10    納税義務者と課税単位

 

 

 1.所得税の納税義務者

 納税義務者一般については「02  課税要件において述べた。それと重複する部分が多くなるが、所得税の納税義務者について概説する。

 所得税は直接税であるから、無制限納税義務者と制限納税義務者とに分けうる。

 所得税法第7条第1項第1号は、「非永住者以外の居住者」が「すべての所得」について納税義務を負う旨を規定する。従って、所得税における無制限納税義務者は「非永住者以外の居住者」である。ここで居住者とは「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人」のことである(同第2条第1項第3号)。住所または居所は、民法第21条以下に規定されるものと同じであるから、或る個人の「生活の本拠」が日本にあるのであれば、職場などが外国にあったとしても、その者は日本に所得税の納税義務を負うこととなる。住所について、所得税基本通達2−1は「法(―所得税法。引用者注)に規定する住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する」と定めた上で、「(注)  国の内外にわたって居住地が異動する者の住所が国内にあるかどうかの判定に当たっては、令(―所得税法施行令。引用者注)第一四条《国内に住所を有する者と推定する場合》及び第一五条《国内に住所を有しない者と推定する場合》の規定があることに留意する」とする

 ※05  租税法の解釈と実質課税の原則において取り上げた、借用概念と固有概念の問題である。

 非永住者および非居住者は制限納税義務者である。

 このうち、非永住者は、所得税法第2条第1項第4号によって「居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去十年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が五年以下である個人」と定義されている。非永住者は、第161条第1項各号に規定される国内源泉所得「及びこれ以外の所得で国内において支払われ、又は国外から送金されたもの」について納税義務を負う(第7条第1項第2号)。

  これに対し、非居住者は、第2条第1項第5号において「居住者以外の個人をいう」としか定義されていない。そこで、とくに非永住者との区分が問題となりうる。所得税法施行令および施行規則には詳細が定められていないので所得税法基本通達を参照すると、所得税基本通達2−3は、次のように定めている。

 「(一)  入国後一年を経過する日までに住所を有しない場合  入国後一年を経過する日までの間は非居住者、一年を経過する日の翌日以後は居住者

 (二)  入国直後には日本に住所がなく、入国後一年を経過する日までの間に住所を有することとなった場合  住所を有することとなった日の前日までの間は非居住者、住所を有することとなった日以後は居住者

 (三)  日本の国籍を有していない居住者で、過去一〇年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が五年を超える場合  五年以内の日までの間は非永住者、その翌日以後は非永住者以外の居住者」

 非居住者は、所得税法第164条第1項各号および第2項各号に規定される国内源泉所得について納税義務を負う(第7条第1項第4号)。非永住者よりも納税義務の範囲は狭いことになる。

  以上は個人についてであるが、法人も、第5条第3項および第4項により、所得税の納税義務者とされる。これは、源泉徴収制度を採用するためであると説明される。法人の場合は、支払いを受ける利子や配当などについて納税義務を負うこととなる(第174条および第175条)。但し、源泉徴収された所得税の額については、法人税の税額から控除される(法人税法第68条)。

 また、納税義務者ではないが、所得税法第28条第1項に規定される給与所得の支払者、その他第4編第1章ないし第6章の規定による所得の支払者は、第6条によって源泉徴収義務者とされる

 なお、以上に示した居住者、非永住者、非居住者の別にかかわらず、非課税とされる所得が存在する。所得税法には人的非課税の規定が存在しないが※※、物的非課税※※※の規定が存在する。第9条第1項がそれで、その性格は多岐にわたる。また、他の法律に物的非課税の規定が多く存在する。

 ※人的課税除外ともいう。納税義務者となりうる者のうち、特殊性などを考慮して、一定の要件を充たした者について納税義務を免除することである。

 ※※但し、所得税基本通達9−11により、大使や公使などの外交官については非課税とされている。もっとも、法律に規定されていないとは言え、国際慣習法上、外交官には治外法権が認められており、外交関係に関するウィーン条約第34条、第36条および第37条においても確認されているため、租税法律主義に反するものではない。

 ※※※減免措置ともいう。課税物件について課税の全部または一部を除外することである。

 

 2.課税単位

 所得税は個人の所得に課される租税である。しかし、人間は、多くの場合に夫婦ないし家族を構成して生活する。この夫婦ないし家族が経済生活において一つの消費単位を形成することになるから、多くの場合、その夫婦ないし家族において所得を蓄え、分配しているはずである。このような場合に、何を単位として課税すべきか。

 純粋に考えるならば、個人を単位とするのが所得税の定義に忠実である。また、近代立憲主義は個人主義を要素の一つとするから、この点においても個人を単位とするほうがよい。さらに言うならば、税制は中立を要請されるものであるから、やはり、婚姻しているか否かという点に関わりのない個人単位での課税が優れている。現在の所得税法も、基本的には個人単位主義を採用している

 ※日本において個人単位主義が採用されたのは、第二次世界大戦後、1950(昭和25)年のシャウプ勧告を受けたことによる。それまでは「家」制度を反映した世帯単位主義が採られていた。

 もっとも、個人単位主義が自由主義的であり、世帯単位主義が前近代的である、などと評することはできない。この点については、中村良広『所得税改革―日本とドイツ―』(2013年、税務経理協会)18頁も参照。

 しかし、個人単位主義には幾つかの問題点がある。

 まず、「合計所得の等しい夫婦ないし家族には等しい家族負担を」という意味における公平の要請に合致しない。個人毎に所得が異なれば、合計所得が同じであっても納税負担が異なるからである。次に、個人単位主義を採用すると、夫婦ないし家族の間で資産を分散したり家族組合を設立したりすることによって所得を分割し、租税の負担を回避し、または軽減する傾向を招く。累進税率を採用する場合には、こうした問題点が強く現れる。

 そこで、個人単位主義を基調としつつも、夫婦単位主義や家族単位主義の要素を織り込み、いわば折衷的な制度を作り上げている。しかし、民法第4編との関係で、話はそれほど簡単に終わる訳ではない。全ての夫婦や家族が、それぞれ市場に出て所得を得ている場合であれば、個人単位課税を徹底することが理にかなっているが、一方の配偶者が所得を得て、もう一方の配偶者がそれに協力または依存するという場合には、一方の配偶者が財産形成の上で優位に立ち、個人単位課税によってそれが固定化される可能性も高くなる。

 また、日本の民法は、法定財産制としては夫婦別産制を採用し、配偶者の一方の所得はその配偶者個人の所得であるという立場をとる(同第762条第1項)

 ※但し、民法第762条第2項により、どちらの所有に帰属するかが不明な場合は共有と推定される。なお、同条については合憲判決がある(最大判昭和36年9月6日民集15巻8号2047頁)。

 一方、民法は、夫婦財産契約を規定し、法定財産制に優先することも明示している。そのため、その契約によって、配偶者の一方が婚姻届出の日以降に得る財産については夫婦の持ち分を二分の一ずつとする共有財産にすることも可能である。これが所得税法の申告などに生かされるならば、個人単位課税の問題点を解決することにつながるのであるが、所得税については、夫婦財産契約の中身にかかわらず、一方の配偶者が得た所得はその単独の所得として扱われる。

 東京地判昭和63年5月16日判時128187頁、および、その上告審判決である最判平成3年12月3日税資187231頁は、夫婦財産契約が存在する場合の所得税法の解釈などにつき、夫婦財産契約そのものは有効であったとしても、夫が得る給与所得は夫単独の所得であると述べる。理由として、その収入に関する権利が発生した段階において権利が誰に帰属するかが重要である旨があげられている。これでは、夫婦財産契約を締結しても租税法においては何の意味も生み出さないこととなるが、夫婦財産契約の主眼が、誰が所得を得たかではなく、誰に所得ないし財産が帰属するかということに置かれることからすれば、このような解釈も成立するであろう。

 夫婦財産制度とは異なるが、類似する問題を生じさせるのが、所得税法第56条である。この規定については、この章において簡単に扱う他、「12  収入金額と必要経費」において述べる。

 

 3.夫婦単位課税ないし家族単位課税の方法

 それでは、これらを是正する方法は存在するのであろうか。

 日本においては採用されていないが、夫婦単位課税ないし家族単位課税の方法は、アメリカ、ドイツ、フランスなどで採用されており、日本においても導入を求める意見が主張されている。

 (1)二分二乗方式

  これは夫婦単位課税の方法である。まず、夫婦の所得を合算した上で、これを二分する。すなわち、夫と妻が半分ずつを取得したと仮定することになる。そして、それぞれについて税額を計算して合算するのである。この合算を二乗と称する(結局、片方の税額を2倍することと同じである)。この方法であれば、夫婦間贈与などの問題は、完全ではないが相当程度に解消される。

 しかし、問題点もある。第一に、相対的ではあるが高額所得者に有利である。第二に、妻(主婦)の評価が夫の所得によって変わる。第三に、片稼ぎ夫婦のほうが共稼ぎ夫婦より有利になる。第四に、専業主婦を優遇することになるので、女性の社会進出を妨げる結果につながる。これを、イプセンの戯曲にちなんで「人形の家」効果という。

 ただ、これらのうち、第一と第二の問題については「適用範囲を一定の所得金額までに限定する等の措置」をとり、第三の問題については「この制度と同時に共稼ぎに伴う子女の世話に係わる支出を適正に控除し、共稼ぎ家族の担税力の弱さを考慮する仕組みを採用する」ことにより、解決できるという主張もある

 ※三木義一編著『よくわかる税法入門』〔第7版〕(2013年、有斐閣)97頁[奥谷健担当]、三木義一『日本の税金』(2003年、岩波新書)24頁。

  なお、最大判昭和36年9月6日民集15巻8号2047頁は、所得税法において二分二乗方式が採用されていないことが憲法第24条に違反する訳ではないと述べている。

 (2)n分n乗方式

 これは家族単位課税の方法であり、フランスが代表的な採用例である。まず、家族の所得を合算した上で、家族の人数で分割する。そして、それぞれについて税額を計算して合算する。これについても、二分二乗方式と同様の問題点を指摘しうるであろう

 ※フランスでは個人単位課税が採用されていない。しかし、OECD諸国においては、家族単位課税よりも個人単位課税のほうが一般的な傾向にあるようである。三木編著・前掲書97頁[奥谷]。

 ※※但し、注意しなければならない点がある。二分二乗方式とn分n乗方式は、類似しているし、nに2を代入すれば二分二乗となるので、同一のものと見られやすい。しかし、両者は根本の部分において異なる。

 二分二乗方式の場合、夫婦の所得は夫婦が共同で得たのと考えられる。実際にはそうでないとしても、配偶者の一方による稼得の陰に他方の協力、すなわち「内助の功」がある、と想定してもよい訳で、中村・前掲書18頁の言葉を借りるならば「対等な夫婦関係という『理念』を同等な所得稼得に擬制した独特の課税単位の選択といえる」のである。

 これに対し、n分n乗方式の場合、子が加えられる(nは夫婦に子の数を足して得られた合計である)。一般的に、少なくとも未成年の子は親に扶養される。そのため、親はこのために消費活動を行う訳であるし、子は、消費活動などを行いうるとしても、(例外的な家族でなければ)所得を発生させるような活動を行う訳ではない。夫婦と子を「同等な所得稼得に擬制」するのではなく、「子どもに着目した家族除数はもっぱら家族における消費に着目して担税力を評価する」(中村・前掲書18頁)。

  (3)複数税率表

  夫婦単位課税の方法であるが、二分二乗方式の欠点を除去するためのものである。夫婦用に特別の税率表を作る方式である。

 (1)ないし(3)のいずれの方式も、日本においては採用されていないが、夫婦単位課税ないし家族単位課税の要素が全く取り入れられていない訳ではない。一定の場面においては、個人単位課税は修正されているのである。

 (4)所得税法第56

 何らかの事業から事業所得や不動産所得などを得ている居住者の下で、その配偶者や親族が、労働などによって得た対価(報酬など)については、居住者の事業に関する所得の計算上、必要経費に算入しない。元来は必要経費に算入すべきものであるが、租税回避措置を防ぐためにこの規定が設けられた、といわれる。企業(事業)と家計の分離が明確になされていないこと、日本においては配偶者や親族が従業員である場合に、彼らに給料を支払う慣行がないこと、などが指摘されていた。しかし、これが実態に合わないということで、第57条により専従者控除が設けられている※※

 ※松山地判昭和49年1月21日税務訴訟資料7452頁。北野弘久編『現代税法講義』〔五訂版〕(2009年、法律文化社)68頁[三木義一、奥谷健担当]も参照。

 ※※金子宏『租税法』〔第十八版〕(2013年、弘文堂)183頁注(17)は、第56条について「専従者控除(57条)、法人成り等によって、相当に有名無実になっている」と述べる。

 (5)配偶者控除(第83条)

  配偶者が存在するからといって、常に配偶者控除を受けられる訳ではない。

 第2条第1項第33号は「控除対象配偶者」として「居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの(中略)のうち、合計所得金額が三十八万円以下である者」と定義する。配偶者控除を受けるためには、まず、この「控除対象配偶者」でなければならないこととなる。

 ※租税特別措置法第41条の16第1項は、配偶者が所得税法第2条第1項第29号の特別障害者に該当する場合についての特例を定める。なお、ここで言う配偶者は、民法の配偶者と同じ意味である。そのため、法律上の婚姻関係にない者について配偶者控除は適用されない(最判平成9年9月9日訟務月報44巻6号1009頁を参照)。

 そして、配偶者がパートタイム労働者であれば給与所得者となるから、第28条第3項第1号により、収入金額の40%に相当する金額が65万円未満の場合、給与所得控除は65万円となる。従って、配偶者の年収が103万円以下であれば、合計所得金額が38万円を下回るために納税負担が生じない、ということになる。逆に、この103万円という額を超えると、給与所得者である居住者が配偶者控除を受けられなくなるため、配偶者の年収が増えることにより、二人の手取額、すなわち納税後に残る金額が減ってしまう。免税点方式を用いるために、このような事態が生じる。

 ※第86条第1項は、基礎控除の額を38万円と定める。従って、配偶者の年収が103万円以下であるならば、納税額はゼロとなる。

  (6)配偶者特別控除制度(第83条の2)

  配偶者控除の上述の問題点を解消するため、1987年度に配偶者特別控除制度がスタートした。

 配偶者特別控除は、消失控除方式を採用し、一定額を超えても控除額が徐々に減少していくようになっているものである。これは、上記の103万円(配偶者控除および給与所得控除最低額の合計額)を超えても、既に控除対象配偶者ではない配偶者の所得金額が増えるに従って、控除額が減少していき、逆に103万円を超えない場合には、控除対象配偶者である配偶者の所得金額が減るに従って、居住者の控除額も増えていくという仕組みになっていた。

 例えば、配偶者の収入金額が110万円であるとすると、給与所得控除を差し引いて合計所得金額の45万円が得られる。次に、45万円から38万円を引くと7万円となる。従って、配偶者特別控除は、38万円から7万円を引いて残った31万円となる。

 次に、また、配偶者の収入金額が80万円であるとすると、給与所得控除を差し引いて合計所得金額の15万円が得られる。次に、38万円から15万円を引くと23万円になる。従って、配偶者特別控除は、38万円に23万円を足して得られる61万円となる。

 但し、2004年度から、この配偶者特別控除制度のうち、控除対象配偶者についての部分は廃止されている。この制度が専業主婦を優遇しているという批判などがあったからである。そのため、現行の第83条の2は、控除対象配偶者でない配偶者の分についてのみを規定する。

 

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(2011年3月16日掲載)

(2011年7月4日修正)

(2012年8月6日修正)

(2013年4月25日修正)

(2013年9月23日補訂)