サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第24編

 

 サテライト日田設置許可が当時の通商産業大臣から出されたのは、2000年6月7日のことでした。それから9ヶ月以上が経ち、この問題に新たな展開がありました。

 まず、この問題を扱った広報ひた号外が、2001年3月15日付で発行されました。これは全4頁から成り、経済産業省を相手取った設置許可無効等確認訴訟の提起を日田市民に説明し、理解を得るためのもので、別府市に対する提訴についても解説がなされております。このような号外の発行ということ自体、日田市の並々ならぬ意気込みを感じさせるものです(過去の日田市報を全て調べた訳ではないのですが、おそらく、日田市報でサテライト日田問題がこれほど大きく扱われるのは、初めてのことではないでしょうか)。

 号外が発行されることについては、大分asahi.com/ニュース3月15日付記事(http://mytown.asahi.com/oita/news02.asp?kiji=707)などにおいても大きく報じられました。また、3月2日、私が日田市役所を訪れた際、日田市総務部企画課課長補佐兼企画調整係長の日野和則氏からも説明をいただきました。今回の場合、日田市は、対経済産業省であれ対別府市であれ、公費で訴訟を遂行することになります。そのために、訴訟については市議会の同意を得る必要がありましたが、それに留まらず、どのような意図で訴訟を提起するのかを、市民にも説明する必要があります。そのために、号外が発行されたのです。号外の内容については、後に取り上げることとします。

 (なお、実は、3月2日、私は、日野氏からいくつかの貴重な情報を得ましたが、ここで記すことは差し控えます。また、号外については、読売新聞日田支局の近藤武信氏から送っていただきました。ここに記し、御礼を申し上げます。)

 そして、3月19日の午後(14時頃)、日田市は、経済産業省を相手取った設置許可無効等確認訴訟(予備的に取消訴訟)を、大分地方裁判所に提起しました(行政事件訴訟法によると、被告は経済産業大臣となります)。大分合同新聞2001年3月20日付朝刊朝F版23面は、大分地方裁判所にて提訴の手続をとる日田市長の大石昭忠氏、および寺井一弘弁護士を代表とする弁護団の写真を掲載し、大々的に報じています(コメントなどについては、後に紹介します)。また、日本経済新聞2001年3月20日付朝刊西12版39面には、提訴の手続をとるため大分地方裁判所に入る大石氏、そして弁護団の写真が掲載されています。

 第23編において、訴訟提起は3月21日に行われることとなる、と記しましたが、少々早められたようです。3月14日付のasahi.com news update(朝日新聞社のホームページ)は、全国版の扱いで、日田市の提訴が3月19日に行われると報じています(http://www.asahi.com/0314/news/politics14002.html)。また、同記事は、設置を予定されているサテライト日田の床面積が約2400u、3階建てであること、敷地が4000uで約400台収容の駐車場があること(これは、既に第6編において取り上げたアーバン・ピラミッドの総面積であると思われます。この一角にサテライト日田が設置される予定です)、1年のうち144日間だけ発券される模様であること、推定売上額が年間で17億2800万円と見積もられていることも報じています。

 同じ記事には、「自転車競技法では、近隣の医療機関や文教機関に著しい支障が及ばないこと等の法令に定められた要件に照らして問題がなければ許可できる仕組みとなっており、地元に反対意見があるというだけでは不許可にできない」という、経済産業省車両課のコメントが掲載されてます。また、同課は「地元の同意を得て円満に設置されることが望ましいと考えており、今後とも地元の理解を得るよう指導していきたい」という見解を出しております。自転車競技法には、地元の同意が法的要件として定められていないので、このような見解となったのでしょう。

 一方、やはり同じ記事に掲載された大石氏のコメントは、「地元が拒否しているものを中央が一方的に押しつけるのは、地方分権の流れに逆行して不当だ。裁判を通じて、憲法がうたう地方自治の本旨の意味を問い直していきたい」というものです。これが、経済産業省に対する設置許可無効等確認訴訟の根本的な趣旨ともなっております。

 設置許可無効等確認訴訟については、私の意見を既に何度か述べております。日程さえ合えば、別府市に対する訴訟とともに、大分地方裁判所にて傍聴をしたいと考えております。

 さて、号外を紹介いたしましょう。どの程度まで引用してよいのかという問題もありますが、なるべく詳細に記したいと思います。

  まず、表紙は、昨年12月9日に別府市中心部にて行われた設置反対デモ行進が、3点のモノクローム写真で掲載されております。まず、上の「広報ひた」というロゴの右側にある写真は、おそらく北浜を出発したばかりの、中ほどの集団の模様です。4人が持つ横断幕を先頭に、様々なカードを掲げた市民が設置反対を叫びながら行進している模様です。次に、中央の写真は、「『サテライト日田』設置反対」と、白地に赤い文字で書かれた横断幕を持つ3人の女性のすぐ後ろに、頭にハチマキ、肩からタスキという姿で、左から日田商工会議所会頭で「サテライト日田設置反対連絡会」代表の武内好高氏、日田市長の大石昭忠氏、日田市議会議長の室原基樹氏が並び、すぐ後ろには、市議会議員全氏、そして、「サテライト日田設置絶対反対」などと書かれたカードなどを持つ日田市民が、ちょうど別府駅東口で折り返したばかりのところの情景です。下の写真は、終了直前の模様で、北浜交差点そばにあるトキハ別府店前の歩道に集結し、室原氏がメガホンを持ち、大石氏、武内氏も前に立ち、気勢を上げているところです。第8編において記したように、私はこの模様を見ていますので、その時のことを思い出してきました。

 次の頁には、「『サテライト日田』はいらない!  地元同意のない設置許可は地方分権に逆行」という題目の下、昨年11月27日に行われた反対市民総決起集会の写真とともに、号外を発行する目的が書かれております。そこには、サテライト日田について「平成8年から一貫して反対を表明し、市議会、各種団体等とともに、設置断念に向けて関係機関に反対運動を行ってきたにもかかわらず、昨年6月に設置が許可されました」と説明され、その上で「市民の意思を全く無視した設置許可は、地方自治体の自治権や自己決定権に対する侵害である」と断言しております。そして、「なぜ反対なの?」という囲み記事には、反対の理由が、@「日田市が目指す『活力あふれ、文化・教育の香り高いアメニティ都市』を基調とした、まちづくりの理念とは相反する異質の施設」であること、A「青少年健全育成を目指す社会教育や学校教育の立場から好ましい施設では」ないこと、B「歴史・文化を生かしたまちづくり、水と緑の自然を生かしたクリーンな観光都市づくりのイメージにふさわしく」ないこと、C「周辺地域の環境悪化や国道386号線の交通渋滞は大きな問題で」あること、D「別府市の財政事情のために日田市民が犠牲になることは許され」ないこと、とまとめられています。

 同じ頁には「サテライト関連機関・車券売上金配分の仕組み」も掲載されていますので、売上金の配分を中心に紹介しておきましょう(割合は推定とされています)。車券の購入費を100%とすれば、払戻金は75%、サテライト日田に残る控除金(すなわち、売上として残るもの)25%は控除金として、事業収入となります。この控除金は、次のように配分されます(号外には記されておりませんが、上記の年間推定売上額17億2800万円を下に計算した年間配分額を、目安として示しておきます)。

 サテライト日田設置許可を得た業者への「場外施設借上料」:4%(6912万円)

 競輪事業施行者である別府市の収入(開催経費を含む):11.5%(1億9872万円)

 公営企業金融公庫:1%(1728万円)

 日本自転車振興会:3.7%(6393万6千円)

 地方財政:3.8%(6566万4千円。なお、詳細は書かれていませんが、他の競輪事業収入と合わせて、地方交付税と同様に各都道府県・各市町村に配分されるものと考えられます)

 日田市に支払われる環境整備費:1%(1728万円)

 そして、同じ頁に掲載されている、大石市長による「市民が安心して暮らせるまちづくりを目指して」から、一部分を紹介いたします。

 「分権時代の到来は、地方自治体の自己決定と自己責任のもとに、地域の実情に応じた個性豊かなまちづくりが可能となり、地方の能力と力量が問われる時代です。このような中で、国や別府市の動きは、地方自治体の自主性や権限を侵略するに等しく、ひいては、日田市のまちづくりを根底から覆すものです。」

 3頁には「場外車券売場の設置許可取消し等を求めて訴訟」という見出しの記事がありますが、先に、室原議長と武内会頭の言葉を、部分的ですが紹介しましょう。

  まず、室原議長の「設置許可無効確認の訴えを議決」からです。

 「本市のこれからの”まちづくり”において、設置許可を撤回させることが大変重要なことであるとの考え方に立ち、市議会は先日、設置許可無効確認の訴えについて議決をいたしたところです。」

 次に、武内会頭の「『サテライト日田』設置に断固反対」からです。

 「日田市におきましては、『まちづくり』の基本理念と青少年の健全育成の観点等から、行政、議会、市民が一体となって『サテライト日田』設置反対運動を展開してまいりました。/別府市議会も、2月の臨時議会で継続審査となっていた関係予算案を良識ある判断のもとに、賛成少数で『否決』していただきました。それでもなお、別府市は設置の意向を示しております。」(/は、原文改行箇所)

 武内氏の言葉に関連して、号外から離れ、別府市の動向を記しておきます。「第23編」において紹介した通り、別府市議会は議会運営委員会委員の選出をめぐって空転しておりました。しかし、自民党会派が元の一会派に戻ることで、12日深夜から13日にかけて正常化しました。大分asahi.com/ニュース3月14日付記事(http://mytown.asahi.com./oita/news02.asp?kiji=704)によれば、自民党会派は、サテライト日田設置関連補正予算案の採決時に反対者が出たことにより、少数与党となったため、会派を分割して多数派工作をしようとしたのですが、野党会派が議長不信任案の提出・可決や審議拒否で抵抗したことで、自民党議員団は、結局、元の一会派に戻り、行財政改革クラブの1名を加えて14名の会派となりました。しかし、議会運営委員会委員は、野党会派が過半数を占めることになったので、別府市としては、サテライト日田問題について、難しい対応を迫られそうです。現在の別府市議会の会派構成は、自民党議員団14名、公明党4名、社民党議員団4名、市民の声クラブ4名、無所属クラブ3名、共産党議員団3名となっております。

 そして、これも大分asahi.com/ニュース3月15日付記事(http://mytown.asahi.com./oita/news02.asp?kiji=706)によるのですが、13日夜に開かれた市議会で、別府市長の井上信幸氏は、一般質問に対し、サテライト日田設置計画をこれまで通り進める意向を示しました。再提案の時期は明らかにされておりませんが、平成13年度に入って最初の定例市議会においてではないかと予想されます。また、市長の後援会報がサテライト日田問題の特集記事を掲載しているという情報も示されております。

 市長の答弁に対して、野党会派からは反発の声があがりました。無所属クラブの朝倉斉氏は、議会の議決が尊重されていないとして、再提案を牽制し、計画断念を主張しましたが、市長は新聞記事を引用しつつ、2月8日の否決を真摯に受け止めていると反論しました。一方、自民党議員団の泉武弘氏は、設置計画の断念による損害賠償の問題について質問しました。これに対して、助役の大塚茂樹氏は、設置計画断念によっての損害賠償請求問題が生じる可能性を示唆しました。

 さて、広報ひた号外に戻りましょう。3頁の「場外車券売場の設置許可取消し等を求めて訴訟」は、設置許可無効等確認訴訟(および取消訴訟)を提起する理由を示しております。この部分については、詳細に引用しておきます。

 同記事は、まず、「『地方自治』とは、住民生活に密接にかかわる地域の共通の仕事を、国の行政から切り離して地域に任せ、地域住民の意見と責任に基づいて自主的に運営させる行政のやり方です」と説明されています。

 その上で、「地方自治体は、住民参加のもと、自らのあり方を自主的・自立的に決定することができます。これは、地方自治体の自治権であり、他の地方自治体はもとより(引用者注:これは別府市に対する批判を暗示しています)、中央政府といえども、みだりにこれを侵害することができません。つまり、場外車券売場の設置許可を、設置場所の自治体の同意なくして行うことは、地方自治体の自治権、自己決定権に対する侵害であり、地方分権に逆行するものです」とされております。

 今回の地方分権について、日田市側の説明に現われている住民自治の側面が、どの程度まで尊重されているかについては、意見の分かれるところです。「日本における地方分権に向けての小論」においても記しましたが、住民自治を尊重する立場と新自由主義的立場によって、地方分権の意味合いは異なってきます。地方分権推進法や地方分権推進委員会による中間報告および諸勧告、そして地方分権推進計画にも、両者の要素が混在しており内容・方向性ともにわかりにくくなっていることは否定できません(原則的には新自由主義的な立場をとるものと思われます)。さらに言うならば、今回の地方分権は、規制緩和や財政再建などの動きとも関連しますし、国の行政の合理化(およびそれによる実質的強化)と地方公共団体の任務(あるいは負担)の強化に終わる可能性も、完全に否定することができないのです。今回の地方分権という改革には,本来の地方自治を強化する(あるいは取り戻す)という立場から見るならば、決して手放しで歓迎できない面が少なからず存在するのです。すなわち、今回の改革により、中央への権限集中を回避することのみならず、地域住民の需要に機敏に対応し、しかも地域住民が積極的に参加しうる地方自治が実現ないし強化されうるのか、という観点からは、問題が多いと言わざるをえないのです(以上、同論文から、修正しつつ引用しました)。

 しかし、地方分権の意義について、地方分権推進委員会など国側の立場が常に正しい訳ではありません。むしろ、日本国憲法第92条が示す理念に立ち返って、地方自治、地方分権を考える必要があります。その意味において、日田市側の説明は、地方分権推進委員会などが示す見解とどのような関係にあるのかという問題は残りますが、住民参加を前面に出しつつ、自らの考える地方自治、地方分権の方向性を示すものと評価できます。勿論、サテライト日田問題に限らず、今後、あらゆる場面において、日田市は、住民自治の原則を根底とし、住民参加の機会を増やす市政を行う責任を負うことになります。従って、この部分の説明は、日田市民およびと日田市政にとって非常に重要な部分です。

 さて、訴訟を提起する際に重要なものは、その理由です。日田市は、3点をあげて説明しておりますので、検討を加えることとしましょう。

 「@競馬や競艇は、設置場所の自治体の同意を条件にしています。しかし、競輪の場合には、同意を要件にしていません。また、市の反対意思を無視して設置を許可したことは、憲法及び地方自治法に定めている地方自治体の自治権、自己決定権に反しているものと考えます。」

 今回の訴訟において、日田市は、場外車券売場設置許可の根拠となる自転車競技法第4条が憲法第92条に違反すると主張しております。訴訟については、既に第16編においても検討を加えています。自転車競技法第4条が設置許可について市町村の同意を要件としていない以上、憲法第92条を援用しなければ、設置許可が無効であるという主張は、かなり難しくなります。また、@には、競馬法、モーターボート競走法などの公営競技関連法の間に、合意条件に関する食い違いがあることを問題とする趣旨が含まれているものと考えられます。ここから、自転車競技法に係る立法裁量の問題を突くことが可能です。日田市は、地方分権一括法によって追加された地方自治法第1条の2第2項を引き合いに出しておりますから、地方分権一括法によっても改められなかった自転車競技法第4条について、立法不作為の違憲性を問うことも可能であると思われます。

 憲法第92条により、都道府県および市町村には、自治権や自己決定権が与えられているという解釈は、妥当なものです。勿論、憲法や法律によって制約が課せられます。しかし、憲法第92条以下の趣旨は、可能な限り、最大限の自治権および自己決定権を都道府県および市町村に対して保障しなければならないというものであるはずです。従って、自治権や自己決定権を制約する場合には、合理的にみてやむをえないと認められる場合に限り、しかも必要最小限のものでなければならないでしょう。その意味において、自転車競技法第4条には、合憲性に疑問が残ります。

 「Aギャンブルは、刑法で処罰対象としている賭博罪にあたります。しかし、公営ギャンブルについては、社会的弊害を取り除き、その地域社会に受け入れられるような手段を図ることにより認められているものです。このようなことから、設置場所の自治体の同意を要件としていない自転車競技法は、刑法に規定する賭博罪に該当することになると考えられます。」

 非常に面白い論法ですが、私は、この主張に対して疑問を持っております。自転車競技法が存在しなければ、競輪が賭博であることは間違いありません。しかし、自転車競技法は、本来なら賭博罪に該当する事柄について、一定の要件を充足した上で違法性を阻却したという意味において、刑法に対する特別法です。そして、この法律は、(やや抽象的な表現ですが)場外車券売場の有無に関わらず、日本全国において適用されます。市町村が競輪場や場外車券売場の設置に同意するか否かという問題と、競輪が適法であるか否かという問題とは、次元を異にします。仮にこの論法が正しいとするならば、自転車競技法は、競輪場や場外車券売場が設置されている市町村においてしか適用されない法律であり、憲法第95条にいう「一の地方公共団体のみに適用される特別法」(この場合の「一の」は、数的な意味ではなく、特定の、という意味です)なのでしょうか。そうであるとすれば、憲法第95条違反という主張も付け加えなければなりません。しかし、自転車競技法第1条により、都道府県および総務大臣が指定する市町村が競輪事業の運営権を認められているのです。従って、Aの論法によると、法律の適用範囲については非常に複雑なこととなります。また、例えば、競輪場や場外車券売場が設置されていない市町村の住民は、競輪場や場外車券売場で競輪を楽しんだ場合、その設置市町村内では賭博罪に問われないのですが、車券を持って非設置市町村に戻った場合などに賭博罪となるのでしょうか。そうではないはずです。いずれにせよ、Aには論理の飛躍があります。また、自転車競技法は、まず、競輪について賭博罪としての処罰対象から外し、その上で様々な手段を規定しています。「社会的弊害を取り除き、その地域社会に受け入れられるような手段を図」らなければならないのは勿論ですが、これが先に来て違法性の阻却が後に来るということはないと考えられます。その意味において、論理が逆ではないでしょうか。

 「B自転車競技法が定める経済産業大臣の許可は、場外車券売場が設置されることにより、住民及び自治体の利益を侵害しない範囲でのみ許されるものです。今回の設置については、市の反対を押し切って許可したものであり、経済産業大臣に与えられた権限の範囲を超えているものと考えます。」

 これは、@との関連において考えるべき理由であり、直接的には経済産業大臣(設置許可当時は通商産業大臣)の裁量権に逸脱・濫用が認められるとするものです。既に「第16編」において記した通り、この主張が裁判で認められるのは難しいのではないかと予想されます。しかし、サテライト日田問題は、既に5年も続いております。また、当時の通商産業省(とくに九州通産局)が、設置許可を受けて、具体的にいかなる審査をしてきたのか、ほとんど明らかにされていません。また、1997年12月、九州通産局は、別府市がサテライト日田設置計画を(一時)凍結する旨を、日田市に伝えております。設置許可が出されたのは、実に2年半も後の2000年6月7日です。この間に何があったのでしょうか。この点について、これまで、経済産業省による十分な説明がなされていません。ここに、Bの鍵が隠されていると思われます。すなわち、経済産業大臣の裁量権に逸脱・濫用があるとすれば、1997年12月から2000年6月7日までの間にいかなる事情があったのかが説明されなければならないでしょう(但し、その主張責任は、最終的には日田市に負わされると考えられます)。

 号外4頁は、「別府市への提訴について」と題された記事です。これまでの経過が表により示されております。この表には平成●年▲月としか書かれておりませんが、私が日田市役所でいただいた資料には、日付なども記され、詳細に書かれております。とくに、平成10年のところですが、1月26日、「サテライト日田」設置反対連絡会に自治会連合会と女性ネットワークが加盟し、現在の17団体になっています。平成11年には、日田市、別府市の双方で市長選挙が行われました。平成10年および平成11年には、両市の協議が重ねられたようですが、とくに大きな動きはなかったようです。

 この記事において、日田市は、市報べっぷ11月号掲載記事に対し、「日田市は、平成8年9月に設置が明らかになって以来設置反対の意思を表明し、昨年6月に許可が出るまでの間、市議会が『公営競技の場外券売場の設置に反対する決議』を採択するとともに、市長は経済産業大臣に『設置に反対する要望書』を提出。また、関係機関に対しても再三にわたって設置反対の要望を行うなど、行政・議会・市民団体等が一丸となって反対運動を行ってきました」と反論しております。また、「別府市は、日田市の反対の意思表示を十分に認識していながら、広報の使命である真実、信憑性を著しく欠いた虚偽事実を市報に掲載し、別府市民に大きな誤解を与えました」と述べ、「日田市民の名誉と信用を著しく傷つけた」と結論づけております。最近の報道をみても、市報べっぷ11月号掲載記事については、信憑性に疑問が抱かれているようです。しかし、市報べっぷ11月号掲載記事について、別府市は、これまで、何ら態度を表明しておりません。裁判の中で別府市の考え方が主張されるとのことですが、仮に日田市の主張に誤りがあって別府市の主張が正しいというのであれば、市報べっぷなどの場で反論することも考えられるはずです。別府市の沈黙は、いかなる意味を有するのでしょうか。

 さて、前述のように、3月19日の午後、日田市は、大分地方裁判所に設置許可無効等確認訴訟(および取消訴訟)を提起しました。大分合同新聞2001年3月20日付朝刊朝F版23面によれば、19日の16時から、日田市役所において記者会見が行われました。これには室原議長および武内会頭も出席しました。同記事に示されていた発言の内容を引用しておきます。

 大石市長:「長い反対運動の中で、自治体同士での決着はないと感じていた。裁判に勝つことが地方自治の“存在”を確認することになる」

 寺井弁護士:「前例のない訴訟だが、“新地方自治法”の理念が形式化、空洞化していないか、憲法的な視点から問い掛けたい」

 室原議長:「国と地方の関係を問う画期的な訴訟になる」

 武内会頭:「“おらが町”として、誇りをもって町づくりをすすめたい」

 そして、訴訟提起を受けて、複数のコメントが掲載されております。

 経済産業省事務次官の広瀬勝貞氏:「地元の同意を得る努力を時間をかけてやってきた」、「地元の理解を良く得るように(当事者に)話もし、そして一九九八年には日田、別府両市の助役による会談を数回にわたり開いた」、「(自転車競技法などの)法令に基づいて慎重な議論をし、(設置許可の)判断をしたと考えている」

 経済産業省車両課は、コメントを差し控えたいとしております。

 別府市長の井上氏:「別府市としてはコメントする立場にありませんが、その推移は見守ってまいりたいと考えています」(これは、文書によるものです)

 同記事には「一定の評価できる」と題された私のコメントも掲載されております。これは、3月19日の午後、大分合同新聞の記者氏からの電話を受けて研究室において話したことの要約です。

 「地方が中央に問い掛ける日田市の行動には、一定の評価ができる。場外車券場設置に関し、地元はかやの外となる自転車競技法は見直すべきだ。国と地方との間で、問題が起きることはこれからもあるはず。今後は行政同士の訴訟が増えるのではないか。」

 最後に、「大分発法制・行財政研究」に附属している「公園通り」にも記したことを再掲載します。これは、ひたの掲示板にも記し、日田ネットIRISの「みんなの掲示板」にも記したことです(若干の修正を加えた箇所もあります)。

 日田市の提訴は、地方分権改革がすすめられる中、地方自治体、そして何よりも地域住民の主体性として「まちづくり」、地域づくりをすることを認めなかった(あるいは無視してきた)従来の法体系(さらに行政)に対する重大な異議であると考えられます。

 地方自治法第1条の2第2項にも、国は(中略)住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として(中略)地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない」と規定されております。そうであれば、地域の声が届かないようになっているこれまでの法律は、見直されなければなりません。 

 私も、同じ大分県民として、できる限り、対別府市訴訟および対経済産業省訴訟の傍聴をしたいと思います。そして、ホームページなどでも、この問題に関する発言を続けていきます。

 以上は、ひたの掲示板556番に記したことです。

 そして、読売新聞2001年2月24日付朝刊掲載の拙文にも記した通り、この問題に関する別府市側の対応は、どう考えても不適切な点が多いと思われます。それだから、別府市議会がおかしくなったのでしょう(正常化しましたが)。

 今回の訴訟については、傍聴などを通じて、日田市、そして市民の皆様を支援できたら、と考えています。

 

(2001年3月20日)

戻る