 ※この他、特定組合員(組合契約を締結している組合員のこと)等の不動産所得について、所得税法第69条第項に定められる損益通算などが認められないという特例がある(租税特別措置法第41条の4の2)。これは、航空機や船舶のリース契約を通じた租税回避行為に対する個別的否認規定である。

 (4)事業所得(所得税法第27条)

  所得税法に規定される所得の中で、給与所得とともに中心的なものであるが、「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生じる所得」とあるだけで、それ以上の定義は所得税法施行令第63条に委ねられている。ただ、この規定も、所得税法第27条に幾つかの業種を追加しただけである。従って、事業所得の範囲、さらに言えば「事業」の定義は判例や学説に委ねられることとなる。

  最二小判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁は、事業について、自己の計算と危険において、営利を目的として対価を得て継続的に行う経済活動であると定義する。これは、次の3つが事業所得の要件であることを意味する。

 @独立性を有していること:この点において給与所得と異なる。

 A資産の活用と勤労の対価とがともに構成要素となっていること:この点において不動産所得や譲渡所得と異なる。

 B営利性と継続性を有することにより、社会的にみて事業としての客観を有すること:この点において雑所得と異なる。

 それでも、具体的にいかなるものが事業であるかについては、結局は社会通念によるしかない。

 これまで、判例において事業所得に該当するとされたものの例として、弁護士の顧問料収入(前掲最判昭和56年4月24、執行官が職務上得る所得(札幌地判昭和50年6月24日訟務月報21巻9号1955頁)、電気会社との委託検針契約に基づいて受領した委託手数料(福岡地判昭和62年7月21日訟務月報34巻1号187)、事業の廃止などに伴って清算過程において得られた所得(最判昭和321022日民集11101761頁など)をあげることができる。

 ※但し、弁護士の報酬が全て事業所得に該当するとは限らず、独立性の有無も考慮される 。医師についても同様である。

  事業所得も、総合課税の対象となる。そして、事業所得の金額は、事業に係る1年の総収入金額から必要経費を控除した額である(所得税法第27条第2項)。なお、第39条は棚卸資産等を自家消費した場合に、その分を総収入金額に算入することを定める(雑所得についても同様である)。また、第40条は棚卸資産の贈与や遺贈、または「著しく低い価額の対価による譲渡」があった場合には、その資産の時価相当額を総収入金額に算入することを定める(やはり、雑所得についても同様である)。これは、未実現の利得に対する課税の一例と説明される※※。これに対し、補助金などについては、総収入金額に含めない(第42条以下)。

 ※この規定を含め、割賦販売の場合の割賦基準、延払基準、工事進行基準などについては、権利確定主義の例外が定められている。

 ※※金子・前掲書211頁。なお、第41条も参照。

 (5)給与所得(第28条)

  ここにいう給与は、俸給、給料、賃金、歳費および賞与、ならびにこれらの性質を有する給与のことである。勤労の対価としての性質を有する所得である点においては事業所得と同じであるが、雇傭関係またはそれに類する関係においての所得である点で事業所得と異なる。租税法学においては「非独立的労働ないし従属的労働の対価」と言われる。従って、この実質を備えていれば名目は無関係であり、役員賞与や従業員賞与、役員の報酬、研究費、手当、車料なども該当する。

  また、最三小判昭和53年8月29日訟務月報24112430頁はオーケストラの団員であるヴァイオリニストがオーケストラから得る報酬を給与所得と解し、大阪高判昭和571118日行裁例集33112316頁は大学の非常勤講師の報酬を給与所得と解した。しかし、これらについては、その報酬の性質の関係で議論がある。

 給与所得は、金銭でなくともよく、資産や経済的利益であっても、勤労の対価という性質があればよい。現物給与またはフリンジ・ベネフィットと呼ばれるものである。但し、出張旅費、赴任費、制服の支給などは、給与所得に含まれない。これに対し、通勤手当などは給与所得に該当すると解されている(二小判昭和37年8月10日民集16巻8号1749)。しかし、通勤手当なども、通勤のために必要な、いわば必要経費のようなものであるから、給与所得に含めてよいのか、私には疑問が残る。ちなみに、所得税法第9条第1項第5号は「通勤手当(これに類するものを含む。)のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるもの」を非課税とする。これを受け、所得税法施行令第20条の2が非課税とされる通勤手当の範囲を定める。

 また、最近では、現物給与の一種としてストック・オプション(株式譲渡請求権など)の行使による経済的利益が問題となっている。自社の役員や従業員がストック・オプションを与えられ、それを行使した場合に、その所得が給与所得であることは自明であろう。ストック・オプションの付与自体が経済的利益の付与に該当するからである。問題は、自社の役員や従業員でない者がストック・オプションを与えられ、それを行使した場合である。最判平成17年1月25日民集59巻1号64頁(日本アプライド事件)は、たとえば、内国法人に勤務する従業員に、親会社である外国法人からストック・オプションを与えられた場合について、そのストック・オプションの行使による所得を給与所得と解する。同様に理解する判決は多いが、一時所得と理解する判決も少なくない

  ※類似するものとして、ストック・アワードがある。これは、親会社である外国法人の株式を無償で取得することができる権利のことである。ストック・アワードの権利行使による経済的利益の性質について、大阪地判平成20年2月15日判時201733頁、および大阪高判平成201219日訟務月報56巻1号1頁は給与所得と解した。前掲大阪高判について、拙稿ストックアワードの行使による経済的利益が給与所得と認定された事例速報判例解説編集委員会編『速報判例解説』(法学セミナー増刊)6号(2010年)319頁を参照。なお、最高裁判所第三小法廷は、平成21年5月26日に上告不受理の決定を下した(税資259号順号11210)。

  なお、租税特別措置法第29条の2により、適格ストック・オプション(年間で1200万円未満の権利行使価格という範囲が設けられるなど、一定の要件が求められる)については、行使時に課税せず、その行使によって取得した株式を返還または移転した場合に、譲渡所得として課税することとされる。また、役員や従業員に対する不適格ストック・オプションについては、その行使時に給与所得として課税されることとされる。

  給与所得は、1年間の給与などの収入金額から、必要経費ではなく、定額控除である給与所得控除額を控除したものである。その理由として、必要経費の個別的な認定が困難であり、概算経費による控除を認める必要があること、給与所得の担税力が資産性所得などより低いこと、給与所得の捕捉率が他の所得より高いこと、給与所得が原則として源泉徴収されること(所得税法第183条以下)があげられる。たしかに、給与所得の場合に必要経費についての具体的な判断が困難である場合は多い。また、通勤費や転勤費なども、完全に給与所得者が支出するのではなく、雇傭者が支出することも多いために、必要経費と認められないこともある。現行の給与所得控除額は比較的高く設定されているため、通常は問題にならないが、仮に必要経費が法定の給与所得控除額を超えた場合であっても、実額控除が認められない。憲法の判例としても有名な大嶋サラリーマン税金訴訟(最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁)は、まさにこの点を争ったのであるが、裁判所は請求を棄却した。

  ここで事案などを概観しておく。私立大学の教授であった原告(・控訴人・上告人。上告後に死亡)は、給与所得とは別に雑所得があったが申告しなかった。このため、被告税務署長は、無申告加算税などの賦課決定処分をした。原告は不服申立てをしたが認められず、出訴した。

  原告は、必要経費の実額控除が事業所得などにおいて認められるのに対して給与所得課税について認められないこと、給与所得控除が認められるとしてもその控除額が必要経費を下回っていること、源泉徴収制度によって給与所得の捕捉率が他の所得に比して著しく高いこと、給与所得以外の所得者に対しては租税特別措置による利益が与えられることなどをあげ、著しく不公平な所得税負担を課すものであると主張した。

 最高裁判所大法廷は「租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができない」から憲法第14条に違反しないと述べた上で、給与所得者に関して必要経費と家事上の経費などとの区別が困難であること(支出形態や支出額が各人によって異なる)、給与所得者が非常に多く存在するので各自の必要経費の額を個別的に認定して実額控除を行う方法などが技術的に困難であること、給与所得に関して概算控除制度を設けたのは事業所得者などとの租税負担の均衡を図るためであること、給与所得における必要経費の額が給与所得控除の額を明らかに上回ると認めるのは困難であることなどを理由として、原告の請求を棄却した。

 給与所得の場合、総合課税の対象となっているのであるが、上記のように源泉徴収の対象とされている。また、多くのサラリーマンは給与の総額が1年間で2000万円以下であるから、所得税法第190条による年末調整の対象とされることとなる。また、第121条により、やはり給与の総額が2000万円以下で、他の所得についても一定の金額以下である場合には確定申告をする必要がない。

 なお、第57条の2により、給与所得者の特定支出について控除の特例が認められている。特定支出控除制度といわれるもので、給与所得者の特定支出の合計が給与所得控除額を超える場合に、給与所得控除額とともに超える部分をも控除できるというものである。同第2項各号により、次のものが特定支出とされている。

 ・通勤費

 ・転任に伴う転居の費用

 ・研修(資格取得のための研修を除く)の費用

 ・資格取得のための費用

 ・単身赴任者の帰宅のための往復旅費

 ・書籍や定期刊行物で職務に関連するものの購入費

 ・制服や事務服など、職場で着用することが必要とされる衣服の購入費※※

 ・交際費、接待費その他の費用※※※

 ※平成24年度改正で追加された(所得税法第57 条の2第2項第6号イ)。

 ※※同じく平成24 年度改正で追加された(同)。

 ※※※やはり平成24 年度改正で追加された(同ロ)。なお、第6号については、イとロをあわせて65万円まで認められることとなっている。

 (6)退職所得(第30条)

  退職手当や一時恩給など、退職によって一時的に受ける給与などのことである。また、第31条の各号により、みなし退職所得が規定されている。

  退職手当などは給与の後払いという性質を有するが、給与所得と異なり、総合課税ではなく、分離課税の対象とされており(第89条)、源泉徴収の対象ともされる(第199条。但し、第200条も参照)。退職所得の金額は、退職手当などの収入金額から、退職所得控除額を控除して得られた残額の2分の1の額である。退職所得控除額は、勤続年数によって変化する。

 (7)山林所得(第32条)

  ここにいう山林は、立木そのもののことであり、敷地を含んでいない。立木を伐採して譲渡したことによる所得、または山林を伐採せずに譲渡した所得のことを山林所得というが、山林を取得した日以後の5年間に伐採または譲渡することによって得られる所得は除外される。

  山林所得という独立の類型を設けたのは、税負担の軽減という政策的な理由である。山林の育成にはそれなりの資本投下がなされるし、回収が長期にわたるからである、と説明される。本質的には、事業所得に該当する場合、譲渡所得に該当する場合、および雑所得に該当する場合がある。土地と立木の双方を譲渡した場合、土地については譲渡所得となる(所得税基本通達32-2)。また、山林を取得した日以後の5年間に伐採または譲渡することによって得られる所得は、第33条第2項第2号によって譲渡所得ではないとされるので、事業所得または雑所得となる。

 山林所得は、第89条第1項により、総合課税ではなく、分離課税の対象である。税率は、いわゆる五分五乗方式で、「課税山林所得金額」の5分の1の金額に税率を乗じて得られた金額の5倍となる金額が納税額となる。

 1年間の山林に係る総収入金額から必要経費を控除した上で、最大50万円の特別控除額を控除した残額である。なお、第59条や租税特別措置法に特例が規定される。

 (8)譲渡所得(所得税法第33条)

 資産の譲渡による所得のことであるが、用語の意味などに関して問題が多い。そればかりでなく、租税特別措置が多いことなどから、所得税の中で最も複雑なものとなっている。

  @所得税基本通達33-1によれば、資産は所得税法「第三三条第二項各号に規定する資産及び金銭債権以外の一切の資産をいい、当該資産には、借家権又は行政官庁の許可、認可、割当て等により発生した事実上の権利も含まれる」。従って、動産および不動産は当然として、借地権や無体財産権などの権利や地位も含められる

 また、所得税法第33条第3項は、譲渡資産の保有期間を基準として、第1号に短期譲渡所得を、第2号に長期譲渡所得を定める。このうち、短期譲渡所得は資産の取得から5年以内になされた譲渡に係る所得をいう。従って、それ以外のものが長期譲渡所得である。

 ※但し、同第1号により、所得税法施行令第82条に定められる「自己の研究の成果である特許権、実用新案権その他の工業所有権、自己の育成の成果である育成者権、自己の著作に係る著作権及び自己の探鉱により発見した鉱床に係る採掘権の譲渡による所得」は、保有期間が5年以内であっても短期譲渡所得とはされない。従って、常に長期譲渡所得として扱われる。

  A譲渡所得に該当するか否かについては、様々な具体的事例において問題となる。

  まず、給与所得者が所有する自家用車について考えてみる。勤務先に自家用車で通勤し、外回り営業などの際にも自家用車を使用していた給与所得者が、交通事故によって自家用車を廃車とした場合に、自家用車の評価損を給与所得金額と損益通算することが認められるか否かが争われた事例について、大阪高判昭和63年9月27日判時130047頁は自家用車が所得税法第69条第2項および第62条にいう「生活に通常必要でない資産」に該当すると判断した。これは、自家用車が「生活に通常必要な動産」であり、廃車処分による譲渡損は同第9条第2項各号によって損失がなかったものとみなされるとした神戸地判昭和61年9月24日判時121334頁の判断と異なっているが、最二小判平成2年3月23日判時135459頁は大阪高等裁判所の判断を採用している。

  しかし、同第62条を受けた施行令第178条第1項を参照しても、自家用車は示されていない。自家用車が「競走馬(中略)その他射こう的行為の手段となる動産」(同第1号)でないことは明らかであるし、「通常自己及び自己と生計を一つにする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産」(同第2号)でないことも明らかである。そうなると「生活の用に供する動産で第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)の規定に該当しないもの」(同第3号)と言いうるか否かが問われる訳であるが、前掲大阪高判昭和63年9月27日および前掲最二小判平成2年3月23日によれば、そもそも「生活の用に供する動産」に該当しない。従って、所得税法第62条第1項の適用がなく、災害による損失であっても譲渡所得の金額の計算において控除すべき金額と扱われえないことになる。

  これに対し、実務においては、自家用車のうち通勤に用いるものが第9条第1項第9号にいう「自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゆう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得」の「じゆう器」に含められている。什器は日常的に使用する器具や家具類をいうので、自家用車を什器に含めることには無理がある。一方、「その他の資産」については、問題があることは否定できないものの、所得税法施行令第25条により、自家用車を含めることが可能である。そして、所得税法第9条第2項第1号は、同第1項第9号に定められる「資産の譲渡による収入金額がその資産の第三十三条第三項に規定する取得費及びその譲渡に要した費用の合計額(中略)に満たない場合におけるその不足額」が存在しないものとみなすものであるから、譲渡損がないとみなされることになる(譲渡益については所得税法第9条第1項によって非課税である)。その意味においては、前掲神戸地判昭和61年9月24日のほうが妥当であるということになるであろう。

  次に、所得税法施行令第95条は「契約(契約が成立しない場合に法令によりこれに代わる効果を認められる行政処分その他の行為を含む。)に基づき、又は資産の消滅(価値の減少を含む。以下この条において同じ。)を伴う事業でその消滅に対する保障を約して行うものの遂行により譲渡所得の基因となるべき資産が消滅をしたこと(借地権の設定その他当該資産について物権を設定し又は債権が成立することにより価値が減少したことを除く。)に伴い、その消滅につき一時に受ける補償金その他これに類するものの額は、譲渡所得に係る収入金額とする」と定める。従って、立退料は譲渡所得に該当することとなる。

  しかし、借家人が賃貸借の目的となっている家屋の立退きに際して受け取る立退料について、所得税基本通達33-6は「借家権の消滅の対価の額に相当する部分の金額」を所得税法施行令第95条に「規定する譲渡所得に係る収入金額に該当する」とする一方、同通達34-1(7)はそれ以外の部分を一時所得とする。判例は立退料を譲渡所得と解する傾向にあるといわれる。

 B譲渡は、有償であるか無償であるかを問わず、所有権などの権利の移転のことであり、売買や交換の他、競売、収用、現物出資なども含まれる

 また、所得税法第33条第1項かっこ書きおよび所得税法施行令第79条により、地上権、賃借権または地役権の設定についても、権利金が土地の時価の50%を超える場合は譲渡所得に含められる。「06  租税回避と納税義務」において取り上げた長期の地上権設定による租税回避行為については、所得税法施行令第80条が適用される。

 譲渡に該当するか否かについて問題とされるのが、夫婦の離婚に際して一方の配偶者から他方の配偶者に対して慰謝料または財産分与としてなされる財産の移転である。これについて、最三小判昭和50年5月27日民集29巻5号641頁は、「財産分与の権利義務の内容は、当事者の協議、家庭裁判所の調停若しくは審判又は地方裁判所の判決をまつて具体的に確定されるが、右権利義務そのものは、離婚の成立によつて発生し、実体的権利義務として存在するに至り、右当事者の協議等は、単にその内容を具体的に確定するものであるにすぎない。そして、財産分与に関し右当事者の協議等が行われてその内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不動産の譲渡等の分与が完了すれば、右財産分与の義務は消滅するが、この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができる。したがつて、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによつて、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきである」と述べる。この判決によると、慰謝料としての財産の移転も、財産分与としての財産の移転も、資産の譲渡に該当し、分与者、すなわち財産を譲渡する配偶者の側に譲渡所得を発生させることとなる。

 これに対し、金子教授は、慰謝料としての財産の移転については前掲最三小判昭和50年5月27日を支持するが、「固有の意味の財産分与(夫婦共通財産の清算の意味における財産分与)としての財産の移転は、その実質は夫婦共有財産の分割であって資産の譲渡にはあたらないと解すべきであろう」と述べる。。しかし、民法第762条第1項が「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする」と定めることとの整合性が問われることとなろう。

 ※金子・前掲書228頁。

 また、前掲最三小判昭和50年5月27日は、最三小判昭和471226日民集26102083頁を参照しつつ、譲渡所得への課税の本質に関して「資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるから、その課税所得たる譲渡所得の発生には、必ずしも当該資産の譲渡が有償であることを要しない」と述べる。このことからすれば、原則としては実際に資産を譲渡したことによって収入として実現したキャピタル・ゲインに対して課税することとなる。しかし、第59条により、法人に対する贈与および遺贈、限定承認に係る相続および遺贈、著しく低い対価による法人に対する資産の譲渡について、みなし譲渡として課税の対象とされることとなる

 ※ほとんどの無償譲渡は相続税・贈与税の対象となる。

  C但し、譲渡については、前述の他に例外など、注意すべき点も多い。

  第一に、株式交換等に係る譲渡所得は第57条の4により、固定資産の交換により発生する譲渡所得は第58条により、譲渡がなかったものとみなされる場合(課税繰延)がある。

  第二に、強制換価手続(滞納処分、強制執行、担保権の実行)による競売や公売については、原則として非課税である(第9条第1項第10号、所得税法施行令第26条)。

  第三に、譲渡がなかったものとして扱われる場合がある。保証債務の履行による資産の譲渡(所得税法第64条第2項、所得税基本通達66-4、同64-5を参照のこと)、物納(租税特別措置法第40条の3)、共有物の分割(所得税基本通達33-1-6)が該当する。

 第四に、租税特別措置法第33条は、収用、買取り、換地処分、権利変換、買収または消滅(収用等)については、事例によって譲渡がなかったとみなされる場合と譲渡所得が認定される場合とがある旨を定める。これは、補償金、対価または精算金の額による。建物に関して交付される補償金等のうち、同条が適用されるのは建物の取壊しまたは除去による損失に対する補償として交付されるもの(対価補償金)である。これに対し、建物の移転に要する費用の補償として交付される補償金等(移転補償金)は、原則として所得税法第44条が適用される

  ※租税特別措置法第33条または所得税法第44条の適用について、最三小判平成22年3月30日裁時1505号2頁を参照。また、拙稿「建物移転補償金に係る所得税更正処分等取消請求事件」速報判例解説編集委員会編『速報判例解説』(法学セミナー増刊)7号(2010年)315頁を参照

  第五に、譲渡担保は、担保の実行によって弁済にあてられたときは譲渡として扱われる。但し、所得税基本通達33-2は次のように定めている。

  「債務者が、債務の弁済の担保としてその有する資産を譲渡した場合において、その契約書に次のすべての事項を明らかにしており、かつ、当該譲渡が債権担保のみを目的として形式的にされたものである旨の債務者及び債権者の連署に係る申立書を提出したときは、当該譲渡はなかったものとする。この場合において、その後その要件のいずれかを欠くに至ったとき又は債務不履行のためのその弁済に充てられたときは、これらの事実の生じた時において譲渡があったものとする。

  (一)当該担保に係る資産を債務者が従来どおり使用収益すること。

  (二)通常支払うと認められる当該債務に係る利子又はこれに相当する使用料の支払に関する定めがあること。

  (注)形式上、買戻し条件付譲渡又は再売買の予約とされているものであっても、上記のような要件を具備しているものは、譲渡担保に該当する。」

 第六に、資産の賃貸借契約のうち、リース取引については所得税法第67条の2が適用される。ここでリース取引とは「当該賃貸借に係る契約が、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものであること又はこれに準ずるものであること」、および「当該賃貸借に係る賃借人が当該賃貸借に係る資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができ、かつ、当該資産の使用に伴つて生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているものであること」の要件を充足し、かつ「所有権が移転しない土地の賃貸借その他の政令で定めるものを除」いたものである(同第3項)。こうしたリース取引を行った場合には「賃貸人から賃借人への引渡しの時に当該リース資産の売買があつたものとして、当該賃貸人又は賃借人である居住者の各年分の各種所得の金額を計算する」(同第1項)

 ※リース取引については、水野・前掲書182頁、岡村忠生=渡辺徹也=高橋祐介『ベーシック税法』〔第7版〕(2013年、有斐閣)129頁[岡村忠生担当]も参照。

 D譲渡所得は、総収入金額から、取得費および譲渡に要した費用の合計額を控除し、さらに特別控除額(最大50万円)を控除した金額である(所得税法第33条第3項)。総収入金額は原則として譲渡代価の合計額であり、取得費は取得に要した金額、その後の設備費および改良費の合計額である(第38条第1項。同第2項も参照)。譲渡に要した費用は仲介手数料、登記費用、借家人の立退料、土地等の譲渡のための建物取壊損失、取壊費用などである(所得税基本通達33−7)。なお、譲渡所得の計算の際には短期譲渡所得と長期譲渡所得に区分し、まずはそれぞれについて所得金額を計算した上で譲渡損益を算出し、譲渡益の控除および特別控除を行った上で計算する(所得税法第33条第3項ないし第5項、同第22条)。

 E譲渡所得は原則として総合課税の対象であるが、土地建物等の譲渡所得は租税特別措置法第31条などの規定によって分離課税とされている。これは、土地もしくは土地の上に存する権利、または建物およびその附属施設もしくは構築物の譲渡による所得に関する特例であり、譲渡の年の1月1日において所有期間が5年を超える場合を長期譲渡所得、5年以下である場合を短期譲渡所得とする。そして、同グループ内での損益通算は認められるものの、長期譲渡所得または短期譲渡所得の「金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかつたものとみなす」として、他の所得との損益通算は認められない(同第31条、第32条)。「03  租税法律主義」において述べたように、損益通算の部分については租税特別措置法附則第27条が同法第31条および第32条の遡及適用を定めており、違憲の疑いがあるとして問題とされているが、福岡地判平成20年1月29日判時200343頁を除いて合憲と判断されている※※

 ※短期譲渡所得については、租税特別措置法第32条第2項により、「個人が、その有する資産が主として土地等である法人の発行する株式又は出資(当該株式又は出資のうち次に掲げる出資、投資口又は受益権に該当するものを除く。以下この項において「株式等」という。)の譲渡で、その年一月一日において前項に規定する所有期間が五年以下である土地等の譲渡に類するものとして政令で定めるものをした場合において、当該譲渡による所得が、事業又はその用に供する資産の譲渡に類するものとして政令で定める株式等の譲渡による所得に該当するとき」も含まれる。

 ※※さしあたり、拙稿「租税特別措置法附則27条による同法31条の遡及適用が違憲無効と判断された事例」速報判例解説編集委員会編『速報判例解説』(法学セミナー増刊)3号(2008年)288頁、および注に掲記された文献を参照。

 分離課税とされていることとあいまって、税率も比例税率とされる。長期譲渡所得の場合は15%、短期譲渡所得の場合は30%である。但し、居住用財産の譲渡については、同第31条の3による低い税率が適用されることとなっている。

 特別控除は複雑なものとなっているが、同第33条の4による収用交換等の5000万円特別控除(同第33条の4)、特定土地区画整理事業等のための買取の2000万円特別控除(同第34条)、特定住宅地造成事業等のための買取の1500万円控除(同第34条の2)、農地保有の合理化等のための譲渡の800万円特別控除(同第34条の3)、および居住用財産の3000万円特別控除(同第35条)が認められる。これらの二以上が適用される場合もありうるが、全体の限度額は5000万円とされる(同第36条)。

 なお、2013(平成25)1231日まで「特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例」がある。同第36条の2がそれであり、所有期間が10年を超えるもののうちで一定の要件を満たした場合には課税繰延の措置がとられる。また、特定事業用資産の買い替えについては同第37条により、特定事業用資産の交換については同第37条の4により、課税繰り延べの措置がとられる。

 F有価証券の譲渡所得についても特例がある。これも複雑であるが、総じて株式等については分離課税、それ以外は総合課税となっている。

 株式については同第37条の10が規定しており、それによると、原則として「当該株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(第三十二条第二項の規定に該当する譲渡所得を除く。第三項及び第四項において「株式等に係る譲渡所得等」という。)については、所得税法第二十二条及び第八十九条並びに第百六十五条の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該株式等の譲渡に係る事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額(以下この項において「株式等に係る譲渡所得等の金額」という。)に対し、株式等に係る課税譲渡所得等の金額(株式等に係る譲渡所得等の金額(第六項第五号の規定により読み替えられた同法第七十二条から第八十七条までの規定の適用がある場合には、その適用後の金額)をいう。)の百分の十五に相当する金額に相当する所得税を課する。この場合において、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかつたものとみなす」。従って、分離課税で15%の税率によることとなる。上場株式等の売買取引については特定口座制度(同第37条の11の3第3項第1号)がある。

 (9)一時所得(所得税法第34条)

 上記八種類のいずれにも該当せず、かつ、営利を目的とする継続的な行為から生じた所得でない一時的な所得であり、役務や資産の譲渡の対価としての性質を有しないものである。「一時的・偶発的所得」と説明されており、制限的所得概念においては所得から除外されるようなものが多い。例として、懸賞金や公営競技の払戻金、解雇予告手当、生命保険契約に基づく一時金、損害保険契約に基づく満期返戻金、一時払い養老保険の満期受取金、死亡保険金、遺失物拾得者が受ける謝礼金、借家の立退料、時効による資産の取得などがある。

 一時所得は総合課税の対象であり、1年間の一時所得に係る総収入金額から、その収入を得るために支出した金額の合計額を控除した上で、さらに一時所得の特別控除額を控除した額とされる。なお、課税の対象となるのは、一時所得の金額の半分のみである(第22条第2号)。

 10)雑所得(第35条)

  上記九種類のいずれにも該当しない所得を雑所得という。第35条は、公的年金等による所得と、その他の雑所得とに分けて規定する。

  公的年金等による所得は、昭和62年の所得税法改正までは給与所得として課税されていたのであるが、必要経費がないこと、受給者の納税負担を軽減する必要があることから、雑所得に変更された。ここにいう公的年金等には、各種の社会保険制度や共済制度による年金、恩給その他使用者から支給される年金、確定拠出年金制度や確定給付企業年金制度に基づく年金、などが該当する。

  その他の雑所得は、名称のとおり、非常に雑多であり、動産の貸付による所得のうち、事業に該当しない場合におけるもの、著作権や特許権などの使用料、原稿料、講演料、学校債や組合債の利子、政治献金による収入などが該当する。

 ※作家や漫画家の原稿料は事業所得に該当する。原稿料が雑所得に該当するのは、たとえば、大学教員である私が得る場合である。

 雑所得は総合課税の対象となるが、公的年金等による所得と、その他の雑所得とでは課税方法などが異なる。公的年金等による所得は、1年間の収入金額から公的年金等控除額を控除して得られた金額である。この公的年金等控除額には定額控除と定率控除の二種類がある。また、源泉徴収の対象とされる。これに対し、その他の雑所得は、1年間の総収入金額から必要経費を控除した金額であるが、他の所得との損益通算ができない(第69条第1項、所得税法施行令第198条を参照)。

 

戻る

(2011年3月16日掲載)

(2011年7月4日修正)

(2011年7月11日修正)

(2012年8月6日修正)

(2013年10月17日修正)