13 所得税法における税額の計算(および復興特別所得税)
1.概説
「12 収入金額と必要経費」の冒頭において、課税総所得金額の算出の仕方を説明した。なお、分離課税の対象となる退職所得については課税退職所得金額、山林所得については課税山林所得金額という。
ここから税額を計算する訳であるが、基本的な手順は次のとおりである。
まず、課税総所得金額、課税退職所得金額および課税山林所得金額に税率を乗じる。税率は所得税法第89条に規定されている。この規定を読めばわかるように、所得税の税率は累進税率である。この税率には度々変更が加えられているが、現在〔2005(平成27)年1月1日以降〕においては次のとおりである。なお、右の欄は速算表(簡易計算法)である。
課税総所得金額が195万以下 |
5% |
(課税総所得金額)×5%=(所得税額) |
課税総所得金額が195万円を超え330万円以下 |
10% |
(課税総所得金額)×10%−97,500円=(所得税額) |
課税総所得金額が330万円を超え695万円以下 |
20% |
(課税総所得金額)×20%−427,500円=(所得税額) |
課税総所得金額が695万円を超え900万円以下 |
23% |
(課税総所得金額)×23%−636,000円=(所得税額) |
課税総所得金額が900万円を超え1800万円以下 |
33% |
(課税総所得金額)×33%−1,536,000円=(所得税額) |
課税総所得金額が1800万円を超え4000万円以下 |
40% |
(課税総所得金額)×40%−2,796,000円=(所得税額) |
課税総所得金額が4000万円を超える |
45% |
(課税総所得金額)×45%−4,796,000円=(所得税額) |
次に、課税総所得金額、課税退職所得金額および課税山林所得金額に税率を乗じて得られた額から税額控除を行う。こうして、最終的な納税額が決定される。
税額計算についても特例が存在する。その代表が平均課税である※。これは、変動所得および臨時所得について認められるものである。
※山林所得に対する課税(五分五乗方式)も平均課税の一種である。
所得の中には、定期的に生じるとしても年によって変動が激しいものがある。これを変動所得という。第2条第1項第23号は、漁獲から生じる所得や著作権の使用料に係る所得を変動所得の例として掲げており、所得税法施行令第7条の2は、他に海苔の採取やはまち、真珠(貝)などの養殖から生ずる所得、原稿料、作曲料をあげている。
また、所得の中には臨時に生じるものもある。一時所得もその例であると考えることもできるが、上述のように、所得税法における一時所得は、営利を目的とする継続的な行為から生じた所得でない一時的な所得であり、役務や資産の譲渡の対価としての性質を有しないものである。そのため、役務の提供を約束することによって得られる契約金などの一時的な所得は該当しない。しかし、超過累進税率を採用すると、或る年について著しく納税負担が増えることになる。そのため、所得税法第2条第1項第24条は、契約金など臨時に発生する所得を臨時所得として区別している。詳細は所得税法施行令第8条に定められている。
変動所得および臨時所得は、或る年度に集中して生じることが多い。そのため、所得税法第90条により、およそ5年間にわたり平準化することとされている。これが平均課税である。同条によると、居住者の或る年度の総所得金額のうち、第1号に規定される、変動所得および臨時所得の合計金額(平均課税対象金額)が2割以上を占める場合には、課税総所得金額から平均課税対象金額の5分の4に相当する金額を控除して得られた金額をその年の課税総所得金額とみなして計算して得られた税額と、第2号に規定される、課税総所得金額に相当する金額から調整所得金額―第1号によって得られた課税総所得金額から平均課税対象金額の5分の4に相当する金額を控除して得られる―を控除して得られた金額に、第1号によって得られた金額の調整所得金額に対する割合を乗じて得られた金額をそれぞれ算出し、その合計額を所得税額とするものである。
2.所得控除と税額控除
所得税法に規定される控除には、所得控除と税額控除の二種類がある。いずれも、納税負担を軽減するためのものであるが、双方には相違点も多い。とくに、行われる段階が異なるので、混同しないように注意が必要である。
所得控除は、前章において触れたように、所得金額から一定の金額を控除するもので、第72条以下の規定に列挙される控除である。第86条の基礎控除も所得控除の一種であり、他に配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除などがある。納税義務の有無の判断や計算などの際などに簡便であるという利点もあるが、高額所得者に有利となるという問題点もある。
これに対し、税額控除は、課税総所得金額(など)に税額を乗じて得られた算出税額から一定の金額を控除するもので、第92条および第95条に定められるものである(配当控除、外国税額控除)。所得税法制定時からしばらくの間は種類が多かったが、所得控除に切り替えられたものが多いため、現在は政策的見地によるものしか残っていない※。
※その代表が、負担軽減措置法第6条および地方税法附則第40条に定められた定率控除であった。
3.累進税率
税率についての一般的な説明は「02 課税要件」において行った。第89条に定められる税率は、比例税率ではなく、累進税率であるが、単純累進税率(課税)ではなく、課税標準を多段階に区分した上で段階ごとに逓次に高い税率を適用する超過累進税率(課税)を採用する。
同第1項は「その年分の課税総所得金額又は課税退職所得金額をそれぞれ次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額」と記している。この表現は少々わかりにくいが、単純累進税率ではなく、超過累進税率を採用するという趣旨である。
単純累進税率とは、課税標準が大きくなるにつれて、その全体に従って単純に高い税率を適用するというものである。計算が楽であるし、直感的にわかりやすいので、多くの人々は所得税の税率を単純累進税率であると誤解している。しかし、次のような欠陥があり、不合理な結果が生じるため、単純累進税率は採用されていない。例に従って説明する。
A、Bの2017年度の課税総所得金額が、それぞれ195万円、196万円であるとする。所得税法第89条の表を参照すると、上の欄には195万円以下、195万円を超え330万円以下と出ている。Aの課税総所得金額は195万円なので、そのまま税率を適用すると、
1,950,000×0.05=97,500
となるから、Aが納付すべき所得税額は9万7500円であり、手許に残る金額は185万2500円となる。
次にBの課税総所得金額は196万円なので、単純に、195万円を超え330万円以下の場合の税率を適用すると、
1,960,000×0.1=196,000
となるから、Bが納付すべき所得税額は19万6000円であり、手許に残る金額は176万4000円となる。
ここで計算した結果を比較していただきたい。課税総所得金額は、BのほうがAより1万円多いだけであるが、納税を済ませた後に手許に残る金額は、逆にAのほうがBより8万8500円も多い。課税総所得金額が多いほうが、手許に残る額が少なくなるという不合理な結果を生じているのである。
そこで、このような結果を生じさせないために、超過累進税率を採用している。まず、課税標準を多数の段階に区分する。この段階を課税段階、または所得段階という。そして、上の段階に進むに従い、逓次に高い税率を適用する、というものである。各段階に適用される税率を段階税率という。
先ほどのA、Bの例を使い、超過累進税率によって計算してみる。甲の場合は先ほどと同じであるが、乙の場合が異なる。再び、所得税法第89条の表を参照した上で、次のように計算する。
まず、196万円を同表に従って区分する。そうすると、最初の195万円までの部分と、195万1円から196万円までの部分とに分かれる。この「それぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算」するのである。実際には、既に示したように速算表(簡易計算法)があり、それに具体的数字を当てはめれば計算ができるようになっているが、ここでは、超過累進税率の基本を理解するため、まずは第89条に忠実な計算を行うこととする。
1,950,000×0.05=97,500
(1,960,000−1,950,000)×0.1=10,000×0.1=1,000
となるから、結局、Bの納税額は9万8500円となる。Bが納税を済ませた後に手許に残る金額は186万1500円となるから、単純累進税率であれば生じる不合理な結果には至らない。
同じように、2017年の課税総所得金額が350万円である丙の例で計算してみる。表の上の欄には、195万円以下、195万円を超え330万円以下、330万円を超え695万円以下と出ている。そこで、350万円をこれらに区分する。そうすると、
@最初の195万円までの部分
A195万1円から330万円までの部分
B330万1円から350万円までの部分
に分かれる。この「それぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算」するのであるから、
@の部分1,950,000×0.05=97,500
Aの部分:(3,300,000−1,950,000)×0.1=1,350,000×0.1=135,000
Bの部分:(3,500,000−3,300,000)×0.2=200,000×0.2=40,000
これらを合計すると、97,500+135,000+40,000=272,500
27万2,500円が税額控除前の納税額であり、税額控除の適用がなければ最終的な納税額となる。
最後に、課税総所得金額が1000万円であるとする。やはり所得税法第89条に従うと、表の上の欄には195万円以下、195万円を超え330万円以下、330万円を超え695万円以下、695万円を超え900万円以下、900万円を超え1800万円以下の金額と出ている。そこで、1000万円をこれらに区分する。そうすると、
C最初の195万円までの部分
D195万1円から330万円までの部分
E330万1円から695万円までの部分
F695万1円から900万円までの部分
G900万円を超えて1000万円までの部分
に分かれる。やはり「それぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算」するのであるから、
Cの部分:1,950,000×0.05=97,500
Dの部分:(3,300,000−1,950,000)×0.1=1,350,000×0.1=135,000
Eの部分:(6,950,000−3,300,000)×0.2=3,650,000×0.2=730,000
Fの部分:(9,000,000−6,950,000)×0.23=2,050,000×0.23=471,500
Gの部分:(10,000,000−9,000,000)×0.33=1,000,000×0.33=330,000
これらを合計すると、176万4000円となる。これが税額控除前の納税額であり、税額控除の適用がなければ最終的な納税額となる。
■速算表(簡易計算法)の種明かし
「
課税総所得金額が195万円を超え330万円以下」を例として計算例を示す。
課税総所得金額をa円(但し、195万円<a≦330万円)とすると、
1,950,000×0.05+(a−1,950,000)×0.1=97,500+0.1a−195,000=0.1a−97,500
他の税率についても同様に計算すればよい。
4.復興特別所得税
2011(平成23)年12月2日、法律第117号として東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(東日本大震災復興財源特別措置法)が公布され、一部の規定を除いて即日施行された。この法律により、復興特別所得税および復興特別法人税が創設されており(第1条を参照)、復興特別所得税については課税の対象が「平成二十五年から平成四十九年までの各年分の所得」とされている(同第9条)。
復興特別所得税の課税標準は、個人の「その年分の基準所得税額」(同第12条)および法人の基準所得税額(同第26条)である。ここで基準所得税額とは、所得税法などの「所得税の税額の計算に関する法令の規定により計算した所得税の額」をいう(同第10条)。そして、復興特別所得税の税額は、「その年分の基準所得税額に」2.1%の税率を乗じて得られた金額である(個人については同第13条。なお、同第14条以下も参照。法人については同第27条)。
なお、復興特別法人税については「19 法人税額の計算、および同族会社に対する法人税など(および復興特別法人税)」を参照されたい。
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(2011年3月16日掲載)
(2012年8月6日補訂)
(2012年8月8日修正)
(2013年10月17日補訂)
(2017年10月18日修正)