27 財産の評価
1.財産評価の原則
「25 相続税その2 相続税の課税物件、課税標準および税額の計算」において述べたように、相続税額の計算をなすための前提として、相続財産の評価がなされなければならない。これは、贈与税額の計算についても妥当する。そのため、財産の評価は、これが定まらなければ税額の計算をなすことができないという意味で重大事項なのである。
相続税法の原則は時価主義である。第22条は、財産の「取得の時における時価」によって評価する旨を定める※。ここにいう「取得の時」は、相続税の場合は被相続人または遺贈者が死亡した日のことであり、贈与税の場合は受贈者が贈与によって財産権を取得した日のことである。また、時価とは財産の客観的交換価値のことをいい、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額のことをいう。もっとも、このように表現しても、その時価を評価することは難しい。
相続税法は、第23条ないし第26条において、地上権、定期金、給付事由が発生していない権利(定期金給付契約)、立木に関する法定評価を定める。もっとも、これらの規定をもってしても客観的交換価値が直ちに定める訳ではない。そこで、現実には財産評価基本通達に従って評価を行うこととなる。これはあくまでも通達であるから、通達と異なるように財産を評価したとしても直ちに違法になる訳ではないし、一定の場合には財産評価基本通達に従わない評価のほうが妥当とされることもあるが、特別な事情がなければ、さしあたり合理的な評価の基礎を持つものと理解されるであろう。
財産評価基本通達は、財産を単位ごとに、例えば、宅地については一区画、株式については一株について現況を基準として評価し、これらの評価額の合計額を全財産の価額とすることを定める。その点において、時価評価とは言えない部分がある。共有財産の持分については全体の評価額を持分に応じて按分する。これらの他に、区分所有財産、天然果実などを含め、財産に共通する評価原則を定める。以下、土地(宅地)、株式および債務を例として概説を試みる。
2.土地(宅地)の評価
財産評価基本通達7は、原則として土地を地目※別に評価することとし、「一体として利用されている一団の土地が2以上の地目からなる場合には、その一団の土地は、そのうちの主たる地目からなるものとして、その一団の土地ごとに評価する」こととしている。
※地目は、不動産登記法第2条第18号によって「土地の用途による分類」と定義され、不動産登記規則第99条によって「田、畑、宅地、学校用地、鉄道用地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野、墓地、境内地、運河用地、水道用地、用悪水路、ため池、堤、井溝、保安林、公衆用道路、公園及び雑種地」に区分される。地目の判定については、法務省民事局長通達である不動産登記事務取扱手続準則の第68条および第69条に準じて行われることとされる。なお、財産基本通達7にいう地目は、不動産登記規則第99条に列挙されるものより少ない。
また、同7-2は、「土地の価額は、次に掲げる評価単位ごとに評価することとし、土地の上に存する権利についても同様とする」として、以下に掲げる地目について評価単位を定めている。
@宅地
建物の敷地などをいう。宅地に隣接する駐車場やテニスコートなども含む。原則として、「1画地の宅地」(利用の単位となっている一区画の宅地のこと)を評価単位とする。
ここで注意しなければならないのは、「1画地」が1筆の宅地を意味する訳ではないということである。「1画地」が二筆以上であることもあれば、一筆が二画地以上のこともある。
A田
一枚の田を評価単位とする。すなわち、耕作の単位となっている一区画の田を評価単位とするのであり、一筆の農地とは限らない。なお、市街地周辺農地、市街地農地および生産緑地などについては、一団の土地が評価単位とされる。
B畑
一枚の畑を評価単位とする。すなわち、耕作の単位となっている一区画の畑を評価単位とするのであり、一筆の農地とは限らない。やはり、市街地周辺農地、市街地農地および生産緑地などについては、一団の土地が評価単位とされる。
C山林
一筆(地方税法第341条第10号に規定される土地課税台帳または同第11号に規定される土地補充課税台帳に登録された一筆のこと)の山林を評価単位とする。
D原野
一筆の原野を評価単位とする。
E牧場
原野に準ずる。
F池沼
原野に準ずる。
G鉱泉地
鉱泉(温泉を含む)の湧出口およびその維持に必要な土地のことである。原則として、一筆の鉱泉地を評価単位とする。
H雑種地
上記のどの地目にも該当しない土地をいう。例えば、宅地に隣接していない駐車場、ゴルフ場、遊園地、運動場、鉄軌道用地が雑種地である。利用の単位となっている一団の雑種地(同一の目的に供されている雑種地をいう。)を評価単位とする。
▲地目は、登記簿上の地目により判断するのではなく、課税時期の現況によって判定する(財産評価基本通達7)。従って、登記簿上では田となっている土地であっても、実際には建物が建てられていれば、宅地として評価されることとなる。
(3)地積
地籍は、不動産登記法第2条第19号において「一筆の土地の面積であって、第34条第2項の法務省令で定めるものをいう」と定義されるものである。法務省令である不動産登記規則第100条は、「地積は、水平投影面積により、平方メートルを単位として定め、1平方メートルの100分の1(宅地及び鉱泉地以外の土地で10平方メートルを超えるものについては、1平方メートル)未満の端数は、切り捨てる」と定める。
財産評価上の取扱いにおいて、「地積は、課税時期における実際の面積による」ものとされる(財産評価基本通達8)。従って、登記簿などの公簿上の面積によるのではないことに、注意を要する。
(4)土地の上に存する権利の区分と評価
財産評価基本通達9は、次のように区分して評価することを定める。
但し、民法第262条の2第1項に定められる区分地上権および借地借家法第2条に定められる借地権を除く。
A区分地上権
B永小作権
C区分地上権に準ずる地役権
地価税法施行令第2条第1項に定められる地役権のことである。
D借地権
但し、借地借家法第22条に定められる定期借地権、同第23条に定められる事業用定期借地権等、同第24条に定められる建物譲渡特約付借地権、および同第25条に定められる定期借地権等を除く。
E定期借地権等
F耕作権
農地法第2条第1項に規定する農地又は採草放牧地の上に存する賃借権をいう。
G温泉権
引湯権も含まれる。
H賃借権
但し、Dの借地権、Eの定期借地権等、Fの耕作権、およびGの温泉権を除く。
I占用権
地価税法施行令第2条第2項に定められるものである。
(5)宅地の評価
宅地は、原則として路線価方式または倍率方式により評価される(財産評価基本通達11)。
@路線価方式
路線価方式とは、価額がほぼ同じと認められる一連の宅地が面している路線(道路および水路)の中央部にある標準的な宅地の一単位あたりの価額、すなわち路線価(1月1日時点における1平方メートルあたりの土地の価額)を基準としておき、これに各宅地の特殊事情を加味して価額を算定する方法である(財産評価基本通達14)。実際には、路線価に宅地面積を乗じて計算することとなる。
路線価は、毎年、路線価図に示された上で税務署から発表される。また、路線価は、売買実例価額、精通者意見価格および公示価格の仲値※の範囲内において、国税局長が土地評価審議会の審議を経て評定する。
※仲値:売買実例価額および精通者意見価額のウェイトを公示価額の半分とする条件の下に置き、この三つの価額から得られる平均値のことである。多くの場合、仲値と公示価額はほぼ同額になる。もっとも、実際には国土庁が公示する地価公示価格に一定の評価割合をかけて評定されているので、仲値あるいは公示価額の7割または8割(平成4年度から)となっている。
路線価が設定されている地域においては、公道であれば路線価が設定されているのが通常であるが、行き止まりの道路など、路線価が設定されていない路線がある。この路線のみに接している宅地を評価する必要がある場合に、その道路を路線とみなして当該宅地を評価するために付ける路線価を、特定路線価という。これは、納税義務者からの申出により設定することができる。特定路線価は、その道路に接続する路線、およびその道路の付近の路線に設定されている路線価を基に、その道路の状況、財産評価基本通達14-2に定められる地区の別等を考慮して税務署長が評定した1平方メートル当たりの価額とされる(同14-3)。
正面路線価 |
300,000円 |
正面路線に対する奥行価格補正率(15m) |
1.0 |
側方路線価 |
150,000円 |
側方路線に対する奥行価格補正率(24m) |
0.99 |
地区区分 |
普通住宅地区 |
側方路線加算率 |
0.03 |
評価する土地の地積 |
360u |
評価計算 |
300,000×1.0=300,000 150,000×0.99×0.33=4,455 (300,000+4,455)×360=109,603,800
∴この宅地(土地)の評価額は109,603,800円 |
宅地の正面と裏面に路線がある場合には二方路線影響加算(財産評価基本通達17)を、宅地の三方または四方に路線がある場合には三方または四方路線影響加算(同18)を、価額の計算方法として用いる。
※容積率は、建築基準法第52条に定められるものである。
A倍率方式
倍率方式とは、固定資産税評価額※に、国税局長が一定の地域ごとに売買実例価額、公示価格および精通者意見価格を基にして地域の実情に即して定める倍率(評価倍率表などという)を乗じて計算した金額で定める方法である(財産評価基本通達21、同21-2)。
B広大地の評価
財産評価基本通達24−2は、評価の対象となる宅地の地積が、当該地域における標準的な宅地の地積と比較して著しく広大であり、都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合に「公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」を広大地と定義し※、評価方法を定めている。
※但し、財産評価基本通達22-2にいう大規模工場用地に該当するもの、および中高層集合住宅等の敷地用地に適しているものは除外される。
広大地が路線価地域にある場合には、次のように計算する。
当該広大地の評価額=A×B×C
A:当該広大地が面する路線の路線価
B:広大地補正率=0.6−0.05×(広大地の地積÷1000平方メートル)
C:当該広大地の地積
これに対し、広大地が倍率地域にある場合には、当該広大地が「標準的な間口距離及び奥行距離を有する宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額を」財産評価基本通達14に定める路線価として、広大地が路線価地域にある場合に準じて計算した金額が評価額となる。
C貸宅地の評価
借地権等の目的となっている宅地の評価は、貸主が底地権(底地部分の権利)のみを有し、借主が上地権(土地を利用できる権利)を有すると考える(財産評価基本通達25)。従って、(借地権等の目的となっている宅地の評価額)=(自用地としての評価額)−(上地権の評価額)=(底地権の評価額)となる。
借地権の目的となっている宅地の価額は、宅地全体の価額(財産評価基本通達11ないし22-3、24、24-2、24-4、24-6ないし24-8)から、借地権の価額(同27)を控除した金額により評価する。
定期借地権等の目的となっている宅地の価額は原則として、当該宅地の自用地としての価額から、財産評価基本通達27-2により評価したその定期借地権等の価額を控除した金額によって評価する。なお、ただし書きにも注意されたい。
地上権の目的となっている宅地の価額は、当該宅地の自用地としての価額から、相続税法第23条または地価税法第24条により評価した地上権の価額を控除した金額によって評価する。
区分地上権の目的となっている宅地の価額は、当該宅地の自用地としての価額から、財産評価基本通達27-4により評価したその区分地上権の価額を控除した金額によって評価する。
区分地上権に準ずる地役権の目的となっている承役地である宅地の価額は、当該宅地の自用地としての価額から財産評価基本通達27-5により評価したその区分地上権に準ずる地役権の価額を控除した金額により評価する。
D貸家建付地の評価
貸家建付地とは、貸家の敷地の用に供されている宅地のことである(財産評価基本通達26)。これについては、次のように計算する。
貸家建付地の評価額=A−A×B×C×D
A:当該宅地の自用地としての価額
B:借地権割合(財産評価基本通達27による)
C:財産評価基本通達94に定められる借地権割合
D:賃貸割合=F÷E
E:当該家屋の各独立部分の床面積の合計
F:Eのうち、課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積の合計
E小規模宅地等についての特例
暫定的であるが、参考として租税特別措置法の規定を示しておく(後日の修正・補訂において解説などを加える)。
(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
第六十九条の四 個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(第3項において「被相続人等」という。)の事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。同項において同じ。)の用又は居住の用(居住の用に供することができない事由として政令で定める事由により相続の開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていなかつた場合(政令で定める用途に供されている場合を除く。)における当該事由により居住の用に供されなくなる直前の当該被相続人の居住の用を含む。同項第2号において同じ。)に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。同項及び次条第5項において同じ。)で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令で定めるもの(特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等に限る。以下この条において「特例対象宅地等」という。)がある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部でこの項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択をしたもの(以下この項及び次項において「選択特例対象宅地等」という。)については、限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等(以下この項において「小規模宅地等」という。)に限り、相続税法第11条の2に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする。
一 特定事業用宅地等である小規模宅地等、特定居住用宅地等である小規模宅地等及び特定同族会社事業用宅地等である小規模宅地等 100分の20
二 貸付事業用宅地等である小規模宅地等 100分の50
2 前項に規定する限度面積要件は、当該相続又は遺贈により特例対象宅地等を取得した者に係る次の各号に掲げる選択特例対象宅地等の区分に応じ、当該各号に定める要件とする。
一 特定事業用宅地等又は特定同族会社事業用宅地等(第三号イにおいて「特定事業用等宅地等」という。)である選択特例対象宅地等 当該選択特例対象宅地等の面積の合計が400平方メートル以下であること。
二 特定居住用宅地等である選択特例対象宅地等 当該選択特例対象宅地等の面積の合計が330平方メートル以下であること。
三 貸付事業用宅地等である選択特例対象宅地等 次のイ、ロ及びハの規定により計算した面積の合計が200平方メートル以下であること。
イ 特定事業用等宅地等である選択特例対象宅地等がある場合の当該選択特例対象宅地等の面積を合計した面積に400分の200を乗じて得た面積
ロ 特定居住用宅地等である選択特例対象宅地等がある場合の当該選択特例対象宅地等の面積を合計した面積に330分の200を乗じて得た面積
ハ 貸付事業用宅地等である選択特例対象宅地等の面積を合計した面積
3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等 被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令で定めるものを除く。以下この号及び第3号において同じ。)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続又は遺贈により当該宅地等を取得した当該親族の相続人を含む。イ及び第四号(ロを除く。)において同じ。)が相続又は遺贈により取得したもの(政令で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第27条、第29条又は第31条第2項の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までの間に当該宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第4号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の事業の用に供していること。
二 特定居住用宅地等 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等(当該宅地等が二以上ある場合には、政令で定める宅地等に限る。)で、当該被相続人の配偶者又は次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該被相続人の配偶者を除く。以下この号において同じ。)が相続又は遺贈により取得したもの(政令で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(当該被相続人、当該被相続人の配偶者又は当該親族の居住の用に供されていた部分として政令で定める部分に限る。)に居住していた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること。
ロ 当該親族(当該被相続人の居住の用に供されていた宅地等を取得した者に限る。)が相続開始前3年以内に相続税法の施行地内にあるその者又はその者の配偶者の所有する家屋(当該相続開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く。)に居住したことがない者(財務省令で定める者を除く。)であり、かつ、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有していること(当該被相続人の配偶者又は相続開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族で政令で定める者がいない場合に限る。)。
ハ 当該親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の居住の用に供していること。
三 特定同族会社事業用宅地等 相続開始の直前に被相続人及び当該被相続人の親族その他当該被相続人と政令で定める特別の関係がある者が有する株式の総数又は出資の総額が当該株式又は出資に係る法人の発行済株式の総数又は出資の総額の10分の5を超える法人の事業の用に供されていた宅地等で、当該宅地等を相続又は遺贈により取得した当該被相続人の親族(財務省令で定める者に限る。)が相続開始時から申告期限まで引き続き有し、かつ、申告期限まで引き続き当該法人の事業の用に供されているもの(政令で定める部分に限る。)をいう。
四 貸付事業用宅地等 被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令で定めるものに限る。以下この号において「貸付事業」という。)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したもの(特定同族会社事業用宅地等を除き、政令で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。
4 第1項の規定は、同項の相続又は遺贈に係る相続税法第27条の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までに共同相続人又は包括受遺者によつて分割されていない特例対象宅地等については、適用しない。ただし、その分割されていない特例対象宅地等が申告期限から3年以内(当該期間が経過するまでの間に当該特例対象宅地等が分割されなかつたことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合において、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該特例対象宅地等の分割ができることとなつた日として政令で定める日の翌日から4月以内)に分割された場合(当該相続又は遺贈により財産を取得した者が次条第一項の規定の適用を受けている場合を除く。)には、その分割された当該特例対象宅地等については、この限りでない。
5 相続税法第32条第1項の規定は、前項ただし書の場合その他既に分割された当該特例対象宅地等について第1項の規定の適用を受けていなかつた場合として政令で定める場合について準用する。この場合において、必要な技術的読替えは、政令で定める。
6 第1項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法第27条又は第29条の規定による申告書(これらの申告書に係る期限後申告書及びこれらの申告書に係る修正申告書を含む。次項において「相続税の申告書」という。)に第1項の規定の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。
7 税務署長は、相続税の申告書の提出がなかつた場合又は前項の記載若しくは添付がない相続税の申告書の提出があつた場合においても、その提出又は記載若しくは添付がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類及び同項の財務省令で定める書類の提出があつた場合に限り、第1項の規定を適用することができる。
8 第1項に規定する小規模宅地等について、同項の規定の適用を受ける場合における相続税法第48条の2第6項において準用する同法第41条第2項の規定の適用については、同項中「財産を除く」とあるのは、「財産及び租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第69条の4第1項(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)の規定の適用を受けた同項に規定する小規模宅地等を除く」とする。
9 第4項から前項までに定めるもののほか、第1項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
家屋の場合は、一棟ごとに評価するのが原則であり、固定資産税評価額※に一定の倍率を乗じて計算した金額によって評価する(財産評価基本通達88)。但し、財産評価基本通達別表1では「家屋の固定資産税評価額に乗ずる倍率」が1倍となっているので、実際には固定資産税評価額そのものが家屋の相続税評価額になる。
※地方税法第381条により家屋課税台帳もしくは家屋補充課税台帳に登録された基準年度の価格または比準価格のことである。具体的には、同一の家屋を評価時において建築したものとする場合における建築価格とするのであって、新築に必要とされる建築費を算出した上で、経過年数や損耗の程度などに応じた減価を行うこととなる。
但し、課税時期において現に建築中である家屋の価額は、当該家屋の費用減価の70%に相当する金額を評価額とする(財産評価基本通達91)。
家屋の相続なり贈与なりと言っても、純粋に建物のみが相続または贈与の対象となる訳でなく、家屋に付属する設備も伴うこととなる。そこで、財産評価基本通達92は、このような設備についての評価方法などを定める。具体的には、次のとおりである。
@「家屋と構造上一体になっている設備」(電気設備※、ガス設備、衛生設備、給排水設備、温湿度調整設備、消火設備、避雷針設備、昇降設備、じんかい処理設備等):家屋の価額に含める。
A門、塀など:再建築価額から償却費※の額の合計額または減価の額を控除した金額の70%。
そして、貸家の評価について記しておく。これは財産評価基本通達93に定められており、次のように計算される。
貸家の価額=A−A×B×C
A:財産評価基本通達89、89−2または92に基づいて評価した家屋の価額
B:同94に定められる借家権割合
C:同26の(2)に定められる、家屋に係る賃貸割合
借家権は、同第94により、次の数式により計算・評価される(権利金等を除く)。
借家権の価額=A×B×D
A:財産評価基本通達89、89−2または92に基づいて評価した家屋の価額
B:同94に定められる借家権割合(国税局長が定める割合)
D:賃借割合。家屋の各独立部分の床面積の合計を分母に置き、家屋のうち、賃借人が賃借している各独立部分の床面積の合計を分子において計算する。
4.株式の評価
株式は、土地や家屋などよりも、実際の相続や贈与における評価の問題が少ないと思える。しかし、東京証券取引所などに上場されているような株式であればともあれ、そうでない株式の場合は、取引がなされることのほうが少ないので、評価は難しくなる。相続税法には、株式に関する評価の仕方について詳細な規定がないので、どのように評価するかが一応の問題となる。
財産評価基本通達168は、証券取引所に上場されている株式(上場株式)、気配相場等のある株式、取引相場のない株式(非上場株式)の三種に分け、それぞれについて評価の方法を定める。
(1)上場株式
上場株式とは、金融商品取引所※に上場されている株式のことである〔同168(1)〕。評価の方法としては取引価格法が用いられる。これは、原則として、株式が上場されている証券取引所が公表する課税時期の最終価格、すなわち終値によって評価する、というものである〔同169(1)本文〕。
※二箇所以上の金融商品取引所(例、東京証券取引所と名古屋証券取引所)に上場されている場合には、納税義務者が金融商品取引所を選択する。
しかし、時期によって株価の変動が大きくなることも少なくないため、評価の安全性が求められることとなる。また、納税義務者にとっても、課税時期によって評価額が大きく変わることは望ましくない。また、課税時期の終値がないということもありうる。そのため、以下のような例外が認められる。
第一に、上場株式の終値が課税時期の属する月以前三か月間の毎日の最終価格の各月毎の平均額、すなわち終値の各月毎の平均額のうち、最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額により評価する(同ただし書き)。
従って、例えば課税時期が2017年11月27日であった場合には、@11月27日の終値の価額、A11月中の毎日の終値の月平均額、B10月中の毎日の終値の月平均額、C9月中の毎日の終値の月平均額のうち、最も低い価額で上場株式を評価することとなる。
第二に、上場株式が負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得された場合には、取引価格法により評価する〔同(2)〕。これは、贈与税の回避を防ぐための措置である。
第三に、課税時期が権利落ち※または配当落ち※※の日から株式の割当て、株式の無償交付または配当金交付の基準日までの間にある場合:権利落ちまたは配当落ちの日の前日以前の終値のうち、課税時期に最も近い日の終値を課税時期の終値とする(同170(1)なお、同(2)および(3)も参照)。
※株式分割や新株引受権がなくなったことを意味する。
※配当を受ける権利がなくなったことを意味する。
例えば、課税時期が2017年9月20日で、権利落ちまたは配当落ちの日が同年9月15日であり、株式の無償交付または配当金交付の基準日が同年9月25日である場合には、課税時期に最も近いのは同年9月14日であるので、同日の終値が課税時期の終値とされる(同年9月20日の終値は対象にならない)。
例えば、課税時期が2017年11月5日であれば、同年11月6日の終値が課税時期の終値となる(土曜日、日曜日および祝日は証券取引所の休業日である)。
(2)気配相場等のある株式
気配相場等のある株式は、登録銘柄、店頭管理銘柄、公開途上にある株式の三種類に分かれ、それぞれ扱いが異なっている。
登録銘柄は、日本証券業協会の内規によって同協会に店頭登録銘柄として登録されている株式のことである。この場合は、日本証券業協会が公表する課税時期の取引価格によって評価する。やはり、その取引価格が、課税時期の属する以前3ヶ月間の毎日の最終価格の各月ごとの平均額の最低を超える場合には、その最低の価格によって評価することになっている。但し、負担付贈与、または個人間の対価を伴う取引によって取得したという場合には、上場されている証券取引所が公表する課税時期の最低価格によって評価する(同174(1)。なお、同175以下も参照)。
店頭管理銘柄は、日本証券業協会の内規によって指定されている株式で、店頭登録を取り消された銘柄のことである※。評価の方法は登録銘柄の場合と同じである〔同174(1)〕。
公開途上にある株式は、上場の承認申請中の株式、登録銘柄とする方針が明らかにされている株式を合わせた表現である。株式の公募または売り出しが行われている場合には、金融商品取引所または日本証券業協会の内規によって行われるブックビルディング方式※または競争入札によって決定される公募等の価格、すなわち公開価格によって評価される(同(2)イ)。また、上場または登録に際して公募が行われない場合には、取引価格等を勘案した上で評価する(同ロ)。
(3)取引相場のない株式
株式の評価において最も煩雑なのが、取引相場のない株式の評価である。大部分は非上場会社、同族会社※などの株式であると言ってよく、主に同族会社の同族株主が念頭に置かれている。以下は、基本的に株式の取得者が同族株主である場合を念頭に置く。また、かなり煩雑な評価制度となっているので、一部のみを取り上げておく。
取引相場のない株式について、財産評価基本通達は四種類の評価方法を定める。類似業種比準方式、純資産価額方式、類似業種比準価額と純資産価額の併用方式および配当還元方式
次に、純資産価額方式とは、評価の対象となる会社の一株あたりの純資産価額によって株価を評価する方法である。一株あたりの純資産価額は、評価会社の正味資産価額から、課税時期における負債の合計額および課税時期における評価差額に対する法人税等に相当する金額を控除し、残りを発行済み株式数で除して得られる金額である(同185。同186以下も参照)。
以上のように評価方法が分かれるのは、非上場会社、同族会社の規模などが千差万別であるためである。そこで、財産評価基本通達は、評価の対象となる会社を、従業員数、業種、資本金額、総資産価額(帳簿価額による)、および直前期末以前一年間における取引金額を基準として大会社、中会社、小会社に区分する。
@大会社は、次のいずれかの要件に該当する会社である(財産評価基本通達178)。
@ 従業員数が70人以上である。
A 卸売業である場合には総資産価額が20億円以上であり、従業員数が35人を超え、直前期末以前一年間における取引金額が30億円以上である。
B 小売・サービス業である場合には総資産価額が15億円以上であり、従業員数が35人を超え、直前期末一年間における取引金額が20億円以上である。
C 卸売業、 小売・サービス業以外の業種である場合には総資産価額が15億円以上であり、従業員数が35人を超え、直前期末一年間における取引金額が15億円以上である。
▲大会社については原則として類似業種比準法によって評価するが、納税義務者は純資産価額法を選択することもできる〔同179(1)〕。
A中会社は、従業員数が5人を超えて70人未満であり、かつ、次のいずれかの要件に該当する会社である。
@ 卸売業である場合には総資産価額が7000万円以上であり、直前期末一年間における取引金額が2億円以上30億円未満である。
A 小売・サービス業である場合には総資産価額が4000万円以上であり、直前期末一年間における取引金額が6000万円以上20億円未満である。
B 卸売業、小売・サービス業以外の業種である場合には総資産価額が5000万円以上であり、従業員数が35人を超え、直前期末一年間における取引金額が8000万円以上15億円未満である。
▲中会社については原則として類似業種比準価額と純資産価額の併用方式により評価するが、類似業種比準法の部分を純資産価額法に置き換えて算出することも、納税義務者の選択肢として認められている〔同179(2)〕。
B小会社は、従業員数が70人未満であり、かつ、次のような会社である。
@ 卸売業の場合は総資産価額が7000万円未満、または従業員数が5人以下であり、直前期末以前一年間における取引金額が2億円未満である。
A 小売・サービス業の場合は総資産価額が4000万円未満、または従業員数が5人以下であり、直前期末以前一年間における取引金額が6000万円未満である。
B 卸売業、小売・サービス業以外の業種の場合は総資産価額が5000万円未満、または従業員数が5人以下であり、直前期末以前一年間における取引金額が8000万円未満である。
▲小会社については原則として純資産価額法によって評価するが、納税義務者は類似業種比準価額と純資産価額の併用方式(但し、一部の数字が変わる)を利用する評価を選択することもできる〔同179(3)〕。
5.債務の評価
民法相続編においては債務も相続財産であるが、相続税法においては相続開始時点において存在する被相続人の債務のうち、履行が確実と認められるものの金額は、相続人または受遺者の負担に属する部分について、相続財産の金額から控除されるものである。これは、相続税法第22条の原則に従い、相続時の現況によって判断する。
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(2011年3月16日掲載)
(2011年8月19日修正)
(2012年8月12日修正)
(2017年11月27日修正)